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青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


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第6話「孔雀の里」

「実は、僕は、今から1000年後の未来から来たんです。この電気治療魔法(サンダーヒール)という魔法は、未来の魔法創会の魔法なんです」

どんなリアクションだろうかとビクビクしていた。そんなエレキを前に、ネンは失笑した。

「こりゃ面白い。1000年も魔法創会が生きてるなんて。誇り高いことだ」

しかし面白がるネンをよそに、カナデとアイナは真っ当に戸惑っていた。エレキは逆に少し落ち着いた。

「となると・・・期待は、出来そうにないな。最早、この世には無い魔法に等しいものをおいそれと習得は出来まい」

落胆するカナデの様子にエレキは何だか悪くもないのに申し訳なく思ってしまったが、そんな空気をよそにネンは興味深そうにエレキの顔を見上げてくる。

「どうやって、時を超えたの?」

「それが、分からなくて」

「ダイダラボッチに襲われたんだったな」

「はい。その、不躾なお願いなんですが、僕は1000年後にダイダラボッチが暴れるのを何とか阻止したいんです。きっとそれがここに来た縁なんじゃないかって思うんです。どうすればいいか、一緒に考えてもらえませんか」

「あー、そんなことならお安いよ」

「ネンは気楽すぎるぞ。私達だってそれが知りたいくらいだ」

しかしアイナの言葉を聞いてるのか聞いていないのか、ネンはチョロチョロと歩きだして、ダイダラボッチの下へ。

「お前も長生きだな」

「そういう問題か。とは言え、諦めるのは早いのではないか?雷の属の魔法には変わりないんだろ?孔雀なら、覚えも早いかも知れん」

「ふむ・・・確かに孔雀は雷の属の妖怪。見てもらう価値はありそうか。トウマ、エレキと共に孔雀の里に行ってくれるか」

「分かった」

「ダイダラボッチの事だったら、柳の森の祠が関わりあるかも知れないよ?」

気が付けばチョロチョロと近づいて来ていたネン。

「そっちにも行ってみたらいい」

エレキは感心していた。八賢衆と呼ばれる、聡明な妖怪たち。物知りで、冷静で、本当に頼りになる人達だと。本堂の境内を歩いていると、トウマはふと微笑む。

「三人寄れば文殊の知恵だね」

「そうですね」

孔雀の里へは、牛寺のある町を通るとのこと。歩いていくのは少し遠いからと、2人は馬を借りた。やっぱりエレキは1人では乗れないのでトウマにしがみつく。やがて町を外れて林道へ。でもそこで、トウマは馬を止めた。1羽の孔雀が倒れていたのだった。駆け寄るエレキ。

「大丈夫ですか!」

言葉が話せるかは分からないが、意識はあった。目立った外傷は無い。エレキは瞳を点灯させた。

「これは・・・」

裸眼でレントゲン撮影しているような感覚。肺が白く濁っていた。体温も異常に高い。それは怪我ではなく、病気の所見だった。つまり電気治療魔法(サンダーヒール)は無力だった。辛うじて出来たのは、全身の筋肉の炎症を和らげることだけだった。ゆっくりと立ち上がった孔雀。

「体が、軽くなった・・・」

「酷い肺炎ですね。辛かったでしょう」

「治してくれたのか?」

「いえ。僕の魔法は、病気は治せません。今は少し体が楽になっただけですよ」

「そうか。でも、ありがとう」

「オレたち、これから孔雀の里に行きたいんだ」

案内くらいお安い御用だと、連れてって貰ってそしてエレキ達は孔雀の里へ。当然だが孔雀だらけだった。当然だが、知らない人間が来たことにざわついていた。そんな時にエレキ達に歩み寄って来たのは、人間と孔雀のちょうど中間といった具合の孔雀だった。未来から来たことは言わず、電気治療魔法(サンダーヒール)を見てもらって、覚えられそうかというアイナの提案を話すと、半獣半人孔雀は関心を示した。

