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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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ひとりきり

「……ぁの。もう、大丈夫……です、よ?」


 リューフィスの死をただただ静かに悲しんでいたユリが、そっと顔を上げて言った。

 頬を桃色に染めて、とても恥ずかしそうにしている。

 ずっとヴェルディーゼに抱き締められて、撫でられて、慰められ続けていたので冷静になると照れてきてしまったのだろう。


「大丈夫じゃないよ」

「へ、いやっ、大丈夫ですけど……?」

「大丈夫じゃない」

「どうして主様がそんなに圧を掛けてくるんです……? リューちゃんが死んで悲しんでいるわけでもないはずなのに……」


 随分と落ち着いたユリが困惑しながら言うと、ヴェルディーゼが息を吐き出した。

 そして、ユリの頭を撫でながら首を横に振り、真剣に言う。


「自覚が無くても、大丈夫じゃない」

「魔法で精神状態をチェックしてるなら最初からそう言ってくれませんか?」


 じとりと睨みながらユリが言うと、ヴェルディーゼは誤魔化すように笑って目を逸らした。

 その様子にユリは首を傾げ、黙ってじっとヴェルディーゼのことを観察し始める。

 沈黙して数分が経ち、ヴェルディーゼが居心地悪そうにしながら読心を検討しているとようやくユリが口を開いた。


「何か……隠していますか? なんというか……そわそわしてるというか、心ここにあらずな感じ……?」

「これ以上無いくらいユリのことを見てるけど」

「……。……んー……んん〜……? 嘘の感じもしないんですけど……でも、何かおかしいような……さっきの圧とか、確かに私を見てるのに……」

「…………」

「あ、なんか迷ってる顔した。誤魔化せると思いましたか!! 私の目は誤魔化せませんよッッ!」

「ああ……ちょっと感情漏れちゃったか。……いや、ね……ちょっと気になることがあるだけなんだよ。……リィは、怪しくないはずだけど」

「説明を求めます」


 低い声で独り言を呟いたりと、まともに説明する気はなさそうなヴェルディーゼをジト目で見ながらユリが言った。

 そして、いつもヴェルディーゼがするように圧を出し、ちょいちょいとその服の袖を引っ張ってちょっかいを掛ける。

 妙に可愛い主張の仕方にヴェルディーゼが和みつつ、ひょいっとユリを抱き上げた。

 驚きながら悲鳴を上げ、頬を染めるユリを眺めながらヴェルディーゼが息を吐く。


「……今はあんまりそれどころじゃないから、詳しくは説明しないけど……簡単に言うと、ユリの存在が周知され始めてる」

「……悪いことですかね?」

「狙われるからね、色んな意味で。だから、その対処はしたいんだけど……色々と他にもやることはあるし、どうしようかって悩んでたところ。急を要するようなものではない……と思いたいけど……」

「色んな意味ってなんですか、怖いんですけど」

「容姿まで出回っちゃってるからね。……噂の処理より出処を突き止めるのが先、かな。ふぅ……」

「……さっきから溜息ばっか吐いてますけど……疲れてます、よね? 主様も休んでいきましょうよ。私はまだ動けそうにないですし。さっきから身体が重くて重くてしょうがないです」


 手を開いたり閉じたりしながらユリが言うと、ヴェルディーゼが少し考えた後に頷いた。

 ちゃんと休んでくれるらしいヴェルディーゼにユリが微笑み、その頭に手を伸ばす。


「んふふ。頑張っててえらいですね〜。いつもありがとうございます」

「……子どもにするような甘やかし方は別にされたくないんだけど。あと、腕疲れちゃうでしょ。撫でたりなんかしなくていいよ」

「いつも思うんですけど、主様髪の毛サラサラですよね。撫で心地が凄く良くて……」

「無視しないでよ」

「えへへ、ごめんなさい。でも……嫌ですって言ったら、無理矢理止められちゃうんじゃないかなって思つって」

「……無視されても止めるよ」

「でも、一回猶予はくれるので。……主様。私……今、これくらいしかできないんです。普段も、そんなに役に立てているとは言えませんけど……本当に、これしかできないから……これだけは、させてください」


 切実な表情でユリが言えば、ヴェルディーゼがその髪を撫でた。

 不安そうに揺れる眼差しと、噛み締めた唇。

 焦燥するユリを落ち着かせるようにゆっくりと撫でて、ヴェルディーゼは穏やかな低い声を出す。

 焦らなくていいのだと、そう伝えたくて――ヴェルディーゼは、選択肢を間違える。


「大丈夫。そこにいるだけで、ユリは役に立ってるよ」

「……っ、それは……」

「ごめんね。傍にいてあげたいんだけど、やらないといけないことがあるから……終わらせたら、すぐに戻ってくるよ。しっかり休むようにね」

「あっ……」


 去っていくヴェルディーゼを追うこともできず、ユリは胸元を押さえながらその背中を見送った。

 ぽつぽつと、窓に降り始めた雨粒が当たって弾かれる。


「……主様……」


 眠る少女が二人、誰一人言葉を発さない部屋の中。

 雨音だけが響く部屋の中で、ユリ一人だけが、眠ることもできずに膝を抱えていた。

 独り、だった。

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