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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
真っ暗闇の世界

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違和感の正体

 フィレジアは静かにヴェルディーゼを見ると、目を細めて確認する。


「ヴェルディーゼよ。思いつく限り、ユリがどこに封印されているのか調べたんじゃな? その上で、見つからなかったと」

「……うん。どこにも……痕跡なんて、無くて……一体どこに……」

「焦るでない。ではヴェルディーゼ、一つずつ再確認するとしよう。どこを調べたのか、一つずつ口に出してみよ」

「そんな時間は……ッ、……いや、うん……わかった。先ず、世界全域を調べて……どこにも無かったから、世界の核に、死体の山を一つずつ調べて……狂信者の死体も調べた。ユリがいた場所も、遥か空の上も、漏れが無いように……」


 一つずつ、少しずつ早口気味になりながらもヴェルディーゼが調べた場所を口にする。

 本当に、色んな所を調べたのだ。

 それでも、ユリは見つからなかった。

 その事実にヴェルディーゼは眉を顰めて歯噛みしつつ、助けを求めるような視線をフィレジアへと送る。


「……ふむ、そうじゃな……見落としがあるのぅ」

「え……? な、何!? どこを見てないの!? フィレジア、早く! 今もユリが、独りで寂しく……!」

「ルスディウナじゃぞ。お前が見落としそうな場所に隠すに決まっておろうが。――つまりは、ヴェルディーゼ。お主じゃよ」


 ヴェルディーゼに答えを齎し、フィレジアが息を吐いた。

 固まるヴェルディーゼの頭を軽く叩き、フィレジアが言う。


「ほれ、固まっていないで早く調べんか。妾はまだ探していない場所を指摘しただけじゃぞ。そこに封印が本当に隠されているのか、妾には調べることもできん」

「……ッ、わかった」


 フィレジアに促され、ヴェルディーゼが目を閉じて自分の内側へと意識を向けた。

 そこには確かに、違和感のようなものがある。

 そして、ずっと近くに感じていたユリとの繋がりも。

 そんな場合ではないと、ヴェルディーゼは無意識に違和感を無視していたのだろう。

 きっと、ずっとその違和感はあったのに。

 あるいはそれも、ルスディウナがそうなるよう仕込んだのかもしれないが。


「見つけた……っ、けど……! 妨害されてる……どうにか突破しないと……」


 眉を寄せ、苦しそうに呟きながらも、ヴェルディーゼは確かな希望を感じていた。

 そのお陰で、先ほどよりも冷静さを取り戻すことができたらしい。

 ヴェルディーゼはフィレジアの助けを借りることなく思考の海に沈み、そのまま黙り込む。


「……やれやれ、手のかかる子じゃ。しかし……折角来たというのに、妾の出番はこれで終わりか?」


 フィレジアがそう言って苦笑いし、ヴェルディーゼの背中を見る。

 ここまで冷静になれたのなら、やはりフィレジアの出る幕は無いだろう。

 むしろ、ユリとの感動の再会の邪魔にだってなり得る。

 戻るべきかどうかフィレジアが思案しつつ、しかし我が子のように見守っていたヴェルディーゼの成長にフィレジアはこんな時にも関わらず緩んだ笑顔を浮かべてしまう。

 本当に、本当に昔から見守ってきて、色んなことを教えて、とうに自分を超えたヴェルディーゼ。

 そんな彼の成長を見ることができたのだから、苦労して来た甲斐もあったかとフィレジアは一人頷く。


「妨害の突破……チッ、真面目に魔法を組みやがって……ルスディウナめ……」

「それだけ本気ということじゃろうな。妾の助けはいるか?」

「案出しお願い。解除も破壊も試してみたけど……まともな方法じゃ難しいと思う」

「……ふむ。妾にも妨害の仕組みはわかるのぅ。妾はヴェルディーゼよりもルスディウナよりも格下のはずじゃが。封印は見えていないのに、何故……」

「封印は見えてないのに妨害の仕組みは見えてるの? ……なんで……? ……ただの妨害とはいえ、封印に直接仕込まれてるし……ユリに危険が及びかねない以上、手荒な真似はしたくないんだけど……わからないな。最悪、本当に無理矢理破壊しにかかるしかないかも……」

「ユリ……。……あ」


 フィレジアがふと声を漏らした。

 ヴェルディーゼがそちらに視線を向けると、フィレジアは言う。


「ユリが言っていたんじゃ。妾がユリを抱き締めた時、違和感があったと。そして、それはヴェルディーゼの時にもあったとも」

「違和感……確かに、言ってた。あの時は気に留めなかったけど……ああ、気にするべきだった……! ……いや、今はそんな場合じゃない。フィレジアは、それがルスディウナが何かしていたからこそのものだったんじゃないかって疑ってるんだね? 探ってみるよ」


 ヴェルディーゼがそう言い、魔法を使ってルスディウナの痕跡が無いか調べる。

 自分の中にはユリの封印が隠されているから、ルスディウナの痕跡まみれでよくわからない。

 だが、フィレジアは――


「あった。巧妙に隠されてるけど、干渉されてるみたい……これ、封印に繋がってる……? 鎖みたいな……。……フィレジアや僕の力を封印の妨害に使ってるの? ……じっとしてて。断ち切ってみる」

「ユリへの影響は、平気か?」

「たぶん、大丈夫なはず。ユリと繋がってるわけじゃないし、ユリに危害が及びそうな仕掛けも見当たらない。ちょっと時間は掛かるけど、これを解ければ――」


 じわり、とヴェルディーゼの傍で嫌な魔力が渦巻いた。

 直感に従ってヴェルディーゼがフィレジアへと仕掛けられた干渉の解除を中断し、回避すれば光を纏った透明な鎖がヴェルディーゼがいた場所へと放たれていた。


「よくも……よくもぉッ……! フィレジアぁ……! よくも、私を出し抜いてくれたなぁ!?」

「……ハッ。ルスディウナ、随分と余裕が無いんだね。フィレジアが来てなお封印を解かれない自信があるわけじゃないらしい。僕から冷静さを奪うことで作戦が成立してたのかな?」


 現れたルスディウナと相対し、フィレジアとヴェルディーゼが目配せをする。

 ルスディウナが来たとなれば、ユリの封印の解除に専念はできない。

 対処せざるを得ないだろうという同じ判断を下し、フィレジアとヴェルディーゼは阿吽の呼吸で行動を開始した。

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