再びの嫉妬、脇道に逸れる話題
「これは何の嫌がらせ?」
ユリが食事を用意し、机に配膳されたものを見たヴェルディーゼが開口一番にそう言った。
そう言いたくもなるだろう、何せ配膳されたメニューが、ポテトサラダ(なめらかじゃがいも)、ポテトサラダ(ゴロゴロじゃがいも)、じゃがいもたっぷりのポトフ、肉じゃが、美味しそうなステーキとその付け合わせのマッシュポテト、などなど。
とにかくじゃがいもが大量に使われていたのだから。
「……じゃがいもが、安かったからぁ……ぐすっ」
「だからってここまでじゃがいも尽くしにしなくても。……あと、いい加減泣き止んだら……? 膝来る?」
「大丈夫でず……ご飯食べないと、なので……」
「……じゃがいもは嫌いではないけど、毎日こんな感じのメニューだと飽きて食べられなくなりそうだから、加減してね……」
「有り余ったじゃがいもは、ご近所さんに譲ります……うぅ。……ん、んん……っ、もう、大丈夫、です。……ふー……主様略奪の可能性から……ようやく、逃げられました……嫌な未来を想像しては、底無し沼に引き摺り込まれていたので……」
「……で、なんでこんなにじゃがいもを?」
「一箱十ゴールドだったんです。なので買ったら、想像の三倍くらいの量があったんです。私は悪くないっ」
ぶんぶんぶんっ、とユリが勢いよく首を横に振った。
別に買う前に量を確認できなかったわけでもないので、もちろんユリが悪い。
ちなみに、食パン一斤で二十ゴールドほどの値段である。
確かに、とても安くはあるだろう。
「……安くても食べ切れないほど買ったら意味ないけどね……」
「面目ないですぅ……明日はコロッケで、明後日はじゃがいもの煮っ転がしでもいいですか……?」
「……まぁ、それくらいなら……定期的にじゃがいもの無い日も欲しいけど」
「それは、はい……私もそろそろきついのでそうしますけど。……そ、それでその……私が泣き出す前の話の続きをしたいんですけど」
「ああ、そうだったね。まぁ、そう大した話があるわけじゃないけど……」
「……じゃあ、何の話を……?」
「調査報告、かな。あとは改めての学園の説明とか、この世界の現状」
なるほど、とユリが頷き、姿勢を正した。
ヴェルディーゼはポテトサラダを一口食べて、嬉しそうに頬を綻ばせながらユリを見る。
ユリが幸せそうなヴェルディーゼに悶絶して机の上に倒れた。
「先ずは……この世界だけど、乙女ゲームを参考に作られたって説明したよね。まぁ、参考と言ってもほとんどそのままだけど……とにかく、世界はなんというか……原作そのままに進んでる状態だったんだよ」
「過去形ですか、嫌な予感がしますね。……何が起きたんですか?」
「物語がおかしくなることを承知で、創世神はここに転生者を送り込んだんだよ。それによって歯車が壊れて、世界に異変が生じる可能性があったから、その対応のための策も練ってた。その策についてもここに来る前に報告書をもらったけど、うん、不備はそこまで無かったよ。そこの改善策の方も僕から提案した」
「……んー? 嫌な予感は外れた感じがしますけど……」
「けど、彼女を嫌う神が、その転生者に干渉をした。あの子は……」
「あの子?????」
ボソリとユリが圧のある呟きを零した。
彼女、そしてあの子という言葉。
それに黒い感情が吹き出してしまい、ユリはそれに気付いて慌てて口を押さえ、深呼吸を繰り返す。
「す、すみません。頑張って落ち着きます……ちょっと離れてただけでここまで不安定になるとか、やばいよぉ、まずいですよぉ……」
「これくらいの嫉妬は別にいいけど。あの子っていうのは……ほら、前に少しだけ話したでしょ。このくらいの背丈の、一切の攻撃ができない代わりに防衛とかに秀でた子」
ヴェルディーゼがそう言って手で〝あの子〟の身長を見せた。
それは五、六歳程度のもので、ユリはふとクローフィ・ルリジオンでヴェルディーゼが話していた人物のことを思い出す。
ユリと同じような体質の知り合いということでヴェルディーゼが話題に出した人物だ。
その時もユリは嫉妬をしたので、更に申し訳無さそうな顔になる。
「……すみません。同じ人に、二度も……というかここって、知り合いの世界だったんですか」
「うん。ここを貸してくれたのも、そこが大きいんだろうね。荒らしたりしないよう釘を刺されたのも、日頃の行いかなぁ。頑丈だからつい雑に扱って物壊したりしてるし……」
「あ、主様? 何やってるんですか、人の物壊すとか絶対ダメですよ?」
「……でも、僕はあの子の代わりにこの世界が滅ぶのを防いであげようとしてる立場だし?」
「ダメですよ!?」
ニヤニヤと笑いながらの発言にユリが慌ててそう言った。
酷く焦った顔をして、ユリが代わりに謝らなくてはと創世神とコンタクトを取ろうととりあえず祈ってみる。
残念ながら創世神と言葉を交わすことは叶わず、ユリが時間や真剣さが足りないだけかもと祈りを続けていると、ヴェルディーゼが降参と言わんばかりに手を上げた。
「冗談。物を壊したことがあるのは事実だけど、だからって雑に扱おうとも思ってないから。……あれも、丁寧に調べてたのにうっかりやっちゃっただけだし」
「壊したのはマジなんですね!? わざととか雑に扱ったわけではないからまぁ全然マシでしょうけど!」
「謝ったし直したよ。いい子だしね、あの子。そのうちユリにも紹介したいな」
「お、おぉ……んん……えと、待ってます。……あれ、何の話だったっけ?」
ユリが首を傾げて呟いた。




