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青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


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第16話「立ち向かう勇気」

エレキはふと、未来を思い出した。自分が世界を変えるなんて考えたこともなかった。普通に勉強して、就職して、結婚していくものだと思っていた。あの時、あの場所に、ダイダラボッチなんて現れなければ、決してこんなことにはならなかった。そうだ、あり得ないことが起こってるんだ。このまま世界が進んだら、一体どうなってしまうのか。

「あの、このままこの世界が進んだら、1000年後はどうなってしまうんでしょうか」

「それは、何とも言えぬ。だが、きっと変わらぬものはないと思う」

エレキはふと、タイムスリップもののドラマを思い出した。死ぬべきものが死なず、代わりに死なないはずの登場人物が死んでしまう。そんな物語だった。もし未来に戻れても、本当に、すべてが元に戻るかなんて。だとしたら・・・。

「エレキ?」

エレキは膝から崩れ落ちた。

「え、どうした?」

トウマが顔色を伺う。

「もし、もしかしたら、もう、戻れないんじゃ」

「いや、そんなこと分かんないよ」

「そうじゃなくて」

「え?」

「例え、未来に戻ったとしても知ってる未来じゃない。ここに来た時点で、そう決まったも同然なんじゃないんですか?だとしたら、もう、僕の世界は、無くなったも同然なんじゃないかって」

「そんなこと言ったって、分かんないだろ」

「でも、事実でしょ」

「え?」

「このまま電気治療魔法(サンダーヒール)が広まって、それだけじゃなく、未来にもなかった火での治療魔法まで生まれた。それは事実でしょ。もう、今更、僕が来る前に戻ったりしない」

「それは、そう、だな」

上書きされた。世界が。もう戻れない。エレキは愕然とした。自然と涙が溢れてきた。

「僕の世界は、もう無くなった・・・うぅっ・・・うぅっ」

「エレキ・・・」

トウマは慰めようとも、何も言えなかった。

「確かにな」

「カナデまで」

「お主の心の重荷を量ってやれず、目先の魔法に飛びついた。我々にも非はある」

「そんな。なんだよそれ。だったら、怪我人は放っておいた方が良かったっていうのか?そんなのあんまりだ」

「トウマの言うことも分かるよ?でも、そのせいで、もうエレキは家族に永遠に会えなくなったかも知れない。友達や、大切に思う人にも」

トウマは思い出した。そういえば前に言っていた。結婚を約束した人がいると。トウマはまた何も言えなくなった。

「それでも、戻り方も分からない今は、手詰まりもいいとこだよ。まったく」

「僕は、本当に、電気治療魔法(サンダーヒール)を、広めるべきなんでしょうか」

腕を組んだカナデは、ただ唸った。

「なあ?どうすんだ?回診、するんだろ?」

キチの質問に、エレキは立ち上がれなかった。

「エレキ、少し休みなさい。今までろくに休んで来なかったであろう。己と世界と、未来を、ゆっくり見つめなさい」

「・・・でも」

カナデは澄み切った眼差しを、ふいにトウマに向けた。突然エレキが絶望してしまった。その様子にはどうすればいいか分からないが、トウマはカナデの眼差しの意味を察した。だから小さく頷いた。

「エレキ、カナデの言う通りだ。休んだ方がいい。とりあえず、回診はオレたちに任せてよ。ほら、みんな行こう」

「え、あぁ。じゃあエレキ、先に行ってるぞー」

去っていったトウマとサクラとキチ。トウマの足取りは戸惑っていた。でも今はきっとどうしようもない。それだけは悟った。ダイダラボッチの前で1人座り込んでいるエレキに、アイナは座布団を差し出した。そしてアイナもエレキの前に座布団を置き、静かに座った。

