終わりは唐突に
人混みの中を、長い黒髪の少女が歩く。
その歩みは軽快で、上機嫌であることが窺えた。
「んっふっふ……長らく待ったあの漫画の最新巻……! 発売当日に買えてよかったぁ……特典も貰えたし、そっちはしっかり保管して、漫画は家に帰ったらジュースとお菓子装備して読も〜っと……ふふふふふふ……」
少女の名前は小鳥遊結莉。
そう、この物語の主人公である。
「……やっと、見つけたぞ……」
ふらふらと男が歩く。
少女は軽快に、上機嫌に、嬉しそうに、笑顔で歩く。
彼女は漫画で頭がいっぱいで、家に帰ったあとのことしか考えていなかった。
「小鳥遊、結莉。あの家の……」
引き金が、引かれる。
悲鳴、怒号、けれど少女は気付かない。
それほどまでに夢中だったから。
それは運命の分かれ道。
平々凡々、平和で幸せに暮らしていた彼女が。
「……え?」
苦痛の果て、平凡ではなくなる。
「あ、え……? 痛……?」
続けて、銃声が2回。
標的は変わらない。
「……ッッ、あ……」
自分の身体に穴が空き、血が流れるのを見て――結莉は、激痛に襲われた。
叫びたいくらい、叫ばないとやっていられないくらい痛いのに、声が出ない。
少し掠れた、呟きのような声しか出なくて、少しも痛みが紛らわせられない。
結莉が震えながら顔を上げた。
真っ黒な銃口が、こちらを見下ろしている。
「……ぁ、ひゅ……」
バン、バン、バン――等間隔に、無機質に、音がして声は聞こえなくなっていく。
「……ぉ、おかあさ……たす……おと、さ……」
綺麗な黒髪の、怜悧な顔をした大人の男女。
両親が、優しく笑いかけてくる光景をユリが思い出す。
友達と遊びに行ったこと、帰るのが遅くなって心配をかけてしまったこと、学校のテストで良い点数を取りたくて頑張ったこと、好きなゲームを買って徹夜してやって、翌日の授業で眠ってしまって友達に助けを求めたこと。
友達とカフェに行って、好きな漫画やアニメのことで語り合って。
走馬灯と呼ばれるそれが、ユリの頭の中で駆け巡る。
――リロードの音がして、また銃声が響いた。
不運にも、その場に命を顧みず結莉を助けてくれるような勇敢な存在はいない。
バン、バン、バン、バン、バン、と音が響き続け、ようやく警察が到着し、犯人は取り押さえられたものの。
既に結莉は無惨な姿に成り果て、事切れていた。