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青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


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第14話「晴天の剣」

「とは言え、何も起こらんな」

そうネンは失笑する。いつの間にかイオスの隣に立っていた。反応はしてる。でもこれ以上の何かはどうやら起こりそうにない。そうイオスは落胆した。気が済んだようで戻ってきたイオスを見ながら、エレキはふと記憶を振り返った。

「あの、関係ないかもしれませんが、1000年後には、三種の神器というものが伝承されてまして」

「ほう、それはどのような」

「大昔の話で、実際にあるかどうかも分からない物なんですけど、世界の闇を晴らすと言い伝えられている伝説の剣、理を解す勾玉、そして道しるべとなる式神。この3つを持つ者は、神の如き力を持つと」

「ふむ」

腕を組むカナデ。聡明ゆえにすぐにケチをつけたりはしないが、興味は無さそうだった。

「式神、それは剣士たちがよく使うあれのことか」

「確かに、術式剣道の由来は陰陽道ですね。では陰陽道に関わりがある伝承なんでしょうか」

「イオスとやら、その剣に名はあるのか?」

カナデの問いに、イオスは何やら神妙な戸惑いを見せた。

「これは・・・世界の闇を晴らす伝説の剣、名は、晴天の剣」

「お?ではそれがそうではないか」

「いやでも、これは、オレと一緒に異世界からきたもので、この世界には関係ないものだ」

「しかし謳い文句は同じだ。それにダイダラボッチと共鳴してるのだろ?」

「それはそうだけど、でもそしたらおかしい。なんで異世界のものが、共鳴なんか」

「謎が別の株の謎も一緒に引き抜いてしまったか」

「そんな野菜みたいに」

そんな時に本堂にある妖怪がやってきた。皆が振り返ると、それはタキルだった。

「エレキ、ちょっと頼みがあって、蛇寺に来てほしい」

それから蛇寺にやってきた、エレキ、トウマ、サクラ、キチ。するとそこにはもう1人の孔雀が居て、サクラははしゃぐわけではないが歩み寄った。人間の感覚とは違い、同類はみな親戚のような距離感。誰の父親とか、いとことか、そういう細かい識別はない。

「確かサクラだな。オレはユオンだ」

「うん」

「あ、来た来た。いらっしゃーい」

下駄の軽快な足音と共に、明るい笑顔で出迎えてくるムラサキ。

「孔雀が来てくれて助かってるよ。これもエレキのお陰だね」

「いえ、それほどでも。孔雀の皆さんが、魔法の扱いに長けてるからですよ」

「それで、わざわざ呼んだって、何か困ったことでもあるの?」

「実はそうなの。あたいは毒薬専門でしょ?それで毒薬が効いてるかの観察をユオンに頼んでるんだけど、それがどうもね」

「オレが診る限り、毒薬を飲んだ者は、病人になる。結果として病が治ったとして、毒薬を飲んでいる最中が治療中などとは思えず、どうしたらいいか困ってる」

「そうですか。なら僕にも診させて下さい」

ユオンに案内されて向かったのは、居間という名の病室。ただの畳部屋に、布団が敷かれ、間仕切りが置かれただけの、質素なもの。そこには3人の老人が患者として過ごしていた。

「この方はガマさん」

「治療士のエレキです。病気を診させて下さいね。どこか痛みはありますか?」

先ずエレキが訊ねたのは、お婆さん。

「いやもう全身が痛い。それにずっと、この、喉の奥辺りが、刺されたように痛いんじゃ」

「分かりました。喉を診させて下さいね」

エレキは瞳を点灯させた。体温が高いし、喉が腫れている。そして咽頭には小さなブツブツが出来ていた。

「悪寒がしたり、汗が出たりといったことはありますか?」

「えぇ」

「いつからここに?」

「ガマさんは、一昨日から」

「ガマさん、熱っぽいと感じたのはいつですか」

「ここに来た日の昨晩。急に、ふらっときて」

「そうですか」

基本的には、インフルエンザの所見だった。しかし違うウィルス性の病気かも知れないし、ましてや毒薬を飲んでいることから、違う病気も併発してる可能性は高い。問題は、もしこの熱や痛みが、治療の為の過程なら、今ここで電気治療魔法(サンダーヒール)をして、症状を和らげてしまっては毒薬の効果を消してしまうかも知れないということ。エレキは困った。でもふと思い出した。

