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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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傀儡とありえない取引

 戦闘が始まったのと同時に、ヴェルディーゼが竜の意識を魔法でより二人に向けさせ、自分は軽く下がる。

 そして、その戦闘能力の差を確認して、少なくとも簡単にやられるようなことはないと確信してから結界を張った。

 中の空間を隔離し、外界の影響、並びに結界の内側からの全てを外界に漏らさないための結界である。


「……はぁ。まぁ、流石にユリの方に全員は向かわないよね。それはそれで困ってただろうからいいけど……」


 ぼそりと呟き、ヴェルディーゼが目を眇めた。

 そして、雑に剣を振れば空間が歪み、そこから人影が三十ほど現れる。

 想定よりは多いのでヴェルディーゼが面倒そうな顔をして、しかしすぐに肩を竦める。


「その程度で本気で僕を止められると思ってるなら……取るに足らないね。ユリの存在と、そしてユリが人質として充分なくらい大切に思われてることを突き止めてたから、それなりに評価してたんだけど」

「まともに戦うつもりなど無いさ。時間稼ぎさえできれば、後はお前の眷属を人質にするだけ。この世界とあの眷属……彼女を天秤にかければ、お前は彼女を取るんだろう?」

「そうだね。別にリィのことは狙ってないみたいだし。……ただ、もしこの世界が奪われたら、それは僕の責任ってことになる。それは勘弁してほしいんだよ。だから、僕は可能ならこの世界を守るし……」


 そこで言葉を切って、ヴェルディーゼが笑った。

 そして、山を消し飛ばした時のように剣を横薙ぎに振るうと、すぅっと息を吸って言う。


「犠牲を覚悟しているとはいえ、こんな実力と数で、短い時間稼ぎだけで、この世界を奪おうなんて……僕のことも、リィのことも……ユリのことだって、見くびりすぎだよ。それに、やっぱり見通しが甘い。最高位邪神なんて大仰な称号を冠しているから、寛大なはずだとでも思ったの?」


 ヴェルディーゼが軽薄に笑うと、ぐちゃりと嫌な音が響いた。

 そして、三十ほどはあったはずの人影が消えて、一瞬で血の海が出来上がる。

 残ったのは、ヴェルディーゼと会話をしていた男だけ。

 ごくりと唾を飲んで、男がヴェルディーゼを見た。


「ユリを狙ったんだから。許すつもりなんて無いよ」

「……俺のことも、殺すか?」

「もちろん。例えお前がただの実行役だったとしても、狙ったのは事実。ユリが最高位邪神の大切な存在だと知っていてやってたんでしょ。それなら許す理由なんてない。まぁ、知らなくても許してないかもしれないけど」

「……っ、それがわかってるなら……俺は情報を持ってる! 向こうとの繋がりがあるのは俺だけで――」

「……簡単に切り捨てられるからこその、繋がりだろうけどね」


 呟きと同時に、光が男を貫いた。

 灰になった男を何の感情も浮かばない瞳で一瞥し、ヴェルディーゼがすっと光が飛んできた方向、少し上を見る。


「……出てくるつもりがあって良かったよ。それと、これが自分から言い出してくれて良かった。拷問も視野には入れてたけど、流石にやりたいとは思わないからね」

「甘ったれた邪神めが。我々の仕業だとわかっていたのなら、素直に明け渡しておけばいいものを……」

「ははっ……相変わらず頭がおかしいね。関わりたくないから監視は他に任せてたけど……まさか、拷問なんてものを推奨してるの? 〝ルスディウナ〟は。リィが巻き込まれるトラブルは大体ルスディウナが原因だから、予想はしてたけど……」

「貴様と会話をする気は無い。さっさと退くことだ。でなければ……あの娘、どうなるだろうなぁ? 最弱の小娘の守護が無ければ、自分の身を守るのこともままならないだろうよ」

「……ルスディウナの傀儡如きが、随分勝手な口を利くんだね。いいのかな。僕は例え末端だろうと、傀儡が言ったことはルスディウナ自身の意思として見なすよ。それでもし僕の怒りを買えば、ルスディウナは……君をどうするのかな」


 上空から出てきた男を殺した人物は、ローブを纏った女性だった。

 侮蔑の滲むその声にヴェルディーゼは嫌な気分になりながらも、その顔には笑顔を浮かべて会話をする。

 女性はルスディウナという人物の配下で、ヴェルディーゼもまたルスディウナという人物のことは知っているらしい。

 しかし、その声と言葉は刺々しく、ルスディウナという人物への嫌悪が窺える。


「ルスディウナ様は、貴様の眷属であるあの小娘のことが大層お気に召さないらしい。あの小娘を持ち帰れば……許してくださるだろう」

「……人質にするって話じゃなかったのかな?」

「殺さないというだけの話だ。ルスディウナ様も、貴様との取引であれば殺そうとはしないだろう」

「……はぁ、やっぱり話にならないな……これで取引がまともに成立すると思ってるんだから。ルスディウナに知能でも吸われてるんじゃないの……?」

「あの娘を引き渡し、この世界を救うか。この世界を引き渡し、あの娘を救うか。さぁ、選べ」

「……はぁ」


 心底面倒そうに、嫌そうに、ヴェルディーゼはただ溜息を零した。

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