「ならちょっと見せてもらおうか」

そう言って案内されたのは藁で出来た豪華な家。そこには孔雀たちが寝ていて、エレキはここが病院的な建物だと直感した。瞳を点灯させると、所見は道端で倒れていた孔雀と同じだった。

「感染症ですね。高熱、全身が炎症しているところを見ると、恐らくは――」

インフルエンザ。そう頭に過った。でも先程の孔雀よりかはまだ軽い。

「重たい風邪のような流行り病でしょう」

「あぁ。その通り。1年に1度はこうなってしまう。効く薬草があるんだが、しかし今は季節が悪くそれが中々見つからない」

「分かりました。薬草に詳しい狐寺で聞いてみます」

「そうか。助かるよ。珍しい赤いヨモギなんだ」

体力の消耗を少しでも抑えられたらと全身の炎症を和らげて、エレキ達は急いで狐寺に向かった。

「おはーよう」

「おはようございます」

ふきちは今日もまた薬草を煮る。

「ハルさん居ますか?」

「いーるよー」

煮詰まっているか分からないようなものを恐る恐る覗くトウマ。

「ハルさーん」

「・・・はーい。ん、あらおはよう」

「おはようございます。ハルさんに聞きたいことがあって。珍しい赤いヨモギ知ってますか?」

「ああ、カラハンヨモギのことかしら?今は季節じゃないから、ないけど」

「そうなんですか・・・実はさっきまで孔雀の里に居まして」

「そういうことね」

「え」

「流行り風邪になると、孔雀がよく貰いに来るのよ。でも残念ね。今は探しても無いわよ?」

「そうですか・・・あの、似たような効能のある薬草はありませんか?」

「似たような、ねえ。それなら、無い事もないけど」

「似たような効能の薬草を組み合わせて、そのカラハンヨモギの効能に近付ける事は出来ませんか?」

「あなた良い事言うわね。そういう事なら、もしかしたら出来るかも知れないわね」

「ほんとですか!」

「試しに色々作ってみるから待ってて」

「はい」

「エレキ、その間に牛寺に案内するよ。柳の森に行くついでに」

牛寺のある町は長閑だった。まるで一気に田舎に来たかのように景色が変わった。

「寺というより、牧場ですね」

広大な放牧地。のんびり歩く牛たち。そして八賢衆の1人、牛の妖怪は優しそうなおばさんだった。

「久しいじゃないかトウマ」

「うん。紹介するよ。エレキだよ」

「あんたがエレキか。よく来たね。あたいはマンリ」

「よろしくお願いします」

「オレ達、柳の森の祠に行こうと思って。ダイダラボッチと関わりがあるんじゃないかってネンが言ってたんだけどどう思う?」

「そうだねえ。関わりがあるとしたら、きっとやりなおしの逸話のことじゃないか?」

「やりなおしの逸話?」

立ち話もなんだからと、エレキ達は牧場を案内された。エレキが牛乳が大好きだと言えば、新鮮な牛乳を一杯持たされて。

「ぷはあ・・・美味しいですね」

「オレも犬の時から牛乳は好きだ。ここの牛乳が帝都中に売られてるから、みんなここの牛乳で育ってるんだ」

「そう思ってくれるのは有難いんだけどね」

「え?」

「ついこの前、子供がやって来て言ったんだ。牛が怖いって。それで牛乳も飲んでくれない」

「どこの子?」

「東から越してきたばかりの子さ。初めて牛を見たそうで、それで今まで飲んでたものが急に飲めなくなったって」

「そっか。トラウマになっちゃったのかな」

「でしたら、乳搾り体験をさせてあげたらいいんじゃないでしょうか?野菜が嫌いな子供も、自分で育てた野菜なら食べれるようになるというのはよく聞きますし」

「ほう・・・なるほど、やってみるか」

それからエレキ達は柳の森に入っていった。マンリが言うには、祠に願いをかけると、取り返しのつかないものが戻ってくるという。そんな逸話がある祠は、いざ目の前にすると果たしてそんな魔法みたいな力があるのかというくらい、小さくて質素なものだった。

