イメージトレーニングと羞恥爆発
「ふひゅ、くふっ。くひひひひひ……!」
屋敷の中で、ユリが不気味な笑い声を上げながらヴェルディーゼに膝枕をされていた。
ゆっくりと髪を撫でられると、ユリは手足をバタつかせて嬉しそうに笑う。
やはり、不気味としか言いようのない笑い声も付いてくるが。
「……その笑い声、どうにかならないの……?」
「なりません! 嬉しくってつい、んひゅふふふ!」
「……今のは幾分かマシだけど……はぁ、なんでそんな笑い声を……」
「それよりも主様ぁ、件の転生者とかこの世界の情報とか、共有しておくべきことはもうないんですか?」
「んー……ああ、原作主人公たちはもう既に入学してるから、ユリが入学するのはあれらが二年生になってから。騒動に巻き込まれると思うよ。……戦えるようになってくれれば……安心なんだけどなぁ」
「へひ……た、たた、試しますか……?」
ぷるぷると震えながらすっとユリが鎌を構えた。
ちなみにこの鎌は、その場で出す際は深淵を固めることで作り出しており、ヴェルディーゼがいる場合はヴェルディーゼに出してもらったりしている。
ヴェルディーゼが管理しているものの方が頑丈ではあるものの、深淵の方も中々ではあるので大した違いはないのだが。
「……顔色が悪くなるくらいなんだから、強要はしないよ。数百年経てば嫌でもやれるようになるだろうし」
「怖いこと言わないでください。……数百年、数百年かぁ。……神様に寿命、無いですもんねぇ」
「無いね」
「……主様って何歳なんです?」
「さぁ……僕は空白期間もあるし、どうだろうな。そもそも異世界を飛び回ってるから、時空の歪みだってあるし……正確な年齢は、正直……調べようがないかもね」
「はぇー……え? 空白期間?」
「……なんでもない」
ヴェルディーゼが苦虫を噛み潰したような顔でそう言ってユリの目を覆った。
あまり追及されたくなさそうなので、ユリが少し考えたあとに話題を変えようと口を開いた。
それを追及しようとしていると受け取ったのか、ヴェルディーゼがすっとユリの口も塞ぐ。
「んむぐっ! は、離ひてくらひゃ〜いぃ」
「嫌。追及しないで。話すの嫌なんだよ」
「ひまひぇんからぁ〜」
「……わかった」
ヴェルディーゼがゆっくりとユリの口を解放した。
するのユリはバッと身体を起こし、ヴェルディーゼを抱き締める。
「うわ筋肉……じゃなくて、主様。追及されたくないからって口を塞ぐのは酷いですよ。私、そんなつもりなかったのに。唐突に口を塞がれるのはびっくりするんですからね!」
「……ご、ごめん」
「うへへへ、さぁ甘やかしを続行してくださいっ。そうしてくれたら忘れますから!」
「……真面目な話もしたいんだけどね。僕も癒やされるから否はないけど……」
ぱたぱた、ぱたぱたとユリが嬉しそうに足をバタつかせる。
今度は膝枕状態ではなく、ヴェルディーゼの膝に座ってその胸板に背中を預ける形になっていた。
膝枕をされるのも幸せだが、別の体勢で別の幸せを味わいたいのである。
「……どうして、やれないんだろうな」
「んぅ……戦闘のことですかー……?」
「あ、ごめんね。……ただ、うん。僕は当たり前のようにできるから……できちゃうから、どうしても不思議で。自分の、あるいは……誰かの身を守るために戦うのに、それを躊躇うなんて……したことがないから」
「んんー……わからないから、わからないなりに強要はしないようにしてくれているんでしょう……? なら、私はそれで満足です。そもそも、付いていくって言っておきながら、自分の身を自分で守ることもできていないのが現状ですし。私にどうこう言う権利は無いです」
「僕もユリが努力してるのは知ってるよ。夜な夜な起きて、目の前に敵がいるのを想像して、敵に傷を付けようとしてるのは」
ぽんぽんとヴェルディーゼがユリの頭を撫でながら言うと、その頬が真っ赤に染まった。
その特訓をヴェルディーゼに知られているとは思っていなかったらしい。
顔を手で覆い、指の隙間からユリがじとりとヴェルディーゼを睨む。
「……何で、私のイメージトレーニングの内容を把握してるんですか」
「読心。気配にはそれなりに敏感だから、ユリが動いたら大体起きるし。……イメージでしかないのに、その時に抱いた恐怖も……知ってるよ。読んでたから」
「ふぐぐぐぐ、優しい目に羞恥心とちっぽけなプライドがゴリゴリと削られていくぅ……嫌ぁ……」
「ちっぽけなプライド?」
「知られたくなかったんですぅ! 知られたいわけないじゃないですかそんなのー! 私のイメージトレーニングで頑張って主様をびっくりさせちゃおう大作戦がぁ……」
長い上にちょっとした捻りすらないそのままでしかない作戦名にヴェルディーゼが苦笑いした。
作戦名でふざける余裕があるならば、その羞恥も大したものではない。
少しばかりからかったところで羞恥が爆発して発狂することもないだろう。
というわけで、ヴェルディーゼがユリの顎に手を添えて強引に上を見させる。
そこには当然、ヴェルディーゼの顔があった。
ぽっとユリの頬が赤く染まると、ヴェルディーゼが目を細め、もっと可愛い反応をしてくれそうな方へと方針転換する。
「健気だね、本当に。……ユリはよく夜に目を覚まして、何かしらしてるよね。……何かしら。ベッドの中で」
「ばっ! か、からかわれるとは思ってましたけど、からかいの方向性がぁ!? だだだだダメですよ! というか、変なことはしてませんし! ちょ、ちょぉ〜っとだけ、そのぉ……」
「僕の服に顔を擦り付けてる?」
「ぎにゃー!!」
ユリは羞恥で爆発した。




