表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第11話「剣士とはぐれ者」

「オイラ、キチってんだ、よろしくな」

「・・・怪しいな、大丈夫かな」

「そりゃないよぉ犬のアニキ」

「な・・・オレは、アニキじゃない、トウマだ」

「よろしくなトウマのアニキ」

「だから・・・」

「そっちの嬢ちゃんは?」

「サクラです。よろしくお願いします」

「へぇ~礼儀正しい嬢ちゃんだなぁ」

半獣でもない普通のニホンザル。でもすごく明るくて調子が良さそう。エレキがそんな印象を抱いた矢先、軽く腕を引かれる。

「あんまり信用しない方がいい」

「そうなんですか?でもどうして」

その直後に人間の子供の泣き声がして、エレキはハッとする。まだ怪我人がいる。泣き声の方へと急行するエレキ達。するとそこに居たのは家が燃えてしまって泣いている女の子だった。怪我は無い。だがエレキは立ち尽くした。

「どうしたんだお嬢ちゃん」

そんな時に陽気な声を上げたのはキチだった。

「家だったらまた建てられるから、もう泣くなって」

「・・・ほんと?」

「オイラ嘘つかないぞ?ベロばぁー」

「・・・あは、あはは」

妖怪や山賊からの襲撃に遭って家が燃えても、幸い、帝都には沢山の大工が居る。人間も妖怪も関係なく、大工はとにかく働きたいという奴を拒まない。それはこういう事がよくあるからこその、帝都らしい逞しい生き方。


走っていくイタチ。人間達の間を縫うように素早く駆け抜ける。誰もその忍び足には気付かない。やがて町のはずれに出ると、待機していたアオサギの足にしがみつく。大きく翼を広げて飛び立ったアオサギ。アオサギは木々を越え、崖を越え、そして山を越える。やがてアオサギが着地したのは、山賊の村。

「お頭」

イタチの声に振り返ったジュウガイは、畑を見ていた。

「ん、来たか」

「キチは難なくエレキ一行に入り込みました」

「そうか」

翌朝。今朝の飯には、肉が出た。若い衆が良い鬼を仕留められた。これも日ごろの鍛錬のお陰だ。

「ジュウガイさん、デカい鬼仕留めたのオレっす」

そういって胸を張ったのは半獣半人の馬の妖怪。

「ん、お前は確か、モバか。ここに来て浅いのによくやったな」

「へへ、腕には自信があるもんで」

「それなら、そうだな、ガツ」

「へい」

「モバと町へ出ろ。電気の治療士達に見せ場を作ってやれ」

「・・・ん、え?」

「ったく、分かんねえか?お前らが町で暴れりゃ、電気の治療士達が魔法を使うだろ。そしたら傍についてるキチが魔法を盗めるだろ」

「・・・・・まじすか!こ、ここにも、あの噂の魔法を」

「そんな算段がついてるなら教えてくださいよ」

「あれ?言ってなかったか」

「初耳っす」

「そうか・・・まぁつまりそういう事だ」

そうしてガツとモバは村を出た。モバは村に来てまだ1週間。討ち入りの時もロクに戦わなかった。でも鍛錬のお陰か、今朝は鬼を仕留めた。そして調子に乗ってる。ガツは何となく不安だった。

「ガツさんは、マジでカッコイイっす。十剣士を2人もやっちまうなんて。他のアニキ達も皆、すげえって」

「あれは、運が良かっただけだ」

「またまたそんなこと。で、その、今日はどの剣士をやるんすか」

「いや、でかい事はしない」

「え?」

「お前はまだ新参だろ?だったらジュウガイさんが、何を考えてるか、オレ達がどう振る舞えばいいか、分かんねえだろ」

「それくらい分かりますよ。とにかく剣士を殺すんすよね?」

呆れて思わず足を止めるガツ。確かに血の気の多い奴が集まった村だ。けど頭が悪い奴から死んでいく。

「違う。よく覚えとけ。ジュウガイさんは、何も考え無しに暴れてほしいとは思ってねえ。オレらは、ジュウガイさんを邪魔しちゃならない」

「どういう意味っすか」

「ジュウガイさんには、理想がある。まぁ、その目標というか、オレたちが本当に気ままに剣士や町を襲ったら、ジュウガイさんは怒るし悲しむ。オレ達はジュウガイさんに恩がある。村に居させてもらってんだ。それは分かるだろ」

