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魂と剣と  作者: 弥馬田 ぎゃん


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7/9

鬼と呼ばれりゃ鬼だろうよ

――帝国暦1870年 冬――

気づけば、俺は、この世界に産み落とされていた。

酷く居心地の良い温かな場所から、俺は、冷たい木板の床を這いずり廻っていた。

直線的だったり、蛇行してる赤い線を、鮮血を俺は、その身に纏い、引きずっていた。

俺と繋がったその赤い線の先には、女が一人、空洞な目をして、倒れ込んでいた。

女の魂は、すでにそこになく、女の腹は、内部から花が咲くように裂け、とても綺麗だった。

俺は、そこから自らの力で無理矢理に出てきたらしい。

記憶はないが、何故だか、俺には、それがわかった。

周りの人間供が話す言葉も、意味も含めて、はっきりと聞き分け、理解できていた。


「男と交わってもいないのに、妊娠したと聞いた時から、おかしいとは、思っていたが、まさか、神災憑きだったとは……」

「銀髪に銀色の目、化物の子じゃ」

しわくちゃの老婆の言う通り、俺には、生まれたてにも関わらず、確かに銀色の髪が生え揃っていたし、瞳の色も銀色に輝いているようだ。

それが、異常である事も含め、俺には、全て理解できていた。

ここが、鎮魂師の民の里である事、里の者は、総じて黒髪である事、年老いた者に白髪はいるが、決して、銀髪は、一人もいない事、里の外でも銀髪の者など一人もいない、それが、全て、俺には、生まれる前から、わかっていた。

しかし、俺には、俺が何者であるか、その認識がすっぽりと抜けていた。


「化物の子じゃ、化物の子じゃ」

「鎮魂師の里の者が神災を産み落とすなど、あってはならぬこと」

「帝国にこの事を知られれば、我ら、全員、殺処分されるやも知れぬ」

「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」

里中の殺意を一身に浴びる俺の前に立ち、一人の青年が声を上げる。


「俺の妹を殺さないで!!」


精悍な顔立ちの青年だった。


「星史郎、よく見ろ、その化物を。男根は付いていないが、女性器も見当たらぬ。それが、お前の妹なものか。亜種よ、神災よ、その者は、そなたの母の腹を裂いて、出てきたのだぞ。悪魔そのものではないか」

里の男供が、星史郎という青年を取り押さえる。


星史郎は、抵抗し、再び、声を上げる。

「でも、この子は、母さんが産んだ俺の兄妹なんだ!!」


「ええい!!問答無用!!」

鎮魂師の里の男供は、一斉に殺気を俺に向け、自らの魂の力を込めた剣を引き抜いた。

俺は、自らの赤子の手をかざし、霊力で無理矢理に里の男供を5人程、圧縮し、肉塊に変え、さらに圧縮を重ね、ビー玉程の大きさの赤い塊に変えた。

カンカンと音を立て、ビー玉程になった男供が玄関のコンクリ床に転がる。

その光景を見て、残った男供が、

「こなくそぉーー!!」

と一斉に俺に斬りかかる。

俺は、それを手を横に振るだけで、霊力の波でぎ払った。

男供は、壁に衝突し、昏倒した。

その後ろから、また新たな男供が姿を現し、また、剣を構える。

そこで、老齢の白髪長髪の白装束姿の男が、


「やめい!!」


と歳に不釣り合いな大声を上げる。

里の者は、全員、その声に従い、動きを止め、しんと静寂する。

静寂の中、白装束の老人の男が、俺の前に歩み出て、座り、皆の前で俺に土下座した。

それを見て、里の男供は、白装束の老人の男に向け、

おさ!!」

と声を上げる。


「そちらは、黙っていろ!!」

と声で制する里長さとおさ――。

里長は、俺に土下座したまま、

「どうか、お怒りをお静めください」

と言う。

「あなた様が、普段、我々が退治してるような神災とは、格の違う高位な存在であるのは、見てわかりました。この里にあなた様に敵う者は、私を含め、一人もおりませぬ。この里に早急にあなた様をまつほこらを建て、今後、一切の危害をあなた様に加えぬ約束、いや、誓約を立てまする。それ故、どうか、どうか、これ以上、我らと戦うことは、おやめ頂きたい」

里長は、一息に言いたいことを言って、顔を真っ赤にし、血管を浮き上がらせ、震えていた。

その姿に里の者は、言葉を失う。

俺は、そこで、初めて、


「お前の畏怖の感情、畏敬の念には、嘘偽りがない。敵意も微塵も感じない。俺は、人の世に対して、まだ、未学習だ。ここは、お前の言葉に従い、その祠とやらで、しばし、時を過ごそう」

