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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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感謝も、親孝行も

 部屋に辿り着き、ようやくヴェルディーゼは不思議そうに自分を見上げるユリに気が付いたらしい。

 笑顔を浮かべてユリの髪を撫で、少し首を傾げる。


「どうしたの、ユリ?」

「いえ……考え事をしているみたいだったので、何考えてるんだろうって思いながら見てただけですよ」

「ああ、そうだったんだ……ごめんね、考え込んじゃって……退屈させたよね」

「いえ、考え事をしている顔も格好良かったので特に退屈はしませんでしたけど……」

「……そっか」


 ヴェルディーゼがそう言って扉を開き、ユリをベッドの上に座らせた。

 そして、どこからか書類を取り出して読み始める。


「……そういえば、主様の仕事ってなんなんですか? というか、神様の世界に書類なんてあるんですね……魔法とかで完結させられそうですけど」

「少人数かつすぐに処理するならそうだね。ただ、僕の場合ほとんどの神から送られてくる。そんなものを魔法だけで処理しようとすると、維持に莫大な魔力だって掛かる。その上、意識も常にそれに向けることになるからね。それじゃあまりにも効率が悪いし、適性によっては送れない神も出てくるから。アナログ式だよ」

「へぇ……パソコンとかじゃ駄目なんですか? データで管理とか……あ、でも、使えない神様もいるんでしょうか」

「……そうだね。使えない神のためにね……」

「へぇ……!」


 目を輝かせるユリを眺め、ヴェルディーゼが目を逸らした。

 そして、そのままぽつりと言う。


「でも、魔法で一瞬で文字を書くことができるっていうのも大きいかな。たぶん、機械を使うよりもそっちの方が早いと思う。脳内で言葉を組み立てて、それを文字として紙に転写して、そのまま転移させるだけでいいから。神によっては紙に触れる必要すら無い上、数秒で済むからね。まぁ内容を考えるのが面倒なんだけど」

「……はぇー……にしても、全ての神様が主様のところに書類を届けるなんて……何か凄い役職に就いているんですね。というか神に役職とかあるんですね……」

「そうだね。この前の交流区にも管理者がいるよ。で、僕は全ての世界の最高責任者だね。面倒で厄介で責任を押し付けられる凄く嫌な仕事だよ」

「笑顔ですっごいこと言いますね……うーん、大変そうですし、何か手伝えればいいんですけど」


 ユリが眉を下げながらそう言うと、ヴェルディーゼが笑ってその頭を撫でた。

 そして、書類を置いてユリを抱き締める。


「そこにいるだけでいいよ。それだけで癒やされるから」

「本当ですかぁ〜?」

「本当だよ。嘘は吐かない」

「それは嘘でしょう。眷属にしたいがために魔法まで使って私を騙したこと、忘れてないんですからね! まぁ、怒りは……恋に落ちた時に飛んでいきましたけど……」

「だって欲しかったから。いっそ殺して手に入れようかとも何度も思ってたんだし、それをやらなかっただけマシだよ。何度か手を出しそうになったけど、なんとか耐えて代わりに幸せに暮らせるようにちょっとだけ幸運になれるおまじないを掛けてたんだからね」

「……たまにあったソシャゲの神引きはまさか……」

「ああ……叫んで狂喜乱舞して両親に怒られてたやつかな? それなら……タイミング的にたぶん……あはは」

「当時は嬉しかったんですが今は怖いです! 神引きなんて滅多に起こらないのに、そこそこの頻度で起きてたんですけど……!?」


 ユリが震えながらヴェルディーゼを見上げた。

 相変わらずヴェルディーゼは何かを誤魔化すように笑っている。


「……あー、あー……そういえば、両親。元気にしてるよ」

「あっ……両親、って。…………そう、ですか。……良かったです」

「うん。少し見てみる?」

「……いえ……今は、いいです。……死んだばっかりで……攫われたりもして。完璧に落ち着けているわけではないので……そんな……お父さんとお母さんのことを見て、冷静でいられる自信がないので。……もちろん、大好きなんですけどね。良い親だったと思いますし。でも、だからこそ……今は」

「そっか。じゃあ、見たかったら言ってね。いつでも見せるから。……ちなみに、様子は知りたいとかだったら、口頭で説明してもいいけど」


 ヴェルディーゼがユリを気遣ってそう言うと、ユリが小さく頷いた。

 そして、申し訳なさそうに言う。


「すみません。……お願いします」

「いいよ。そうだなぁ……僕はユリ以外には興味ないから、正確に伝えられるかわからないけど……先ず、ユリの死には凄く悲しそうにしてた」

「……」

「しばらくは……悲しんでたと思う。それで、なんとか乗り越えて……それからは、ユリを弔いながらも普通に過ごしてたよ。……時折、ユリを思い出してたと思うけど。悲しそうな顔をしてたから」

「……そう、なん……ですか」

「うん」


 俯いて小さく言うユリの頭をヴェルディーゼが撫でた。

 すると、ユリが甘えるように抱きついて嗚咽を漏らし始める。


「う、えぐっ……わ、わた……し」

「うん」

「……ッ、も、申し訳、なくて……お、お父さんとお母さんを、悲しませちゃった……わ、私、もう、死んじゃって……生きてるのに……っ悲しませたまま、で……」

「……そうだね。今の君は……本来は、存在しなかった。1人の神の我儘で魂を引き留められ、眷属として生まれ変わったに過ぎない。……会うことは……できないだろうね」

「これまでの感謝も伝えられなかった! 親孝行なんて、なんにもできてない……! なのに、な、のに……っ、迷惑しか掛けてない状態で! 私は、いなくなっちゃった……!!」

「……やっぱり、まだ……」

「っう、うぇええ……うわぁああああっ……!」

「……不安定なんだ。攫われて不安を煽られたから? それとも、今までは抑え込んでた?」

「あ……ある、じ、さまぁ……っ」

「……よしよし。落ち着いて……大丈夫。……大丈夫だよ……」


 縋るようにして泣き続けるユリを、ヴェルディーゼは静かに宥め続けた。

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