祈り向き合う
魔力が迸り、魔法が炸裂する。
ヴェルディーゼが前衛を、フィレジアが後衛を務めての戦闘に、ルスディウナは押されていた。
「ああ、ああ、あああああ!! 愛しのヴェルディーゼぇ! どうしてなの!? どうして私を選んでくれないの! ああっ、もう少しで心を折れたのに……!! 後は、数百年にも及ぶ孤独を味わった彼女の姿を見せるだけでぇ!!」
「……。……そして、餌をちらつかせれば僕が自ら罠にかかってくれるって? あそこまで焦燥していたって、そんな見え見えの罠に寄っていくほど僕は愚かじゃないよ」
「ッ……フィレジアぁ! お前、お前ぇ……! よくも良いところで邪魔を……!!」
「ヴェルディーゼから計画の破綻を指摘されていることに気付いておらんのか? ヴェルディーゼが自ら罠に掛かる前提の作戦なのじゃろう? ならば、焦りに焦ってなお罠にかからないのなら破綻しておろう」
ルスディウナが言葉にならない怒りの声を上げた。
そして、すぐに前髪をくしゃりと掴むと、低い声で言う。
「は、ははっ……ここまで怒ったのはいつぶりかしら。フィレジア……ヴェルディーゼこ数少ない頼りにしている存在。お前だけは、殺してやる……っ! 逃げられると思うなよぉ!!?」
「……ふむ、ヴェルディーゼよ……撃退は難しそうじゃな。戦闘は妾が担う。お主は、ユリの言う違和感……ルスディウナの干渉を解け。できるか?」
「もちろん、時間さえ稼いでくれればね。……弱体化してなければ、こんなの一瞬なんだけど」
歯痒そうにヴェルディーゼが言い、フィレジアの後ろに下がった。
そして、攻撃の手を完全に止め、ルスディウナの攻撃を回避しつつ干渉の解除に集中し始める。
「ほれほれ、ルスディウナよ。妾はここじゃぞ? ヴェルディーゼを手に入れる寸前で横槍を入れた妾のことを狙わなくて良いのか?」
「……お前ぇ……ッ!」
フィレジアの挑発に簡単に乗せられ、ルスディウナがフィレジアを追いかける。
怒りと本人は言っているが、実際のところルスディウナが抱いているのはそれよりも焦りが大きいのだろう。
そして、怒っていてはヴェルディーゼを手に入れられないからと中途半端に理性を保とうとしているのだ。
だからこそ、早く邪魔者を消さなくてはと躍起になっている。
好都合だ。
「あと少し……ッ、届いた! フィレジア!」
「……ふん、やっとか。じゃが、これでもまだ……埒が明かぬな。この世界にいる限りは、封印に専念させることは難しそうじゃ……ヴェルディーゼよ、帰る方法はまだわかっておらんが、ここは任せても良いか? お主がルスディウナの相手をしていては、時間が取られるばかりじゃろう。封印の解除となると、回避に割く意識すら惜しい」
「ありがたい申し出だけど……はぁ、任せるはこっちの台詞。本当に大丈夫なの? ルスディウナの実力は本物なんだよ。今は僕に意識が多少なりとも引っ張られてるけど……」
「わかっていないわけがなかろう? 安心せよ、無理をするつもりはない。秘策がある。無論、妾は自己犠牲の精神なぞ持ち合わせてもおらぬからな」
「……じゃあ、不吉なことは口にはしないでおくけど……心配だから、リィに連絡して。リィの結界なら、万全でさえいられれば破られることはないよ。……フィレジアだけなら、この世界から出られるよね」
「うむ……それが秘策のつもりじゃった。妾はここから出られるし、リィにも連絡するつもりで……まぁよい、ではユリのこと、しっかりと救出するんじゃぞ」
フィレジアがそう言い、ルスディウナを挑発しながら遠くへと去っていった。
あのままルスディウナをヴェルディーゼから引き離し、そのまま転移で別の世界へと逃げるつもりなのだろう。
心配が無いわけではないが、今の最優先事項はユリなのでヴェルディーゼが一つ息を吐いて深く集中し始める。
ルスディウナの、数百年にも及ぶ孤独という言葉が、嘘だとは思えない。
嘘を吐く理由が無い。
それならば、一刻も早くユリを助けなければならない。
ユリの心が壊れてしまうよりも、早く。
「もう少しだから……もう少しで、助けられるから。もう少し、耐えて」
祈るようにヴェルディーゼが呟き、鎖が解けた封印に向き合い始めた。
ルスディウナなら、ユリの心が壊れてしまっているのなら、そう言うはず……と、そう信じて。
間に合ってくれと、深く深く祈りながら。