「まぁ恩があるのは身に染みてます。けど、分かんねえっす。今朝はだって、町に出て暴れろって、なのに、意味が分かんねえっす」

「だから・・・その、あー、なんて言やいいんだ。だから、手加減だ。手加減しろってことだ」

しかし途端にモバは嫌な顔を見せた。

「なんすかそれ。・・・・・オレは、ずっと剣士に蔑まれてきたんだ。だから町を出て、ずっと復讐の機を待ってたんだ、手加減なんか出来るかよ」

「チッ・・・バカかよ。もういい村に帰って頭冷やせ」

目を見開いたモバ。そして軽くガツの肩を突き飛ばす。

「バカはどっちだ!オレはケンカする為に村に来たんだ!あんたこそ帰れよ!オレ1人でやる」

そこまで言われたらガツも頭に血が上り、胸ぐらでも掴みたくなる。しかしすでにモバは走り出していた。

「おい!・・・えぇ・・・」

ガツは怒りがふっと消えるほど驚いた。馬って、足速いんだな、と。どんどん遠ざかっていく。しかし直後に焦りと後悔がのしかかって来た。このままではまずい。

「あーもう、くそっ」


エンユウは独り、瞑想していた。自分は十剣士の中では参謀と言われるほど、賢く生きてきた。その自信があった。今まで、若い剣士を犠牲にした事などなかった。なのに。

エンユウはふと目を開けた。頭にこびりついて離れない。若い剣士が、蹂躙される光景が。瞑想も出来ないほど、今でも血生臭さが甦ってくる。だからエンユウは立ち上がり、縁側を下りて、宿舎を後にした。ただ町をぶらぶらする。普段ならそれで十分気分が和らぐ。ふと立ち寄った団子屋の店先に、若い剣士達が座っていた。

「・・・エンユウさん」

「お、おう・・・」

元気そうに団子を食べていた。

「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ?」

「・・・いや、心配ないよ」

それからエンユウは当てもなく歩き出した。


虎寺にて。今日は虎寺で”講習会”をやることにしたエレキ達。シュウは勿論、虎寺の町で働いている治療士や、その見習いまで、数人が集まってエレキの電気治療魔法(サンダーヒール)の実演を見学していた。

「このように、電圧を弱く調節することで、細胞は活性化して、増えたり大きくなったりして、より強くなります。そして筋肉は、電気刺激を与えると傷付きますが、時間と共に修復されることで、傷付く前よりも大きくなるんです。つまり、シュウさんのように毎日重たい物を担いだりして鍛錬しなくても、電気魔法を使うことで、誰でもシュウさんのような強い体に近付くことが出来るんです」

「え・・・別にシュウみたいにはなりたくないけどな」

「おいおい」

笑いに包まれて講習会は終わり。

「それにしても感心するなぁ、サンダーヒール。治療だけじゃなく、体を強くするとは。剣士にうってつけだな」

シュウが感心する傍らで、キチは電気治療魔法(サンダーヒール)の練習に取り掛かる。それを見てかトウマや見習い達も真似して、今度は実習会が始まった。


町を放浪しながら、エンユウはマツキの言葉を思い出していた。決して、道を見誤ってはならぬ。敵を、自分を、見誤ってはならぬ。正しく剣を持つとはどういうことかを、常に考えろ。そして心を鎮める鍛錬はその為にある。そうだ、オレは、見誤ったんだ。敵も自分も道も、剣も。

一方、モバはイライラしていた。小さい頃から、馬だ、鹿だと蔑まれて沢山鞭で叩かれた。物心ついた時には、宿舎にいた。剣士を乗せる「剣士番」は馬の中では名誉のある仕事だ。なりたい馬も多い。けどオレは嫌だった。毎日無理やり走らされていたから。だから剣士も嫌いだ。そして町をぶらぶらしているモバは、同じく当てもなく歩いていたエンユウを見つけた。今このイライラをぶつけられるのはあいつしかいない。そうモバは向こうから歩いてくるエンユウを睨みつける。


