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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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救出、妨害と情報

 やれ、と。

 目の前の人物がそう口にすれば、足元にあった魔力の奔流がより激しくなり、ユリのすぐそばで圧縮され始めた。

 それに内心怯えつつも、ユリは必死に虚勢を張って口を動かす。


「は……そ、それがどんな魔法であれ、私の深淵を突破できるとは思えないんですけど。深淵は攻撃を防いだり、弾いているわけではなくて、飲み込んでいるんですから! ……え、あ、あれ……?」


 自信満々な姿を取り繕っていたユリが突如として顔色を悪くし、よろよろと後ずさった。

 そして、自分の手のひらと目の前の人物を交互に見て、ひどく怯えた表情を晒しながら尋ねる。


「な……何を、したんです……? どうして……魔法が使えなく……っ」

「お喋りは終わりだ、小娘。……安心しろ、死にはしない」

「安心なんか、できるわけ……っ」


 泣きそうな表情でユリが言い、震える手でせめて恐怖を和らげようと自分を抱き締めた。

 荒れ狂う魔力を全て使用した魔法の発動の予兆を感じ取り、ユリがぎゅっと目を閉じる。

 ユリの足元に魔力が集まり、一気にそれがユリを包み込んだ。

 嫌な冷たさが肌に伝わり、ユリが振り払おうとするが、それはびくともせず上手くは行かなかった。

 ユリが目尻に涙を浮かべながら何もできず、魔法はユリの拘束を完了させようとする。


「――ッ、ごめん、遅れた……!」


 バチッと何かが弾かれるような音とともに温もりに包まれ、ユリが恐る恐る目を開けた。

 嫌な冷たさはもうそこには無く、慣れ親しんだ体温だけがそこにあり、見慣れた姿が視界いっぱいに広がる。


「あ、あるじさ……っ」

「ごめん。ごめんね……怖かったよね。もう大丈夫だよ……」


 ユリを抱き締め、自分の服に顔を押し付けさせて何も見えなくすると、ヴェルディーゼは大丈夫と繰り返しユリに向けて言いながらユリたちを追いかけていた者たちに目を向けた。

 そして、無言で薄く微笑むと、翳すように片手を向ける。

 大丈夫、と。

 変わらず繰り返しながら、ヴェルディーゼが魔法を発動した。

 真っ黒な闇に包まれ、ユリを追いかけていた者たちは瞬く間にその場から消え去り、ヴェルディーゼは息を吐く。


「……ユリ、大丈夫? 落ち着くのにはもう少しかかりそう? ……リィたちを心配させてるだろうから、ちょっとあの深淵の壁消したいんだけど……」

「だ、だい、だいじょうぶ、です……っ。う、うぅ……怖かった、怖かった、よぉ……」

「ああ、よしよし。もう大丈夫だから……頑張ったね、えらいよ。えらいえらい……じゃあ、とりあえず合流するね?」

「うえぇえぇぇ……メルちゃぁん……どこぉ……」

「自分で分断したんでしょ。ほら、はい」


 ヴェルディーゼが軽く手を振ってユリの深淵を消すと、奥でくっついていたリーシュデルトとメルールが駆け寄ってきた。

 分断されて状況がわからず、やっと合流できたと思えばヴェルディーゼがいて、ユリはヴェルディーゼにくっついたまま泣きじゃくっている状況に、メルールが一瞬固まった。

 リーシュデルトはなんとなく何がどうなったか把握できていたのか、一先ずユリに駆け寄ってその頭を撫でる。


「えっと……ユリさん、ユリさん。聞こえていますか……?」

「うわぁあぁんっ、リィ様ぁ……怖かったぁ……」

「ひゃあ!? そ、そうですよね、怖かったですよね……もう大丈夫ですよ。最高位……じゃなくて……えっと……ヴェルディーゼ、…………様、が、なんとかしてくださいましたから……」

「うぅ……リィ様……。……メルちゃんどこぉ……」

「こ、ここだよ! ごめんね、さっきと状況が違いすぎて、ちょっとびっくりして……大丈夫? どこか怪我とか……あ、ぎゅってしよっか! 凄く怖かったんだよね? 守ろうとしてくれてありがとう!」

「ふえぇ……」


 ユリがヴェルディーゼに背中をくっつけたままメルールに抱きついた。

 離れたら泣き出しそうなので、ヴェルディーゼがじっとそれを眺める。

 しばらくの間そうしているとユリが少し落ち着いたのか、ハンカチで目元を押さえながらヴェルディーゼを見上げてそっと尋ねた。


「あ、あの。ネリル先輩と、王子殿下は……?」

「あー……焦ってたから置いてきちゃった。まぁ、終わったら帰ってくるように言っといたし、たぶん大丈夫でしょ」

「……あ、お兄様から連絡だ。終わったって!」

「良かった……もう、主様……焦りすぎですよ。落ち着いた後も向こうのことを把握しないなんて……えへへへへ……でも、主様にしては少し遅かった……かも……?」

「妨害されたからね。突破に時間を食われちゃって……遅れてごめんね。妨害が無ければ怖がらせることもなかったのに……」

「……妨害……」

「厄介なのが関わってるみたいでね」

「……あの人達とは違う人、ってことですよね。……なら……」


 ユリが少し前のことを思い出し、ぼそりと呟いた。

 それを聞いたヴェルディーゼが詳しいことを尋ねると、ユリは不安そうにヴェルディーゼに引っ付きながら答える。


「えっと……さっきの人達が、ですね。提供された情報では、私は戦えないはずで……もっと楽な仕事だったはずなのに、とかなんとか言っていて……」

「……そっか。情報が漏れてる……調べないとなぁ。……とりあえず、この話は後。ネリルたちとも合流しよう。ユリ、一人で歩け――」

「う」

「……手繋ぐ? それとも抱えて行こうか?」

「……手を繋いでください……」


 一人で歩けるか、と尋ねようとしただけでユリが顔色を悪くしたので、ヴェルディーゼが苦笑いしながら手を差し出し、手を繋いで歩き始めた。

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