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0話 口づけと現実のチューとリアル

 豪華? 4本立てでございます。


 ※注意。ハグたんの活躍はありません。

 そんなもん興味ねー! と感じ取った方は4話先の本編まで飛ばして下さい。

(7/28、一部展開を前後しました)

『出たなモンスターめ。俺とこのカムイが相手になってやる! 来い、神威(カムイン・カムイ)!』


 父と一緒に出かけた際に立ち寄った某デパートの電気屋にて、ハグたんはそのVRMMOと出会った。


『喰らえ! 【二重十文字斬クロスツヴァイスラッシュ】』


 その店頭PVとして映し出されていたのは、痩せた緑肌の小鬼であるゴブリンを蹴散らしてゆくゲームキャラの名もなき少年。


 アーツを音声発動した彼は、カムイを憑依させた鉄製の片手剣で前方のゴブリン3体をまとめて薙ぎ払う。


 見方によればかなりスプラッタな絵面だがそうではない。

 その斬られたゴブリンは返り血を噴射するわけでもなく、ポリゴンの粒と化して死体として残る前に消滅したからだ。


『ホホホ、なかなかやるようになったな』

『貴様は……! いや、もう名乗るまい』


 その映像内で突如現れたローブで顔が見えない男性に対し、少年はどこか因縁を感じさせる反応を示したが――しかし今のうちに言っておくと、これらは伏線でも何でもない思わせぶりなだけなので気にしないで構わない。


『今度こそ、カムイもろとも焼き払ってくれよう。来い、神威(カムイン・カムイ)!』


 その男が唱えた瞬間、辺りの大地がたちまち炎上。


 ただしそれは火災などとは違う、火のリアルな恐怖の想起というよりかは、まるで芸術を司る神様が操っているようにあり得ない燃え盛り方をするファンタジックなもの。


『なるほど、お前のカムイは炎のカムイということだな』

『ご明察だ。さあ決着をつけようか!』

『かかって来い! 俺は、俺達の未来を信じる!』


 対峙した2人がカムイのパワーを全開に相討つ――というところで映像がピタッと停止。


 その左下には、ToBeContinuedと刻むような文字が小さく存在を示し、画面が切り替わった瞬間、本作のゲームタイトルと共に『好評発売中!』と人気を窺える謳い文句が表示されていた。


「これなら、怖くないかも」

「ど、どうした作吉、何をボーッとしている」

「あっお父さん、実はお願いがあるんだけど……」


 前々からVRMMOというジャンルに興味があったハグたん。

 しかし初めてVRMMOが世に出て久しい現在、ネットの海の一角で山のように積み上がるほどの種類がカタログに掲載されているため、どのゲームにするかまでは決めかねていた最中だった。


 だがこのComein・Camui・Onlineに決めるきっかけになるほどには、十分魅了されていた。



▽▽



「ひょわあぁ……! これが、ゲーム!」


 自室で段ボール箱を開け、その中からヘルメット型の機材、その名もVRヘッドギアを持ち上げたハグたんが、精密機器らしさのある重みに大興奮。


「ひょひょおおぉ……! こっちが、Comein・Camui・Online!」


 次に握ったのはゲームソフト、ではなくそれの薄型のパッケージ。表面には冒険者達の躍動感を表現した描き下ろしイラストが一層心躍らせる。


 パソコンやスマートフォンなどの機械物に関してすらほぼ無縁の一生を過ごしていたハグたんにとっては、まさに楽園の門をくぐり抜けたような新世界が幻視された。


 そしてハグたんそのすぐそばで座る相手に、輝かしい目を向ける。


「お父さんお父さんっ! なんか、すごい誕生日プレゼントだね! 絶対高かったでしょ、ほんとに、私のために、いいの!?」

「う、うむ。作吉が自分からプレゼントを欲しがるなんて滅多になかったからな。喜んでくれて、な、何よりだ……」


 興奮する娘相手にどもり癖を発動してしまうハグたんの父。厳つい顔立ちと大柄な体格、怪物的な威圧感すら覚える無愛想な印象を受けがちだが、娘同様の――あるいはそれ以上に自己表現能力に難があるまでだ。


 基本設定などは父に任せ、ややあってヘッドギアをハグたんの膝の前に置く。


「終わった……? もうやっていいの?」

「た、多分な。まだお父さんは付いていた方がいいか」

「えっと、きっと大丈夫! 私も、1人でできること増やさないとだし」


 ハグたんなりの自立心に、父はその強面に似合わない微笑みを交わしながら悠々と部屋から出ていった。


 実際この後は小学生一人でもわかる手順。VRヘッドギアを目もとまで深く被り、ベッドの上で横になり、あとはキーワードを口に出して起動するだけ。


「や、やるぞ。私の、念願の友達を作るために……ダイブイン!」





 見渡す限り延々と広がる真っ白い空間。


 まるで大理石の扉でも控えていそうな神秘性すら感じる場所に、ハグたんの意識は転移されていた。


「わぁ……なんか快適そうなとこ……」


 五感の全てが仮想現実空間に没入したと実感していたが、初ログイン早々プレイヤーを暇にさせる本作ではない。


「はじめまして、主様。Comein・Camui・Onlineの世界へようこそお越し下さいました」

「わひゃああああっ!? ひっ人おおおっ!」


 燕尾服の女性にいきなり声をかけられたあまり、ハグたんは精神的衝撃のあまりひっくり返って硬直。なお真っ白い空間といえど見えない地面はあるのでそこで背中をぶつける。


 ハグたんは水滴が落ちる音でも飛び上がってしまうほどの生来の気の弱さだ。急に話しかけられれば驚いてしまうのは必然であった。


「わたくしは主様のナビゲーターを担当させて頂きます。名前はないので、主様のお好きなようにお呼び下さいませ」

「ひゃっひゃいぃ!」


 見かけに反して元気の良く無邪気なナビゲーターであったが、ハグたんとの相性はよりにもよって最悪に近い。

 本作のNPCは、敵対しない限りは基本的に大半のプレイヤーが不快にならない発言をするようプログラムされているのだが、不幸にも大半に該当しないプレイヤーがここにいた。


