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60話 射線上を引き裂きし一報

 リアルにVRMMOがあったらこうなってそうだよなぁ。

「キッドと言ったな、オレと組め」


 キッドと相棒が初めて出会ったのは、本作CCOではない。似たようなゲームシステムである別のVRMMOであった。


 互いにソロプレイヤーとして活動している最中、マルチ限定のクエストを攻略するために相棒から話を持ちかけたことがきっかけだ。


「別にいいけどよ、どうせならレディと組みたかったぜ……」


 当初こと乗り気でなかったキッド。これっきりの義理を果たしたらとっととログアウトしようとも思ったほど。


 しかしだ。


 遠距離からのピストルで華麗に獲物を仕留めるのが得意なキッド。

 至近距離からのナックルダスターで獲物に強烈な痛撃を食らわすのが得意な相棒。

 奇跡のように戦術が噛み合ったのだ。


 これにはキッドも手のひらを返して意気投合。


「キッドから誘うだなんてどういう風の吹き回しだ? 女には飽きたのか?」

「美しいレディは一生飽きないぜ。けど、お前と組むとどんなクエストでも不思議と不安が無ぇからな」

「確かにな。お前が女を誘っても100%振られるだけだしな」

「おー言うようになったじゃねえかぁコンチクショウ」


 1回きりのつもりでいたキッドも、幾度となく組んでゆく内に自分から相棒に誘うようになったほど。


 女性の趣味だけは合わなかったが、バトルに関してはとことんウマが合う。

 たとえ敗れても2人で特訓を重ねて再戦し、強敵を攻略した後に交わす祝杯で最高の充実感を味わう。

 他愛のない話でも笑い合い、やがて2人は最高の友となった。


「今日も楽勝だったなお前! なあ、これからは相棒って呼んでもいいかい?」

「先に言うなよ。じゃあ、オレもキッドと相棒同士、どこまでも突っ走ってやるからな!」


 ゲーム上だけの繋がりだろうと、そこには確かに第二の青春のような無二の友情が育まれていた。


 たゆまぬ研鑽と勝利を重ね前進してゆく2人は、いつしかそのゲーム内でも有数のトップランカーとして名を馳せてゆく。



「おおっ! あそこにいる2人、あの有名な銃拳コンビじゃん!」

「強豪モンスターもS級賞金首相手でもここんとこ連戦連勝って噂だぜ!」

「あのヤンキーっぽい人チョーかっこよくない!? あっちの西部劇っぽい人はダサいけど」


 一流の賞金稼ぎとして名を馳せた2人の人気は、応援するファンまで現れる絶大さとなったほど。


 まさにゲーマー人生の絶頂期。

 2人の目は、リアルでの仕事の疲れをも感じさせないほど日々生命力に満ち溢れていた。


 そんなある日、そのゲームの公式サイトからとある大型イベントの情報が舞い込む。


「最強のプレイヤーを決める祭典、第一回バトルトーナメントグランプリか……」


 男心くすぐるその響きには、キッドも相棒も血が騒ぎ出す。


 このグランプリの優勝者は賞金や名誉だけでなく、公式生放送にもゲスト出演されるという大盤振る舞い。


「いっちょテッペン狙ってみないか? 相棒」

「だがシングルバトルと書いてあるぞ。テッペンをとれるのは1人だけだそうだ」


 そう、最強とは分け合うものではない。

 とはいえ、男ならそれは義務教育のようなもの。


「へっ、じゃあますますやらない理由はねぇな。俺っちと相棒の頂上決戦、この大舞台でなら不足はなさそうだ!」

「気が早いなぁキッド。だが、もしオレ達がぶつかったら豪勢にやってやろうじゃないか!」


 コンビで成り上がった2人が肩を並べて戦えないことを残念とは微塵も思わず、むしろ決勝戦まで駆け上がることを疑わない様子で、参戦を表明。


 その予選リーグにキッドと相棒は出場すると、並み居る対戦相手を次々と撃破して勝ち上がり、2人とも難なく本戦進出決定。