「この方はゴンさん」

ゴンという男性は、何だか幸せそうだった。聞いてみれば、ここに来るまでは、全く歩けなかったそう。でも毒薬を飲んでから、少しずつ歩けるようになった。つまりこの患者は、治療とリハビリを並行しているということ。

3人目のネズというお婆さんは、一週間前からここに通院しているが、寝泊まりもするような半通院ともいう状態だった。でも症状としては一番軽く、明日にでも帰ってよさそうな明るさだった。

それからエレキはムラサキのもとへ。単純な疑問があった。

「患者さんの病気や症状、薬の服用歴や、過去の病気の経歴を紙に書いて残すというようなことはしてないんですか?」

「あたいは、まだ人間の字は書けなくてね」

つまりカルテはない。時代的に仕方ないことかも知れない。エレキは落胆した。

「でもそれは確かにやるべきだよね。でもタキルだって、字は書けないと思う。トウマは、もう書けるんだっけ」

「あぁ。そしたらそれは人間の治療士にやって貰えばいいよ。オレもたまに手伝うし」

「そうだね」

「それと患者さんを診て思ったのは、毒薬というのは使いどころを選ぶべきということです。以前、孔雀さんの肺炎を治す時に使った毒薬が効果的だったのは、病気の特性によるものだったからです。言ってみれば、毒を毒で殺すことが有効だったから孔雀さんは元気になった。でもここの患者さんには、その毒を殺す毒が適さない症状なのではないかと思いました」

「んー、そっか、やっぱり薬草の薬のようにはいかないのね」

「でも、ゴンさんに関しては、その毒が適切でした。治療には、治すだけではなく、治らなくとも痛みは取り除くという方法もあります。そういう毒、つまり、痛みを感じなくなる毒というものがあれば、例え治らなくとも、少しでも動けるようになったり、苦しまずに最期を迎えることが出来るようになります」

医療用麻薬、いわゆるモルヒネのような効果が、きっとゴンさんには出ていた。そうエレキは思った。するとムラサキは真剣に頷き、笑顔を浮かべた。

「すごい。とても勉強になるよ、ありがとう」

「あとは、毒薬に関しても、どんなものをどのように調合したものなのか、どんな病気に効いて、どんな病気には使うべきでないのか。紙に書き留めておくようにして下さい」

「うん」


その日、エンユウは虎寺を訪ねていた。十剣士の羽織を着て刀を腰に挿し、しかし袖には治療士であることを示す家紋の刺繍が施されている、そんな奇妙な格好に、シュウは筋トレの手を止めた。

「妙な肩書きだな」

「だろ?ちょいと頼みがあって来たんだ。これはマツキ総師範直々のお達しさ」

「ほう」

「腕っぷしに自信がある妖怪たちに、ぜひ術式剣道を学んでほしい。稽古はオレがつける。剣士になれということではないんだ。ただ自分と、大切な者を守れるようになってほしい。それがマツキ総師範の願いだ」

「なるほどな。1つ聞きたい。お前は何で治療士になった」

剣士の大敗北、あの事柄が知れ渡ってない訳はない。でもあえて問いかけたシュウの強い眼差しに、エンユウは冷静になった。

「オレは、取り返しのつかない失敗を犯した。自分の、力を過信してたんだ。一度、剣を捨てた。それでも妹や、同胞達はオレを許してくれた。もちろん世間からはまだ許されてないだろう。でも妹の言葉に、気づかされたんだ。剣士は、人間も妖怪も帝都も護るものだと。もしかしたら、マツキ総師範は、最初からその視座に居たんだと思う。過ちを犯したことも、剣を捨てたことも、なんだかちっぽけに思えた。自分が意気揚々と歩んできた道が、実は大したことないものだと気づかされた。だからオレは、本当に帝都を護るために生きようと決めたんだ。帝都を護るために出来ることは全部やるとね」

