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魂と剣と  作者: 紙緋紅紀
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輪廻転生の儀

――帝国暦2023年――

クロキカタマリノミコトの封印されている不死身霊山の火口に、二人の防熱防火加工の銀色の全身スーツ姿の男が、鎖でぐるぐると施錠された鉄製の棺桶を担いでやって来る。

不死身霊山は、活火山である。

霊験あらたかなこともあるが、クロキカタマリノミコトの魂が眠っている場所ということもあり、めったに人が寄りつかず、他に人の姿は見えない。


「ったく、帝国様もよぉ。俺達、軍人を安月給でよくも、こんな過重労働させてくれるよなぁ。死刑なんて串刺しや銃殺で充分だろ。なんで俺ら二人でこんな重いもん、ここまで持って来なくちゃいけないわけ?」


「仕方ないだろ。この棺ん中の野郎に神災の疑いがあるんだから」


「両親と妹を剣で斬り殺したんだっけ?ただの精神異常者だろ。ビビリすぎなんだよ、帝国のお偉いさんもよぉ。霊媒師の数が昨今の人口減少で足らないからって、こっちに余計な無駄仕事、廻してくんなよなぁ」


「それは、確かに言えてるよ。本物の神災なら、こうして、俺ら軍人なんかに捕まったりしないだろうしな。まっ、マグマで肉体を溶かしてしまえば、神災だろうと怖くないって、安直な考えなんだろ。お偉いさん方は。霊験あらたかなクロキカタマリの封印されている霊山様だ。仮に本物の神災でも成仏してくれるだろうよ」


「どういう理屈だよ。いちいち化学的じゃねぇんだよ、今の帝国様はよぉ」


「無駄口は、もう、着いたんだから、やめにしよう。さっさとこいつ、ぶち込んで、今日の仕事も終わりにしようぜ」


「だな」


「「いっせのーせっ!!」」


二人の帝国の軍人は、マグマに向かって、鉄の棺桶を投げ入れた。

鉄の棺桶に入れられている殺人犯・暗木誠人は、人生の終わりを感じながら、回想していた。

軍の研究施設で霊力のない者でも神災の魂を封印できる剣の開発を進めていた事――。

その仕事があまりにもブラックで毎日、眠れる暇もなかった事――。

4人家族の自分が唯一の稼ぎ頭で仕事を辞めるわけにはいかなかった事――。

たまに職場から家に帰ると、アルコール依存症でギャンブル依存症の父が母にいつも暴力を振るっていた事――。

気づけば、研究中の剣で父を斬り殺していた事――。

止めに入った母も斬り殺していた事――。

一人、生き残った妹を殺人犯で捕まる自分のせいで、誰にも面倒をみてもらえず、餓死するだろうと不憫に思い、冷静な思考とエゴで、やはり、斬り殺した事――。

その後、道行く村人に剣で襲いかかり、軍に捕まった事――。

肉体的にも精神的にも疲れ果て、ブラックアウト。そして、現在――、自分は、鉄の棺桶に入れられ、今まで感じた事のない熱に襲われている。

自分の肉体が燃えるとは、こういう事か、ぼうっとまどろむ思考――。

熱すぎて、ひどく現実感がない。まるで、夢の中にいるようだ。

もう、死んだのか、生きているのかさえ、わからない熱さ。熱いと感じているから、やはり、自分は、生きているのか?それとも、もうすでに煉獄の中にいるのか――。

その時、声が聞こえた。

地の中から、マグマの奥から血の中へと響くような声だった。


「お前、これでいいのか?」


不死身霊山が自分に喋りかけている、と暗木誠人は、思った。


「お前は、ここで死んでも満足か?」


暗木誠人は、嫌だと思った。なんの生きる理由もない自分ではあるが、ここで終わりにしたくはないと強く思い、生を渇望した。


「死にたくなければ、我が名を呼べ」


と言われても、暗木誠人は、誰に喋りかけられているのかさえ、わからない。必死にこげつき、溶けそうな頭をフル稼働させ、考える。

ここは、不死身霊山。クロキカタマリノミコトが封印された場所。なら、自分は、クロキカタマリノミコトと言えばいいのか?

刻一刻と灼熱が自分を包み、全存在を飲み込み、精神を喰い殺そうとしている。

命のロウソクがどろどろに溶けて消えてなくなる寸前に暗木誠人は、その者の名を知らないのに叫んでいた。


「堕悪!!」


その呼びかけに声の主は、答えた。


「御意。お前の肉体に永遠の命を授けてやろう。但し、人類すべてには、滅んでもらうがな」


その邪悪な言葉を聞き取ることなく、暗木誠人の精神は、消し飛んだ。

そして、この世にまた堕悪なる存在が生を受けた。

じゃぼんという音で二人の軍人のうち一人が振り返った時には、もう遅かった。

マグマの中から飛翔するように陸地に跳び上がった男が彼の頭に片手で掴みかかり、防熱防火加工の銀色の全身スーツを燃やし尽くし、溶かし尽くした。

一瞬の出来事で遅れて振り返ったもう一人の軍人は、何が起こったか理解できなかったが、どろどろの赤い生命の輝きを放つマグマの人型から、燃えていない青年の顔が出現すると、その胴体と思われるマグマの塊に向かって、銃を発砲していた。

しかし、その銃弾が確かに貫通したにも関わらず、その赤い輝きの塊は、傷ひとつ負うことなく、再生し、一人の完全な青年へと姿を変えた。

顔は、暗木誠人であったが、その者は、暗木誠人ではなかった。

暗木誠人は、黒髪であったが、その者は、太陽のような金髪であった。

その者は、暗木誠人の肉体を供物として復活した堕悪であった。

堕悪は、拳の一撃で軍人の男の視界となっている防熱防火加工のフィルターを突き破ると、そのまま熱で男の全身を溶かし尽くした。

精悍な顔つきを邪悪な笑みで歪め、細身だが筋肉質で無駄のない肉体で前進し、堕悪は、天を見上げる。

「何処にいる?月詠。まだ、決着は、ついていないぞ」


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