話と同郷のよしみ
数秒間だけ黙り込み、ユリがヴェルディーゼに命令で強制的に落ち着かされた。
ユリが怪しまれるのは、まずい。
パニックになって黙り込んでしまっているので、怪しまれてしまうだろうと命令をしたのだ。
まぁ、自分から正体を明かしたところで多少は疑われるだろうが、黙ってその場を去ってしまったりするよりはマシである。
ヴェルディーゼに姿を見せるよう指示されたユリは、命令によって冷静になった頭で言い訳を考えつつ遠慮がちに顔を覗かせる。
「……ユリ、ちゃん? なんで……ここに……」
ラーニャが酷い顔をしながらそう呟くと、ユリはゆっくりと息を吐き、頭を下げた。
しっかりと頭が回っていることが確認できたからか、ヴェルディーゼが繋いでいた念話がぷつんと途切れる。
それに内心不安を感じつつも、ユリが頭を下げたまま口を開いた。
「すみません。盗み聞きをするつもりは……なかったんですけど。その……ラーニャ先輩が……えっと……珍しい感じに……なっていたので。声を掛けづらくて……私、ネリル先輩に言われてラーニャ先輩を探していたんです。それで、ようやく見つけたと思ったらあんな状況で、その……」
「……ううん。悪気は無かったんだもん、ね。私こそ……こんな情けないところを見せて、ごめんなさい」
「いいんです。……その……王子殿下。ラーニャ先輩もですけど……他言はしませんから! ……あ、いや、ネリル先輩には一部話すかも……」
「ああ……ネリルには構わないよ。ネリルとは幼馴染だし、色々と共有しているからね。ただ、ラーニャのさっきの姿は、なるべくぼかして伝えてほしい。いいだろうか?」
「はいっ! 構わないなんて言われても、不安で不安で何もかもを話せたりなんかしないですし。ラーニャ先輩のあれを私の口から話すのは、気が引けますし。だから、安心してください。……それから、改めて……ごめんなさい」
「いや。僕も、すまないね。いきなり大声なんて出して……怖かっただろう?」
苦笑い気味にアレクシスが言うと、ユリが目を逸らした。
アレクシスの怒鳴るような誰だという声にパニックになったのは事実だが、流石にそれを普通に伝えられるほど肝が座ってはいない。
というわけで困った顔をして曖昧に微笑み、ユリが咳払いをした。
「と、とにかく……怪しまれるような行動をして、申し訳ございませんでした。……ラーニャ先輩、大丈夫ですか?」
「え? な、何が……?」
「まだ泣き止めませんか? ……その、殿下。ラーニャ先輩に……近付いても……?」
「ああ、どうぞ」
まだ涙を流しているラーニャを心配そうに見つめながら念の為にアレクシスに許可を取り、ユリがラーニャに駆け寄った。
そして懐からハンカチを取り出すと、そっとラーニャの目元に当てる。
「あ、ごめ……すぐ、すぐに、止めるから……」
「いいんですよ。……あ、こら、擦ると赤くなっちゃうのでダメです。ラーニャ先輩、何があったのかは知りませんけど……ネリル先輩がすごく心配そうにしていましたよ。今日も、だから話をしようと思って探していたみたいなんです。話せることなら話してみたらどうです?」
「でも……」
「どうしても嫌ならそれでもいいとは思いますけど……迷惑を掛けるんじゃないかって思って言い辛いだけなら、話してみてもいいと思います。あくまでもただの提案ですけどね。でも、私にできることなら手伝います。……だって」
そこでユリが一度言葉を区切り、ラーニャの耳元に口を寄せた。
そして、優しい声で囁く。
「同郷のよしみ、ですからね? ……大好きな先輩でもありますし」
「……うん。ありがとう……」
「ハンカチ、しばらく目に当てておいてください。ネリル先輩には、えっと……どう言いましょう?」
「……呼んできて、いいよ……?」
「そ、そうですか? ……じゃあ、呼んできますね!」
ユリがそう言って気合を入れ、ネリルの元に走っていった。
とはいえ居場所は知らないので、ユリがあっちこっちを走り回る。
「……ッいたぁ!」
「ひゃっ、な、なに!? ユリちゃん!?」
「ネリル先輩! ラーニャ先輩がいましたよ!」
「えっ、本当!? どこ!?」
「こっちです! ……ネリル先輩、ラーニャ先輩が話を始めたら、ちゃんと聞いてあげてくださいねっ」
ユリがそう言ってからくるりと後ろを向き、ネリルの手を引いてラーニャの元へと連れて行った。
三回ほど迷って、結局ヴェルディーゼに念話で案内をされながら。




