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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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説明とどうして

「ただいまです主様説明を求めます!!」

「うーん、相変わらず唐突だね。紅茶飲む?」

「わぁい、主様が淹れてくれる紅茶だぁ。いつもは私が淹れますからね」


 寮の扉を開け放ち、自分の部屋に入ったユリが叫んだ。

 ヴェルディーゼによって遮音が張ってあるのは入る前から気付いていたので、初っ端から説明を求めるために叫んだのだ。


「はい、まだ少し熱いからゆっくり飲んでね。……それで、説明……ね」

「ですです。説明を求めます! 説明義務を! 果たせェ!」

「……説明義務、ね。果たして僕にそんなものはあるのかな? 主が従順な配下にすべてを説明する必要は無いと思うけど」

「おっと口調と言ってることと雰囲気がおかしい。うーん……普段の主様、基本的に私に甘いから、そんなこと言わないのに……もしかして、何か怒らせた……? え、ど、どうしよう……」

「……」

「あ、ちょっと罪悪感に苛まれてそうな顔した……良かったぁ、猛烈に怒らせたわけじゃなかったんですね」


 ほんの少しだけユリが心配そうな表情を見せると、ヴェルディーゼが一瞬その表情を変えた。

 それは罪悪感に苛まれているようなもので、ユリが怒らせたわけではなかったらしいと安堵の息を吐く。

 何か理由があるのであれば、ユリもこのヴェルディーゼのことを安心して受け入れることができる。


「うーん……う〜……んんん……頭撫でます?」

「撫でる。……あっ」

「うへへへ、逃がしませんよぉ。さぁ撫でてください! 可愛い可愛い恋人兼眷属のお願いですよぉ! ……まさかこんな手に引っかかるとは思ってませんでしたけど」

「う……ぐぐ……」

「……撫でてくれないんですか?」

「撫でる」


 ヴェルディーゼはちょろかった。

 その頭に手を置いたはいいが正気を取り戻し、離そうとするもきゅっとその手を掴まれては強引に手を振り払うのも躊躇い。

 ユリに上目遣いで首を傾げながら甘えるような声で再度撫でないのか尋ねられれば、ついに陥落してしまった。

 諦めたようにぐでりと肩から力を抜き、ゆっくりとユリを引き寄せて膝に乗せる。


「……それで、()()の説明が聞きたいの?」

「んー、どれって言われると……全部、ですかね? 学校で姿を見かけることが減った割には毎日この部屋にいますし……というか、私が帰ってくる前からいること自体がおかしくないです? 聞けば、選択授業の方でも別の先生が担当することが多くなったらしいですし。あと特定のことを聞こうとすると眠らされたり記憶消されたりするのもそうですし」

「なんで当たり前のように記憶を消されたことを認識してるの……? ユリは深淵魔法しか使えないはずだし、ユリを守るためのそのネックレスだって、僕の魔法には一切抵抗しないのに」

「不自然な記憶で補完されてるからですね。補完こそされていますけど、内容が杜撰です」

「……えぇ……」


 引き気味にヴェルディーゼが声を漏らした。

 それに少しだけ悲しそうな顔をしつつ、ユリがヴェルディーゼの手を取る。

 特に異変は無いが、ユリに言わずに何かしらの行動を行っているのは確かだ。


「……どうして、話してくれないんですか? 私に手伝えないことなら、それは……仕方がないって、諦められますけど。でも、何も知らないまま、全部全部終わっちゃうのは……嫌です。手伝えなくても、主様を癒やすことくらいなら、きっと……それなのに、どうして話してくれないんですか? どうして……頑なに、教えてくれないんですか。そんな、強引なことまでして……どうして」

「……」

「酷いことをしているからですか? 危ないことをしているからですか? ……私を、関わらせたくないからですか」

「……」

「答えて……ください。どうして答えてくれないんですか。どうして。何をしてても怒りませんから。主様がどれだけ非道なことをしていても、私は、教えてくれてありがとうございますって……お礼しか言わないって、約束しますから。私が関わるのが嫌なら、関わらないって約束します。だから……お願いです。お願いだから……」


 黙り込んでいたヴェルディーゼが、ふとユリの額に触れた。

 少しの間目を伏せて考え込み、緩く笑みを浮かべて、ヴェルディーゼが問う。


「……今日、誰に会ったの?」

「そんなのっ、今は――」

「話せないの? 疚しいことがある?」

「……っ……メルちゃんの、お兄様と……軽い挨拶を。あのメルちゃんの家からの警告の謝罪とか、どうにかしたって話とか。ただ、それだけです。はい、話しました。これでいいですか?」

「……そう。そっか。……なんでそうピンポイントに……」

「な、なんですか……? メルちゃんのお兄様が何かに関係してるんですか?」


 とても嫌そうにヴェルディーゼが呟くと、ユリが不安そうにしながら首を傾げた。

 そうして案じるのは、メルールのことである。

 ルシオンが悪人だとしても、あるいは何かに巻き込まれてしまうのだとしても。

 メルールがそれをとても気に病むということは、これまで接してきた経験から簡単に推察できるから。


「……彼自身は悪人でもなんでもない、ただ妹を溺愛する善人だよ」

「え、あ、はい」

「優秀でもある。ただ……戦闘はからっきし。この世界でどうなるかはわからないけど、少なくとも原作では……誰を攻略するかによって変わってくるけど、昏睡状態になって目覚めないというストーリーが、確かに存在する」

「え……だ、ダメじゃないですか! 守らないと!」

「はぁ……だから嫌だったんだ。本当に戦うとは思ってないけど……とはいえ、急にそんな場面に遭遇して変に庇おうとされるのも面倒だし……」

「それはいつ起きるんですか! 対策しないと!」

「……落ち着け。別にすぐにどうこうってわけじゃないから」

「で、でも……」

「大丈夫だから、ほら」


 ヴェルディーゼが腕を広げると、ユリがゆっくりと歩み寄り、抱きついた。

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