 いよいよトーナメントとなる本戦も着実に勝ち上がり、コンビは単体でも強いことを見せつけた。


「来たな、キッド」

「来たか、相棒」


 そうして迎えた準決勝戦。

 決勝ではなかったにしろ事実上の決勝戦として、キッドと相棒はトーナメントで組み合わさる。


「44戦22勝22敗。互角のオレとキッド、どっちが最強か白黒つけるには誂え向けだと、ようやく分かったぞ」

「互角つっても、俺っちが勝ち越せたことは無いけどな」


 コロシアムの中心で対峙して得た感慨。背中を預けられる仲といっても、キッドは戦術的にも実力的にも相棒の背中を見る側ばかり。


 その次に、クエストの無い暇な日には今日のように2人で直接勝負した記憶。

 両者共通に反芻し、満足のいく勝負になれると確信をもつ。


「ま、それも今日までだ。最強とテッペンがかかってる俺っちは一味違うぜ!」

「負けて凹んでも知らないからな。来い、キッド!」


 誰もが注目する夢の対戦カードはここに激突した。


 優勝を競うライバルとして一進一退の激闘を演じ、本グランプリで最も観客を沸かせたベストバウトにも認定されるほどとなり、10分の時間を経て堂々決着。


「くっはぁ!! 今回も俺っちが勝ち越せねぇかぁ……!」


 相棒のボディブローによりHPが0となったキッド。

 敗北した悔しさもなく、爽やかな面持ちで倒れる。


「……なあキッド、まさかとは思うが、オレが相手たがらって手加減したとかは無いよな」


 一方相棒の方は、勝利の喜びよりもキッドの不義行為を勘繰って詰めてかかったが。


「バカ言え、相棒相手に手加減なんかしちゃ勝てるもんも勝てねぇって」

「なら、決勝の相手が女だからとかでも無いよな」

「それは勝ち上がりたい理由の一つだっつの! あぁ、貴女を近くで一目拝んでみたかったぜぇ……」


 今も昔も未来も変わらないキッドの女癖。


 それでも今回だけは、目の奥からにじむものの理由を上書きしてカッコつけているだけ。


 そうこうしている内に気持ちの整理がついたキッドは、相棒へと顔を上げる。


「45戦22勝23敗、俺っちの完敗だ。ったく、今日こそはって思ったんだがなぁ……!」

「へっ、へへへへへ! 45戦23勝22敗、やったぁ! オレのリードだ!」


 無邪気に拳を突き上げ、ようやく露わとなった相棒の無上の喜び。

 夢に見た頂点へあと一歩となるこの会場で、剛の拳と柔の銃による対決が白黒ついたことを物語っていた。


 回復されたキッドは起き上がると、相棒と拳を突き合わせる。


「決勝戦、必ず勝ってこいよ、相棒!」

「あたぼうだ!」


 相棒は控え室へ、キッドは3位決定戦へ。

 お互いの揺るぎない信頼が、進むべき場所へと向かう足取りを留めない。


 そんな何気ない激励が、このVRMMO世界での2人の最後の会話になるとも知らずに。



 勝敗だけ語れば、相棒は得意のナックルダスターさばきで難なく決勝戦を制し、栄えある優勝者に。


 対してキッドは3位決定戦に臨んだのだが、思うところがあったのか精彩を欠いて敗退。

 3位までしか登れない壇上に立てないことが確定する。


「やっぱり相棒は凄ぇなぁ。それでこそ、俺っちが背中を追う最強の男だぜ」


 全てを終え、観客席の後ろ側でふんぞり返るキッドはフッと笑い、自分が欲しかった称号を贈って褒めたたえる。


 相棒に最強というテッペンを譲ったのなら、自分は無敵のガンマンだとか古今東西に銃声轟くガンマンだとか名乗ろうかと夢想しながら、葉巻を咥えて時間を潰していた。



「……なんか妙だ。運営のプログラムじゃ、とっくに生放送が始まってんじゃねえのか?」


 ところが、いつまで経っても一向に授賞式が始まらないことに疑念を抱く。


 相棒の姿もだ。

 会場側でトラブルでもあったのか、ここに戻ってくるなどもない相棒の行方には、次第に胸騒ぎを感じずにはいられなくなってゆく。