「オレも実際に見たのは初めてなんだよね。願いをかけるって、どうするんだろう。お酒でも供えるのかな」

「肝心な事を聞かなかったですね」

エレキはふと考えていた。取り返しのつかないもの。でもそれは未来には通用しないんじゃないか。魔法みたいな力だけど、期待は薄そうだと。

牛寺に戻ったエレキ達。何やら妖怪たちが集まっていて、エレキ達の姿を見ればマンリは明るく手を挙げた。

「ちょうどこれから、町の子供達が来るんだよ」

牛寺の町にせっかく引っ越して来たのだから、牛のことをよく知って触れ合ってみませんか。そんな宣伝文句で、親子連れのお客さん達がやって来た。牛へのエサやりから、牧場の散策、そして乳搾り体験。ふとエレキは思った。妖怪と動物の違いってなんだろう。牛たちは人間の子供達に優しかった。エサを食べてあげるし、撫でさせてあげるし、乳搾り中も大人しい。元々穏やかな性質の動物だからなのか、知性と意思でそうしているのか。エレキは混乱してきた。この時代では、そもそも自分は動物と普通に会話している。

「どうした?」

トウマは、ジロジロ見てきたエレキに問いかける。

「あ、いえ、なんていうか。トウマは何で人間になりたかったんですか?」

「えっ・・・えっと、それは、あの」

何故かもじもじするトウマ。

「・・・秘密にしてくれよ?」

「え?はい」

「オレ・・・ユウアが・・・ユウアが、好きなんだ」

そういえばユウアの前では変に緊張した様子だったと、エレキは冷静に納得した。そして、開けちゃいけない扉を開いてしまったことに戸惑う。聞きたいことはそんな事じゃなかった。

「オレとヨモギは、小さい頃に親を亡くして、それからずっと草湯に居させてもらってた。それで、恩返しもしたいけど、その、人間になれば・・・夫婦(めおと)になれるかなって」

「そうなんですね。その様子だと、まだ好きだとは言えてないんですか」

「だって、犬は犬だし。多分、ユウアからしたら、オレもヨモギも弟みたいなもんだろうなって。エレキは、いるのか?その、未来に」

「あ・・・はい、結婚を約束した人が」

「じゃあ離れ離れだな」

「・・・はい」

そんな時だった、エレキは牛を遠くから眺めて動かない1人の男の子に目を留めた。

「あの子・・・ですかね。マンリさんが言ってた子って」

「そうかもな」

歩み寄り、子供の高さに目線を落とすエレキ達。

「牛はみんな優しいよ」

「でも、でかくて・・・」

「牛はみんな、牛乳を美味しいって飲んでくれることが嬉しいんだ。牛乳は嫌い?」

首を横に振る男の子。

「一緒に近くまで行こうよ」

トウマにそう言われて、男の子は恐る恐る歩き出した。それから乳搾りの為に待機してくれている牛の前で立ち尽くす。そんな様子をマンリは遠くからふと眺めた。

「モォ」

そう言って牛が見つめてくれば、男の子は体を硬直させる。明らかに怯えている。遠くから、マンリも落胆した。

「ほら怖くないよ」

牛を撫でてみせるエレキとトウマ。しかし男の子は牛と見つめ合ったまま固まっていて、やがて牛も落胆する。

「名前は?」

「イヅキ」

「イヅキくん、ほら見てあっち。小さい牛もいるよ。生まれたばかりだから、それなら怖くないよ」

子牛に牛乳を飲ませてあげる体験をさせてやると、イヅキはようやく子牛を触ることが出来た。小さな一歩だが、確実な一歩。そうエレキはマンリと微笑み合う。牛乳を飲む他の子供達の笑い声が響いてくる。

「牛も僕達と同じ、生まれたときは小っちゃくて、沢山食べて大きくなるんだね。どうする?一緒に牛乳飲んでみる?」

こくりと小さく頷いたので、エレキはイヅキをマンリの下に連れてきた。元々は普通に飲んでいた牛乳。だから牛への恐怖心さえ克服出来れば問題無い。竹で出来たコップに注がれた牛乳を、それからイヅキは静かに一口。