「それでは早速ですが、主様のPN(プレイヤーネーム)を教えて下さい。12文字まで、個人を特定に繋がる本名はなるべく避けるようお願いいたします」

「なまえ……ええっと……うぅんと……」


 なにしろこの空間以上にまっさらな状態でスタートしたハグたんだ。唸りながらネーミングセンスを抽出し始める。

 流石に12文字以上にはならないだろうが――これはすなわち、後に出会う友達クロの長ったらしい真名とやらは、本人が勝手にそう名乗ってるということだ。


 しかし、長考してもパッとした名前が思い浮かばず。


「じゃあ『ハグたん』でいいです」

「はい、『ハグたん』様でご登録完了いたしました」


 下手をすれば個人を特定されそうな物珍しいあだ名をそのまま流用してしまったが、とりあえず本名ではないので良しとする。


 こうしてナビゲーターに言われるがまま、言い返せないまま、世界観やステータスの解説に外見の設定(髪を茶髪にしただけだが)などを順調に終わらせ、とうとうこのゲームの華となる項目へと進んだ。


「では、主様をComein・Camui・Online世界へお送りする前に、ここで神威(カムイ)契約の儀へと移させて頂きます」

「な、なんですかそれ、神威(カムイ)?」

「まずは神威(カムイ)について大まかな説明を致しますが、こちらのPVはご覧になられましたか」


 そう空中に表示させたのは、痩せた緑肌の小鬼の群れと、背中の赤いマントをたなびかせる名も知らぬ少年が取り囲まれている画面。


 だが名前が分からなくとも、その構図には見覚えがあるものだ。


「えっと、お店で見たことがあります」

「では今回は省略させて頂きます。改めまして、主様の終生の相棒たるカムイ契約の儀に移ります! ではまず、どのような能力や見た目、雰囲気に興味があるか、わたくしめにご相談下さい」


 そうスクロールバー付きのウィンドウがハグたんの目の前に浮かび上がる。


 オススメ一覧と上部に大文字で記載されたその枠内には『ポピュラーなカムイ』や『かわいいカムイ』、『変わったカムイ』から『最近実装されたカムイ』まで項目がよりどりみどり。

 『強そうなカムイ』はあっても、強いカムイという項がないのがミソだろう。


 何だか漠然としているが、このカムイという概念、サービス初期の時点で種類は数百を超している。

 現在その数4桁に突入しているため、一応可能だがカムイひとつずつをきめ細かく並び立てられれば目を通すだけでも日が沈みかねない。


 ちなみに口頭で伝えなくても指でタップするだけで詳細が書かれたウィンドウへ進めるため、自分からの発信が苦手なハグたんでも安心設計。だったが。


「じゃあ……」


 ハグたんは言ってしまった。


「どれでもいいです……」


 項目の一番下に追いやられるほど、消極的な選択をしてしまったのだ。


 よく分からなかったから、理由は以上。

 少なくとも『ダメなカムイ』のようなネガティブな項は無いので、そこまで間違った選択ではないだろうが。


「承りました。それではわたくしめの独断で決めさせていただきます」


 プレイヤーの選択を尊重するようプログラムされたNPCなので、ハグたんの選択がさも正しいかのような口振りでカムイ選択を代行する。


「カムイの契約は完了いたしました。ちなみに、選ばれたカムイの試しうちとして戦闘チュートリアル空間を用意しておりますが、主様には必要でしょうか」

「いえ大丈夫です……」


 ゲーム未経験者と人見知りのコラボレーションは、ひたすら大損の道だ。

 相手から懇切丁寧に親切にされても、気を遣わせたくない思いが先行し「大丈夫です」と反射的に答えがち。


「……心淋しいですが、私がお手伝い出来るのはここまでとなります。ですが、あちらの世界でもいつでもヘルプも覗けるので、困った時には是非ともご覧下さい」

「あっはい」


 キャラメイクが終了する。ハグたん自身がしでかした過ちを考え直せる最後のチャンスをフイにしてしまったのは、知る由もない。


「キャラメイクお疲れ様でした。そしてお待たせしました! 夢と希望が拾い放題のComein・Camui・Onlineの世界へ、行ってらっしゃいませ、()()()使()()()

「わ、わあっ!?」


 その世界の一員になったと自覚させる用語と、さしずめ男装執事喫茶を彷彿とさせる別れの挨拶と共に、ハグたんの視界はたちまちホワイトアウト。体がふわっと浮かぶ感覚まで襲ってきたため、頭も真っ白ホワイトアウト。


 かくして、幼い人見知りには鬱と不安が湧き出し放題のVRMMO活動が幕を開けた。

 次回、8時に更新

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