「あなたがキッド選手ですか?」


 その代わりなのか、キッドの前に現れた黒服のNPC。


「俺っちみてぇな敗者に何の用だ?」


 警備や案内を担当する相手に自虐的にも喧嘩腰となるキッドだが、敗けた憂さ晴らしをこれからするとかではない。


 こんな時は、いつも決まって良いニュースと悪いニュースが伝えられると。


 もっと言えば、良いニュースをかき消すほどショッキングな悪いニュースが伝えられると、焦燥感の裏返しであったから。



「優勝者が規約違反の発覚により失格処分となりました。なのでキッド選手は、繰り上がりで3位入賞となったことをお伝えに参りました」


「……あんだって?」


 良いニュースと悪いニュースの両方同時に咥えていた葉巻を思わず落としてしまう。


 優勝者といえば、もちろん相棒のことだ。

 これだけの情報でも、訃報でも聞いたかのような動揺が露わになる。


「規約違反って何だよ……おい、答えろ!」


 キッドに食ってかかられた男は少し怯みながらも、粛々と体勢を直す。


「なにぶん突然なことでこちらもスケジュールが押しておりまして……移動しながら順を追って説明いたしますので、まずはご同行を……」

「テメェふざけんじゃねえ! そんなデタラメ信じられっか!」

「あっちょっと!?」


 掴もうとする黒服の腕を振りほどきながら観客席の階段を駆け下りる。

 追ってくる黒服から逃げるだけではない、納得のいかない情報の真実を探るため。


 階段を下りきった後、勢いそのまま大理石の仕切りをダイナミックに飛び降りる。


 バトルフィールドへと奇しくも戻ったキッドは、早くも当の人物が目に入る。


「きゃあ!? 何なのよあなた!?」


 その中心にある壇上に登ろうとする者。すなわち優勝者の女性プレイヤーへと飛びかかった。


「答えろ! 規約違反ってどういうことだ! 相棒が何をしやがったってんだ!!」


 傍から見れば気合の入った変質者のムーブだが、普段女性には花を撫でるように丁寧なキッドにしては乱暴な威勢だ。


 対してその女性は、驚愕の表情を浮かべながらも事のあらましを喋りだす。


「あぁ、あの人ね、ほんと最悪な対戦相手だったわ。だって真剣勝負にかこつけて私の胸とお尻を触ってきたんだもの」


 そう規約違反にも繋がる重大なことを、まるで低級クエストの成果報告のように言ってのける。


「だから運営に()()してやったの。もうアカウントは削除されてるらしいわ」


 悪びれもなく、被害者の如く、当然の権利のように。


「まあ決勝戦が終わってから受理されたんだけど。でもあの痴漢が消えたおかげで私が生放送に出演できるみたいだし、結果オーライってわけね」


 おもちゃ箱の中身を次々と放り出す子供のような気楽さで、相棒の姿が一向に現れない理由を並べ立てた。


 この女性の中では、明かされた言葉以上の自覚などない。


 会場にいる殆どのプレイヤーも、今や女性の繰り上がり優勝を支持している。

 いや、厳密には不服の声こそ上がっていたが、電脳世界の神にも等しい運営の名を突きつけられれば、たかだか一般ユーザーの意見など黙殺されるしかない。


 ただ一人を除いて。


「相棒は……そんな卑劣なことをする奴じゃねえ……」


 小難しい推理をするまでもなかった。


「なに? まだなんか用があるの?」

「とぼけんな!! テメェが()()()()で相棒を陥れたんだろうが!」

「えっ、いやあっ!?」


 愛用の銃をホルスターから引き抜いて2発、3発、4発、5発。


 辛うじて女性に命中させていないのは脅しのつもりなのか、女性へ優しくする理性がまだ残っているのか。


「馬鹿じゃないの! あの運営が裁定したんだから事実だってあんたも受け入れなさいよ!」

「だから事実じゃねえつってるだろうがテンメエエエエ!! こんなセコい方法でテッペン取って何が面白いんだ! さっさと答えろ!!」


