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青天のエレキ  作者: 加藤貴敏


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第10話「山賊を束ねる者」

山賊の村。そこで1番大きな家屋で、その時、祝杯が挙げられていた。山賊達の祝杯。決して豪華ではないし、酒だってそもそも盗んだもの。それでも山賊達は勝利を祝っていた。剣士達を返り討ちにしたから。

「怯えて逃げていく剣士共の無様ったらねえな」

「帝都に一矢報いたよな。お前の弟も喜んでるだろ?」

仲間からそう言われれば、とりあえず微笑んで頷き返すガツ。でもガツはふとジュウガイの顔色を伺う。祝杯という席でも、ジュウガイはいつも通り。いや、そもそも今は子分達が勝手に盛り上がってるだけ。ジュウガイは祝杯とすら思ってないだろうと。

「おめえらそれくらいにしろ。たかが剣士を追い払っただけだ。祝うような事か」

「けどジュウガイさん。今まであんなに剣士を一網打尽に出来たことなかったんすから」

「剣士を殺せるように戦い方を教えてくれたことへの恩返しの祝いでもあるんすよ」

「こじつけもいいとこじゃねえか。ったく」

そんな時に、ササっとジュウガイの下に忍び寄るものがいた。それは忍びのイタチ。

「例の治療士のせいで、剣士達は大分生き残りました」

「そうか」

「孔雀と結託して、魔法の頭数まで増やしてます」

ジュウガイは黙って頷く。

「あんだってぇ?ジュウガイさん。その、新しく来やがった治療士。やっちまった方がいいんじゃないすか?」

「そうだそうだ。雷属の魔法だか知らねえが、邪魔だ」

「いいっすよね?」

ほろ酔いの子分達は、許しが出れば今にもかち込んで行きそうな顔だった。だからジュウガイは困ったように首を横に振った。

「今は機にあらず。それに、邪魔じゃない」

「どういうことすか」


蛇寺の町。臨時の治療場で、エレキは電気治療魔法(サンダーヒール)で使う為のサンダーヒール・ハンドをじっくりと見せる。

「おまじないでは、とにかく念力が大事です。これも、いかに頭の中で鮮明に思い描くかが大事です。おまじないの中で、雷属性魔法を使うんです」

さすがに1番早く出来たのはサクラ。涼しい顔でサンダーヒール・ハンドをトウマとソウハに見せつける。すると2人も躍起になって集中する。

「さっきより、ピリピリしないです」

「僕にとっては、おまじないなしでサンダーヒール・ハンドを作ったクエンさん達の方がすごいと思いますけど。おまじないの中でやれば、サンダーヒール・ハンドで自分の手が火傷しなくて済みます」

「そうだったんですね」

その直後、トウマの手に一瞬だけ電気がちらついた。

「うおっ出たぞ!出た!見たよな?」

「その調子です」

しばらくして、バサバサと羽ばたく音が近付いてきた。それは1羽のカラスだった。

「エレキさん、カナデが呼んでる。ダイダラボッチが動き出したって」

「ええぇっ!!」

真っ先に驚いたのはトウマ。

「そりゃ大変じゃないか。すぐ行こう」

「でも片付けが」

「それは、ソウハ達に任せればいい」

「えー、もうしょうがないなぁ。いってらっしゃい」

「ありがとうございます」

「サクラも、ソウハを手伝ってあげてよ。終わったら本堂に来てくれればいいから」

「・・・はい」

早々に馬に乗って行ってしまったエレキとトウマ。サクラは小さな溜め息をついた。

そうして本堂にやって来たエレキ達だったが、着いて早々拍子抜けした。動いたなんて大袈裟で、ただ鼓動が鳴っているだけだったから。

「動き出す兆候という事でしょうか」

「それも分からん。以前にダイダラボッチが暴れた際の文献には、暴れ、眠った様子しか書かれていない」

「これって、心臓の鼓動だよね。聞こえてるのかな」

そう言ってトウマは無警戒にも歩み寄り、巨大な卵のような形をした岩肌に触れた。

「ぬくもりは無いか。なぁエレキ、中を診れるんじゃないか?」

瞳を点灯させたエレキだが、すぐに消灯した。何も見えなかった。

「不思議だよなぁ、ほんと」

中が見えないという事は、生物的な体組織ではないということ。それでも例えば皮膚が分厚い岩だったりという可能性もある。とはいえ、ただ心臓の鼓動が響いてくるその物体が、不気味でならなかった。

