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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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自由活動と出自

 紙を見下ろしながら、ユリがとことこと廊下を歩く。

 目指すは、植物栽培を行っているサークルである。


「ユリさん。あなたは、選択授業は何にしたんですか?」

「刺繍と作法です。リューちゃんは?」

「私は、ユリさんと同じく刺繍と、それから魔法を学ぶことにしました。自衛は大切ですし、魔法はそれ以外にも色々と便利ですからね」

「わあっ、リューちゃんも刺繍を選んだんですね! じゃあ、一緒に学びましょうね!」


 リューちゃん――リューフィス・ラフェルト。

 ユリの友達の伯爵令嬢である。

 リューフィスは伯爵令嬢にしてはかなり緩い性格をしており、貴族としての振る舞いなどできるわけもないユリと気が合ったのだ。

 リューちゃんというあだ名も、リューフィスの方から言い出したもので、ユリは喜んでその名前でリューフィスを呼んでいる。


「あ、それと。ユリさんは、自由活動はお決まりですか?」

「自由活動……あ、そっか、サークルは主様がわかりやすいように言い換えたものだから……」


 そういえばサークルは正式名称ではなかったな、とユリがぼそりと呟いた。

 正式名称はサークルではなく自由活動だったらしい。

 それなら別にサークル活動が近いとだけ言って自由活動が正式名称だと教えてくれればいいのに、とユリは思わないでもなかったが、わかりやすいようにしてくれていたのはわかっているので苦笑いする。

 念話の方に集中していてまともに聞いてはいなかったが、ヴェルディーゼの口からそんな言葉を聞いた覚えはあるし、紙にも書いてあるのに把握していなかったユリもユリだが。


「ユリさん?」

「なんでもありません! 候補はいくつかありますけど、まだ決めてはいないんです。リューちゃんは?」

「私も決まっていないので、よければ一緒に見学をしたいと思って……どうでしょう? 見学、一緒にしませんか?」

「あ、いいですね! そうしましょっか! リューちゃんはなにか気になるものはありますか?」

「そうですね……お菓子作りをメインに据えている活動がありますから、とりあえずそこは見てみたいと思っています。ユリさんはどうですか?」

「植物栽培に興味があります!」


 二人が自分が興味を持っている自由活動について話し合い、いつどこに見学に行くか相談して決めていく。

 そうしながら廊下を歩いていると、目の前から声が掛かった。

 夢中になって話をしていて、紙とお互いばかりを見つめていた二人が顔を上げる。

 するとそこには、自らの担任であるヴェルディーゼがいた。


「……あ、……先生」


 ユリが少しだけ照れた様子を見せながら口にすると、ヴェルディーゼが小さく笑った。

 そして、ゆっくりと二人に近付いていくと、苦笑いしながら少し咎めるような声で言う。


「えー……っと。ラフェルトさんと……〝ガーデラ〟さん、だったね。仲良く話してたみたいだけど……あんまり話し込みすぎないように。ちゃんと前は見て歩くんだよ。危ないからね」

「はい、先生。つい夢中になってしまっていました……声を掛けてくださり、ありがとうございます」


 リューフィスが微笑みながら礼をし、ヴェルディーゼに感謝の言葉を告げた。

 それにヴェルディーゼは別に構わないと言わんばかりに首を横に振ってユリを見る。

 〝ガーデラ〟とは、ユリの家名である。

 厳密に言えば、この国における創世神の家の名前で、そこの家の出ということになっているユリは〝ユリ・ガーデラ〟と名乗っているのだ。


「その、先生……ごめんなさい、前を見ずに歩いていて……危ないですよね。不注意でした」

「いや。新しい友達もできて、浮かれる気持ちもわかる。その程度で咎めたりはしないよ。ただ、気を付けてね。それじゃあまた、ガーデラさん、ラフェルトさん。仲良くね」


 ひらりと手を振り、ヴェルディーゼが歩き去っていった。

 その後ろ姿をぽーっと見つめるユリを、リューフィスがにまにまと眺める。

 つん、とその肩をそっとつつけば、びくぅっとユリが過剰たほどに肩を跳ねさせた。


「ひゃみゅっ……!?」

「……ユリさん。好きなんですか、先生のこと。一目惚れでしょうか?」

「え、ぅええっ!? い、いや、や、そんなこと、ないです……ケド……」

「ふふ、わかりやすい人ですね。でも確かに、先生は見目麗しい方ですよね。これまで名が知れていなかったのが不思議なくらい。例え庶民であろうと、あれほどの容姿の持ち主なら、少しくらい貴族の間でも話題になってもおかしくないはずなのですが……」

「……あ……えっ、と……」


 どうにか誤魔化さなければと、ユリが言葉を探す。

 しかし、自分の恋心がリューフィスにバレているらしいとはいえ、変に庇えば怪しまれてしまうだろう。

 なので、ユリはリューフィスの言葉に興味が出たよう振る舞いながら、何も知らないふりをして、推測のように口にした。


「そうなんですね! じゃあ……今まではその容姿を隠していた、とかどうでしょう! お化粧……は、難しいでしょうか。仮面とか……?」

「なるほど、仮面……いえ、目立ってしまいますね。であれば……どなたかの隠し子……? 隠されながら育った……?」

「わぁ……!!」


 ユリが興奮した様子を見せ、ヴェルディーゼの出自の秘密を推測、もとい妄想し倒すのだった。

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