拘束とリーシュデルトの城
ジャラジャラと、鎖が擦れる音がする。
「あ……あの、あのぉ……主様?」
「何?」
「あのですね。私、さっきまで一人で閉じ込められていたわけですよ。変なとこに。主様にとはいえ、この私の知らない部屋に閉じ込めるのは……そのー……鬼畜の所業では?」
「落ち着かないだけだから……大丈夫、すぐに戻ってくるよ」
「しかもどこか行くんですね。どこですか。そして何分後に帰ってくるんですか」
「フィレジアのところ……たぶんリィのところにまだいるはず。もう弱体化の影響は無いし、ルスディウナに何かされててもちゃんと防げてる……よね……?」
「私を閉じ込めて他の女っ……の人に会いに!? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対やだーっ!!」
「待って、その短いスカートで暴れないで。見える」
「それで主様を引き留められるなら羞恥くらい投げ捨ててやります!」
「引き留めなくても行かないから羞恥は投げ捨てないで!?」
ジタバタと暴れてどうにかヴェルディーゼを引き留めようとするユリにヴェルディーゼがそう言い、ユリの足を軽く押さえた。
更にそっとユリの唇に指を当てれば、ユリは少し顔を赤くして黙る。
「いい子。……ごめん、さっきまで閉じ込められてたのにっていうのは……本当に、そうだね。連れ出すのは不安なんだけど……しょうがないか。僕の傍が安全なのは事実だし……」
「主様の傍を離れていたからああなったって考えれば、不安なんて無いでしょうっ。ああいえ、フィレジア様が悪いわけでも、主様が悪いわけでもないんですけど……! 不意を突かれましたから……誰かの真後ろに転移とか、できちゃうんですね」
「……それはまぁ、できるけど……ユリが言ってた違和感……ルスディウナの干渉で、印でも付けられてたんじゃないかな。そうすれば、そういうのはずっと簡単になるから。……とりあえず今は……名前も口に出したくないから、後回しにしよう。先ずはフィレジア。僕とユリのために身体を張ってくれたんだから、早く見に行かないと」
ヴェルディーゼの言葉にユリが少し目を丸くしたあと、頷いて手首に付けられている手枷を揺らした。
ジャラジャラと鎖が音を立て、ヴェルディーゼはそっとそちらへと視線を向ける。
「このままじゃダメ?」
「ダメです! 私が自分の意志で逃げ出したとかならまだしも、無理矢理連れ去られて閉じ込められていただけの私にこれは酷いですよ! 逃げ出した場合でも不服に思うとは思いますがっ。なんで閉じ込めるんですかぁ!」
「目の届かない場所にユリがいて……気が気じゃなくて……とりあえず、いつでも存在を確認できる場所にいさせたかった」
「……外出するつもりだったんですよね? 私を置いて。それってつまり……ここにはこの部屋を監視できるシステムがあると?」
「うん、あるよ。そのための部屋だから」
「なんでそんな部屋が……ああ、もう。ほら主様、取ってください。腕にくっついて離れないようにします。それでいいですよね?」
ユリがそう確認すると、ヴェルディーゼが渋々といった様子で頷いて手枷を外した。
そして、腕を差し出してユリに抱きついてもらうと、転移をする。
一瞬で視界が切り替わり、次に見えたその場所には大きな城が建っていた。
ヴェルディーゼのものとは違う、少しメルヘンなお城だ。
「……可愛いお城……」
「リィの城だね。僕のは有り余る力を使おうとした結果だけど……リィは、広い方が都合がいいから。……デザインは趣味と……油断させる意味合いもあるのかな」
「都合……? ……油断?」
ヴェルディーゼの口から発された単語にユリが首を傾げていると、周囲に魔力が集まってきた。
ユリはそれに一瞬身を固くしたものの、それがリーシュデルトのものだと気付くと本人はどこだろうときょろきょろと辺りを見回し始める。
『お、お待ちしておりました、最高位邪神様……それと、ユリさんも……お久しぶりです。無事で良かった……』
「リィ様、こんにちは! お久しぶりです! 無事ですよ! ……それで、リィ様はどこに……?」
『城の内部です……そう遠くはありませんので、案内いたしますね』
「別にいいよ、大体把握してるから」
『えっと……今は厳重体勢で……罠も、いくつか新しいものを設置した、ので。わたしが誘導した方が早いと思うのですが……』
「ああ、そうか……じゃあお願いしようかな。どっち行けばいい?」
『では……ええと、先ずは裏に回って――』
リーシュデルトの誘導に従い、ヴェルディーゼがユリを連れて歩き出す。
ユリはそれに付いていきながら、そわそわと身体を揺らして尋ねた。
「あの、罠って……?」
「……話してないっけ? リィの城は罠だらけだよ。一つでも道を間違えたら……どうなるだろうね?」
「ひえぇ……」
『あっ、止まってください。右に、見えづらいと思いますが扉があるので、見つけたらその左辺りの壁に触れてください……』
「壁なんだ。ここだね」
ヴェルディーゼが言われた通りに壁に触れると、壁が消えてその奥にあった部屋が見えてきた。
中ではフィレジアとリィが椅子に腰掛けており、紅茶が湯気を立てている。
「遅かったではないか、ヴェルディーゼ。愛する者との再会故、多少は仕方が無いが……きちんと策があったとはいえ、命を懸けたんじゃぞ。少し薄情ではないかのぅ?」
「わかってるよ、遅れてごめん。ただユリが……」
「今私のせいにしました? ……でも、主様のためなら……ふへ……」
「違うから、そんなことで嬉しそうにしないで……んんっ、とにかく! フィレジア、無事で良かった。リィも、ありがとう」
嬉しそうにしているユリに少し微妙な顔をしながらヴェルディーゼが言い、感謝の気持を伝えるように軽く頭を下げた。




