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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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拷問とちゃんと

 数時間後、ユリが冷たい感触に目を冷ます。

 少し寝惚けながら身体を起こせば、じゃらりと鎖の音がした。


「ん、んん……冷た……? ……え、鎖……あ……そ、そうだ、私……誘拐、されて……」


 ひゅ、とユリが引き攣った息を漏らした。

 鎖を見つめ、ユリがパニックになって固まっていると奥からガチャリと扉の音がする。

 そこでようやく、ユリは鎖で拘束されているだけでなく自分が鉄格子に覆われた牢屋の中にいることに気が付いた。


「……起きたか」


 掠れていたが、若い男の声だった。

 当然、知っている声ではない。

 ユリが顔を青くしながら牢屋の中で後退り、壁に背中を付けた。


「……だ……誰、ですか……? ……私を、攫った……人、なんですか」

「そうだ」

「……何の、ために」

「復讐さ。あの男は……いや、そんなことを話している時間はない。あの男の傍にいたからには、何か知っているんだろう? 洗いざらい吐いてもらうぞ。あの男の弱みになり得るもの、弱点の全てを……!」

「わ……私は、何も知らないです……! 主様のことなんか、何も……!」

「……ふん、素直に吐けばいいものを。庇うのはいいが、さっさと吐いた方が身のためだぞ」

「私は本当に……!」


 何も知らないと繰り返すユリを無視し、男が牢屋の中に入ってきた。

 ユリが怯えて逃げようとするが、鎖のせいで距離を取ることも逃げることも叶わず、男に捕まる。


「……嫌……」

「嫌ならさっさと吐くんだな」


 男がそう告げた数分後、悲鳴が牢屋の中に響き渡った。



 数時間後、ユリが牢屋の隅に蹲っていた。

 そのすぐ傍には血溜まりがあり、ユリは今も身体のあちこちから血を流している。

 その瞳に光はなく、視線も動かず、ユリはただ涙を流し続けていた。


「……」


 今はまだ拷問も終わったばかりで、血は止まらず痛みだって収まっていない。

 そんな状況では希望を抱けるはずもなく、ユリはただ牢屋の隅で小さくなりじっと痛みに耐えていた。


「……ぅ、う」


 ユリは時折苦悶の声を漏らすだけで、ピクリとも動かず。

 既に心は折れていたが、提供できる情報は無く痛みに耐えるしかなかった。

 その状況が、余計にユリを追い詰める。

 ユリがふと、小さく腕を動かした。

 そして、爪が無くなり、更には随分と短くなった指を見る。


「…………だれ、か……」


 何度も叫んだせいか、掠れた声でユリが呟いた。

 男は拷問を中断した際、何やら苛立たしげにぶつぶつと何かを呟きながら去っていった。

 何かに邪魔をされてしまったのだろう。

 しかし、男は一度去ったが拷問が終わったわけではない。

 心は折れているし、助かるとも思えない。

 しかし、だからといって拷問の続きを平気で受けられるわけでもなく、ユリは更に涙を流した。


「……たす、けて……くれるって、……いった、のに……」


 今にも消えてしまいそうな、小さくて掠れた声でユリが呟いた。

 その直後、ユリの耳が足音を拾った。

 それは、何の脈絡もなく、すぐ近く――耳元で聞こえた音。


「……うん。だから、ちゃんと助けに来たよ。……遅れて、ごめんね……」

「……え……?」


 ユリがゆっくりと声のした方を見た。

 少し暗い顔のヴェルディーゼを見て、ユリの瞳から更に涙が溢れ出す。


「……あ……」

「……こんな……こんな怪我まで負って……ごめん、ごめんね……すぐに治癒するよ。……治癒程度なら……変質までは、しないはず……」


 ヴェルディーゼがそっとユリの手に自分の手を添えると、そこから優しい光が溢れ出した。

 みるみる内に指が再生していき、爪が伸びて痛みも消える。


「……あ……ある、じ、さま……?」

「うん。助けに来たよ……もう痛くないからね。大丈夫、大丈夫」

「……わ、私……こ、こわかっ……こわ、かった……!」

「うん」

「痛くて、苦しくて、でも、何も知らないから……! そ、それで、助けも、来なくて」

「……遅れてごめんね」

「こわ、かった……う、う……っ、うわぁあああああっ、う、ひぅ、う、うぇえええ……っ」

「よしよし……もう大丈夫だからね。大丈夫、大丈夫……たくさん泣いていいからね」


