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青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


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第17話「龍の乱」

エレキを労う会改め、みんなを労う会は、本堂の境内で行われた。いつも境内で干し肉を売ってる犬の妖怪や、カラスたちが呼んだ近所の人達、八賢衆の妖怪たち、そしてクラマやマツキ、エンユウも参加してくれた。なんだかちょっとしたお祭りみたいになってしまった。

「前にやろうとは言ったけど、やっと出来たな。エレキお前、そういやお酒は強いのか?」

「いやあぁ、それほどでも」

「そうか」

そう言うとクラマは豪快にお酒を飲みほし、嬉しそうに干し肉にかぶりつく。

「まったく呑気なもんだな、龍が来るってのに」

エンユウの親しくも冷ややかな小言に、クラマは笑ってみせる。

「別に明日来るわけでもないんだ、いいだろ。あ、聞いたぞ?火の魔法の治療魔法のこと、まだ子供なのにすごいな、才があるんだな」

「確かに、そうですね。やってみたら出来たなんて。妖怪って本当にすごいです。みんな賢くて」

「そうかぁ?ふきちなんか、丸薬の包み方が分かんなくて、煮込んだ薬草、平たくして干してたぞ。海苔じゃないんだから」

和気あいあいとした、平和な時間。ずっとこうだったらいいのにと、エレキはしみじみと思う。そんな時だった――。

<すまない>

「・・・え?」

振り返るエレキ。でもそこには誰もいない。すると本堂の中から、キチが慌てて走ってきた。

「わぁー、喋った!ダイダラボッチ、喋ったー!」

「ええ!」

ぞろぞろと本堂に入っていく。そしてエレキがダイダラボッチの前に立った時。

<・・・エレキ>

「え・・・」

<すまない>

「えっと、ダイダラボッチ、さん。え、何が、なんのことですか?」

しかしそれ以来、ダイダラボッチが声を発することはなかった。そばにいたカナデは腕を組んで考え込む。

「・・・・・寝言か」

「・・・はあ?」

「こいつは、寝ているものだ、ずっと。故に、寝言かも知れぬ」

ポカンとするエレキ。カナデの解釈には、クラマやエンユウ、トウマも返す言葉はなかった。

「寝言・・・」

境内に戻ってきて、エレキは落ち着くために牛乳を一口。

「あながち、間違ってはないのでしょうか。カナデさんが言ってた、ダイダラボッチが僕を呼んだって」

「まぁ、何にせよ、顔を合わせたのなら無関係とも言えないだろう」

「やっぱりそうですよね」

「思い出した。初めて会った時、お前ダイダラボッチに襲われたって言ってたよな?それは、どういうことなんだ」

顔を見合わせるエレキとカナデ。エレキがすんなりと頷けば、カナデはそれからクラマとエンユウを再び本堂に招いた。エレキとカナデ、クラマとエンユウの静寂の空間。

「これは、他言無用だ。と言っても、八賢衆にはもう内密に知れ渡っている。あとはトウマ、サクラ、キチもだったな」

「はい。イオスさんも」

「実はな、エレキは、1000年後の未来から来たのだ」

案の定、2人はフリーズした。それからエンユウは遠くを見て頷いた。

「・・・・・なるほどな」

「いやいやエンユウ。呑み込むのが早えよ。はあ?1000年後?どうやって」

「それが、一番の謎で」

「ダイダラボッチに襲われてって、それでか?」

「はい」

「いやあ・・・まぁ、エレキの魔法は、確かに想像を超える。そう言われれば、腑に落ちないこともない」

「もし仮に、ダイダラボッチが、エレキを1000年前に寄越したのだとすれば、何か理由があるのかも知れぬ。だが、当人はあの通りだ」

「ダイダラボッチが、エレキを?・・・」

珍しくクラマも真剣な表情だった。


翌日。イオスは朝から剣を振っていた。剣士から教えてもらった”瞑想素振り”。今まではそんなことやったことない。やる必要はなかった。最初から最強だったから。でもこの世界で暮らしている内に、何も出来ない自分にも飽きてきた。

