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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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昏睡状態

「なんで、わかったの?」


 朧げながらもネリルの異変に気づいたユリに、苦い顔をしながらラーニャが尋ねる。

 するとユリはじっとネリルを見つめて、泣きそうな表情をしながら答えた。


「……どう表現すれば、いいんでしょうか……雰囲気、ですかね。死んだみたいに眠ってるから……いえ、もっと……もっと、確信を持てるような感じ、なんですけど。……ネリル先輩に、何があったんですか……?」

「……ネリル姉様は……」


 ラーニャはそこで、一度口を噤む。

 それほどまでに言いづらい何かがあったのかとユリが不安そうな表情を見せた。

 そして、そのままネリルの方へ視線を移す。

 やはり、深い傷も無いし顔色も問題ない。

 だが、異様なほどに表情が動かず、またその指先すら微動だにしていなかった。

 動きがなく、あまりにも静かだ。

 その様子にユリは僅かばかりの心当たりがあって、しかしそうとは限らないはずだとただただラーニャの言葉を待つ。

 ラーニャは、覚悟を決めたような表情をすると、はっきりと言った。


「ネリル姉様は、呪われたんだ」

「……の……呪い?」

「うん。あの大きな竜が言ってたことなんだけど、早く解呪をしないと……ネリル姉様は……もう、起きなくなっちゃうって。()()()()のまま、静かに……」

「……昏睡、状態……のまま……目覚めない……」


 震える声でユリが呟く。

 聞き覚えのある言葉、聞き覚えのある症状である。

 ヴェルディーゼが語り、回避すると口にしていたイベントに、酷似している。

 つまり、これはそういうことなのだろう。

 この現実では、ネリルがそのイベントで昏睡状態の対象に選ばれた。

 そうなってしまったのだろう。


「……ラーニャ先輩は……落ち着いています、ね……」

「あはは……それを知ったのも、もう数日前のことだから。最初は取り乱したけど、時間が経てば……流石に、落ち着くよ。アレクももう――」

「……そうだ、殿下。殿下は何をしていたんですか」

「あっ……アレクは……」

「殿下は一緒にいたはずです。どうにか……どうにか、できなかったんですか? 殿下は、何をして……」

「……ごめん。私のせいだよ。だから……どうか、アレクのことは責めないであげて。……ごめん、本当にごめんなさい」


 引き攣った笑顔を浮かべながらユリがアレクシスについて言及すると、ラーニャが頭を下げた。

 色んな感情と疑問が飛び交ってぐちゃぐちゃになる頭を何とか働かせて、ユリが頭を上げさせて説明を求める。


「……アレクは、何もできなかったって。後ろから見ていることしか……できなかったって。……隙なんて、いくらでもあったんだよ。呪うには、直接触れる必要があったみたいで……それで、アレクは……すごく後悔してた」

「……っ、そんな……じゃあ……で、でも、なんでそれで、ラーニャ先輩が悪いってことに……」

「だって……アレクが危険な場所に行こうとするのを、無理を言ってやめさせたのは……私だから。だから、全部私が悪いんだよ。ネリル姉様が、こうして昏睡状態になっちゃったのも……全部……っ!」

「ら、ラーニャ、先輩……落ち着いてください、大丈夫、ですから……大丈夫、大丈夫……」


 話している内に感情がぶり返してしまったのか、震えながら泣き始めたラーニャをユリが抱きしめた。

 しばらくそのまま優しく背中を叩いていると次第に落ち着いてきたのか、ラーニャがそっとユリから離れる。

 そして、暗い表情でまた謝罪を口にした。


「……ごめんね。数日間も眠ってたユリちゃんの方が……今初めて色んなことを知ったユリちゃんの方が、ずっと泣きたいはずなのに……」

「私は……いいんです。あんまり、他の人に泣き顔見られたくないですし……とはいえ、まだまだ冷静とは言い難いですから……色々と、疑問に答えてくれると、嬉しいです。私もラーニャ先輩も、話をしていた方がきっと冷静になれると思いますし……」

「う、うん……そうだね。えっと……あ、そうだ。ユリちゃん、水飲んで。というか、先に水飲まなくて大丈夫だった……? ちょっと先生呼んで軽食だけ用意してもらってくるね、それと新しい水も汲まなきゃ……」

「あっ、はい……言われてみれば、喉が凄く乾いて……けほっ、自覚したらちょっと辛いですね。水、水……んん」

「ユリちゃん、ここで大人しくして待っててね。すぐ戻ってくるから」


 そう言ってラーニャがユリが喋る暇も無く走って部屋から出ていってしまったので、ユリがゆっくりと深く息を吐いた。

 そして、きょろきょろと周囲を見回して、不安そうに声を出す。


「……主様……? いますか……?」

「いるよ。ずっと見てたから」

「……透明に、なってたんですか……?」

「うん。今はそれよりも……ごめんね、こんな状況になっちゃって」

「……わざとじゃないなら、いいです。それと、周りを気にせず甘えられるようになったら、たくさん甘やかしてくれれば……ちょっと、色々、整理が付いてないので……えっと、そもそも、主様はどこにいたんですか……?」

「学園の外。バレないように必要最低限だけど、魔物を減らしたりしてた。襲撃が終わった後は、王子を誘導したりとか、かな……そろそろラーニャが戻ってくるから、また透明になるね。ちゃんと傍にいるから。説明も後でする。……透明にはなるけど……頭撫でておこうか。それで少しでも落ち着けるなら」


 ヴェルディーゼの言葉にユリがこくりと頷き、頭を撫でられながら膝を抱えてラーニャが戻ってくるのを待った。

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