「エレキ。突然1000年も前に遣わされて、辛かろう。それに、済まなかった。私が、孔雀の里を紹介したばかりに。ここまでサンダーヒールの足が早いとは思わなんだ」

「そんな、アイナさんが謝ることでは」

「聞かせてくれぬか」

「え」

「答えは出せぬやも知れん。しかし話すだけでもきつく締まった心は解けるものだ。治療士として、今までの行いに、後悔はあるか?」

「・・・後悔」

アイナの言葉には、エレキも同感だった。話すということ。それだけで心は軽くなる。ただ話す、それは心理療法においても、立派な治療だから。


本堂の境内から出ようという時、ふとサクラは足を止めた。

「私、エレキさんについてあげなきゃ」

そう言って戻ろうとしたサクラの腕を、トウマはすかさず掴んだ。

「何も出来ないだろ。それにオレ達には、治療士としての仕事がある。オレ達は治療士だ。それを全うしないと。それにカナデ達がいるんだ。大丈夫だって」

大人しくなったサクラ。

「なあ、サンダーヒールって広まるとマズイのか?」

「それは、オレだってよく分からない。それに、サンダーヒールを広めることは使命だって、エレキが言ったんだ。なのになんで急に」

「きっと、寂しいんじゃないかな」

「寂しいって。オイラ達がいるのにか?」

「だって寂しそうな顔してた。同じ仲間がいないからかな」

「・・・まあ、確かに未来から来たなんて、エレキだけだよな。あ、そうだ。キチ、エレキが未来から来たなんて、絶対に山賊に言うなよ?」

「まだ言ってないよ」

「まだじゃない。ずっとだ」

今日の回診の場所は牛寺の町。先ずは牛寺に行ってマンリに挨拶。やってきたトウマ達に、マンリはいつものように明るく手を挙げてみせる。

「エレキは?」

「今は休んでる」

「ふーん、あとで牛乳持ってってやんな」

「あぁ」

それからまるで牧場のような牛寺の診療部屋へ。そこには牛寺で働いている孔雀の女性ヤン、そして治療士である兎の妖怪の小柄な女性アサキがいて、トウマ達を明るく出迎えた。

「エレキさんは」

「今は本堂で休んでるんだ」

「そうなんですか」

明るく出迎えたくせにそう聞くとしょんぼりしたアサキ。少し複雑な心境になるトウマ。するとそんな時、子供の泣き声がしたのでトウマ達はなんだなんだと外に出る。診療所にやってきたのはお母さんとちいさな男の子だった。

「治療士だよ。どうしたの?」

「息子が高い所から落ちて、腕が動かなくなっちゃって。すごく痛そうにしてて」

「分かった。もしかしたら骨が折れてるかも。すぐ診るから、こっちに」


エレキがぱっと思い出したのは、大熊の怪我を治したことだった。

「・・・放っておいたら死ぬかも知れない状態を放っておくほうが、何倍も後悔すると思います。僕は、後悔したくないから治療士になったんです」

「そのせいで、未来が大きく変わってしまうとしてもか?」

試されるような問いだった。アイナは探求心の強い女性だということは分かってる。

「この時代に生きる者たちでも、日々、後悔の天秤に迷っている。エレキだけじゃない」

「そうですね」

「どちらを選んでも後悔する時だってあるだろう。後悔すると分かっていても、立ち向かわなければならぬ時もある」

「はい。もちろん、後悔はあります。僕のせいで、十剣士のお二人が犠牲になってしまいました。あの場に電気治療魔法(サンダーヒール)が使える者が他にいればと。だから広めなければって思って。でもそれが、ものすごく大きなものを犠牲にするのだとしたら、果たして本当に正しいのかどうか、分からなくなってしまっています」

カナデは境内に出て、1羽のカラスを呼び寄せた。カナデの提案をよく聞いてカラスは最後に頷いた。静かに飛び立っていくカラスを見送るカナデ。

「頼んだぞ」


「なあ、どうすればいいんだよ」

「ちょっと待って。サクラ、ここはもうオレ1人で大丈夫そうだ。次の人診てあげて」

サクラが迎えに行ったのは、腰の曲がったお婆さん。この患者には、サンダーヒール・ハンドで優しく体を揉んで解すと、前にエレキが言っていた。とりあえず仰向けになって貰って、それからお婆さんの腰に、サクラはサンダーヒール・ハンドで触れてみる。

