61話 長いひと休み
「なんなんだクソ……まだ女をキルし足りないのに……」
自爆の一撃にあえなくHPが0となった相棒と、アクセサリーの効果で無事蘇生したハグたん。
「ひゃばばばば。やっぱりキッドさんがやられちゃうところでしたぁ……」
経緯は何一つ知らなくとも、両者の負傷具合から話し合いではなく激戦があったことはハグたんにひしひしと伝わっていた。
なおハグたんがここに到着したのはほんのついさっき。
乾いた銃声が聞こえた直後に戻ろうとしたのだが、途中、強大なものから逃げるようにホースホーネットの群れが飛来してきたため、やり過ごそうと身を潜めていたせいで予定より遅れてしまった。
それでも、間一髪、キッドとの再会が叶った。
それだけではない、キッドが相棒と呼んだそのレッドネームとも。
「えっと、相棒さん……」
過去や一切の事情を知らず近寄ろうとしたが。
「ヴォレに触るな! この豆チビが!」
「ひっ!」
復活のアテもない仮死状態の相手だろうと、大人の気迫で怒鳴られてしまうと少女は後退り。
ハグたんが触ってこれなくなる距離に遠のけた相棒は、横になったまま頭の中で指折り数える。
「46戦23勝23敗、お前の勝利を認めてやる。だがヴォレは、女という女をキルしなきゃ収まりがつかないことに変わりない」
負けてもなお、救済されはしない。
健全な精神に負わされた卑劣なダメージとは、ただ一敗で元に戻るほど優しくない。戦って解決出来るほど単純な話でもないのだ。
やがてその相棒の体からは、淡い光の粒がぽつぽつと浮かび出す。
「待て相棒! お前は間違って……」
「続きはまた会った時に聞いてやる。何十年後になるかも分からないけどな」
そうキッドの相棒は自死宣言によって消滅した。
どこまでもキッドとは正反対な、汚されようと穢されようと生真面目な人間性であった。
キッドは改めて言葉の続きを紡ぐ。
「間違って……るっての。46戦22勝23敗1引き分け、他の誰かがケリつけるのはノーカンだ。フッ」
――相棒にまた会わなければならない理由が出来たと、何故か薄く笑っているキッドがいた。
朗らかな雰囲気を催し、キッドに近寄りやすくなったハグたんはポーションを取り出してしゃがむ。
「キッドさん……大丈夫でしたか?」
「嬢ちゃんなぁ〜、何で戻って来ちまったんだ? 俺っちは街で待ってろって言いつけたはずだぜ?」
「あひっ!? すみませんすみません!」
指示に逆らったことを咎められてしまい、ハグたんは己のしでかしたことがお節介だったと小心さから判断。
しかしキッドの言葉はまだ終わらない。
「けど嬢ちゃんのおかげで助かったぜ。ありがとう」
「ひょえ?」
ハグたんの反応こそまるでよく聞こえなかったみたいだが、キッドからのキッドらしからぬ感謝をしかと耳にしていた。
照れたり濁したりせず、どんな子供相手にもストレートに伝える。
それがキッドの流儀である。
「嬢ちゃんの自爆がなけりゃ、今頃はあのレッドネームが美しいレディを何人手にかけていたかも分かんねぇからな」
「それはそうですけど……でも相棒さんとは仲直りできてると思えない……」
「どうったっていいんだよそんくらい! 明日があるだけ儲けもんだ。ハッハッハッ!」
シリアスに屈した後だというのに軽い調子で大笑いするキッド。
女性の前では色男ぶり、相棒の前では良き相棒ぶり、子供の前では大人ぶっていたくなる、そんな多面性のある自立した人間なのだ。
キッドの心境をまだよく掴み取れてないハグたんは、ポーションを注いでキッドを回帰させる。
「っしゃ! これでミッション終了だ。さあ嬢ちゃん、街に帰って1杯やろうぜ」
「はっ、はいっ!」
先頭を歩むキッドにエスコートされ、ハグたんは慌てながらその後を進む。
かくして、元陰殺チームの残党を見事撃破したハグたんとキッドは、第三の街へと生きたまま帰還できたのであった。
▽▽▽
「カンパーイ!!」
キッドと最初に出会ったサルーンのカウンター席に座った2人は、グラスに注がれた牛乳(商品名:ママのミルク)をグイッと飲み干す。
「げぷ、美味しいです……」
「おっと嬢ちゃん、お口の周りに白いひげが付いちゃってるじゃねえか」
「わにゃ!?」
ミルクのついた部分をからかわれるように指摘され、恥ずかしくなってしまったが。
「これで嬢ちゃんも、店中のヒゲヅラ共に引けを取らねぇ色男、ってな」
最初に入店した時同様繁盛している空間へと振り向き。
「そうだろ野郎共!」
「ガハハハハ! 違ぇねえや!」
店中の客のプレイヤー達の呵々大笑がごった返した。
誰も彼もが知り合いでもないはずなのに、何ならキッドと喧嘩したプレイヤーもちらほらいるはずなのに、見かけに反したこの気は優しくて力持ちな人間達。