「・・・感心したよ。お前みたいな剣士が増えてくれるといいんだがな」

「それでまぁ、総師範から、人間にも妖怪にも等しく、身を護る術を教える師範としての命を受けた。シュウにも、ぜひ協力してほしい」

「そういうことなら、惜しみなく手を貸してやる。力が有り余ってる奴らに声をかけておく」

「ありがとう」

カラスが街を飛ぶ。その1羽のカラスを見上げながら、数人の妖怪が列を為していた。同じ頃、十数人の若い剣士達も、とある目的地に向かっていた。そこはろくに整備もされてない広い空き地。やがて若い剣士達と妖怪たちは、その空き地に集まった。目的を知って来ているのだから雰囲気は悪くはない。ただ戸惑っていた。しかも集まったのは剣士や腕っぷしのいい妖怪だけではない。人間の子供や、子熊やカラス、イタチもいる。そして最後に、リンネとハルも姿を現した。

「皆、集まってくれてありがとう。これより、人間も妖怪も分け隔てなく、一丸となって帝都を護り、助け合っていく為の道場を開く。と言っても何もない空き地だが。剣士を育て、同時に魔法創会も作り上げたマツキ総師範は、常に人間と妖怪の未来を案じておられる。オレはその視座に感銘を受け、そしてその視座を支える為に生きたい。かく言うオレも、剣士であり治療士。皆には、どちらの道もあることを肝に銘じてほしい。とは言え、この道場は、剣士か治療士どちらかを選べというものではない。2つの道を歩む術を学ぶものだ。剣士になってもいいし、治療士になってもいい。どちらにならずともいい。しかしこの道場で学んだことは、必ず自分の命を護る術になる」


翌朝。魔法創会本堂の寝食部屋でいつものように目を覚ましたトウマは、朝食を終えるとエレキに合流する為に虎寺に赴いた。犬としての聴覚と嗅覚を利かせながら、困りごとがないかパトロールも兼ねて。虎寺のある街に入ったところで、トウマは鼻を利かせた。キチの臭いがした。散歩でもしてるんだろう。そう思って、何となく臭いを追いかける。曲がり角を曲がればキチが居るというところで、トウマは立ち止まった。話し声が聞こえたからだ。

「正直、サンダーヒールってのは難しいったらないよ。オイラ、おまじないだってままならないのに。けど学だけはついたけどね」

「習得は出来ずとも、お頭への伝があれば収穫だ。とは言え、実はデンゴは少し出来るようになった」

「はははっ。デンが出来るならオイラ要らないじゃん」

「まぁ、魔法の他にも新鮮な伝が得られるのはいいことだよ。お頭もお喜びだ」

「そっか。ならいいけどさ」

やがてキチは去っていった。トウマは頭を巡らせていた。キチと話していたイタチから感じた、別の臭い。覚えがあるような臭いだった。でも思い出せない。トウマはとりあえず虎寺に向かった。

