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0.1話 どんぐり>ハグたん確定

 前日譚、その2


「……知らない世界」


 ハグたんが目を覚ました場所は、膝丈まである青々とした草むらが見渡す限りに生い茂る牧歌的な草原地帯。

 元いた世界と同じ青い空と太陽に、モンシロチョウらしき昆虫がひらひらと飛ぶ姿も彩りを添えている。


 振り返って一瞥してみれば、石造りの城壁らしきものと木造りの開いた門が。その内側からは整然と並ぶ建物が覗けるので、そこが人の住む街となるのだろうか。


「田舎……なのかな」


 都心で暮らしているハグたんは、そう普段の日常と照らし合わせて考察する。

 CCOの世界ということでどんな非日常非現実的な場所かと身構えていた節があったが、想像以上に想像のつきやすいこの風景には安堵感を覚えさせた。


 周囲にハグたん以外の人間こそいなかったものの、代わりとでもいうべき第一生物がそこにある。


「えっ、なにあの……なに?」


 2回も「なに」と声を出すほどの荒唐無稽なもの。


 その少し先にいたのは、幼児が描いたようなデフォルメされた顔が表面についた全長1メートルほどの団栗(どんぐり)、それに丸っこい手足が生えているという生物かどうかすら疑わしい謎植物。

 そんな存在が春と平和を謳歌するように、一個の生物のように跳ねて歩いていたのだ。


 いよいよ別世界らしさを帯びてきたところだが、これを発見したハグたんはというと。


「かっ、かわいいっ!」


 それは一目惚れのように、あっという間に心を射抜かれていた。


 ハグたんは基本的に人間が前だとあがってしまうが、自分より小さな生き物に関しては許容範囲内である。


「へへっ、あのどんぐりさんと、と、友達になりたいな……なれるかな……」


 友達になれるなら人間でなくても守備範囲内なのだろうか。


 言葉も通じないか通じるかさえ不明なこの相手に、もう一方的に友達になったつもりでいるという気の早いハグたん。

 警戒心を解き、「おーい」と呼びかけながら下心全開で近づいてゆく。


 しかし、人も植物も見かけだけでは全てを語らない。

 このマスコットキャラじみたこのどんぐりこそが、本作CCOでプレイヤーと敵対する『モンスター』という邪悪なる種族、その内の1体なのである。


 軽い気持ちで真ん前まで近づいてしまったハグたんだが、それは接敵行為に他ならなかった。

 その動くどんぐりが緩慢な動きでこちらへと向く。


「こ、こんにちは。てこてこ歩くところもかわいいですね……あばっ!?」


 突然、どんぐりから腹部に頭突きを食らわされ、ハグたんはその拍子に思わず尻もちをつく。

 このCCOにおいて痛覚は無効化されているのがデフォルトだとはいえ、臨場感のあるその危害を及ぼす行為には思わず悲鳴も漏れるほど。


 痛覚はなくともダメージはダメージ。半分ほど減ったHPゲージを見たハグたんはようやく状況を把握する。


「まさかこれ、もしかしなくても、もももモンスター!?」


 バトルは接近した時から否応なく始まっていた。


 困惑しても相手は待ってはくれない。対初心者用の最弱モンスターなのでこれでも待ってくれている方なのだが、どんぐり型のモンスターは貝独楽さながらに片足を軸に両手を広げて回転し始めている。


 だいぶ破れかぶれな攻撃だが、命中されれば多段ヒットでHPがまず持たないだろう。


「ひゃわわわわ、なんでぇ……あっそうだ! 悪いモンスターは倒しちゃっていいゲームだから……」


 脳に収めた数少ない情報を頼りに、迫り来るどんぐりから離れつつすぐさまステータスウィンドウを開く。


 表記されているのは、どのプレイヤーにも100ポイント分初期値で割り当てられているステータスポイント。

 まずこれを割り振らなければ何も始まらないと、キャラメイク時に説明は受けている。


 本来は戦闘チュートリアルで手ほどきされる通過儀礼なのだが、それを省略してしまったハグたんは今決めるしかない。


 緊迫した状況下で、思案する猶予を与えられないまま、即興で決めるしかなかった。


「……よし、これで、絶対倒せる! むんっ!」


 気合い十分といったふうに力こぶを固める。

 ところが、もはや案の定かハグたんはまたしても大きな過ちを冒してしまっていた。



 PN∶ハグたん

 レベル0


 HP20/20

 STR100(10PT、自動割り振り中)

 DEF0

 AGL0

 INT0

 LUK0



 直感でSTRに100ポイント全て割り振ってしまったのだ。言うまでもなく、やり直しは現状不可能である。

 おまけに『自動割り振り機能』、レベルアップでステータスポイントを得たと同時にノータイムで指定のステータスへ割り振ってくれる便利機能を、STRに全部と指定してしまったのだ。こちらは解除可能だが、自力で気づけるかどうかが問題か。


 おまかせ割り振りでは、変なビルドにされかねないという不安もあるにはあった。

 そんなリスクを冒すよりかは――相手の総合的な耐久力が不明な以上は、STRに全部注いで確実に勝てる攻撃力を身に着けたいと考えるのは案外さえてる発想なのではないか。いや、目先の危機に目を奪われ冷静さとリスクを履き違えただけだろうか。


 されどおよそレベル10相応のSTRがあれば、確かにどんぐり程度は絶対に倒せるだろうが、裏を返せば倒せなければ絶対倒されることを意味する。


「や、やるぞぉ! あっ」


 せめて戦闘チュートリアルを受けていれば、あるいは父が同伴していれば幸先の悪いデビュー戦にはならなかっただろう。


《ハグたんは死亡状態になりました》

《はじまりの草原で倒されたため、デスペナルティはありません》

《はじまりの街でランダムリスポーンします》


 ブラックアウトした目の前の空間に、メッセージウィンドウが続々と送られる。


 まごついている間に、どんぐりによるベーゴマアタック(プレイヤーによる仮称)による連撃を受けて残りHPが0、つまり倒されてしまったのだ。


 ちなみに通常ログアウトするには30秒その場で動かないようにしなければならないが、この暗転している最中ならば即座にログアウト可能である。



「……今度はどこなんですかぁ」


 そのまま目を覚ましたハグたんは、はじまりの街の門に寄りかかる姿勢でリスポーンしていたようだ。

 まるで突拍子もないリスポーン地点だが、これは一つの場所に混雑しないよう、またリスポーンキル対策の一環として街の中をランダムで選ばれているにすぎない。


 それと同時に、ハグたんの視界の隅には。


《ヘルプ・装備を整えよう!》

《ヘルプ・神威(カムイ)を使おう!》

《ヘルプ・モンスターを倒そう!》


 抱えたばかりの悩み事を見計らったかのように、初心者へ向けた項目の数々がずらっと並んでいた。


「最後のはやろうとしたんですうっ! ひえぇん……」


 もはや涙声の抗議だ。ゲームの世界に降り立って早々、本来洗礼にもならないはずのことで散々な目に遭えばそれもそうなる。



「はぁ……どんぐりさんのことはもうちょっと支度してからにしなきゃ」


 やがて涙を枯らして却って平常心に戻ったハグたんは、一番上のヘルプから順番に覗いて試してみようと決め、まずは装備を整えるヘルプについて調べてみることにした。

 次回、お昼に更新します

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