「そんなぁ、私、色男とかはなりたくないですって……えへへぇ」
この厳つくもサッパリとした空間には、ハグたんも自然と笑顔になっていた。
生花店だけでなく、このサルーンにもまた来たいなと、安心感や居心地の良さを覚えたほど。
「ふぅ、ごちそうさん。そんじゃ嬢ちゃん、世話になりっぱなしだが俺っちはそろそろ出発するぜ」
空のグラスを置き、颯爽と席を立ったキッド。
急ぐようでもないのに、ここを離れたがっているような足取りをハグたんは感じ取る。
「キッドさんは、この後からどうするんですか?」
これまでのハグたんなら黙って見送っていたところを、自分から聞き出すくらいには人に慣れてきている。
流石のキッドも、こうなると一旦足を止めざるを得ない。
「俺っちは孤高の旅ガラスよ。ふらりと街を渡り歩いて、道行く美しいレディに声をかけるだけ、さ」
「……そうなんですか」
返答がどうもブルーなハグたん。
この男の背中から、物悲しいものを感じ取ったからだ。
言うまでもなく、何の解決もしていない相棒の事だろう。
ハグたんの自爆は、最悪の事態をひとまず回避するための一時しのぎに過ぎない。
キッドの相棒は、暫くすればきっとどこかで凶行を再開する。
その度にキッドは噂を嗅ぎつけ、全身全霊をもって止めに行く。
その連鎖は、どちらかが諦めない限り延々と続くだろう。
「嬢ちゃんもビビりながらよく頑張ったな。愛してるぜ、アデュー」
やはりキッドは気障な風に別れを言い、口笛を鳴らしながらサルーンのスイングドアへと歩を進めた。
かつて背中を預け合った信頼の歯車がずれてゆく。そんな答えの出ない終わりなき戦いの旅へと征く。
キッドとて、責任感のある立派な強い大人だ。ガス抜きの仕方だって心得ている。
このまま放っておいても、自由気ままな風のように生きていることなど目に見えているだろう。
「キッドさん!」
それでもハグたんは声を上げた。
瞬間、キッドの足が止まる。ハグたんの言葉をいじらしくも待っていたかのように。
「相棒さんと仲直りできなかったからといって、誰とも仲良くなっちゃいけない理由にはならない……です」
そうハグたんは、自分なりの答えを紡ぎ出した。
キッドには出せない、いや、同じ答えなど出してはいけない立場。
何しろ相手は相棒だ、友達なんかの言葉では収まらないほど重い間柄。
それを理由で撃ち、理由を撃ち、キルするのは弾丸でも引き金を引くのは自分自身。
どこまでも罪作りなこの運命、ハグたんは見て見ぬ振りをしたくはなかった。
「嬢ちゃんは……俺っちに何を頼みたいんだい?」
一変、真剣そのものとなって問い返す。
子供相手ではなく対等に見据えるそれは、ハグたんの決断を真正面から受け止めると覚悟を決めている。
ハグたんもまた、生意気だとしても対等に言葉を選んだ。
「私の友達になってくれませんか」
身長差のせいで見上げる姿勢になってしまったが、なるべく目線を近づけようとつま先を立てる。
「私ではキッドさんの相棒にはなれないと思います。けど、キッドさんには私のクランで体を休ませて……それでもしまた出発したとしても、リトルフラワーを帰る場所にくれたらなって、思います」
一歩引いた言い方で、あくまで相手の背負う意志を尊重して。
前の相棒のことなど忘れるようなことは決して言わないハグたん。
これには、女性以外には一途な男の天秤を傾けるには十分であった。
「友達だとか遠回しにぼかしているが、要は俺っちにホの字ってこったろ? へっ、おしゃまな嬢ちゃんだぜ」
例によって大人っぽく冗談めかす。
今後を左右する重要な決断であるため、やすやすと頷くわけにはいかない。
ハグたんからも、例によって例のごとくバッサリと拒否してくれると期待もあったが。
「キッドさんが入ってくれるならそう思われたって大丈夫です!」
「のほおっ!?」
何を意味するのか分かっているのか、ハグたんの献身的なまでの全肯定には、驚愕の声をあげてひっくり返ってしまう。
しかも一連の流れを見物していた店内の客達は、にわかにざわつき始めていた。
「お、おいてめぇら!! 何見てんだよぉ! そんな目で俺っちを見んなら表に出させるぞこのブタ共!!」
真っ赤になって必死に否定するキッドには「はいはい分かっていますよ」と客達は興味が段々と冷めていった。
ひとまず誤解が解けたところで、いや、これ以上ここにいるプレイヤー達全員にあらぬ誤解を与えぬようキッドも改めて誠実に応じると決める。
「いいかい、俺っちは下らねぇ奴だから色男って名乗ってるだけなんだぜ?」
急に何を言い出すのかなどとは、キッド同様に真剣な眼差しとなったハグたんは口にしない。
「たとえ嬢ちゃんは良くてもだ、嬢ちゃんのクランマスターにはどう口説き落としゃ良いか……」
