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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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転生特典と解呪の方法

 戻ってきたラーニャから軽食と新しい水を受け取り、ユリがお腹を満たし再度喉を潤してから、なるべく冷静に口を開いた。

 そうして尋ねるのは、ユリがどうやってここに来たのかである。

 ユリの記憶は、ラーニャを庇おうと抱き締めたところまでである。

 そこから気付けばここにいたわけで、ユリは自分がどうなったのかすらちゃんと理解していなかった。


「私は……どうしてここにいるんですか? 私はどうして意識を失って……」

「そ、それは……私の不手際、というか。……あんまり、慣れてなかったし……疲れてたから……」

「……え、ええと?」

「えっとね。私、転生してきたでしょ……? その時に、神様から転生特典っていうのを貰ったんだ。小さくて可愛い神様」

「小さくて可愛い神様……? ……いえ、はい。そうなんですね。そ、それで……?」

「その転生特典っていうのが、瞬間移動の力なの。人とか物とかを、一瞬で違う場所に運べる力。だから、私……避難なら役に立てるかもって、校庭にいた人を片っ端から安全な場所に送ってたんだ。校庭が一番危なそうだったから……」


 だからラーニャは避難せずに校庭にいたらしい。

 ただ、物陰に隠れていた様子からして、全員を送ったはいいものの力尽きてしまっていたのだろうとユリは推測する。

 ラーニャ以外には、校庭には人っ子一人いなかったので。


「それで……丁度終わったところで、ユリちゃんたちが来てね。ユリちゃんが、あの竜の攻撃から私を庇おうとしてくれたから……最後の力を振り絞って、一緒に校舎に転移したんだ。抱き締めててくれてよかった、少し遠くまで転移の力を及ばすには、ちょっと消耗しすぎてたから……。……ネリル姉様やアレクのことも、連れてこれたら良かったんだけど。至近距離にいたユリちゃんと一緒に逃げるのが精一杯で……私も、転移をしてそのまま数時間くらい意識を失っちゃってたから」

「……いえ……仕方がない、ですよ。私も……そうだ、私……どれくらい意識を失っていたんですか?」

「数日……三日くらいになるかな。先生が呪われてしまったんじゃないかって心配するくらい、ずっと気を失ってたんだよ。呪術の先生にも見てもらったら、全然そんなことなかったけど」

「呪術の、先生……」


 確か、ヴェルディーゼは呪術の授業やらの担当をしていたなとユリが思い出す。

 もしかして、とユリが考えていると、ラーニャは力無く笑いつつも、しかしからかうように言った。


「確か、ユリちゃんの好きな人だよね。担任の先生で」

「……ぁ……っ、う、えっと……そ、その……ら、ラーニャ先輩ぃ……こんな時にからかうなんて、酷いですよ……」

「……照れる元気はあるみたいで、良かった。えっと……状況の説明を続けるね。竜は、ネリル姉様を呪ったら解呪の方法を説明してどこかに行っちゃったんだって。ただ、その……教えたのも、親切心なんかじゃ、なくて。無理難題な解呪方法で……絶望している様を楽しんでいるみたいだったって、アレクが……」

「……殿下は今……何を……? ここには、いないみたいですけど……」

「うん……アレクは今、学園にいないよ」

「……え?」


 ネリルを置いて一体どこに、とユリが困惑をあらわにする。

 それを見ながらラーニャは息を吐いて、遠くを見た。

 そして、遠くにいるアレクシスのことに思いを馳せながら、答える。


「アレクは、ネリル姉様に掛けられた呪いを解くために……魔女を倒しに行ったんだよ。竜の話によると、聖剣の適合者の手で魔女を倒し、その核を聖剣の力で包んで与えれば、呪いは解けるんだって」

「……なんだか……胡散臭くないですか……? 魔女なんて、竜と何の関係もなさそうですし……魔女の核を、聖なる力で包んでいるとはいえネリル先輩に与えるなんて……」

「知らないんじゃ仕方ないところではあるけど、誰が呪いを掛けたかは、解呪方法には関係ないよ」

「ぴぁっ……!?」


 透明になって黙っていたはずのヴェルディーゼから声を掛けられ、ユリが小さく悲鳴を上げた。

 見れば、いつの間にか透明ではなくなっており、静かにユリを見下ろしていた。

 ラーニャが平然としている辺り、透明のまま一度部屋の外に出て、透明化を解除してから普通に入ってきたのだろう。

 それなら最初から普通に入ってきて普通に話せば良かったのに、と思わないでもないが、今は追及できないのでユリがそっと息を吐く。


「……せ、先生……」

「ラーニャさん。彼女の容態はどう? 変わりはない?」

「はい。変化無し、です」

「そう。……うん、そうだね。何も変わりはない……はぁ。……んんっ、それじゃあ、ユ……じゃない、ガーデラさんの方も、一応確認だけしておこうか。じっとしててね」

「え、は、はい……」


 こくりとユリが頷くと、ヴェルディーゼがじっとユリのことを見つめ始めた。

 居心地悪そうに、照れたように頬を染めながらユリがじっとしていると、ヴェルディーゼは一つ頷いて結論を出す。


「うん、問題は無いね。呪いの類は確実に掛けられてない。ただ……他の理由となると、僕にはわからないから。何か異変があればすぐに報告すること。いいね?」

「ふぁぃ……」

「……ん? 何、どうしたの?」


 夢見心地な様子でユリが返事をすると、ヴェルディーゼが首を傾げた。

 ラーニャの前だからそんな反応をしているだけで、実際は全てわかっているのだろうが。


「……っ、な、なんでもないです。そ、それより……さっきのお話……誰が呪いを掛けたかは解呪とは関係無いって……魔物みたいなあの竜でも同じことなんですか?」

「解呪方法は、どんな呪いで、どのくらい強い呪いかで変わるものだからね。竜が提示した解呪方法は、昏睡の呪いのとびきり効果が強いものへの対処法。間違いないよ。……まぁ、魔女の核を使用するなんて聞いたことないけど……普通の昏睡の呪いの解呪法の上位互換、と言うなら納得できないような素材でもない。その他の手順もまぁ、違和感を覚えるほどではないかな。その辺り、先輩の先生が調べてるし、問題は無いと思う」

「あ……それで、新任である先生がネリル先輩や私を……」

「そういうこと。さ、休んで休んで。今君にできるのはそれだけなんだからね」


 ヴェルディーゼがそう言い、そっとユリをベッドに寝転ばせた。

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