「エレキおはよう」

「おはようございます」

キチはエレキとサクラと一緒に朝食をとっていた。

「なぁキチ」

「ん?」

「さっき話してたイタチは、友達か?」

「・・・・・え。あ、そそそうだよ」

「もしそのイタチもサンダーヒールを学びたいっていうなら連れてきたらいいんじゃないか?」

「え・・・あ、え」

「どういうことですか?」

「ここに来る途中、キチがイタチと話してるのが聞こえたんだ。どうやらイタチもサンダーヒールが出来るようになったみたいだけど」

「キチ、サンダーヒールのこと、言いふらしてるの?」

サクラの純粋な質問。ポカンとするエレキ。眼差しの鋭いトウマ。キチは、ゆっくりと握り飯にかぶりつきながら、ゆっくりと頷いた。

「キチも優しいんだね。サンダーヒールを広めてくれてるんだ」

サクラのそんな言葉に、エレキも微笑んだ。だからキチも苦笑い。でもトウマだけは渋い顔をしていた。

「でもなんでコソコソしてるんだよ。連れてくればいいのに」

「それは・・・」

「イタチをエレキに会わせたくない理由でもあるのか?」

「トウマ、そんな疑り深い言い方しなくたって」

一緒に朝食を取っている、虎寺で働く孔雀がそう宥める。

「そりゃあ・・・疑うよ。だって初めて会った時のキチの臭いは、街の人の臭いじゃなくて山賊と同じ臭いだった」

鼻が利く犬の妖怪。トウマの冷静なその言葉にはきっと嘘はないのだろう。そう皆は固まった。

「今まで様子を見てたんだ。疑いだけで決めつけるのも悪いから。でも、さっき話してたイタチからも山賊の臭いがした」

キチはゆっくりと食事の手を止めた。いつものように明るくごまかすようなこともせず、まるで観念したかのような様子だった。

「キチ、お前、山賊なんじゃないのか?」

キチは焦った。バレてしまった。もうここにはいられない。サンダーヒールもまともに出来てないけどもう逃げるしかない。

「それでもいいですよ。むしろ歓迎します」

「は?エレキ何言ってんだよ!さ、山賊だぞ」

「むしろ、嬉しいです。キチに会えて」

「おいおい」

エレキは理解した。確かにキチは山賊のスパイだろう。でも同時にカナデとの会話を思い出した。

「トウマさん。僕の使命は、電気治療魔法(サンダーヒール)を広めることです。相手が誰かは関係ない。それにずっと思ってました。山賊の村に治療士はいないのかなって。剣士に負けて帰っていったあと、どうしてるんだろうって。でも安心しました。これで山賊の村にも電気治療魔法(サンダーヒール)が広まれば、怪我をしても大丈夫だって。僕はこの状況をこのまま、僕の使命の為に利用しますよ」

トウマは何も言葉を返せなかった。むしろまるで八賢衆のような聡明さに驚いていた。

「感心したよ」

皆が振り返る。居間にやってきたのはシュウだった。

「その心意気。それでこそ魔法創会の治療士だ」

「だからキチ。このまま、電気治療魔法(サンダーヒール)を学んで、イタチさんに伝えてください」

「い、いいのか・・・」

戸惑うキチに、エレキは微笑んで握り飯にかぶりつく。

「ならばキチ。お前はエレキに恩を返さなきゃいけない」

そうシュウはエレキの達の前にドカッと座り込む。

「・・・え」

「山賊の長はどんな奴か、それくらいは話すべきだろう」

そうなるとキチはまた別の焦りが募る。逆に逃げてしまった方が楽なんじゃないかと思い始めた。

「僕も聞きたいです。ジュウガイさんのこと」

キチはフリーズした。シュウもフリーズした。サクラはひとり首を傾げる。なんで、名前を知ってるんだと。エレキはハッとしたがもう遅かった。

「・・・何故名前を知ってんだ」

山賊の長は時山という苗字の男としか、帝都には知られていない。でも親しそうに名前を口にしたエレキにシュウは目を丸くする。自分が未来から来たことを直接話したのは、トウマとカナデとネンとアイナ、そしてイオスだけ。でもエレキはもうめんどくさくなった。秘密にしてほしいという条件で、エレキは未来から来たと打ち明けた。カナデ達には話していて、電気治療魔法(サンダーヒール)は未来のおまじないだということも。

「時山ジュウガイという人はとても強くて、義理堅くて、聡明で有名な剣士なんです。でも語り継がれてることしか知らないので、実際はどんな人なのか知りたいし、会ってみたいです」

「こりゃあ驚いたな。でも辻褄は合う。そうか。ん、ちょっと待て。とするとお前は、時山が何をしようとしているかも知ってるんじゃないのか?」

これから何が起こるか、未来人にとって一番避けたい話題だった。でもシュウのような聡明な妖怪には見透かされてしまう。エレキは話したはいいものの、少々困ったことになったと後悔した。

読んで頂きありがとうございました。

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