 ユリがヴェルディーゼに縋り付いて泣き叫べば、ヴェルディーゼはユリの背中を擦って優しく声を掛け続けた。

 しばらく泣いて、ようやく少し落ち着き始めたところでヴェルディーゼがユリを抱え上げる。


「……動いても平気?」

「ん……ぐずっ……ひっ、うう……」

「よしよし。やること済ませたらすぐに帰ろうね。すぐに終わるから。ユリはそのまま、肩に顔埋めてていいからね」

「ふ、うぅっ、ひぐっ……ん……」


 かろうじてユリが返事を返すと、ヴェルディーゼが鉄格子の方へ向かった。

 そして無言で手を翳して鉄格子を消滅させると、そのまま歩いていく。

 少し歩けば扉に辿り着いて、その扉を開くとすぐにユリを攫った男が見えた。

 男は真っ黒で禍々しい鎖に縛られ、喋ることもできないでいる。


「……ふふ」

「ある、じさ……?」

「ああ、大丈夫。障害なく、ちゃんと連れ帰れそうだなぁって思っただけだよ。そのままでいいからね」


 そう言いながらヴェルディーゼがユリの背中を優しく叩いた。

 トン、トン、と優しくリズム良く叩けば、ユリがこくりと小さく頷く。

 それに満足気に笑みを浮かべ、ヴェルディーゼが男に手を翳した。

 男が喚こうとするが、それよりも前にヴェルディーゼが魔法を発動させ、男を消し去る。

 男がいた場所を酷く冷めた表情で一瞥してから、ヴェルディーゼが更に足を進めた。

 少し歩き、このままユリを連れ帰っても問題なさそうだと判断してヴェルディーゼが城に転移する。

 するとそれがわかったのか、ユリがそっと顔を上げた。


「……あ……!」

「帰ってこれたよ。もう大丈夫。……えっと、ユリの部屋はシーツが破れたままで……とてもじゃないけど、眠れるような状態じゃないんだけど」

「……主様の部屋で、いいです……」

「そう? じゃあ僕はソファーで寝ようかな……とりあえず、そっちに転移するね」


 ヴェルディーゼがそう言って自分の部屋に転移した。

 そしてユリをベッドに降ろすと、そっと服に触れて一瞬で服を変える。


「……ネグリジェ?」

「うん、さっきのはその……汚れてたから。にしてもよくネグリジェなんて知ってるね? 日本じゃあんまり聞かないでしょ。……今も着られてるのかな。その辺りは調べたことないけど……まぁ、とにかくユリは馴染みなんてなかったでしょ」

「……ひらひらの、ワンピース型の寝間着みたいなやつ、ですよね……? 可愛い……真っ赤」

「たぶん簡単に言えばそうかな。詳しくは知らないよ、似合いそうだから着せただけ。……ああ、治癒の時に身体も綺麗にしたからね。すぐに寝れるよ。疲れたでしょ、ゆっくり寝てね」

「……はい」


 ユリが少し嬉しそうに笑いながらベッドに寝転がった。

 ヴェルディーゼが少し考え、ソファーに移動しようとするのでユリがその腕を掴む。

 目を丸くしたヴェルディーゼがユリを振り向くと、ユリは恥ずかしそうにしながらじっとヴェルディーゼを見つめていた。


「……どうしたの?」


 ヴェルディーゼが優しい声で尋ねると、ユリが寝転んだままヴェルディーゼの腕にしがみついた。

 顔が赤いので、何かを伝えようとは思っているものの恥ずかしくて口に出せないのだろう。

 それを見つめながら少しの間黙り込み、ヴェルディーゼが微笑んだ。

 そして、扉の方を指差しながら言う。


「わかった。着替えるから、ちょっと向こう向いてて」

「……あ、あの……」

「わかってるから、何も言わなくていいよ。怖いから一緒に寝たいんでしょ。ほら、あっち向いて」

「……ぅ……はい」


 ユリがおずおずと扉の方を向いて目を閉じた。

 少し待つと、ヴェルディーゼがベッドに寝転んでユリを抱き締めてくる。


「……安心できる? 恥ずかしいかな」

「……どっちも、です……うう……」

「そっか。じゃあ、背中向けて寝ようか?」

「……抱き締められてた方が、安心できるので……」

「ならこのままかな? いいよ。安心して寝ていいからね」


 ユリが顔を真っ赤にしながら俯いた。

 そして、おずおずとヴェルディーゼの方を向いて胸板に顔を埋める。


「……うー……」

「どうしたの? その方が安心できる?」

「…………………………おやすみなさいっ……」

「うん、おやすみ」


 羞恥で何も言えず、ユリがおやすみの挨拶をしながらヴェルディーゼにしがみついた。

ちょっと詰め込みすぎたかもしれない……

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