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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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大切な友達

 突然足を止めたユリを見て、リューフィスが戸惑ったような表情を見せた。

 そして、その手を握りながら首を傾げて尋ねる。


「どうしたんですか、ユリちゃん。様子がおかしいですよ? ……もしかして、不安ですか? それなら……抱き締めたりとか、どうでしょう。ユリちゃん、いつもそうやって甘えてきますし……」

「……リュー、ちゃん」


 ユリが、異様な様相でリューフィスを見る。

 真っ青な顔、強張った表情。

 震える手と、わなわなと震える唇。

 そのことは、ずっと前から気付いていて、それでもどうか間違いであれと、都合の良いことを願っていた。

 これはそのツケなのだと、ユリの冷静な部分が言う。

 必死になって目を逸らしてきたから、今、こんなことになっているのだと。

 わかっていたのにそんなわけがないと自分に言い聞かせていたせいで、ヴェルディーゼを困らせることになっているのだと。

 主の役に立ちたいがあまり、あんなことまでしようとしたくせに――と。


「……」

「……」


 その場に不思議な沈黙が降りる。

 いつもは天真爛漫に笑うユリは顔色を悪くして俯いていて、いつも穏やかなリューフィスは感情の窺えない瞳でユリのことを見つめていた。

 先に口を開いたのは、リューフィスの方だった。

 目の笑っていない笑顔を浮かべて、リューフィスが問う。


「いつから、気付いていたのですか?」

「……い、いつからって……何、が……」

「そんな態度で、まさか誤魔化せるだなんて思っていませんよね。……ユリちゃん、お友達の私に、どうか話してくださいませんか?」

「……ッ」


 ユリの手を強く握り締めて、リューフィスがいつもと変わらない声で言った。

 変わらない声、そして後半から作られた、いつもと変わらない表情。

 ただ、その瞳の奥の感情だけが違って、酷く違和感を覚える。


『ユリ。逃げてもいい。だからとにかく、そこから一人で離れて』

「……わた……しは……」

「どうか怖がらないでください。ほら、ゆっくり……話してみてください。大丈夫ですよ」

『ユリ』

「ユリちゃん」


 耳から聞こえる声と、頭の中に直接響く声が、ユリの思考を揺らす。

 正しいのはヴェルディーゼで、自分が従うべきは、ヴェルディーゼだ。

 裏切者のリューフィスと行動をともにするべきではないのだと、ユリはよく理解していた。

 しかしそれでも、ユリは動けない。

 リューフィスは友達だから、どうしても、彼女を見捨てるような選択ができなかった。

 ユリがゆっくりと、目を閉じる。

 険しい顔で何度も何度も自問自答をして、ユリが目を開いた。


「……。……っ……リュー、ちゃん」

「はい」

「気付いていました……最初から。……リューちゃんは、裏切者で……魔物たちに学園や生徒の情報を流す内通者で……私やメルちゃんのことを嫌っていて……あわよくば、私たちを……殺そうとしているって」

「……それなら、何故? 指摘するのが怖いのなら、黙って距離を取れば良かったではありませんか」

「それは……っ、それは……」


 すぐに答えることができず、ユリが唇を噛んだ。

 そして、ぎゅっと胸元で服を握り締めて、苦しそうにリューフィスを見た。

 冷たく、嫌悪感の宿った瞳が、ユリのことを見つめている。


「……それでも……リューちゃんは、私にとって……大切な友達だったんです。事情があるのかもしれないって……仲良くなれば、それを明かして、頼ってくれるかもしれないって……思っていました。だけど、関われば関わるほど……そんなものは無いんだって、痛感させられました」


 ふぅ、とユリが細い息を吐く。

 そして、痛みに苛まれるような苦い表情で、それでも笑顔を作りながら、ユリが言った。


「あなたは、私の大切な友達です。それは変わりませんし、絶対に変えてやりません」

「……」

「だけど……リューちゃんと行動をともにするわけにはいきません。……さようなら、リューちゃん。内通者さん。私の大切な友達……次があれば、仲良くできることを祈っています」


 ユリはそう言って強引に手を振りほどくと、反対方向に走っていった。

 何も考えず、ただただ遠ざかるように走り、ユリが立ち止まる。


『主様……主様ぁ……っ、私……』

『……辛かったね。でも、ちゃんとできて偉い。避難所に向かおう、そこでなら彼女が内通者であることも、全部伝えられる。……自分で、できそう?』

『で……でき、ます。大丈夫……です。……主様、リューちゃんが具体的にどんなことをしていたのか……教えてください。私は、決定的な場面を目撃したことは、ありませんから……』


 沈んだ声をしながらもユリがそう言うと、ヴェルディーゼが静かにリューフィスの行動について説明を始めた。

 纏めると、学園や生徒の情報を魔物に流し、今回の襲撃では魔物が中に入れるよう手引をしていたらしい。

 目的については特に無く、ヴェルディーゼは彼女のことを悪意の塊と評した。

 そうなった原因については幼少期にあるのだろうが、今更どうこうできる問題ではないとも。


『悪意の塊……』

『ごめんね。友達をこんな風に言って悪いとは思うけど……』

『いえ、大丈夫です。その……リューちゃんがあんなことをしている原因って……知っていますか?』

『……人間を憎んでるんだよ。過去に人の悪意に晒され続けてきたから……こんな生き物、滅びてしまえばいいって。魔物だって危険な生き物だけど、それでもあれらの側に付くのは……死んでしまっても構わないと思っているからなのかもね。殺されるのなら魔物に、とまで思ってるかも』

『……ふぅ……わかりました。ありがとうございます……』


 ユリがそう言って、目を伏せた。

 少ししてから、ユリが躊躇いがちに尋ねる。


『あの……こんなこと聞いても、どうしようもないとは思うんですけど』

『ん? 何?』

『私が……例え一方的にでも、リューちゃんのことを友達だと思うことで……私たちを嫌うリューちゃんへの、ささやかな仕返しになるでしょうか』

『……うーん……どうだろうね。友達と呼べるような友達は僕には居ないし、裏切られたら知り合いでもなく敵として見るからなぁ』

『そう……ですよね』

『まぁ、動揺はしてたし、それでいいんじゃない?』


 ヴェルディーゼの言葉にユリがこくりと頷き、空元気で微笑んだ。

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