「あいたっ」

「ご、ごめんなさいっ」

EMSマッサージ治療はまだやったことがなかったサクラ。手加減が分からないと急に不安になる。

「次の方はこちらでお待ち下さいね~」

患者たちの行列を捌いてるのはアサキ。治療行為をするのはトウマとサクラとヤン。キチは帰る患者に薬を手渡す役だが、いちいちどうすればいいかを聞いてくるキチに、トウマはうんざりしていた。

「風邪薬ってこれでいいのか?」

「そっちじゃないよ。赤い目印って言っただろ」

「これか。オイラ物覚え悪いんだよなぁ」

字が書けるトウマは、カルテを書きながら患者の対応に当たっていた。でもキチやサクラから、またはアサキやヤンから指示を仰がれるから、考えることが多すぎて頭がパンク寸前だった。でもエレキはいつも冷静にやっていた。改めてエレキはすごいと感心していた。エレキ一行が、今日はこの寺で治療するという情報が回れば、患者や、診察希望の人がどんどんやってくる。

「トウマ、薬を貰うはず患者が、並んでるよ」

「え?キチは何やってんだ」

「いない」

「はあ?」

「大丈夫、私やるから」

アサキがキチの分も働き出したことにトウマは更にイライラし始めた。醸し出される不機嫌な雰囲気が、その場の空気を重たくさせる。

「すー、はー。いやあ、なんか疲れたなぁ」

外に出て、キチが大きく体を伸ばして深呼吸してるところに、トウマがやってきた。

「キチ何してんだ」

「えー、オイラ疲れたよ。全然分かんないし」

「そんなこと言ってる場合か!」

「おいおい、治療士がそんな殺気立っていいのかあ?」

「お前のせいだろ」

「なんだよ」

「2人とも」

振り返る2人。いつの間にかそこに立っていたのは、ネンだった。

「ケンカしてる場合じゃないよ」

「でもオイラ、学がないから、薬とか分かんなくて」

「そしたら、キチはお客さんたちの話し相手になったらいいよ」

「それなら出来るぞ」

そして診察室にネンがやってきた。それだけで空気が変わった。ネンはチョロチョロと動き回るが、冷静だった。分からないことがあれば冷静に考え、アドバイスをする。キチを客捌き、アサキを薬の対応役にさせることで、少しずつ連携が取れ始めた。

「へー、風邪気味かぁ、だったら薬貰えばいいと思うぞー。あんたは?足が痛むのかぁ。じゃあ治療士に診てもらったほうがいいと思うから、そっちに並んでくれ。あー、転んで擦りむいたのか、泣くなって、大丈夫だって、べろべろばぁー」

