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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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戸惑いと疑念

 それから数日間、ユリは忙しなく怪我人の世話を焼いていた。

 一日休めば動けるようにはなったものの、ネリルのためにアレクシスの手伝いをしに行く、なんてことができるわけもなく。

 動けるようになって一時間ほどは意気消沈していたユリだったが、気を紛らわせるためにと現在は自分にできることをただただこなしているのだった。


「テーチャ先輩。調子はどうですか? ご飯、今日も食べれます?」

「ああ……」

「んー、元気ではなさそうですねぇ。熱は……無さそうですけど……まだ貧血気味だからですかね。じゃ、ご飯食べれるだけ食べて少しでも元気取り戻しましょう。今日はどうですか? 自分で食べれそうです?」

「だいぶ良くなってきたからな……それくらいは、できそうだ」

「それは良かったです。じゃあご飯置いておくので、無理せず食べてくださいね。何かあれば声かけてください。その間に包帯の準備と……食べてる最中に巻いちゃってもいいですか?」

「ああ……むしろ、やらせてしまってすまないな……」

「お気になさらず〜」


 緩く返事をしつつ、ユリがテーチャの足に巻かれた包帯をほどき、傷を確認する。

 そして、諸々の処置や準備をしてからてきぱきと包帯を巻き始めた。

 ここ数日ずっとやっていることなので、とても手際が良い。

 最初は血や傷口を見て半泣きになり、時々別室に逃げ込んでえずいていたユリだが、今では何の反応もない。


「まぁそこそこ治ってますね。……もぉ、テーチャ先輩ってば。ラーニャ先輩がいなかったら、どうなっていたことか……」

「反省はしているから、毎回それを言うのはやめてくれないか」

「だって、テーチャ先輩……ラーニャ先輩かいなかったら、本当に……た、確かに、そのお陰で後輩の命は……救われたかも、しれませんけど……」

「……すまない。もうしない……とまでは言えないが……飛び込む前に助けを呼ぶなり、可能なことはすると約束する。心配を掛けたな」

「……あ。す、すみません、私……」


 暗い表情をしていたユリが慌ててテーチャに謝った。

 そして、誤魔化すような笑顔を浮かべながら次の作業に移ろうとした時、バンッと扉が開いた。

 ビクッと肩を震わせながらユリが扉の方を見ると、息を切らせたラーニャがユリに向かって叫んだ。


「ユリちゃんっ、アレクが! アレクが帰ってきた!!」

「……えっ、えっ……!? わ、わかりましたっ、あっ、でも、みんなを放置するのは……」

「道中で先生にお願いしておいたから、大丈夫! 行こう、ユリちゃん!」

「わっ、わかりました! み、みなさん、申し訳ないですけど失礼しますねっ」


 ユリがそう言ってラーニャに駆け寄ると、ラーニャはユリの手を取って走り始めた。

 そして、急いで保健室に向かうと、ラーニャはこれまた勢いよく扉を開ける。


「……っ、アレク! ユリちゃん、連れてきたよっ……!」

「……わ!? き、傷だらけじゃないですか、応急処置だけでもしないと……!」

「ああ……見苦しいところを見せるね。魔女との戦いが激しくてね……大丈夫、解呪の儀式を済ませたら、すぐに受けるよ」

「さ、先に応急処置をっ……で、でも、ネリル先輩……」


 先に応急処置を施すべきだと頭では理解していても、早くネリルに目覚めてほしくてユリが視線を彷徨わせる。

 その間にアレクシスは黒い宝石のようなものを取り出し、ユリに見せた。

 その黒い宝石のようなものは白い膜で包まれており、宝石は少しずつ光となって消えているようにも見える。


「聖剣の力で包んだ魔女の核だ。恐らく、早くやらないと浄化されて消えてしまう」

「……っ、わ、わかりました……でも、殿下は可能な限り大人しくしていてください! 動くのは必要最低限です! じゃないと傷が――」


 そう言ってユリが一歩アレクシスに近付くと、魔女の核が黒い光を放った。

 そして、黒い靄に包まれた老女がユリに襲いかかってくる。

 凄まじい悪寒を感じて、ユリが何かを考える暇もなく周囲を深淵で覆った。

 耳をつんざく金切り声が響いて、ユリが頭を抱えて小さくなる。

 次いで何かが風を切るような音がして、金切り声が止まった。

 ユリが深淵を解こうかどうか迷っていると、勝手に深淵が溶けるようにして消えてしまった。

 つい先程までは無かったはずの気配にユリが振り向くと、ヴェルディーゼがそこに立っている。

 どうして、とユリが考えていると、すぐに自分に向けられた視線に気付く。

 戸惑いや疑念だらけの、そんな視線がユリに向けられた。

 ユリの中ですべてが繋がって、ユリがヒュッと息を漏らす。


「……ぁ……っ、ちが……い、今のは……今、のはっ……そ、そう、ラーニャ先輩のと……同じような、もので」

「それにしては、随分と禍々しかったけれどね」

「あ……ぁ……っ」

「……それに……ヴェルディーゼ先生。いつからそこに? あの黒い膜に触れて解除させたように見えましたが?」


 言い訳が思い付かず、ユリが震えているとアレクシスはヴェルディーゼの存在と行動について指摘した。

 ヴェルディーゼはゆっくり笑みを浮かべると、震えるばかりのユリに向かって言う。


「……もういいよ、()()。言い訳なんて考えなくても。もう、回りくどいことをする必要は無い」

「ぁ……で、でも、私のせいで……」

「この行動はユリがやらかしたからとか、そんなものが理由じゃないよ。だから、大丈夫。落ち着いて」

「……あ……主様……」


 ふらりとよろけるようにしてユリがヴェルディーゼの隣に向かい、その肩を支えられながらアレクシスとラーニャを見た。

 戸惑いと疑念の視線ばかりが、痛いほどにユリのことを見つめている。


「さぁ。とりあえず、そこの彼女を目覚めさせよう。早くしないと、また魔女の核を取りに行くことになるよ?」


 アレクシスに解呪をするよう促して、ヴェルディーゼが笑った。

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