定期試験の結果と魔女信仰
そうして、なんやかんやで時は過ぎ、秋頃。
その日もユリは今や親友とすら呼べるほど親しくなった友達であるメルールとリューフィスとともに廊下を歩いていた。
別の教室に授業を受けに行くので、いつも途中まで一緒に向かっているのである。
もちろん、同じ教室の時は一緒に行っているし、なるべく隣同士に座って授業を受けている。
「二人とも。最近、少し治安が悪いというか……騒ぎが多発していますよね。学園の周囲は比較的安全なようですが……二人の家はどうですか? 危なかったりは……?」
「ああ、何か聞きますよね。眉唾物ですけど、悪の勢力が〜とか、邪竜が〜とか、そんな話。実際に変なのが増えてはいるらしいですけど……私の方は特に何も無いですね。メルちゃんは?」
「えっとね……私はあんまり詳しくないんだけど、兄様がぼやいてたよ。急に街に魔物が現れたり、魔女信仰が流行り始めたり。あまりにも多いから対処が追い付かなくて、兄様が支援しに行ったんだ。危ない目に遭わないといいんだけど……」
「…………そうですか。えと……ルシオン様のためにできることは少ないですけど……何事もなく帰ってこれますようにって祈っておきますね!」
「ありがとう、ユリ! 兄様、きっと知ったら喜ぶよ。ユリのこと、凄く気に入ってたから」
メルールの発言に、ただでさえ止まりかけていたユリの頭が完全に停止した。
そもそもルシオンが実家の方へと駆り出されたのは、イベントを阻止すると言っていたヴェルディーゼの仕業だろう。
それを察してユリの頭はどうにか怪しまれない反応をと焦りで白くなりかけながら必死になって回転していたわけだが、ここで新事実を詰め込まれて停止してしまったのである。
ギリギリ怪しまれてはいなさそうなので、そこは一安心だが。
「……き、気に入ってるって……? ルシオン様が? なんで……?」
「ほら、この前、定期試験の結果と順位が張り出されてたでしょ?」
「え、あ、はい、そうですね……」
「兄様、私の結果を確認するために一年生の分も見に来てたみたいなんだけど……ユリがほぼ全部の科目で十位以内に入ってたから、将来雇いたいって会う度に言っててね。ラーニャ先輩ももううんざりって言ってたよ!」
「……あ゛!? ……あっ、ああ〜……え〜……や〜……確かに十位以内でしたね……ほぼ全部……」
「歴史だけ十一位だったんですよね。本当に凄い……」
「…………うぐぅ……」
唸り声を上げて、ユリが顔を覆った。
先月のことである。
定期試験があると言われ、ユリは自信が無い部分だけ軽く確認をし、ほぼノー勉の状態で試験に臨んだ。
成績に興味は無いし、あまり目立つとヴェルディーゼが良い顔をしないからである。
万が一モテたりしたらヴェルディーゼがとても嫌そうな顔になってしまうので。
しかし、結果として、一つを除いた全教科で十位以内を取ってしまったのである。
取れて、しまったのだ。
そもそも、この学園はこの世界では最先端ではあるが、ユリが暮らしていた地球に比べれば、やはり学問の方も数段劣っている。
自然と内容も簡単になっていたりするわけで、難関と呼ばれる高校の入学試験で拍子抜けした経験すらあるユリにとっては簡単過ぎたらしい。
「そんなつもりじゃなかっ……これ言うと頑張った人に失礼ですね。えーと……こほんっ、それより……メルちゃんのとこ、大丈夫なんですか? 何か変なのがいっぱい湧いてるんでしょう?」
「魔物は、戦力が足りてるから大丈夫なんだって。ただ、厄介なのは魔女信仰の人達で……あちこちで問題を起こすんだけど、魔物と違ってどうにかするのにも手加減が必要だから、ちょっと上手く行ってないんだって。兄様は人材を上手く配置するのが上手だから呼ばれたみたい。あの宗教の拠点も探さないといけないしね」
「へぇ〜……うーん、大丈夫だとは思うんですけど、やっぱりちょっと心配ですね」
「はい。変に恨まれたりしないといいのですが」
「あはは……っと、リューはあっちだよね? 私たちはこっちだから、ここで分かれないとだね」
「あ……本当ですね、いつの間にこんなところまで……それでは、メルールちゃん、ユリちゃん、また後で」
一人別の教室の方へと向かうリューフィスに手を振り、メルールが息を吐いた。
そして、ぐでりとユリの方に体重を預けると、ユリの背中に額を押し付ける。
「わわわっ、なんですか!? メルちゃん!? あのっ……ま、前髪が崩れちゃいますよ!」
「うー……心細いよぉ。ユリぃ、慰めて……」
「え、ええっ? リューちゃんの方が母性に溢れてると思うんですけど……いや、もう行っちゃったけど……もっと早く甘えても良かったんじゃ?」
「だって、リューの方が教室遠いし! すぐに分かれちゃうから! あとねあとね、この前甘えに行ったら風の魔法で頭撫でられたんだよ!? 嬉しくないわけじゃないけど、体温感じないと物足りないぃ〜」
「それは……うーん。……手の届く距離にいて、手が空いていないわけでもないなら……ちょっと嫌、かも?」
「でしょ!? ダメじゃないけど寂しいよね!?」
とにかく慰めて、とメルールが騒ぐので、とりあえずユリがメルールを背中から引き剥がしつつその頭を撫でた。
元気そうに振る舞っていても、学園から離れてしまった兄のことが心配で仕方がないらしい。
「大丈夫です。メルちゃんのお兄様は必ず帰ってきますからね。だから、ここで帰りを待ちましょう」
「……うん……うぅ、ユリぃ……」
「ほら、泣かないでください。もうすぐ教室に着いちゃいますよ」
「泣いてないもん……」
ユリが苦笑いを零し、メルールが落ち着くまで優しくその頭を撫で続けた。