時折、患者から笑い声が上がる。それはキチの明るさのお陰だった。トウマは自分の采配が未熟だったと後悔していた。


「正しいかと問われれば、確かに答えは見えぬ。それでも、その時において、最も善きことを為す。それでいいと私は思う」

「そうですね。1000年後、ダイダラボッチが暴れない為に、それが世界そのものを変えることだとするなら、それが、最善なのかも知れません」

「いつの時代も、未来など見えたものではない。しかし、不安ばかりに囚われていては、目の前の患者は救えない。そう、マツキ殿も言っていた」

「そうですね」

「ただ、不安を捨てればいいかといえば、そうでもないとも言っていた。中々、マツキ殿は深い考えを持っている。私達も勉強になる」


1羽のカラスが飛んでいく。カラスはカラスに伝を託し、またカラスは別の妖怪へと伝をを託す。

「そういう訳だよ」

「分かった。すぐに行く」

カラスから伝を聞いたのは、”あの時”エレキに命を救ってもらった大熊だった。大熊は走り出した。

別のカラスがやってきたのは牛寺だった。患者の行列も落ち着いてきた診療部屋にやってきたカラス。

「カナデから、言伝を預かってきたよ。今エレキにしてやれることは、エレキがどれだけ皆の助けになったかを伝えることだって」

「・・・え。カナデが?」

トウマはふと思い出した。エレキが沢山の人や妖怪の命を救ってきたことを。だからこそ後悔した。飛び去っていくカラスを見送りながら、トウマは決意した。

「なぁ、みんなで、エレキを労う会をやらないか?」

「おー、いいね。美味いもん食って騒ぐのか?」

「騒ぐっていうか。エレキにさ、今までどれだけすごいことをしてきたか、ちゃんと伝えなきゃって」


最初に本堂にやってきたのは、カラスたちだった。本堂の中まで滑空してきて、エレキの目の前で着地。

「エレキさんはすごいよ」

振り返るエレキ。3羽のカラスが、仲良さそうに寄せ合っていた。

「オレたち、いつも空から見たり、他のカラスから聞いたりしてる。エレキさんは沢山の人達や妖怪たちを助けてて、本当にすごいよ」

「え?・・・」

「そうさ、エレキさんがいてくれるから、オレたちも安心して治療士を呼べるんだ」

「エレキさん、いつもありがとう」

エレキは必死に涙がこぼれるのを我慢した。ただ頷くことしか出来なかった。そんな時に本堂にやってきたのは、コジロウだった。妖怪に襲われて、まだ6歳なのに母を失った。

「エレキ、さん」

「コジロウくん?」

やって来たものの、コジロウの表情は戸惑っていて、気まずそうだった。

「カラスに言われて来た。あの時、お礼、言ってなかったから。・・・ありがとう、怪我を治してくれて」

「うん。立派な剣士になってね」

「でもオレ、本当はどうしたらいいか分からない。剣士にはなりたい。でも、妖怪がみんな悪い奴じゃないって分かった」

「そっか」

「でも、エレキさんのこと、サイオンさんから聞いて、かっこいいって思う」

気まずそうに、でも少年はそう言って微笑んだから、エレキも頷いた。

「じゃあオレ、修行があるから」

コジロウの次にやってきたのは、大熊だった。ただの熊だから、他の熊と見分けがつかない。でもエレキには心当たりがあった。

「エレキさん、大丈夫か?カラスたちに言われて来た。元気を無くしてるって」

「あ、そ、そうですね。きっと、今までの疲れが溜まったんだと」

「エレキさんの噂は本当にすごい。オレなんか罪を犯したのに助けてくれた、エレキさんは命の恩人だ。それにやり直す好機を与えてくれた。感謝しきれない。困ったときは何でも言ってほしい」

エレキは溢れる涙を拭うので精一杯だった。カナデと頷き合う大熊。

「エレキよ。己の絶望は、己で背負うほかない。しかし今までやってきた功績は、決して消えない。人には分からないものを抱えてたとしても、決して独りではないぞ」

「・・・・・はい」

それからしばらくしてトウマ達が戻ってきた。

「いや~疲れたなぁ~、オイラいつもより頑張ったぞ。聞いてくれよ、エレキが居ないだけで大変だったんだぞ?」

「キチ、その話はあとでいいだろ」

「皆さん、ごめんなさい、僕が」

「エレキ!謝ることない。エレキだって人間だ。休息は必要だって。それに、エレキがいつも涼しい顔でやってることがこんなにも難しいって痛感した。エレキ、本当、いつもありがとう。それでさ、今日は皆で集まって慰労会をしようと思うんだ。エレキを労う会だ」

「ご馳走だぞ~」

エレキは思わず笑ってしまった。自覚した時にはもう遅い、心が疲れるというのは、そういうことだ。それでも人に恵まれている。それこそが心の特効薬だと。ここで、この世界でもっと頑張りたい。そう思えたのだった。

「いえ、頑張ってるのは僕だけじゃない。皆を労う会にしましょう」

「・・・あはは、そうだな!」

「カナデさん、ありがとうございました」

「うむ。して、慰労会はどこで」

「んー。ここでやろう、境内で」

「承知した」

読んで頂きありがとうございました。

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