 6発……。


 カチカチと音しか出なくなってもなお引き金を何度も鳴らし、その指の速さを超えるほどの歯ぎしり。


「とにかく! 終わった話を蒸し返さないでちょうだい! これ以上あたしに近寄ってくるなら、あんたも運営に通報するわよ!」

「うだうだぬかすんじゃねえぞこのボケ!!」

「あぎゃあっ!!」


 キッドの満身の力を込めた右ストレートが、壇上から突き落とすほどの威力をもって女性を殴り飛ばした。


 自分自身のしでかしたことなど顧みないほどに、キッドの心も信念も崩壊させる激情は止まらない。


「相棒はなぁ、相棒はなぁ! 俺と違って女に目もくれねぇ真面目な野郎だったんだ! その相棒が痴漢なんかするわけがねぇだろうが!」


「警備員さぁん! このひと痴漢よ! あっぐふうっっ!? ぐっほあああっ!!」


「頭ん中にどんだけ気色悪い虫が湧いてりゃこんな頭おかしいことが出来るんだこのクズが! ぶち殺されてぇのか!!」


「お、おい集まれ! 今すぐあいつを止めろっ!!」


「てんめぇ! 今すぐ相棒を返しやがれ! 相棒に謝りやがれええええ!!」


 無抵抗であった優勝者の女性を容赦なく殴りつけるだけでは怒りは収まらない。

 横たわったところで腹部を容赦なく蹴りつける、何度も地面に頭を叩きつける、そのまま相手の長髪を掴んで頭皮もろとも引き抜くと、もはや人間のしでかす事ではないほど荒れ狂う。


 やがてキッドは黒服達に取り押さえられ、過度な暴力行為として失格の処分を受けて会場をつまみ出された。


 だが今のキッドには、グランプリのことなど最早どうでもいい。


「相棒……何で俺じゃなくて相棒なんだよ……相棒オオオオオ!」


 キッドがいくら慟哭を繰り返しようとも、相棒がこの世界に帰ってくることは二度となかった。


 その後、キッドも相棒同様に女性への痴漢行為の容疑によりアカウントが削除される。

 GM部屋に連行された際は、キッドはよほどショックだったか、事実と認めたか、一切言葉を発しなかったという。


 答えを言うと、相棒は濡れ衣を着せられただけだ。

 ナックルダスターという素手同然の近接武器を用いたことから、あえなく証拠とされたのだ。


 この一件が原因かは定かではないが、そのゲームは第2回のグランプリが行われる前にサービス終了が決定したという。




 ちなみにVRMMO界隈ではこのような痴漢冤罪は珍しいことではない。

 むしろ攻撃性の強い女性プレイヤー達の間では推奨され、ありとあらゆるVRMMOのそこかしこでカジュアルに横行しているほど。


 自分から体をぶつけておくだけでも、証拠として相手を加害者として吊るし上げられるという手軽さもある。

 万が一冤罪だと見破られても「勘違いでした」とだけ言っておけば原告者は無罪放免となれる。


 そこに悪意などはない。繰り返される善意がやがて義務となるように、繰り返す悪意はやがてライフハックとなるのだから。


 かといって運営が男性優位な対処をすれば、それこそ本物の被害が拡大し、VRMMO市場全体のモラルが問われてしまう。


 故に、無実と分かっていたとしても、十分な検証をせず男性プレイヤーに即刻罰を下さねばならない。

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と楽に済む方へと流され続ける。

 殺人が不可能なVRMMOなので、性加害こそが最も忌むべき罪に昇格しているのも要因の一つだろう。


 そんな女尊男卑な対応に呆れた男性プレイヤーは去り、優遇に飽きた女性プレイヤーも去り、ユーザー数そのものが目減りする一方という深刻な過疎化に。


 これが、世にいうVRMMO衰退期の始まりであった。


 通報には時間と労力をかけて厳正に対処し、虚偽申告には罰則を与えると体制の見直しを行ったComein・Camui・Onlineが発売されてもなお、完全な名誉回復には至らない。