「美味いだろ?」

こくりと小さく頷いたのが嬉しかったのか、マンリはまるで自分の子供を見るような優しい眼差しでイヅキの頭を撫で、遠くの牛と頷き合った。

夕方。エレキはトウマと共に露天風呂に入っていた。

「良かったですねイヅキくん」

「あぁ。それにしても子供の扱い方上手いな」

「そりゃあ、治療士ですから」

小児科病棟での研修もやってたから、多少なりとも経験はある。そう言っても伝わりづらいだろうからと、エレキはただ微笑んだ。

翌日の昼頃、クラマに呼ばれてエレキは狐寺に赴いた。相変わらずふきちは薬草を煮ていたが、奥に行くと5種類の丸薬があった。

「早く孔雀たち治してやんねえとだからな、急いでこしらえてやったぞ」

そう言ってもみ爺は大あくびをして寝転がる。

「ありがとうございます」

「実際、どれがどう効くか分かんないから、それぞれ別の孔雀に飲んでもらって様子を見るしかないわね」

「はい」

薬を作れば次にやることは治験。そうしてエレキとトウマは再び孔雀の里に向かった。里の長である半獣半人孔雀、クエンにも協力して貰い、5種類の丸薬をそれぞれ5羽の孔雀に飲んで貰った。あとは経過観察。それからエレキはすぐにとある1羽の孔雀の下に向かった。この孔雀はただの重たい風邪をこじらせて肺炎にまで悪化している。

「風邪だけなら、薬草で治るんですよね?」

「あぁ。だがたまに、長引いてしまった奴が手遅れになる場合がある」

「この方が今その状態だと思われます。この場合はいつもどうしてるんですか?」

するとクエンは首を横に振った。

「何も出来ない」

風邪やインフルエンザなら、薬を飲んで安静にしていれば治るだろうが、肺炎になってしまった場合は現代では入院して、原因を特定し、どの抗生物質での治療が必要かなどを見極めなければならない。休んでれば治る風邪とは訳が違う。エレキはフリーズした。この時代じゃ、抗生物質はおろか、原因特定の技術すらない。

「ああ、昨日の。あんたのお陰であんまり苦しくない。薬草で治るんじゃないのか?」

「実は、あなただけは、他の孔雀と違って別の病気になってしまってるんです。それは薬草では治りません」

「そうか・・・死ぬしか、ないのか」

エレキは拳を握りしめた。ここに来て、何も出来ないなんて。助けますと言いたいのに、言えない。とにかく無力でならなかった。

「僕は、諦めません」

「え?」

「エレキ、何か考えがあるのか?」

「いえ、全く。でも、治療士として、諦めるなんて出来ません。何か方法がないか探します」

「探すって言ったって・・・」

「だからあなたも、諦めないで下さい」

「・・・分かった。あんたを信じるよ」

孔雀の里を出て、やはり向かったのは魔法創会本堂。カナデ達なら良いアイデアを授けてくれるかもしれない。経緯を聞いたカナデ達。

「肺炎というのは、とある細菌に肺が傷つけられてる状態です。細菌を殺すには、抗生物質という、その細菌を殺す為に作られたものが必要です。細菌によって、効く抗生物質が違います。肺炎の種類によって、抗生物質が必要かどうかも変わります。先ずは、どういう種類の肺炎かを見定めたいのですが、それは出来ません」

最初に溜め息を漏らしたのは、ネンだった。

「・・・難儀だねえ。まるで手詰まりじゃないか」

「でも、僕は諦めたくありません」

「そうは言ってもだな。ただでさえ体の中なんて見えたもんじゃないのに、それでも薬草と心もとない魔法で何とか凌いできてる。話は分かったが、検討のしようもない」

そう言ってネンはチョロチョロと歩き出す。

「答えが出るかは分からんが、蛇寺に行ってみてはどうだ。八賢衆の1人、蛇のムラサキは毒に詳しい」

読んで頂きありがとうございました。

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