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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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ラーニャと相思相愛

 それからしばらく、ユリは平穏な日々を過ごしていた。

 ヴェルディーゼからは原作において二年目は騒ぎなんかが起こり始めるから、心の準備はしておくよう普段から言われているのだが、今のところはそんな雰囲気はない。

 しかし現在、ユリは何やら絡まれていた。


「……えっと、その」

「……」

「あの……せ、先輩、ですよね? 用事があるのなら、言ってくれないとわからないんですが……」

「……」

「……うぅ。黙らないでぇ……」


 肩辺りまである、ピンク色の髪。

 丸い水色の瞳は可愛らしく、しかしじぃっとユリを捉えて離さない。

 彼女の名を、ユリは知っている。

 ラーニャ・ラシェト。

 この世界に転生してきた少女であり、今現在世界が危機に陥ろうとしている原因だ。

 もっとも、ヴェルディーゼ曰く原作知識もなく悪意があるわけではないので、彼女が悪いとも言い切れないそうだが。

 原作ヒロイン(主人公)であるネリルはとても美しい容姿をしているが、彼女はその対極――可愛いと評することができるだろう。

 ユリとしては、正直、ネリルと仲良くしてもらい、壁になって見守りたいと思うくらいには整った容姿をしている。

 真反対な性質の美少女二人が仲良くしている様子は最高だとユリは思っているので。


「……じぃ」

「あ、声かわいい……じゃなくて。あの、先輩? せめて……そう、先ずはお名前を……」

「……あ……そうだったね。私はラーニャ・ラシェト。二年生です。よろしくね、〝ユリちゃん〟」

「わ、私の名前、ご存知なんですか」

「うん。……あなたの担任の先生に、聞いたから」

「え、あ、はい、そうですか。……それで、その……?」

「……じぃ」

「ま、またそれですか」


 困り顔のままユリがラーニャを見た。

 何やら気になることがあるらしく、ラーニャはじぃっとユリを見つめたまま何も言ってくれない。

 そんなわけでユリが何もできずに固まっていると、奥から人が歩いてきた。


「……あれ、ラーニャちゃんに……ユリちゃん? 珍しい組み合わせですね」

「ネリルおねえさ……せんぱぁい。助けてください……清廉なお姉様モードなネリル先輩なら……」

「ええと……別に、お姉様モードなんてものではないのですが。それで、お二人は何をしておられたのですか?」

「そ、それがですね……ラーニャ先輩、私に用事があるらしいんですけど……用件を言ってくれなくて」

「まぁ、用件を? ラーニャちゃん、言いづらいことなら私が代わりに伝えますが……」

「……ううん、大丈夫です。ごめんね、ユリちゃん。ちょっと気になることがあったから……そっちを優先しちゃった。許してくれる?」

「用件によります」


 可愛らしく首を傾げるラーニャにユリがそう答えると、ラーニャは気にした様子もなく頷いた。

 そして、少し不安げに、そして疑念の籠もった表情をしながらユリがラーニャを見つめていると、ラーニャはとても不思議そうな顔で言った。


「ユリちゃんって、ヴェルディーゼ先生と相思相愛なの?」

「……ふみ゛ぃ゛っ!?」


 ぴょん、とユリが飛び上がった。

 驚愕するように目を見開き、口をぱくぱくと開閉させて、ユリが言葉を失くす。

 見守っていたネリルも目を丸くしてユリを見つめていた。

 両思いは、事実である。

 そもそも二人は恋仲なのだから。

 しかし、そんなことを認めるわけにもいかず、ユリは目をぐるぐると回しながら弁明する。


「いやっ……いやいやいや! そっそんなわけないじゃないですか、急に何を言ってるんです!?」

「……相思相愛なんだ。ふぅん……んー、じゃあ私はあんまり近付かない方がいいかな……」

「……はい? 近付く? な、何の話ですか?」

「恋愛感情は無いんだけど、あの先生、私達と歳が近いでしょ? だから、仲良くなりたいなって思ってたんだけど……相思相愛の二人の間に入るわけにはいかない。ヴェルディーゼ先生は凄く楽しそうにユリちゃんの話をするから、ユリちゃんの方にも話を聞きに来たんだけど……うん。私は応援してるよ、頑張ってね。相思相愛だから!」

「いっやっそのっ、別にあの人が好きとか、そんなんじゃ……」

「じゃあ、またね!」


 ユリの話を聞かず、ラーニャが手を振って去っていってしまった。

 伸ばしかけた手を引っ込め、ユリがなんとも言えない表情でネリルを見上げる。

 頬を赤くしながら見上げてくるユリが可愛かったので、ネリルがその頭を撫でた。


「……ほわあ。落ち着くぅ……」

「ふふ、災難だったね。ラーニャちゃん、気まぐれというか……ちょっと、人の話を聞かないところがあるんだ。悪い子じゃ、ないんだけど……」

「悪人じゃないのはわかりますけど……い、一方的にぃっ、私がっ……先生のことを好きとか! ね、根も葉もないこと言わないでほしいですよ!」

「…………うん。そうだね」


 赤く染まった頬と必死な様子でバレバレなのだが、ユリはそれに気付かずになんとか誤魔化せたと内心で汗を拭った。

 そして咳払いをすると、ネリルに向き合って尋ねる。


「それで、ラーニャ先輩とはどんな関係なんです? ネリル先輩と同じクラスとか?」

「それもあるんだけど……彼女、私の家の分家の出でね。トラブルメーカーなところもある子だから、ちょっと気にかけてるんだ」

「はぇー、分家……公爵令嬢ですもんね、ネリル先輩。そりゃありますよね」

「うん。その……嫌わないであげてね。たぶん、今度話を聞かなかったことを謝りに来ると思うから。って、あ……」

「は、はい! 私とあるっ……先生がそんな関係だなんて! そんな荒唐無稽なお話っ、あるわけないですし!?」

「……ふーん」


 背後から掛かった低い声にユリがバッと振り返った。

 そこにはヴェルディーゼが立っていて、意味深に微笑んでいた。


「……何の話してたの?」

「ぁえあっ、いいいいいいやぁっなんでもないですぅうっさようならぁあああああああ!!」

「あっ、ユリちゃん待って!」


 ユリが顔を真っ赤にし、くるりと後ろを向いて全速力で逃走を開始した。

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