「精が出ますね」

話しかけてきたのは、イタチだった。そこら中にいる、喋る動物。イオスにとっても妖怪という概念はただのおとぎ話だが、前の世界でも喋る動物はいた。

「あぁ。退屈だからな」

「ところで、その剣、見たことのないものですが、外国のものですか?」

「まぁ、そうだな。オレだって作った本人じゃないから、分からないけど」

「わたし、外国のものに興味があるんです。どんな逸話があるんですか?」

「・・・世界の闇を晴らす。それだけのことだよ」

「そうなんですね」

イタチが去っていった。イオスはそんな会話をしていたことも忘れたかのように、瞑想素振りを再開させた。


カラスが1羽、慌てた様子で飛んでいた。そのカラスは屋根の上でたむろしていた。カラスたちに伝言し、そうしてカラスたちはまた伝言を広めていく。とある1羽のカラスがやってきたのは、剣士の道場だった。

「大変だ。どんどん龍の一行が近づいてきてる。もう、早くて明日には来るんじゃないかな?」

「そうか。分かった。伝言に感謝する」

カラスを見送ったのはサイオンだった。それからサイオンは道場の奥にある大部屋の寝室へと入った。その隅っこには屏風と机がある。姿勢正しく座り込み、墨を用意して、文を書き始めた。


何もない空き地、という道場。とはいうものの、急ピッチでせめてもの柵は作られた。そこでエレキは、ウルとジソタと共にいた。

「僕は、火の魔法を使ったことがなくて、それがどんな風に人を癒したり、どんな風に危険なことが起こるのか、分からないんだ。だから、火の魔法での治療魔法は、教えてあげることは出来ないんだ」

「ちゃんと治せたのに、使っちゃいけないの?」

しょんぼりするウルに、エレキは優しく微笑み、首を横に振った。

「そうじゃないよ。だからさ、逆にウルくんが、僕達に火の魔法の治療魔法を教えてほしいんだ。出来るかな?」

「え・・・いや、分かんない」

「そうだよね。出来たばかりだし。それなら、もっと沢山練習して、上手になって、教えてほしい。僕も一緒に勉強するから」

戸惑いながらも、狐の少年は友達の人間の少年と顔を合わせ、嬉しそうに微笑んだ。

「うん!頑張るよ!おれ、立派な治療士になる」

「じゃあおれも火の魔法練習するよ」

ウキウキした気分でかけていった少年2人。きっと2人の未来は明るい。そうエレキは微笑んだ。そんな時に、エレキの下にカワウとシラサギがやってきた。カワウは半獣半人で、足がカワウだった。シラサギはそのままの姿。

「お初で。あっしはケトと申すもので。この道場の話を聞いて、人間になって馳せ参じました。こちらはタナ」

シラサギがぺこりと会釈したので、エレキも会釈。

「あっしら、水鳥なんですが、道場で学んでもいいんで?」

「ええもちろん、歓迎します。僕はエレキです」

「あんさんが。こりゃ話が早い。早速、治療魔法を教えて貰いたいんですが、あっしら、水の魔法しか知らねんで。それでも出来ますかね」

「大丈夫です。でしたら、水の魔法の治療魔法を会得出来るようにお手伝いします」

「え!エレキ、水魔法も出来るの?」

話を聞いていたトウマがやってくる。

「いえ出来ません。僕は雷魔法専門なので、でも水治療魔法の知識なら多少はあります。どの魔法で治療するにしても、体の仕組みを知るのは同じなので」

「そうなんだ。じゃあみら・・・エレキの国にも、水治療魔法があるんだな」

「はい」


――少し前。早朝。

静寂に満ちた本堂にやってきたエレキは、座布団に座り、カナデとアイナとネンに丁寧にお辞儀した。

「昨日は、ありがとうございました。それで僕、再び、決心を固めることが出来ました。これからは、電気だけじゃなく、水の治療魔法も教えていこうと思います。それに火の治療魔法も、ウルくんがまた怪我をしないように、しっかり教えていこうと思います。と言っても、不安ばかりですが。なので・・・・・手伝ってほしいです」

