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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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深淵魔法の恐ろしさ

 ぱたぱたとユリが足を揺らしてヴェルディーゼが準備をする様を眺める。

 ヴェルディーゼは何やら魔法で庭の土を固めているらしい。


「……終わったよ。補助無しで魔力の放出はできそう?」

「はい。さっきやってみましたけど、問題なくやれました。……手のひら以外だと、感覚がよくわからなくてやれませんでしたけど……」

「そっか、それならそれでいいよ。放出さえできるなら問題なく魔法は扱えるからね。さて、適性は深淵魔法だったね。魔法はイメージが大切で、神ならなおさら、魔力さえ足りればイメージだけで魔法を扱えるんだ」

「おぉ、そういうタイプですね? なるほどなるほど……あれ、じゃあたまに出してる魔法陣は何なんですか?」


 ユリが首を傾げると、ヴェルディーゼは少し考え込む仕草を見せた。

 そして、複雑にならないよう気をつけながら説明を始める。


「色んな属性を複合して作り上げた魔法とかは、ただ魔力を放出するだけじゃ発動できない。魔力で魔法陣を組み上げる必要があるんだよ」

「……私には無縁な話ってことですか」

「複合に関してはそう。だけど魔法陣を組み上げる必要があるのはそれだけじゃなくて、単なる魔力放出では使えないような複雑な魔法でも必要になるよ。たとえ1属性だけだとしてもね」

「複雑な魔法……」

「指向性を持たせる程度なら必要無いけどね。……うーん、そうだなぁ……深淵の複雑な魔法か……魔力を放出すれば、深淵魔法は地面に深淵を顕現させることができるけど……その中で層を作ったり、あるいは……あー、中で竜を象ったりしたら、難しくなりそうでしょ?」

「竜ですか……まぁ、なんとなくわかりました。要は、魔法をたくさん弄くるなら魔法陣が必要って話ですよね?」

「うん。……深淵魔法の複雑な魔法って、あんまり知らないんだよね。僕はあんまり使わないし……」


 ヴェルディーゼがそう言うと、ユリが目を丸くした。

 そして、ヴェルディーゼの全身を眺めて言う。


「……こんなに邪神っぽいのに? あ、そうだ、主様の適性は何なんですか? それこそ深淵魔法なんて得意そうに見えますけど。髪も服も黒いし、目の色赤いし」

「僕? 僕は何でも使えるよ。だからこそ、深淵魔法についてはあんまり知らないんだよね。深淵魔法って、汎用性が皆無で、殺意の塊みたいな魔法だから」

「さ、殺意の塊……」

「そう。簡単に言えば、深淵に触れたら人は死ぬ。そんな深淵を広範囲に出現させるのが深淵魔法だから。……即死するような魔法でもないんだけどね。深淵って言っても、擬似的なものって言った方が近いかな」

「……こっわ……」

「ふふっ、大丈夫だよ。うっかり死んだら蘇生してあげるから」

「怖いぃっ!? えっ、や、えっ……待ってくださいツッコミどころが複数あると困ります! あの、えーと……うっかり死ぬって……!? あとさらっと蘇生なんて言葉が出てきましたけど、えっ、できるんですか!?」


 ユリが驚きながらそう言うと、ヴェルディーゼが当然のように頷いた。

 そして、ニコニコと笑いながら言う。


「まぁ、他の世界だったり他人だったりは制約は多いけどね。でも、ユリの場合はいつでもできるよ。そもそも、ユリの魂は僕が掌握してるしね」

「はい……!?」

「ユリの魂はそこにないよ。僕が持ってる」

「そんなの知らないんですけど!?」

「言ってなかったからね。でも、ユリはもう、僕を恐れても嫌いにはならないでしょ」

「疑問形ですらない。怖」

「もう優しくしなくてもいいかなって」

「いや優しくはしてください。駄目ですよ、DVとか」

「そういうのじゃないから大丈夫。暴力はしないよ。ただ、言動に気を遣う必要はもうないんじゃないかな」

「疑問符がなぁぁい……はぁっ、もう怖いのでこの話やめます! それより魔法ですよ魔法、どうしたらいいんですか? イメージしながら魔力放出ですか?」

「それはそうなんだけど、ちょっと待ってね」


 ヴェルディーゼがそう言ってユリを引き寄せた。

 そして、ユリを自分の背後に移動させると目の前に手を翳す。


「扱いに注意が必要な魔法でもあるし、危険性を知ってもらうためにもイメージしやすくするためにも、お手本を見せるよ。絶対に前には出ないでね、きっと怖い思いをすることになっちゃうから」

「えっ、そ、そんなにですか……? わ、わかりました……主様でも危険な……主様、凄く強そうなのに……」

「ああいや、僕なら触れてもなんともないけど。とにかく見ててね」

「は、はいっ」


 ユリがしっかりと返事をしたのを確認し、ヴェルディーゼが手のひらから魔力を放った。

 すると庭に巨大な漆黒が現れる。

 吸い込まれてしまいそうなほどに黒いそれは、恐怖心こそ抱かせるがそれだけで、ユリが拍子抜けと言わんばかりに目を丸くする。


「……これ……だけ? これなら、気を付けてればこれに触れることなんて」

「そうだね、わかりづらいかもしれないね。簡単に回避できるように見えるでしょ?」

「え、はい……」

「さて、それじゃあ危険性をよりわかりやすくしてみようか。少し抱えるよ」

「抱えるって、もしかして――わしゅああ!?」

「相変わらず変な悲鳴だね」

「舌を噛みました」

「……急すぎた?」


 ヴェルディーゼの言葉にユリが頷き、横抱きで抱えられながら口を押さえた。

 若干涙目になっているので、ヴェルディーゼがさっと治癒を施しつつ庭に広がる深淵を見下ろす。


「さて、じゃあよく見ていて」

「はい……うわ、浮いてる。怖……」


 少しだけ浮いているヴェルディーゼの足を見て、少し怖くなったユリがヴェルディーゼにしがみついた。

 そんなユリの身体を支え、ヴェルディーゼはわかりやすいようにと口を開く。


「〝広がれ〟」

「広がるとどうな――うぇええあえぇ!?」


 ユリの眼下で深淵が広がり、巨大な城を一瞬で飲み込んだ。

 恐る恐るユリが深淵の中を覗き込むが、飲み込まれた城はどこにもない。

 ユリがぶるりと身震いし、ヴェルディーゼを見上げた。


「……あ、あの、え、ええっとぉ……お、お城、無くなっちゃいました、けど」

「ちなみにあれ、巻き込まれると凄く苦しいよ。痛くはないけど……深淵と同化していく感じがしてね。ジタバタ暴れても逃げ出せないし」

「け、けけ、経験したみたいに言わないでください……」

「経験したことだからね。魔法を解除して抜け出したけど」

「ひええ……」


 ユリが身体を縮めて震え始めた。

 真っ黒で底の見えない深淵は、今にもこちらに飛びかかってきそうだ。

 もっとも、ヴェルディーゼの魔法である以上はそんなことはありえないが。


「危険性はわかった?」

「は、はい。でもあの、お城……」

「ああ、すぐに再生させるから気にしないで。魔法は解除して……さぁ、魔法を使ってみようか」

「……怖いんですけどぉ」


 情けない声で言うユリに微笑みつつ、ヴェルディーゼが片手間にお城を再生指せながらユリの手首を軽く掴んだ。

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