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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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束の間の休息

 逃げ込んだ教室で、三人が深い息を吐いた。

 一先ずは一休みができそうだが、それでも警戒は怠れないのでユリは壁に体重を預けながらも感覚を研ぎ澄まし、敵の位置を把握する。


「……ふぅ〜。とりあえず、しばらくは大丈夫そうです。深淵での目眩ましが効きましたかね〜……」

「曲がり道……二手に分かれる道を進む直前で目眩ましをする作戦、上手く行ったね」

「素早く行動する必要は、ありましたが……かなり引き剥がせましたよね……?」

「はい、かなり遠くに気配があります。まぁ、こっちの気配捉えられたら転移してくると思いますけど。とりあえず、呼吸を整えましょう。……あとは、私たちを捕まえられないからって主様の方に行かれたら面倒ですね。どうにかして引き付けないと……」


 ユリがそう言って目を細めた。

 ヴェルディーゼからも可能な限りでいいからとは言っていたものの、足止めをするよう言われてもいる。

 ネリルたちに竜の相手と同時に神の相手もしろというのは苦なので、ユリとしても少しでもいいから足止めをしたいところだった。

 自分が足止めをしなかったせいでネリルたちが怪我をしたら、申し訳ないにもほどがある。


「……う」

「ゆ、ユリさん……? どうかしましたか……?」

「い、いえ……その、気配が急に捉えづらく……もしかして、何か仕掛けようとしてる……? ……たぶん、主様の方に行く気は無いと思うんですけど……捉えづらいけど、数は……減ってないし、しっかりこっちを狙ってる動きもしてるはず……」

「……えっと。先生から討伐完了の連絡が来るまでこの辺りで時間稼ぎをするのが望ましいんだよね。誰も捕まらずに」

「はい。あの人達に主様たちの邪魔をさせないようにするんです。……確か……寮でメルちゃんが話してましたよね。何か状況に変化があれば、向こうにいるルシオン様が連絡を寄越してくれるって。そのために、連絡用の道具ももらったんですよね」


 メルールが頷いて、制服のポケットから石のようなものを取り出した。

 中心には青色の紋様が刻まれており、連絡が来た際には紋様が青く光ると説明されたそうだ。

 傍にさえあれば特に何もしなくても連絡は受け取れるらしいが。


「……連絡の兆しは、無いですね。わたしも、特に何も感じませんし、連絡もありません。あそこまで大きな存在なら、遠くにいても創世神であるわたしもあれが討伐されれば多少ながら何か感じ取れると思うのですが……」

「となると……拮抗していて、状況に変わりが無いか、あるいは……いえ、悪い想像なんてダメですね。そもそも主様があんなのに負けるわけないですし。考えるだけ無駄です、馬鹿らしいです」


 一瞬過った嫌な想像をユリは肩を竦めて一蹴し、咳払いをした。

 そうして意識を切り替えると、今は自分たちのことを考えるべきだとユリが考え込む。


「……別の場所に移るか、このままここにいるか……どうしましょうね。いまいち判断しづらい動きです」

「えっと、ユリ……敵の動きって、どんな感じ? 戦いとなるとちょっと難しいかもしれないけど、領地でも遠くからの指示はしてたから、私も何か意見を出せるかも」

「んっ、と……自由行動をしてる感じ……? でも、主様の方に行く感じは無くて……居場所を炙り出そうとしてるのか、何かの罠とか作戦なのか、わからなくて」

「……うーん。居場所はバレてそうなの……?」

「わかりづらいけど……たぶん、バレてない……と、思います。断言はできませんけど、居場所がわかってるにしては的外れな位置にも行ってますし……道を潰す作戦にしても、割と穴だらけな気がしますね……うー、どうしよ……」


 ユリが唸っていると、黙って二人の会話を聞いていたリーシュデルトがそっと手を上げた。

 二人の視線を集めたことを確認すると、リーシュデルトは落ち着かなそうにしながらも遠慮がちに言う。


「わたしの結界が破られるのは……一点に集中攻撃をされた時だけ、です。あの人数なら、集中攻撃をされても時間がかかります。だから……籠城でも、いいと思うのです、けど……」

「……はい。たったの一度も、僅かにもリィ様の結界は攻撃を通しませんでしたもんね。ただ……」

「た、ただ……?」

「隠れているだけじゃ、ダメですし……好機があるように見せかけないといけないんです。じゃないと、埒が明かないってわかったあの人達は、主様たちのところに行っちゃうから……」

「……あっ。……そう、ですよね……狙いはあくまでも……ヴェルディーゼさんなんですから。わたしたちを誰一人捕まえられないのなら、直接戦った方が早いって考えてしまうかもしれないんですね……」

「はい。そんなわけないんですけどね、主様が普通に戦って負けるわけないので」

「そうですね」


 ユリが真顔で言うと、リーシュデルトは少し顔を青くしながら頷いた。

 全力を見たことはないが、リーシュデルトはヴェルディーゼが真面目に戦っている姿を見たことがある。

 正直なところ、とても恐ろしかったのでついそれを思い出してしまったのだ。


「と、とにかく……もう少し様子を見てから決めましょう。ねっ」


 ユリが気を取り直してそう言うと、二人が真剣な表情で頷いた。

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