しみじみと、深く、カナデは頷いた。

「もちろんだ。魔法創会総出で、エレキを支えるぞ」


どうせもう戻れやしないんだ。だったら、自分が蒔いた種が少しでも人の役に立つようにしていくしかない。そうエレキは気合を入れた。妖怪は皆、魔法を使えるがおまじないは知らない。だからは先ずはその練習から入ると助言すれば、ウルやケト、タナは一生懸命おまじないを練習し始めた。そんなところで、エンユウが歩み寄ってくる。

「お前さん、剣を持つ気はないか?戦う術のないまま、いつも火事やら山賊やらに突っ込んでるんだろ?剣道を会得するのも損はないんじゃないか?」

「お心遣いありがとうございます。確かにそうですが、僕は、決して、人を傷つけることはしません。なのでその術も必要ないんです」

「相手が山賊や、龍でもか?」

「・・・はい」

エレキの眼差しは強かった。エンユウは静かに頷いた。

「良い信念だねぇ」


そして、その日がやってきた。鬱蒼と茂る林道。昼間でも薄暗く、帝都で暮らす者たちは先ず立ち入らないような場所。そこに、10人の龍がやってきた。その先兵のリーダー、ツキオは立ち止まり目を凝らした。誰かいる。

「・・・・・レイザか」

「ここまでご苦労様です」

レイザがさっとお辞儀するような相手。歴戦の強者であるツキオは常に緊張感を纏っていた。

「兄とは会ったのか」

「はい。しばし、時間を頂きたく。兄からの伝言があります故」

「何だ」

レイザはジュウガイの新しい作戦を話した。ダイダラボッチの憎しみの矛先を立てる為に帝は生かすということ。先兵達は戸惑っていた。しかしただ1人、ツキオだけは鋭い眼光を崩さなかった。

「ダイダラボッチか。相分かった。しかし見せしめは必要だ。剣士は殺す」

「ですが」

「案ずるな。何も皆殺しにはしない。ダイダラボッチを侮りはしない」

「・・・はい」

「参るぞ」

「はっ!」


道場での稽古が終わり、エレキ達は狐寺の町での回診を始めた。いつものように、怪我をした人、定期健診したい人、お悩み相談したい人など、治療士を頼りたい人達が何人もやってくる。

「大変だ―!大変だ―!」

エレキ達を求めてやってくる客足が落ち着いたころ、カラスが叫び出した。

「龍がやってきたぞーー!!」

その声は主に、狐寺と虎寺の辺りに響いていた。道場から、剣士達がザザッと出動していく。カラスたちの連絡網のお陰で、来ることは皆分かっていた。むしろ待ち兼ねていたという闘志に満ちていた。

「帝都を護るぞ!」

「おう!」

草湯の中庭にて。ドクンッと、イオスの剣が鼓動を響かせた。瞑想素振りをしていたイオスは冷静だった。イオスだって龍が攻めてくる事を知っていたから。それから静かに町へ出た。

町の人々は怯えながらも、龍とはどんな者達なんだと顔を覗かせる。ツキオを先頭に為した、龍の行列。山賊なんかとは違う、剣士のような鋭い威圧感。町の人々は皆、龍が人間と同じ姿をしていることに戸惑いを覚えていた。大熊のように巨大でもなければ、猪のような牙もない。そうした時にふと、ツキオは立ち止まった。怯えて距離を取っている町の人々を遠く広く眺めた。

「帝都の者共!我々は龍の一族にして、その末裔である!これより、この帝都は我ら龍の一族がその帝に座す!天上の町へと赴き、我らの根城とする!」


天上の町とは、代々と帝とその一族が住まう、帝都の聖域。町の人々はおろか、十剣士ですら立ち入ることの出来ない神聖な場所。つまりそこが占拠されれば、帝都は落ちたということ。


「いかせるものか!!」

十剣士の1人、ソムイの怒号が響くと、四方八方から剣士がやって来て瞬く間に龍達を包囲した。十剣士はソムイ、ブライ、坂本ハクライ、その3人。それに続いて腕の立つ剣士達が18人。

