光を纏う鎖
ヴェルディーゼが一度も帰ってきていないのだ、とユリがフィレジアに不安を打ち明けてから、数ヶ月が経った。
しかしそれでもヴェルディーゼは一度たりとも帰ってきておらず、ユリは本格的にフィレジアに保護され、そしてヴェルディーゼの行方についても調査が始まっていた。
明らかな異常事態、ユリが危険に晒されてもおかしくない。
ならば先ずはユリの安全を確保し、それからヴェルディーゼを探すべきとフィレジアが判断したのである。
「……主様」
ぼそりと、不安そうにユリが呟く。
そんなわけない、ヴェルディーゼが危機に晒されるなどありえないのだ。
と、そんなことをぐるぐると考えながらユリがベッドの上で蹲る。
本格的な保護が始まってから、それなりに時間が経っているはずだ。
ヴェルディーゼの居場所の調査も、それなりの時間は続けているはずだ。
それでも、見つからない。
ユリはもうずっと眠れていないし、ヴェルディーゼの存在を感じていなかった。
「……ユリ、起きておるか?」
「フィレジア、様……どうか、しましたか? ……もしかして、調査が進展した……とか」
「……微妙なところじゃな。ふむ……一応、進展もしておるが……進展のために、ユリの力を借りたいと言うべきか」
「私の……? 何をすればいいんですか? なんでも言ってください。それで見つかるのなら、なんだって……!」
「落ち着くんじゃ、ユリ。焦る気持ちもわかるが……」
詰め寄ってきたユリの頭を撫で、フィレジアが焦るユリを宥める。
ユリはそれに固まり、唇を噛んでからこくりと頷き、深呼吸を始めた。
数回深呼吸を繰り返した後、ユリは金色の瞳でフィレジアを見上げる。
「それで……私は何をすればいいんですか? 教えてください……」
「ヴェルディーゼとの繋がりを辿ってみてほしいのじゃ。できるか?」
「繋がり……って、眷属とその主の……ってことで合ってます、よね? 意識したことはないんですけど……」
自信無さそうにユリが言うと、フィレジアが頷いた。
そして、そっとユリの手を引いてベッドに座らせると、自分も隣に座ってユリに目を閉じさせる。
「目を閉じて……こう想像するんじゃ。お主は、誰もいない、何も無い不思議な空間に一人でいる。たった一人じゃ。……ああ、返事はしなくてよい。想像することに集中せよ」
「……」
「では、ユリよ。お主は本当に一人か? 周りには本当に何も無いのか?」
フィレジアに言われるがままに、ユリが想像する。
自分は一人で、不思議な空間にいる。
周りには誰もいなくて、何も無い。
そのはずだ。
そのはずなのに、少しの違和感を覚えてユリが少しだけ眉を顰めた。
この違和感はなんだろう、とユリがそれに意識を向ける。
それは、鎖だった。
色は無いが、ほんの僅かに光っているようにも見える。
透明で、見えないはずなのにそこにあるとわかる、不思議な鎖だった。
ふと、ユリが目を開けてフィレジアを見る。
「……鎖が……見えました。……んと、今もなんとなく、あるのは感じ取れます」
「うむ。では、それはどこに伸びているか……わかるか?」
「ど、どこに? えっと……うーん……あっちの方? 凄く遠い気がする……?」
ユリが自分の胸に手を当て、曖昧ながらも方向を指で示した。
フィレジアは頷き、ユリの頭を撫でて言う。
「よくやった。これで調査が進みそうじゃ」
「……主様、見つかると思いますか……?」
「さてな。なんとか見つけるしかあるまい。……じゃが、安心せよ。繋がりが視えたのなら、あやつはちゃんと生きておる。最悪の心配だけは、しなくていい」
「……はい」
こくりと頷いて、ユリは少しだけフィレジアに向かって微笑んでみせた。