「その、クランマスターは私なんです」
「おおっと、こいつは予想外だ……ぜ」
まさにハグたんの見かけによらない返答には、慌てるように取り繕う。
マサムネが強引に幅を利かせる傀儡政権じみたことになっているのはともかく、懸念していた一点が顔パスとなったことは大きな決め手だ。
女性の頼みは断れないキッドだが、心意気を感じ取った相手は老若男女の区別はない。
「しょうがねぇ、お手上げだ。この俺っち、嬢ちゃんの友達に相応しい男になってやろうじゃねえか!」
「わわぁ……こちらこそ、よろしくお願いします!」
大人の男性という壁をも突破したその返事には、ハグたんは喜びや感動を覚えながら丁寧に礼をする。
自称色男、ゴッドレイヴン・キッド。
銃の腕前や友情に篤いというまさに友達に相応しい長所もあるが、気を抜くと見ず知らずの女性に夢中になるのが玉に瑕……と。
思い返すほど、あまり友達に紹介させたくないなぁとハグたんは脳内で早くもげんなりしてきていた。
「あっでも女の人にちょっかい出すのは良くないですからね」
「そこは……どうなんだろうなぁ」
しれっと釘を刺す一言に、上目となって自信を無くすしかなかった。
この後、キッドと友情の握手を交わし、ハグたんはぺこりとお辞儀。
大人の男性相手へのハグは、まだまだ気が引けるようだ。
「でっと、そういや嬢ちゃんの名前をまだ聞いてなかったな」
嬢ちゃん呼びが定着してしまったキッドだったので、ここまでうち出さなかった今頃な話。
これから友達同士となるのだから名前で呼んだ方がいいと、何となくで聞いてみたところ。
「私は、ハグたんっていいます」
「そうかいハグ……たん……だと!?」
復唱していく内に、色男の表情は驚愕の色に染まってゆく。
次の瞬間、キッドはいきなり涙を滝のように流しながら手を合わせて天を仰ぎ出した。
「おお神よ! ジョークにしちゃハイセンスすぎるぜ! 俺っちの探し求めた女神様が、まさかこんなミニのレディだったなんてな!」
「えっ? すみませんよく分かりません」
キッドがこんな調子になるのは慣れっこなのでテンプレート的な言葉で返したハグたんだが、これには深い訳がある。
実はキッドがこのサーバー04に流れ着いた目的は、レッドネームを追う以外にももう一つあった。
それが、陰殺チームのマスターを倒して混乱を終息させたヒーローガール『ハグたん』というPNの人物がどれほど美しい女性なのかを確かめるため。
あわよくば自分の魅力にノックアウトさせようとしたため。
女性に関しては非常に俗っぽい、実にキッドらしい理由もあったのだ。
その想像の斜め上を行く姿の本人相手にむしろクランに誘われてしまったのだから、笑うしかないだろう。
「とんだ門出になっちまったなぁ! この俺っち、小さいハグたんのデカい器に陥落しちまいそうだ、ぜ」
「ううう、変な人を友達にしちゃったかもです……」
ハグたんはまだまだ子供だ。急にカッコつけたり笑い出したりする大人のやることには全然着いていけないようだ。
こうしてキッドがリトルフラワーに加わったことを友達全員に報告したかったが、ハグたんの門限まで経っても誰もログインせず。
故にキッドの紹介は、全員の日程を調整して後日ということにした。
先にログインした者から適当に1人ずつでも良さそうなのに、一気にまとめて紹介するような形にしたのは理由がある。
キッドには内密でハグたん達リトルフラワーは知恵を出し合い、より詳細に自分達を覚えてもらいやすくするためのレクリエーションを企画したかったからだ。
一生公開されないぷろひーる(読み飛ばし可)
PN:キッド
年齢:20代後半
身長:6フィート(182センチ)
体重:165ポンド(74キロ)
バスト:鋼のような胸板がある
好きな食べ物:ヘルシーなサラダ系。でもレディが俺っちのために作ってくれた料理なら何でも大歓迎だぜ。
嫌いな食べ物:脂ギトギトの肉料理。でもレディが(ry
趣味:海外旅行、映画鑑賞(ジャンル問わず)
特技:美しいレディを秒で口説き落とすこと(主観)
好きな武将:よく知らない
最近の悩み:まだ若いつもりだが近所の子供からおじさんと呼ばれたこと。
備考:ちいはな5姉妹の親戚のおじさん枠であり、隙あらば女性にプラトニックなアプローチを持ちかけているソフト出会い厨。
なお、男性相手の銃の腕前こそ百発百中でも、女性相手の恋の戦は百発ゼロ中であることは疑いようもない。
そんなキッドも流石に生後17年364日以下は守備範囲外なのだが、ハグたんを筆頭にそういう相手に限ってモテるという難儀なやつでもある。
ちなみにリアルでも彼は独身だが、1人いる実妹はとっくに子供もいる既婚者であり、兄のことを一族の汚点としてほぼ縁を切られているという。




