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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
真っ暗闇の世界

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順調すぎる展開

 人っ子一人いなくなった世界で、ヴェルディーゼが高台に腰掛けている。

 もう誰も、何もいない。

 ヴェルディーゼが全てを焼き払ったからだ。


「ルスディウナ様は、最高位邪神様のことを慈悲深くて可愛いって言うけど……こんな無情な方だったんだねえ。妄信的なルスディウナ様も愛しいなあ!」

「……お前たち狂信者と同じ。ルスディウナは、僕のことを見ているようで見ていない」

「……なんだって?」

「わからなかった? こう言ったんだよ。ルスディウナは僕のことを見てないし、お前たち狂信者も、ルスディウナのことを見ていない」

「……お前。調子に乗るなよ……ルスディウナ様を一番理解しているような口振りで……私を、一方的に決め付けて……」

「理解なんてしてないし、するつもりもないよ。ただ、見ていてそう感じただけ。それを口にしただけ。ルスディウナを理解するなんて、死んでも御免だよ。まぁただ、ルスディウナはどうでもいいんだろうね、狂信者のことなんか。むしろ、妄信的であればあるほどいい。盲信されているのなら、その偶像通りの行動をすれば、その盲信は深まって……そして、裏切らない駒になる。ふとした衝撃で解かれかねない洗脳よりも、それはずっと強力なものなんだから」


 ヴェルディーゼがそう言って笑い、少女を見た。

 険しい表情でこちらを睨んでくる少女に、ヴェルディーゼは内心安堵する。

 一先ず、彼女の余裕は崩せた。

 感情はこれで怒りに支配されただろうから、後はここからどう情報を引き出すかだ。


「……っ。……なんで? なんでそんなに冷静なの? どうしてこの状況で、私を挑発できるの? ねえ……ねえ! 感情と思考のリンクは切れていないのに、なのになんで!」

「ユリへの愛の方が、君の狂信よりも強いから。元から君の狂信の方が劣っていたから、ユリのことを考えればどうとでもなる」

「そんな言い訳……っ! そんなわけない! そんなわけがないんだ! 私のルスディウナ様への愛は、誰よりも勝っている!」

「ふぅん、君にとってはそうなんだろうね。僕にとってはユリの方が、ずっとずっとずっと大切で、大好きで、愛おしいけど。少なくとも、このリンクで共有されてる感情を上回るほどには」

「……は、ははっ。そうだ……そうだ、彼女だ! 彼女に会いたいんだろう!?」

「そうだね」


 冷たい表情で、ただ肯定だけを返したヴェルディーゼを少女が嘲笑った。

 そして、引き攣った表情をしながら叫ぶ。

 全て、ヴェルディーゼの狙い通りに。


「お前はこの世界から逃げられない! 誰とも連絡を取れないお前には! お前はもう彼女には会うことはできない! お前は、ルスディウナ様に下ることしかできないんだ!」

「へぇ……」


 ヴェルディーゼが笑みを浮かべて目を細めた。

 この世界に来てから、ヴェルディーゼは誰かと連絡を取ろうとしたことが無かった。

 今思えばおかしな話である。

 ユリには心配を掛けたくないが、夜も帰ることができないため忙しくて帰ることができないくらいの連絡をしようとは思えたはずだ。

 こんな異常事態ならば、せめてフィレジアに事情を説明し、ルスディウナの動向に注目してもらったりと、頼ることはいくらでもできたはずだ。

 ヴェルディーゼは自分で解決できることはなるべく自分で解決したいとは思っているが、誰かに頼ることを知らないわけでも、頼りづらいわけでもないのだから。

 特にフィレジアは、これまでも迷惑をたくさん掛けてきた。

 今更それが増えたところでなんだと言うのか。

 それなのに、ヴェルディーゼは連絡するという発想すらできなかった。

 それは、つまり――確実に、思考制限を受けているということである。

 そして更に、思い至れても連絡ができないよう細工もされている。


「ああ、不愉快だ! 気分が悪い……! ……ルスディウナ様……ルスディウナ様に、癒してもらわないと……」

「……」


 情報はここまでか、とヴェルディーゼが去っていく少女の背中を見ながら肩を落とす。

 あまり深く探りを入れて疑われると何をされるかわからないので、ここは慎重にならざるを得なかった。


「……僕にできないことが、他の神にできるの……?」


 少女の発言からして、脱出には他者との連絡が重要になってくるらしい。

 しかし、ヴェルディーゼの感覚からすると、ヴェルディーゼが脱出できないのは弱体化しているというのもあるが、世界そのものが他の世界と断絶されているというのが大きい。

 弱体化が無くとも、ここまで他の世界と断絶されていれば転移は難しいだろうと思うくらいには。

 それなのに、他の神に連絡したところでどうにかなるのかとヴェルディーゼが考え込む。


「……いや、違うな。弱体化とは別に、干渉も受けてるのか。それと……感覚が少し狂わされてる……その干渉があった上での判断になるよう、細工されてるのか。実際は、今の感覚ほど転移は難しくない……今の弱体化状態じゃ、どちらにせよ脱出は難しいだろうけど。……つくづく鬱陶しいな、ルスディウナめ……」


 ギリッ、とヴェルディーゼが奥歯を噛み、息を吐いた。

 そして、何も無い世界を見下ろしながら、呟く。


「ルスディウナが関わってるのに、情報がこんなに簡単に得られた。……順調すぎる、なぁ」


 今までがここまで順調ならば、不測の事態の一つや二つは乗り越える必要がありそうだ、とヴェルディーゼが深い溜息を吐いた。

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