「そうだ。忙しくて行けてなかったけど、今日はこのまま馬寺に行こう。まだ挨拶してなかったよな?」

「そうですね」

本堂の境内で待っているとサクラがやって来た。でも何だか不機嫌そうだった。

「ありがとな。これから、馬寺に行こう」

「分かりました」

何だか子供みたいに拗ねているサクラの顔色を、エレキは無視しなかった。

「どうしたの?」

「・・・本当は、置いていって欲しくなかったです」

「あー、それは悪かったって」

トウマは気さくで人懐っこいし、ちょっと距離感が近い。だから笑って謝ってるが、どうやらサクラは納得してない様子。ふとエレキは考えた。鳥類は、基本的には群れで行動する。1匹で野良生活も出来る犬と比べて、鳥類はきっと群れへの依存度が強いのだろうと。

「不安だよね、群れから出て1人で来たから」

「確かにそうだよな、見た感じまだ若いし」

やっと反省の顔色を見せたトウマ。するとサクラの不機嫌もちょっとだけ直りかけたのも見て取れた。

「でも、トウマは気さくで優しいし、サクラちゃんを頼りにしたいと思っただけだから、別に置いていきたかった訳じゃないよ」

「そうそう!そうだよ。サクラだってもうオレより先に電気治療魔法(サンダーヒール)が出来て、すごいよ」

「・・・え、えへへ、そうですか?」

女の子の機嫌が取れたことに、エレキとトウマはほっとして喜びを分かち合う。


ジュウガイは畑を耕していた。この村には、帝都から追い出された人や行き場を無くした人が来る。罪を犯した人、その家族。あとは帝都ではない所から来た放浪者なんてのも。でも行き場が無いなら作ればいいし、生きていくためにはどうしたって食いもんがいる。

「帰ってきた!」

子供がそう声を上げて、狩りから戻って来た大人達に駆け寄っていく。誰もが”鬼”と呼んでいる獣の肉が、力をつける為のもっぱらの食料となる。

「・・・それだけか」

「すいやせん、でかいのには、逃げられて」

「・・・そうか」

早速肉を捌いて、先ずは若い衆と女と子供に分ける。それから・・・。

「そんないけねえっす。ジュウガイさんの分が無くなるじゃねえっすか。オレ、そんな要らねえっす」

「若えもんが食わないでどうする。俺は魚が好きだからいいんだよ」

「で、でも」

「おいおい、貰っとけって。ジュウガイさんはな、本当に魚が好きなんだ」

「お、おう、そ、そうなんだ。今日は魚の気分だ。それに山菜の漬けもんがあればいい」

確かに好きであることに嘘はない。串を刺し、網に乗せ、そして炭火で焼かれた魚の香ばしい臭いはたまらない。十分美味い。しかし肉にありつけなかったのも、それはそれで口寂しい。ぼりぼりと漬物を食べながら、それでもジュウガイは微笑んだ。嬉しそうに肉にがっつく若い衆を見てると、自然と口元が緩む。貧しいが、死ぬほどではない。今はこれでいい。今は。


馬寺の町にやって来たエレキ達。エレキとトウマは馬を降り、飛んできたサクラは着地する。

「ちょいとごめんよ~」

颯爽と駆け抜けていく人がいた。まるでバックパッカーのように大きな荷物を背負い込んで、でも重たそうな荷物をものともせずに走り去っていく。ふと気が付けば、この町にはそんな人がそこら中に居た。

「あの人達って、飛脚ですか」

「そうそう。この町は、帝都中に色んな荷物を運ぶ飛脚たちや商人たちの集う町なんだ。帝都の外の町から来る行商人も来たりして、色んな話や、帝都じゃ見掛けない珍しい物も集まってくる」