「大変だ―!剣士と山賊がケンカしてるぞー!」

空でカラスが鳴いていた。エレキ達は思わず虎寺から飛び出した。するとそんなエレキを見つけて1羽のニュースボーイなカラスがやって来る。

「山賊が出た。剣士が戦ってる」

「案内してくれますか?」

「がってーん」

体を翻して飛んでいくカラスを追いかけ、エレキとトウマとキチは走り、サクラは飛んでいく。向かった先は、虎寺と馬寺のちょうど中間辺りの大通り。一先ず、火事にはなってない。少々の野次馬がいるが、静まり返った空気だからこそ、怒鳴り声が響いてきた。

「あ、エンユウだ」

トウマが呟く。どうやら1対1の戦いらしい。そしてエレキはすぐに気が付いた。必死に斬りかかる馬の妖怪を、エンユウは鞘のままの刀で軽くいなしていた。実力に大差があった。

「ふざけるな!剣士のくせに戦わないのか!」

「エンユウさん!」

エレキに振り返るエンユウ。明らかに本気ではなく、そして闘志もなかった。それでもエンユウは軽い身のこなしと、卓越した剣術で馬の妖怪をあしらっている。しかしその時だった。

「『霊刀』鎌風(かまかぜ)

モバは刀から風を操って辺り一面に放った。それは暴れるような風の刃で、無差別に野次馬たちを襲った。

「きゃああ!!」

暴風に逃げ惑う人々。その中で数人が、まるで通り魔にでも遭ったかのように血を流して倒れ込んだ。

「はは!てめえのせいだ間抜けの剣士!」

アイコンタクトを取り、エレキ達はすぐに怪我人の治療を始める。

「十剣士!しっかりしろ!」

今度は野次馬から怒号が放たれる。それでもエンユウは刀こそ抜かないが、素早く飛び出してモバの腕を叩き、刀を落とさせる。

「いてえ!」

鞘刀を真っ直ぐ突き出し、鋭い眼光を向けるエンユウに、モバはたじろいだ。その時だった、そこに息の荒いガツがやって来たのは。

「ふう・・・やっと、見つけた・・・はぁ」

「あ、ガツさん」

空気が凍りつく。更なる山賊。そしてエレキは硬直した。あの時の、熊の妖怪。

「こいつ、剣士のくせに全然戦わない間抜けなんだ。さっさとやってくれ!」

鞘刀を突き出してモバを牽制したまま、鋭い眼光をガツへ。しかしガツはそんなエンユウを鼻で笑った。

「何で戦わない」

「オレには、もう、刀を抜く資格はない」

「は?」

「何言ってんだ十剣士だろ!」

野次馬からの怒号。

「オレは、浅はかな討ち入りで、若い剣士を何人も無駄死にさせた。もう、剣を持つ資格はない」

「エンユウさん、それはちが――」

「アッハッハッハ!!」

ガツの大きな笑い声でエレキの声は潰された。

「無様だな!確かにまともな戦も出来ない奴は要らないよな!でもいいのか!?罪滅ぼしも、弔い合戦もせずに」

「どういう意味だ」

「十剣士2人を殺したのは、オレだ!」

エンユウは必死に我慢していた。冷静さを欠いたら、それこそ今までの鍛錬が無駄になる。こういう時こそ、自分を見誤ってはならない。

「下手な戦して、その仇を前にしてもその様か、十剣士も間抜けばかりだな」

「十剣士をバカにするなあああ!」

高らかに挑発して余裕をこいていたガツはその威勢に思わず硬直した。斬りかかってくる勢いの怒声だが、エンユウは刀を抜かなかった。

「後悔に押し潰されそうだ!!自分の未熟さを、自分が1番分かっている!!守るべき者を守ってやれなかった。貴様には、守りたかったものなど居ないだろ!!」

涙こそ流さないが、エンユウの心は泣き叫んでいた。ガツの脳裏に、閃光のように弟の笑顔が浮かび上がる。

「守るべき者を守れなかった者が、どうして刀など抜けるんだ!!どうして誰かを恨めるんだ!!自分の過ちを忘れて、どうして生きていけるんだ!!」

ガツは震えていた。エンユウの心の叫びは、自分そのものだった。

