無事の確認を終えて
ヴェルディーゼに引っ付きながらユリがそわそわと身体を揺らし、そっと尋ねる。
「あの……気になっていたんですけど。命を懸けてとか……なんというか……ちょっと不穏な言葉がちらほら出てくるのは、もしかして……」
「うむ。妾はお主とヴェルディーゼのためにあの世界に赴き、ルスディウナを引き付ける役目を担ったのじゃ。妾が自分から言い出したこと故、自分のことも、ヴェルディーゼのことも責める必要は無いし、申し訳なく思う必要もない」
「うぅ……ありがとうございます……ほ、本当に大丈夫だったんですよね? 実は幻影でーとか、無いんですよね……!?」
「あるわけなかろう。正真正銘、本物の実体のある妾じゃよ。……して、ヴェルディーゼよ。ユリ含め、無事は何よりじゃが……どうやって脱出したんじゃ? 弱体化、今は無くなっておるようじゃが……あの世界から出たからか?」
フィレジアがヴェルディーゼの全身を眺めながら尋ねると、ヴェルディーゼが首を横に振った。
そして、ユリに向かって微笑みながら答える。
「弱体化については、その通りなんだけど……封印を解く時に、思いっ切り魔力をぶつけたから。世界、壊れちゃった」
「ほ、微笑みながら言うことじゃないです。というか、そのせいで私変なとこに落ちかけたんですけど。何ですかあの地下の宇宙」
「世界の端、あるいは世界の余地。空間と時間の狭間でもある」
「……よ、要するに?」
「うーん……前者二つは、ゲームに重ねれば理解できるんじゃない? どう足掻こうが、世界――ゲームの端は存在する。どれだけ作り続けても、端が消えることはない。だから世界の端、つまりは制作者が作り終えた最後の場所。そこからまだ広げることもできるから、世界の余地。後者に関しては……まぁ……世界は世界ごとに時間の流れが違ったりするからね。そういったことが原因で起こる歪みだよ。創世神なら、どう歪んでるかがわかるからそれをならすことができる。端は無いってさっき言ったけど、端を決めることならできる。だから、普通はあんなの無いんだけどね。あの世界は未完成だから」
やれやれ、とヴェルディーゼが溜息を吐いた。
そして、フィレジアへと視線を移して言う。
「まぁ、とにかく……世界を壊して出てきたよ。そっちは? 本当に大丈夫だった?」
「ええと、そう、ですね……以前、最高位邪神様は、この世界にいる限り、誰も私の傍には転移できないように……最も罠が罠としてその効果を発揮できるよう、魔法を掛けてくださいましたので……あの方は、罠を突破できず諦めて帰っていきました。今はまだ、危ないので……フィレジア様には、もうしばらくここにいてもらうつもりです」
「というわけでな。ここを出て襲われては困る。ヴェルディーゼよ、妾の眷属らが襲われそうになったりしたら、妾に教えてはくれぬか?」
「片手間でいいのなら。この想定外のトラブルのせいで、少し予定が崩れたし……ユリのことも、ちゃんと考えないといけないから。話し合いたいこともあるし……ちゃんと見張るのは厳しいよ」
ヴェルディーゼが少し申し訳なさそうに言うと、フィレジアは軽く頷いた。
そして、くすりと微笑みながら言う。
「片手間でできると知っているから頼んでおるんじゃ。お主にとっては、造作も無いことじゃろう? 無論、妾がそれをできれば一番いいんじゃがな……」
「フィレジア、申し訳ないからって無茶はしないで。ルスディウナは……はぁ、フィレジアに完全に目を付けただろうね。殺すか、それとも憂さ晴らしのために洗脳を……洗脳とかされてないよね?」
「少なくとも、妾に自覚は無い。ヴェルディーゼ、お主の目から見るとどうじゃ?」
「……大丈夫、問題ないよ。まぁ、干渉の痕跡はあるけど……その影響も今は完全に無くなってる。そこを切っ掛けに手を出されるようなこともなさそう、だね。……無事も確認できたことだし、そろそろ戻るよ。リィ、迷惑を掛けるけど、フィレジアをよろしく」
「はい。わたしに、お任せください。……ユリさん、その……お身体に気を付けて。今はまだ、落ち着くこともできていないでしょうから……ゆっくりとくつろいで、心も休ませてください、ね」
リーシュデルトがそう言って控えめに微笑むと、ユリも頷いて小さく手を振り、ヴェルディーゼを見た。
するとヴェルディーゼはユリの手を取り、転移で自分の城へと戻る。
「……さて、ユリ」
「は、はい、なんでしょう」
「話し合いをしよう。今回のことで、ユリが負った傷。過去のトラウマ……そして僕も、今回のことやルスディウナについて、説明するべきことがたくさんある。焦らず、ゆっくりと……話をしよう。言いたいことは、好きなように言ってくれて構わない」
「……はい、主様……私も、話したいことがあります。一つずつ、時間を掛けて……それでも、いいですか?」
「ふふ、もちろん」
暖かな光が、窓から差し込む。
その光は、再会を、この平穏の時を祝福するように、ただただ静かに二人を照らしていた。
終わりみたいな雰囲気を出していますが、この章はもう少し続きますのでどうかお付き合いください。