「へぇ~、すごいですね」

エレキはようやく帝都の全貌を見た気がした。薬草と薬、農業や酪農、そして情報と貿易。こうやって1000年前の人達は生きてたんだと、感慨深くもなった。それから馬寺に到着すると、真っ先に目に留まったのは厩舎だった。まるで牧場のように広い敷地もあり、整列した馬車もあった。

「おーい、ナギトー!」

魔法創会の建物ではなく、厩舎に入っていってトウマが呼ぶと、馬耳で尻尾のある1人の男性が振り返って手を挙げた。

「よく来たな」

「ここを仕切ってる八賢衆のナギトだよ」

「エレキです」

「うん。じゃあその子がサクラか」

「そうそう。さすが話の仕入れが早いね」

「ははっそれが取り柄だからな」

エレキは内心で驚いていた。この時代で、SNSみたいな速度で情報が運ばれてるなんてと。

「これでやっと挨拶回りが終わったよ。ついでに聞きたいことがあるんだ。西都の事」

「おう」

するとナギトはすぐに歩き出し、厩舎から隣の建物へと案内してくれた。馬寺の中は、どこかオフィスチックな雰囲気だった。テーブルがいくつも並び、妖怪と人間たちが何やら大量の書類を捌いている。

「実はオレ、魔法創会じゃ西都との交流の玄関口を担ってるんだ」

「そうだったんですね。どんなところなんですか?」

「ここよりも少し大きな都で、海が近いから漁業が盛んで、あとは魔法創会の治療士よりも腕の立つ医者がいるんだ」

「えっそうなんですか!どんな魔法を」

「魔法は使わず、知識だけ、でもその知識がすごくて、病気になった時の対処が的を得てる」

「是非会ってみたいですね」

治療士ではなく、医者。魔法ではなく、医学で病気を治す。この時代でも医者がいるなんてと、エレキは興奮した。

「新しい伝話(つてばなし)はこんなところだ」

ナギトが手に取ったのは、だいたいA4サイズと思われる、3枚の紙切れ。エレキも覗いてみると、そこにはメモのように箇条書きで情報が書き留められていた。

「手紙はまだ?」

「あぁ」

「手紙って?」

「西都の医者のサモンさんと文通してるんだよ。帝都に医学を教えてくれたのがサモンさんで、代わりにこっちからは魔法を教えてる」

「なるほど」

「サモンさんにもエレキの事教えてあげたいけど、手紙が来てないんじゃな」

「追伸したらいいんじゃないか?」

「んー、そうしようかな。エレキ、ちょっと手紙書くから待っててくれる?」

「はい」

馬寺の一角には、まるで郵便局のように手紙を書くスペースがあり、トウマが手紙を書いてる間、エレキとサクラは外の空気を吸っていた。

「サクラちゃんは帝都にはよく来てたの?」

「いえ、エレキさんについて回るまでは、村を出たことはありません」

「そうなんだ。じゃあ驚きとか、心が躍ることとか、沢山あるでしょ」

「心って・・・踊るんですか?」

「えっと、ほら、なんか、美味しいもの食べたり、知らないことに出会ったりしたら、嬉しいでしょ?」

「よく分かりません」

「そっか」

実年齢が分からない分、どう接していいかも分からないエレキだが、そんな時に塀の向こうに妖怪たちと剣士達が共に歩いているのを見掛けた。しかも雰囲気は悪くない。エレキは気になって仕方がなかった。

「エレキ、ちょっと教えてほしいんだ」

「あ、はい」

電気治療魔法(サンダーヒール)の分かりやすい概要をトウマに書き残してもらい、そして無事に手紙が出せたあと、外に出るともう妖怪たちと剣士達の行進は見えなくなっていた。

「さっき、妖怪と剣士が一緒に歩いてました」

「んー、それは多分、狩りに出た一行かな。この町では、鮮度を保つ為に、肉を獲ったらすぐに捌いて運ぶっていう役も担ってて、それで妖怪と剣士が一緒になって狩りに出るんだよ。近くに精肉の卸場もあるよ」

「行きたいです」

エレキは嬉しくも混乱していた。今まで、妖怪と剣士は犬猿の仲だと聞いていた。でもそんな人達が一緒に狩りなんてと。そして精肉加工の建物に辿り着くと、ちょうどまた向こうから飛脚の妖怪と剣士が歩いて来た。

