両親と親友
そろそろ前作の更新を再開しますので、明日からは2日に1回の更新になります。
というわけで明日はこっちの作品はお休みです。
よろしくお願いいたします。
ユリが泣き止んだあと、ヴェルディーゼは紅茶を淹れてユリを落ち着かせようと試みていた。
泣き止みはしたものの、ユリは未だ不安定で、俯いて震えていたのだ。
「大丈夫? ゆっくり飲んで」
「……はい」
「両親の話……は、しない方がいいよね」
「……いえ……取り乱して……すみません」
「気にしないで」
会話が続かず、その場になんとも言えない沈黙が下りた。
言葉を探そうとヴェルディーゼが意味もなく〝あー〟などなどと口に出しつつ、またユリを気遣う言葉を発する。
「……両親のこと、吐き出した方が気が楽だったりする? ユリがどう思っているか」
「……お父さんとお母さんへの気持ちなら、粗方吐き出しました、けど。……いえ。……やっぱり、話します」
「うん。泣いてもいいからね。あ、別にさっきの話と関係なくても大丈夫だよ。話したいこと話して」
「……じゃ、じゃあ……えっと……」
「……そうだなぁ。どんな人だった?」
「……見た目通りですよ。凄く明るい人です。優しくて、温かくて……」
ユリが控えめに笑みを浮かべると、ヴェルディーゼが安堵するように息を吐いた。
泣き続けるユリを心配していたらしい。
「そうなんだ」
「はい。それから……忙しい人達でした。でも、よく私のことを気に掛けてくれて……高校に入って、バイトを始めてもお小遣いの量も変わりませんでしたし、クリスマスプレゼントも用意してくれて」
「……クリスマスプレゼント……」
「はいっ。基本的には、アクセサリーとかだったでしょうか……バイトのお金は、学費とグッズとか新刊とかに回してましたし」
「学費? それって、親がパッと払ってなかった?」
「それはそうなんですけど……大した親孝行もできていませんでしたから。なので、何ができるかなって考えて……できることが、少しでも学費を返すことくらいで。……親友と同じ高校に行くって言って……そこ、もうすっごい頭の良いところで……学費も相応って感じだったので……」
「へぇ。……ああ、そういえば……確かに、趣味の買い物で新しいやつを買っても手を付けずに勉強してた時期があったかな?」
ヴェルディーゼが思い出すように首を傾げて言うと、ユリが頷いた。
そして、嫌なことを思い出したと言わんばかりに顔を顰める。
どうやらユリにとってかつての勉強ばかりだった日々はとても嫌な思い出らしい。
「……親友……あ、もしかして。肩くらいまでの髪の眼鏡かけた子かな」
「はい! ゆうちゃん……悠莉ちゃんって言うんです。ちなみに私はゆーちゃんです。……向こうは普通に結莉って呼んでくることの方が多かったけど……」
「そうなんだね、ゆーちゃん」
「はいっ! ……うぅやぁああああ!?」
「随分反応が遅れたね」
「あ、あ、主様からのそれは私的に破壊力が強すぎるので駄目です! 駄目! めっ!」
「駄目ならしょうがないね……ゆーちゃん」
「ぴぎゃあああああああ!!」
ユリがベッドに突っ込んで転げ回り始めた。
ジタバタと暴れ、ユリが意味もなく叫び始める。
「だっだっ駄目ですってば! 駄目って言ってるのに!」
「あははっ。それで……親友の話だったね。それなら、たくさん悲しんで……毎年ちゃんと話をしに行くって言ってたよ」
「……ああ……そっか。……毎年って、もしかして……そっか。……私には……命日があるんですね。……ゆうちゃんは、たくさん勉強を頑張ってるから……頻繁には、お墓参りになんて来れないでしょうし……あはは。……ゆうちゃんの勉強の邪魔はしなくて済みそうで、良かった……」
「……その親友はどんな子?」
「……ゆうちゃんは……控えめだけど、優しい子です。ちょっと人見知りで、友達を作るのには苦労してたみたいで……名前は1文字違いで、漢字も片方は一緒。というわけで、声を掛けて友達になって、親友だって言えるようになりました。……ゆうちゃんは……びっくりしたでしょうね。またねって……会えなくなるなんて、思わなかったから……またねって、言ったのに」
「……んー……」
「主様?」
ユリが首を傾げると、ヴェルディーゼは静かに首を横に振った。
そして、そっとユリの背中に腕を回して言う。
「だいぶ落ち着いたみたいだね」
「あ……はい」
「良かった。……ああでも、話したいだけ話してくれていいからね。まだ話す?」
「……もう少しだけ。お父さんとお母さんのことは軽くで済ませたのに、ゆうちゃんのことはたくさん話しちゃったので。これじゃ、お父さんとお母さんは大切じゃないみたいです」
「いいよ、満足できるまで話して」
「はい。……うーん……そうですね。お父さんは、優しくて……背が高くて。困ってる人を放っておけない人です。それからお母さんは元気な人で……背は……ちょっと低めでしょうか。お父さんほど優しいわけではなかったですけど、困ってる人を見捨てることはしなくて……どちらかと言うと、お父さんより後先を考えて行動している感じでしょうか。お父さんは助けなきゃ、しか考えていなくて、お母さんは自分じゃ助けられないけどあの人に声を掛けたら、とか、助けてからすぐに連絡して、とか……色々と頭の中で組み立ててから行動しているイメージです。それからそれから――」
楽しそうに話すユリを眺め、ヴェルディーゼがふっと微笑んだ。




