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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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走れ

 それから約1週間後。

 ユリがヴェルディーゼに甘えながら過ごしていると、唐突にヴェルディーゼが言った。


「……かなり馴染んだね」

「へ? 馴染んだって……なんですか?」

「僕の力の話。ほら、人間の身に余る代物だから眷属化を通して少しずつ馴染ませてるって話をしたでしょ? あれのことだよ」

「……ああ……あの、襲撃の前の……うぅ」

「おっと、思い出しちゃった? 大丈夫?」

「大丈夫です……それより、馴染んだんですか?」

「うん……もう大丈夫だと思う。……んー、でも……もうちょっと詳しく見てもいいかな。近くで観察するだけで済むから。一応ね」


 ヴェルディーゼがそう言うと、ユリがこくりと頷いて姿勢を正した。

 若干緊張している様子のユリの肩を軽く叩き、ヴェルディーゼが肩を力を抜いてやりつつじっと観察していく。

 数秒で観察を終え、ヴェルディーゼが頷いた。


「うん、完全に馴染んでるよ。これでやっと万全にできる……」

「万全? ……あ……前は、そのせいで間接的な対策しかできなかった、から……」

「うん。でも一気に掛けると負担があるかもしれないから、先ずは結界だけにしておこう。あ、常時発動するわけじゃないから視界が悪くなったりはしないよ。ユリへの攻撃、悪い影響を齎すもの……それらの一切を弾く結界だからね」

「……凄そう……」

「そんじょそこらの神じゃ傷すら付けられないだろうね」


 ヴェルディーゼが明るく言い、早速ユリに手を翳した。

 一瞬だけ透明な壁のようなものがユリを包むようにして出現し、すぐに消える。

 ユリが壁があった場所に触れてみるが、特に何かに触れたような感覚も、邪魔をされたような感覚もなかった。


「……おぉ。さっきまでここにあったのに触れられないですね。というより……さっきの口ぶりからして、今は無いんですか?」

「うん。見たい?」

「見せてくれるんですか!? じゃあもう一回……」

「いいよ」


 ヴェルディーゼが短くそう答えて手のひらに謎の黒い球体を出現させた。

 ユリがぴしりと固まり、そのまま動けずにいるとヴェルディーゼがゆっくりとユリに球体を近付けてくる。

 一定距離まで球体が近付いてくると、突如として透明な壁のようなものが現れ球体を弾いた。


「……うわ……わわ……」

「どう? 凄いでしょ」

「……凄いは凄いですけど、それ以前に物凄く怖かったんですが……」

「ん? どうして?」

「どうしてじゃないですけど。そんな謎の球体近付けられたら怖いに決まってるじゃないですか」

「……ああ、そうか。……そうだね」


 納得したようにヴェルディーゼが頷き、ユリの頭を撫でた。

 ユリがその手に擦り寄って甘えていると、ヴェルディーゼが不自然なほどの笑顔を浮かべて言う。


「さて、ユリ。ここから、二、度、と、攫われないようにしていこうか」

「それはいいんですけど、二度とに込められた圧が凄いです」

「ああ、いいんだね? じゃあ外に出ようか、早速始めよう」

「……え? はい? 私が何かするんですか?」

「そうだなぁ、とりあえず先ずはしょっちゅう何も無いところで躓くような運動神経をどうにかしないと……」

「え? 運動神経って……まさか私を鍛えるんですか!? 嫌です! 嫌です! 運動だけは嫌です! 攫われないように鍛えるなんて、ハードな予感しかしませんし……! 私は絶対やりませんからね!」

「鍛えるのもそうだけど……魔法の使い方を教えようと思ってたのに、いいんだね。そっかー」

「ああああああ!? 魔法!? 使いたいです! 魔法オンリーで行きましょう!」

「まぁどちらにせよ外に出ようか。はい、行くよ」


 ヴェルディーゼがそう言ってユリの腕を掴み、外に転移した。



 唐突に転移が行われ、ユリがよろめく。

 それを先程から一切表情を変えず、笑顔のままのヴェルディーゼが支え、しっかりと立たせてとんっと背中を叩いた。


「走れ」

「へ? わ、うわっ、あ、足が勝手にっあっこのスパルタぁあああああうわぁあああああああ――」


 遠くへと走り去っていくユリを視界に収めつつ、ヴェルディーゼがその辺の地面に椅子を創り出して腰掛ける。

 そして、紅茶も出して優雅にお茶をしつつ考え事をし始めた。

 考えるのは当然、ユリのことである。


「ここに戻ってきたら丁度体力が限界を迎えるように命令を調整して……何から始めようか。とりあえず、体力的に武器とかを持たせるのは無理があるから……魔法になるよね。適性調査して……」

「――ッ……っ……っは……――!」

「あ、戻ってきた。早いな」

「……こっ、の……ひゅぅっ……」

「お疲れ様。ここに座って、ゆっくり水飲んでね」

「誤差は、ある、けど……っなんとなく、聞いたことのある台詞ぅ……っ。……はー……水つめた〜い、生き返るぅー……ありがとうございます……」


 限界といった様子ではあるが、それでもなんとかお礼を言いつつユリがこくりこくりと水を飲む。

 ヴェルディーゼが軽く手を近付けると、ユリの身体はかなりの熱を持っており直接触れなくても熱気が感じられた。


「……。……あー、うん。熱いね、改めてお疲れ様。さて……魔法適性の調査から始めようか。明日から体力も付けようね」

「はふ……ふー……落ち着いてきた。……あの、謎の間はなんだったんですか。急に真顔になってましたけど。あと目がものすっごい首辺りに吸い寄せられてましたけど」

「……汗掻いてたから。タオルもいるかなって。はい」

「うーん、そういう視線じゃなくて、それこそ、あの夜……みたいな……うああああセルフ藪蛇!!! あーあーあー、なんとか気を紛らわさなきゃ……うー、う、運動嫌だなぁ。やだなぁああああ……魔法楽しみ……うぅ……」

「……調べるね?」

「はぁい……」


 ヴェルディーゼが顔を真っ赤にしているユリにはなるべく触れないようにしつつ、適性を調べ始めた。

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