「あの!剣士の方々も、妖怪と手を取ってるんですね」

「・・・え?別にそんなんじゃない。こいつらは単なる荷物持ちだ」

若い剣士がそう言うと、半獣半人の猪の妖怪も渋い顔でさっさと建物に入っていった。

「肉はオレ達も食いたいから、仕方なく。ただそれだけ」

そうして剣士もさっさと建物に入っていく。エレキはポカンとした。そんなエレキの肩を、トウマは優しくポンッとする。


ジュウガイは、若い衆同士の組手を眺めていた。未熟な部分は教え、実際に組んで見せてやることも。そんな中、まだほろ酔いの子分がジュウガイの隣にドスンと座る。

「ジュウガイさん、いつになったら帝を殺しに行くんですかい?」

「バカ!口に出すな!どこで聞かれてるかも知れねえだろ」

「す、すいやせん」

「今はどれだけ若い衆を鍛えて、牙を研いでおくかだ。お前もしっかり鍛えろ。必ず、機は熟す」

「へい」

「そうだ、キチを呼んで来い」

「へい」

ほろ酔いの子分がドカドカと去っていき、そして戻ってくると、子分の肩には1匹の猿が乗っていた。

「親分、なんすか」

「町に行け」

「また盗みっすか」

「あぁ」

「今度は何を」

「・・・魔法だ」

「・・・え」

「デンはいるか」

「はい」

スッとジュウガイの傍に忍び寄ったイタチ。

「手薄な所は」

「やはり蛇の町かと。未だ士気も下がってます」

「んー。消沈したところを突いても、”あいつ”の憎しみは増えないか。ここはひとつ、賭けに出よう。お前ら!町に出ろ!肉を奪って来い!」


エレキ達は小さな商店街にいた。妖怪が人間になった時、きっと人間の知能キャパシティに、心が追いついていないのではと推測した。だからサクラは、まるで思春期のように物静かで控えめなんだろうと。だったら、サクラの興味を湧かせるものを探してあげようと。しかしそんな時間は長くは続かなかった。

「襲撃だー!山賊だー!」

空でカラスが鳴いていた。そんなニュースボーイなカラスのお陰で、エレキ達はいち早く現場に向かう事が出来た。すでに家屋の何軒かに火がついていて、剣士達が火消しに躍起になっていた。エレキは怪我人を探した。

「やめてー!」

悲鳴が聞こえた方に無心で走っていく。角を曲がると、そこの商店街では何人もの人達が倒れていた。パッとエレキを見た山賊が声を上げる。

「行くぞ!」

十剣士の1人を相手にしていた山賊も、その号令にさっさと撤退していく。

「大丈夫ですか!今助けます!頑張って!」

怪我人達は皆、打撲と中程度の切り傷を負わされていた。トウマが怪我人を運び、エレキとサクラが治療する。

「チッ山賊共!肉を取ったらさっさと逃げやがった」

十剣士の志川(しかわ)ゼンイツが言葉を吐き捨てながら、エレキ達を見る。

「怪我人を運んで下さい!」

「指図するな!」

ピリッとするエレキ。でもそうは言いつつ、ゼンイツは素早く怪我人を抱えた。それから家屋の火事は治まり、死者はゼロ。エレキ達は安堵した。

「山賊共、調子に乗りやがって。今に見てろ」

ブツブツとキレているゼンイツだが、怪我人は運ぶし、倒壊した建物の確認、怪我人の有無の確認も迅速。そんな剣士にお礼を言いに行こうとした時、エレキに1匹の猿が近付いた。

「いやぁー、すごいな、君達。最近噂の腕利き治療士達だろ?感心したよ~」

「あ、どうも。あなたは、大丈夫でしたか」

「オイラはすばしっこいからすぐ逃げたよ。それしか芸が無いからな、へへ。それよりさ、オイラ、すごく感激してるんだ。だから決めた。オイラにも教えてくれよ、その魔法。自分の村に帰って広めてやりたいんだ」

「え・・・あ、本当ですか。あの、嬉しいです。是非お願いします」

「あぁ。オイラ、キチってんだ。よろしくな」

読んで頂きありがとうございました。

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