 今まさに、キッドの相棒が一生治らない傷の痛みで暴れている現状がそれを示しているのだから。



▽▽▽



「女がゲームを腐らせる。ヴォレはぁ……このCCOまで腐った女共の手で終わらせたくはないんだ」


 そう、キッドの相棒の目的はCCOを壊すためではない。

 己の正義で浄化するために、本人がこよなく愛するCCOを延命させるために凶行を起こしていたまでだ。


「そのために、女はお呼びじゃないと知らしめるクランを立ち上げたい。たとえまたアカウントが削除されようとも誰かが意志を継ぐ、そのために多くの同志が必要なんだ」


 最早そこにいるのは、疑心暗鬼に飲まれた亡霊ではなく、キッドの信頼するバディとしての生気ある眼差しだ。


「ヴォレはぁ、女という女をキルしたい。何度削除されて転生しても、女という女を許せねえ!」


 生気があっても、正気ではないことを口走っているまで。

 正気を担保してくれるはずの神が味方してくれなかったために、自力救済に走らせてるまで。


 もう女性への区別や見境がなくなるほどに、相棒は3年をかけて成熟された怒りと憎しみの傀儡となっていた。


 それらを悲しそうな目で1から10まで聞いていたキッド。


「俺っちはよ、ちょいと後悔してることがあったんだ」


 彼とて、一時は女性相手に暴虐の限りを尽くしたほど正気でいられなくなった出来事だ。


 故に、胸の内を明かそうと決める。


「もしかしたら、相棒が冤罪とかじゃなく本当にあのレディを穢したんじゃねえか、ってな」

「……違う! 違う違う違うっ!!」


 頭が振り落とされる勢いで首を左右に振る相棒。


 あの日、身に覚えのない規約違反で優勝を取り消され、誰も彼もがまともに取り合ってくれなかった記憶がフラッシュバックされてゆく。


「確かにオレは、決勝戦で女を殴って叩きのめした! だがオレは決して反吐が出る真似なんかしていない! 信じてくれ……オレは無実なんだ!」

「やっぱりな。その言葉、どうしても相棒の口から聞きたかったぜ」


 キッドは、首に括り付けられた重石を解いたかのように微笑んでいた。


 たとえ相棒を奪われた怒りからとはいえ、女性に対する自分の美学を自分で背いてしまったことが間違いだったのかという後悔。

 他人に陥れられた冤罪が相棒だとすれば、キッドは自分が自分に課した罪業。


 それが、3年の年月を経て晴れた。

 友情のために女性を殴り飛ばしてしまったことが、ここまで胸を張れると思えたのは生まれて初めてであった。


「これで俺っちの用は済んだ」


 キッドもようやく、心の底から笑い合った記憶を過ぎらせながら、口を開く。


「その上で答えるぜ。俺っちは……この世界のレディ達が美しすぎるもんでな、もう相棒とは組め……」


 刹那。


 目の前からライフルの発砲音が荒野に響く。


 これにはキッドも自分のデスを覚悟して目を閉じたが、しかし瞼が開き直せる現状に気づく。


「……どうしたよ相棒、弾道は曲げていねぇぜ」

「悪い、うっかりライフルが暴発してな、聞き取れなかった。西部劇の映画をいくつか観てきたが、銃声ってのはどうもうるさくって堪らないな」


 ライフルの弾丸は、キッドの側頭部の1ミリ隣の地面に埋め込まれていた。


「なぁキッド、もう一回答えてくれ。フリーの女にナンパする時のように、大人の遊びに誘う時のように、チャラチャラしてるみたいによ」


 そう言うと相棒は、ライフルでキッドの顎を上げながらその喉元に銃口を向けた。

 二度同じミスをしないようにと、あるいは二度同じ甘さを見せないようにと。


「答える、つったってよ……」


 小粋な軽口も通じない。これで相棒と今生の別れになるかもしれないと、二度と復縁も効かなくなるとキッドは予感した。


 だが、NOといえば終わり。仮に心変わりしてYESと言っても、嘘だと決めつけられて終わり。答えることそのものが終わり。


「いいから言えよ、黙ってないで何とか言えよ!」


 沈黙。


 唇を噛みしめるしか出来てないキッド。


 ここでキルされてしまえば、ここまでの説得や奮闘も虚しく相棒は何も変わらないままになってしまうと危惧したため。


 膠着状態、だったが、キッドは相棒の真後ろにある木の陰から何かの存在に感づいた。


「……こいつは驚いた。まさかこんな俺っちにも勝利の女神様は見捨てていないみてぇだ」

「ボソボソ喋るんならよぉ、キスされちまうくらいの耳元で聞いといてやる」


 相棒は自分の右耳をキッドの唇に近づける。

 だがやはり、麻酔で意識が混線してるとでもいうかのようなうわ言しか聞こえない。


「美人薄命って言葉もあるが、ちょっと違うな。たとえ俺っちが惨めに倒されようとも、花のようなレディの笑顔を守る。それがイケてる色男の鉄則、さ」

「あ? 何言って……」


 再びの刹那。


 相棒は背後から感じる猛烈な気配によって思わず言葉が出なくなる。


 同時に、ライフルで迎え撃つことなど手遅れと悟るほど、自分の敗北を確信させられた。


「今度は俺っちが任せる番だな、嬢ちゃん」


「【自爆】うううううっ!!」


 放たれたのは銃声でもない。

 荒野一帯に轟々と響かせる爆発音が、哀しき凶行に終止符を打った。

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― 新着の感想 ―
まぁ、世の中には信じられないほど幼稚なことをする女性はいるからな とはいえ、その論理だと世の中の男性がみな痴漢って言ってる人と同じだけどな
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