「邪魔するものは叩き斬る!」

ツキオがあごで差すと、龍達はゆっくりと広がり始め、刀を抜いていく。すぐさま刀を抜く剣士達。そうして、龍と剣士の戦いは始まった。

「ほう」

剣士は2人1組だった。感心しているツキオの前には十剣士の3人。

「良き布陣を敷いただけで、勝ったつもりか」

「驕る我らではないわ!」


エレキはトウマ達と共に恐る恐る戦いの場に近づいていく。避難しながらも戦いの野次馬になりたい町の人々の顔色は、見てるだけでこっちまで不安にさせるものだった。

「きゃあああ!」

龍の魔法、大きな水飛沫がバシャアッと家屋に降りかかる。町人達も逃げ出して、エレキは更に緊張する。

「いた」

トウマの呟き。やがてエレキが目を留めたのは、2対1で戦う剣士達と龍だった。戦況はまずまず。一進一退のようで、お互いの殺気がぶつかり合っていた。これは時代劇じゃなく、本物の戦い。エレキは空気の刺々しさを肌で感じていた。

「術式『霊刀』水斬り!」

剣士の刀から溢れ出す水流。でもそれは龍の刀の一振りで切り裂かれて消えていく。

「ぬるいわ!剛波一閃(ごうはいっせん)!」

「断空!」

それは音速で駆け抜ける、水の衝撃。術の壁を張って身構えた剣士をも軽く吹き飛ばすくらいの。剣士は辛うじて無傷だった。でもその水の一閃は家屋を切り裂き、倒壊させ、町人達を巻き込んだ。

「トウマさん、サクラちゃんと一緒に別の場所へ。きっと同じように大勢が巻き添えになってる」

「あぁ、エレキ、無理するなよ?」

力強く頷き合うエレキとトウマ。それからエレキはキチと一緒に、この場の怪我人を介抱し始める。

「オイラまだロクにサンダーヒール出来ないし、足手まといだよな」

「そんなことないですよ。とにかく治療しやすいように怪我人を集めて下さい」

「あぁ」

逃げる途中で転んだり、飛び石や木片に当たっただけの怪我なら、エレキにはなんてことない。

「大丈夫ですよ。すぐ治しますから」

エレキは瞳を点灯させる。エレキが治療中、キチは避難誘導をしたり、町人を先導して協力してもらい、救助に当たっていく。

「大変だー!」

カラスの鳴き声に、ふと空を見上げるエレキ。

「・・・・・山賊が来たぞー!」

この状況で更に山賊まで。そう町の人々はどよめいていく。かといってどこに逃げればいいかなんて分からない。

「もう、帝都は終わりだ・・・」

「オレ達、みんな殺されるのか」

「こんなところで突っ立ってられるかよ」

「どこに逃げるってんだ」

町人達の緊迫と不安はどんどん膨れあがる。カラスたちが飛び交っていく。カラスたちの避難誘導と、治療士の居場所共有のお陰で、動ける怪我人はトウマ達やエレキの下へと向かっていく。

「剛波一閃!」

「きゃああ!!」

建物や町人も巻き添えになる中、吹き飛んできた2人の剣士。勢いよく塀に激突して、そのまま倒れこんだ。もがきながらも2人は立つことも出来ず、龍はそんな2人を鼻で笑う。

「確かに雑魚ではなかった。しかし、それまでだ」

剣士達の敗北。龍の脅威に、エレキは息を飲む。

トドメは刺さずに龍が去っていったので、エレキは剣士達に駆け寄り、傷の具合を観察する。体中が内出血だらけ、小さな外傷も多い。エレキはすぐに治療を開始する。

「すぐに治します」

振り返る龍。倒した剣士達を治療している者に、その龍の男は関心を示さなかった。それから10分もすれば、剣士の1人の傷が完治する。

「・・・悪いな」

「いえ」

「それが、噂のサンダーヒールか」

聞き覚えのある声に、キチは振り返った。振り返るエレキ。駆け寄ってくるキチ。

「親分」

「おう」

エレキはフリーズした。いつの間にか目の前に居たのは、時山ジュウガイだった。

読んで頂きありがとうございました。

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