と言葉を放った。

もちろん、唇を動かし、喉を鳴らし、喋ったのではない。俺は、赤子だ。そんな事はできない。

普通に霊力で空中浮遊し、里長を見下ろし、魂で思考してる言葉を念で飛ばし、周りにいる全員に伝えたのだ。


「有難き幸せにございまする!!」


里長は、土下座してる頭をさらに地面へと近づけ、こすりつけた。

俺は、時の祠と名付けられた揺りかご程の大きさの岩穴に御神体として、納められ、封邪法印の札というものを貼った柵格子で外に出られないようにされ、軟禁された。

その時の祠の中で俺は、冬を過ごし、春を過ごし、夏を過ごし、秋を過ごし、また冬が来た。

食事は、一切、与えられなかったが、俺は、死ななかった。

そのまま、何も起こらず、50年が過ぎた。

――帝国暦1920年 冬――

50年ぶりに、白装束を着た老齢の白髪長髪の男が、俺の前にやってくる。


「いつまで、そうやっておられるおつもりですか?あなたの力なら、いつでも出られたでしょうに」

里長に言われ、

俺は、封邪法印の札の貼り付けられた柵格子を霊力で砂のように細かく小さくして、砕いて散らした。


「気づいていたのか」


俺は、言いながら、少しも驚かず、50年ぶりに外に出る。

すると、50年間、抑えていた霊力が一気に弾けて、俺の身体は、成人女性のような大きさに成長した。

乳房は、あまり大きくはないが、男根がないので、男とは、言えない。

里長の前に身体の正面を向け、立つ。

衣服は、赤子の頃から着けてないので、全裸だ。

里長は、俺を神々しいものを見る目で見つめた。

実際、俺の身体は、月光に照らされ、光り輝いていた。


「誰だ?貴様?」

と俺は、里長を改めて見て、言った。

里長の魂の形が、魂の色が以前と異なっている。


「里長ですよ。現在のね。あなたが知ってる里長は、先々代の里長です。50年経ちますからね」


「お前、どこかで会ったか?」


「気づきましたか?私は、星史郎。あなたの兄ですよ。こんなおじいちゃんになってしまいましたがね。ちなみにあなたの知ってる先々代の里長は、あなたの祖父です」


「悪意を隠すのが、上手い男だった。俺を直接、倒せないと知って、俺を閉じ込め、餓死させるつもりだったのだろう。長だけあって、賢い。死ぬまで、この祠に近づきもしなかったんだからな。お前は、何故、来た?わざわざ、俺に殺されに来たのか?」


「いいえ、あなたにお願いがあって、来ました」


「願い?わかっていないのか?神は、お前ら、人間の味方ではないぞ」


「私は、この50年間、あなたをどうやって、その祠から出そうか、考えていました。いや、物資的にの、話じゃありませんよ。あなたにとって、その祠から出ることは、事実、容易たやすいことで、出ようが出まいが、どっちでも、良かったようですから。でも、私は、ずっと考えてきました。あなたをどう祠から、出すのが、ベストなのか?どうやれば、あなたが、里の皆に受け入れられるのか?」


「鎮魂師の民達に神災の俺を受け入れさす、だと?」


「私は、皆にあなたを受け入れさすには、私が里の長になるのが、一番だと思っていました。しかし、実際、里の長になって、気づきました。私は、間違っていたんだと……」


「当たり前だ。神災と鎮魂師が仲良くなんて、できっこない」


「いえ、そうではありません。私が間違っていたのは、里長になるべきは、私ではなかったという事です。里長には、あなたがなるべきだった。この里で一番、霊力が高く強いのは、最初から、あなた、なのだから」


「神災を鎮魂師の民の長にするというのか?正気か?」


「幸いというのは、不謹慎ですが、この里は、少子化と霊媒師の弱体化が、年々、進んでいます。今、まさに、この里は、あなたのような強い霊能力者をリーダーとして、必要としているのです」


「里の者どうこうの前に、俺が引き受けると思うのか?」


「神災だから?神だから?人間の味方は、できないと?私は、あなたが、鬼だろうと悪魔だろうと、あなたを信じます。あなたは、私にとって、最初からこの里の仲間で、たった一人の妹です。異論は、認めません。何故なら、これは、俺の気持ちだから」

星史郎は、そう言うと、剣を鞘から抜いた。

なんだ、色々、言いつつ、こいつも結局、俺を退治するつもりじゃないか、と俺は、思ったが、

星史郎は、その剣で自らの首の頸動脈けいどうみゃくを斬った。

血が噴水のように吹き散る。


「すでに私が死んだら、あなたを里の長にする旨を書いた遺言は、残してあります。あとは、私が死ぬだけです」

俺は、倒れた血だらけの星史郎を抱き寄せた。


「何故だ?何故、俺の為にそこまでする?」


星史郎は、弱々しい呼吸音に紛れさせ、声をしぼり出す。

「妹を化物のままにしておくお兄ちゃんが、どこにいますか?」

それだけを言い終えると、兄は、満足そうに他界していった。


俺は、確かに人間じゃない。人間から神災と呼ばれ、恐れられ、忌み嫌われる存在だ。

悪魔と言われりゃ、悪魔だろうし、鬼と呼ばれりゃ鬼だろう。

でも、人間なのに神災である俺の味方をした兄のように――、神災なのに人間の味方をする者が一柱ぐらいこの世界にいても、いいんじゃないだろうか――。

俺は、そんな気まぐれで鎮魂師の民の長になった。

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