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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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襲撃と裏切者

 翌日、ユリはリューフィスとともに廊下を歩いていた。

 次の授業ほ同じなので、一緒に教室へ向かっているところである。


「リューちゃん、病み上がりなんですよね。本当に大丈夫ですか? 無理しないでくださいね?」

「ご心配ありがとうございます。無理なんてしていませんから、どうか安心してください。昨日の午後には熱も下がっていましたし……でも念のため、隣同士で授業を受けてもいいでしょうか? 体調が悪くなった時には頼りたくて……」

「もっちろんですよ! というか隣同士はいつものことですし! なんなら今も手繋いじゃいますか! はいっ!」

「ふふ、ありがとうございます。――あら、綺麗なお花……」


 リューフィスがふらりと窓の方へと足を向けた。

 よろめくような足取りにユリが繋がれた手を引っ張られながらも支えようともう片方の腕を伸ばす。

 ただ、よろめくような不安定な足取りが心配で、お腹辺りに回されようとしていた腕。

 それが、ぞわりと背筋に走った悪寒に反応して狙いを変え、その襟首を掴んで引き寄せた。

 ほとんど本能による突発的な行動である。

 しかし、それは功を奏し――突如として、目の前に見えていた花壇が弾け飛んだ。


「危ないっ!」

「え……?」


 ユリがほとんどほとんど投げるようにしてリューフィスを後ろの方へ引っ張り、庇うようにして彼女の前へと躍り出る。

 ぎゅっと目を閉じて衝撃に備えれば、窓が割れていくつかの破片がその肌を傷付けた。

 ユリはそれを意に介さずにリューフィスに近寄ると、怪我が無いかどうか確認する。


「リューちゃん、怪我は……っ」

「……い、いえ……大丈夫です、ありません。私よりも、ユリちゃんが……あっ、顔にも傷が……」

「このくらい平気ですよ。とりあえず、異常事態……ですよね。早く安全な場所に移動しないと……先生に指示を仰げば……」

「……そ、う、ですよね。立てますか、ユリちゃん。手を繋いで……行きましょう」


 ユリが頷き、リューフィスの手を取って立ち上がった。

 そして、どこか安全な場所を求めて走り始めると、脳内に声が響く。


『ユリ、怪我を……! なんで……っ、前に渡したネックレスは……』

『あれなら、付けてないですよ。クーレちゃんのとこに行く時に貰ったやつですよね?』

『なんで!?』

『昨夜、からかわれた羞恥と添い寝の嬉しさで付け忘れて……今も脱衣所にあります。怪我をしてから気付きました』

『ああああああもう……! ……いいや、どうせユリがうっかり魔力込めたりしたせいで深淵魔法が強く絡んでないとまともに効果発揮しないし!! そういうことで納得するから、とにかく走って! 絶対怪我しないで! というかなんでそんなに冷静なの!?』

『何が起こっているのか理解できなさすぎて逆に冷静なだけです。いつパニックになってもおかしくないです』


 ユリが冷静なままそう伝えると、ヴェルディーゼが黙り込んだ。

 何やら考え込んでいそうな雰囲気に、ユリがただ続く言葉を待つ。


『……いや、ダメだ。それはダメ……危険すぎる』

『何がですか?』

『……なんでもない。できるはずのないことを、できるんじゃないかって……考えちゃっただけだよ』

『できるはずの……私を囮にするとか?』

『怖いんだけどなんでわかるの?』

『勘です。今はそれよりも……』

『ああ、うん』


 そう伝えるユリにヴェルディーゼが肯定を示す。

 続く言葉を、早く逃げなければとか、そういう意味合いのものだと推測したからだ。

 ユリの性格からして、危険な場所からはさっさと逃げてしまいたいだろうから。

 しかしユリは、走り続けながら、にっこりと笑顔を浮かべた。

 酷く可愛らしい、それでいて嫌な予感を抱かせるような、そんな笑みを。


『とりあえず、避難を――』

『囮って、具体的にはどうするつもりだったんですか?』

『……え?』

『だから、囮。聞かないとやれません。あと、状況についてもわかっている限りは教えてください』

『……何を言ってるのかな、ユリ』

『何って、だから囮を……』

『思い付いてしまっただけだよ。実行に移すつもりなんて、端から無い』


 酷く冷たい声で、ヴェルディーゼが言った。

 低い声にユリのリューフィスと繋いだ手に力が籠もり、その唇が震える。

 その表情が強張り、ユリが目を伏せる。

 数秒ほどしてからユリはそっと手に籠もった力を緩め、その表情を和らげた。

 そして、申し訳無さそうな表情でヴェルディーゼと会話する。


『……すみません。一秒でも早く、この状況をどうにかしないとって……気持ちが逸っちゃって』

『……いや……うん、焦ってるのはわかってるつもりだったんだけど……怖がらせてごめんね。あんな冷たくて低い声なんか出して威圧して……怖かったでしょ』

『い、いえいえ……どんな主様も主様なので。それはそうとっ……じょ、状況ですよ、状況! ほら、教えてください!』

『そうだね、えーっと……簡潔に言うと、例のイベントが発生してる。魔物による襲撃だね。ただ、さっきユリを襲ったのは、明らかに――』

『わかりました! 避難できそうな場所ってありますか?』

『……ユリ。わかってないはずないでしょ。既にいくらかは教師に誘導されて避難所にいるけど……いるから、こそ』


 ヴェルディーゼの言葉にユリが唇を噛んだ。

 指摘された通り、わかっているからだ。

 ずっとずっと前からわかっていて、ヴェルディーゼも気付いているはずだった。

 それなのに何も言わないでくれたのは、ユリの気持ちを尊重してくれていたからで。

 酷く苦々しい声をしているのは、今も尊重してあげたいと、そう思ってくれているからだ。

 それがよくわかってしまうから、ユリは強く強くリューフィスの手を握り締めた。


『その()()()を、避難所に連れて行っちゃ……ダメ』

『……ッ』


 ユリが、足を止めた。

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