「なら・・・てめえは、オレらを恨まないのか?」

「恨みで剣と取ったところで、それは自分を見失ってるだけに過ぎず。それこそ無様に他ならない」

「・・・・・ガツさん!こんなやつさっさとやってくれよ」

するとガツは静かに背中を向けて去っていった。

「ええ!ちょっと、なんだよ!だったらオレがやる!」

「おい山賊」

顔を上げたモバ。家屋の屋根の上には1人の十剣士が立っていた。颯爽と飛び降り、刀を抜きながら着地したのは、幕馬(ばくま)トウジンだった。

「分が悪いかどうかも見極められねえか」

「くそ、覚えてろ!」

逃げ足だけは本当に速いモバ。トウジンは呆れたように刀を納める。

「格下か。・・・で、どうやら、オレの出番は丸っきり無いようだな。エンユウ、よく守ったな」

しかしエンユウはすぐさま歩き出す。

「エンユウさん!あなたは立派な剣士ですよ。どんなに取り返しのつかない失敗をしても、立派な剣士です」

何かを言いたそうな顔だった。しかしエンユウは何も言わなかった。そんなエンユウの背中を、エレキはただ見送ることしか出来なかった。

早々に村に戻って来たガツとモバ。お互いに不機嫌だったから会話もなく、ガツはまたどこかに行き、モバはジュウガイにの下に向かった。

「ジュウガイさん。ガツさんは、おかしいっす」

早々に帰って来た理由と経緯を説明したモバを、最初に怒鳴りつけたのはジュウガイの右腕的な存在。半獣半人の猿、ゴウザだった。

「何度も言ってるだろ。ジュウガイさんの望むやり方があるんだ。分からねえようじゃあ町には行かせられねえ」

「そんな・・・」

「にしても、ガツもどうしちまったんだか。あとであっしから叱ってやります」

「いや、オレが話す」

「へい」

村の近くの川。ガツは独りで川を眺めていた。エンユウの、無様な喚きようが頭にこびりついていた。ざまあみろとも思った。けど、何故か刀を抜く気にはなれなかった。

「モバから聞いたぞ」

「・・・ジュウガイさん、あの、その、すいやせん」

「いや、お前は立派だ」

「え・・・」

「怒りにはな、2つあんだ。自分を見失う怒り。そして、真っ当な憤りだ。自分を見失う怒りってなぁ心を鬼にしちまう。自分が誰のために怒ってんのかも分からねえ。でもお前は、この村でよくやってくれてる。それは、怒りじゃなく、憤りで剣を握ってっからだ。憤りとは、弱き者の為に立ち上がった者が持ってる、立派な志よ」

「・・・剣士が、不憫に思えた訳じゃねえです。でも、あいつの、コマの顔が浮かんできて、オレ・・・」

ジュウガイは優しくガツの肩を抱いた。ガツはただ、静かに涙を流していた。

「それでいい。オレ達の憤りは、何も間違っちゃいねえ、立派な剣なんだ」


狐寺のある町。剣士たちの道場と宿舎の近くに建つ一軒の家屋。そこはマツキの家。居間にて、マツキと対峙するエンユウは姿勢よく正座して、鞘刀を目の前に静かに置いた。

「オレは・・・剣を捨てます」

「・・・そうか。それが、お前の償いか」

その日の夜。エレキはトウマとキチとクラマと露天風呂に入っていた。

「うひょーー。帝都にはこんないい湯があるのかあ。ずっと入ってられそうだ」

「キチ、のぼせるなよ?」

「そうですか、残念ですね、エンユウさん」

「今でも、死んだ剣士達の親やらから苦情が来るからな、仕方ねえよ」

エンユウの心の叫び。それは不格好だけど、立派な叫びだった。エレキにはそう見えた。剣士も人間だし、妖怪だって立派な命。だからこそ、エレキは何となく、凍りついたような表情だったガツのことも心配になった。

読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