59話 情熱と鉄血
キッドさんのような誰にでも優しい人より、相棒さんのような私にだけ優しい殺人鬼のほうがモテやすい説。
「ヴォレもテメェも遠距離タイプのカムイだ。まずは距離をとるぞ」
「おう」
お互いの得意な戦い方を確認し、頷いたと同時に銃を持ちつつ退却。
地の利や環境が、銃の腕前よりも大きなウェイトを占めがちな銃使い。
なるべく遠くまで引き剥がしたかったが、それを敵は黙って見過ごすわけがない。
「おやまあ、逃げるだなんて困りますわね。【赤壁の円炎計】」
「あちち! んだぁ!?」
突如食らったダメージで2人の足が止まる。
退こうとした先の地面に光が横切ったかと思えば、そこから真っ赤に光る炎がうねりを上げて噴き上がったからだ。
「設置型アーツか……! これじゃ進めねぇ」
無理矢理突っ込めば人体は容易く燃え尽きてしまうほどの火力。
かといって迂回を考えようとしても、炎の壁は円となって2人を遠巻きに包囲。
いや、4人を囲う即席のバトルフィールドを形成したというべきか。
しかも半径5メートルもないこの狭さでは、2人の苦手な近距離戦を強いられるしかない。
「ナジャのアーツは使えるな。これでテメェらはどこにも逃げられねェ」
「逃げるだとか見下しやがって! そんなに死にたきゃ今すぐにキルしてやる【百戦万枢銃】!」
相棒は装填と同時に女性の眉間に向け、最大火力のアーツで狙撃。
相棒は防御に難があるからこそ遠距離戦をしたかっただけであり、近距離でも銃の威力が落ちるわけではない。
何なら距離が近いだけ狙いがつけやすくもあり、しめたものだったが。
「は? タマが、溶けただと!?」
女性の手前に小さい炎の塊が割って入ったかと思えば、それに吸い込まれた弾丸はチョコレートのようにドロドロになって落ちてしまったのだ。
「【火の用心棒】。食べられない物体は喰らわないのが上策」
まさしく超火力の肩代わり。
いくら人の殺しの技術力といえど、人の操る自然の力には屈するしかないのである。
「あのレディ、俺っち達の銃をメタってきやがったか」
「色っぽい方ばっか見てるなんざ、つれないなァ。【銀剛鉄道進行】」
男性はアーツを発動すると片足を下げ、キッドに向けて急加速。
銃の弾速とは違い人間の目でも追える速度のダッシュではあるが、それでも速度上昇効果をもつアーツが乗ったスピードでは回避不能。
「ぐあっ!! んにゃろ!」
猛烈な体当たりをキッドは正面から食らい、宙を舞わされてもなお、空中でありながらすぐに照準と弾道を定めて男性へと反撃の発砲。
狙いはカムイではなく、鉄の鎧の隙間から覗く両目。
火力低めの弾丸のカムイで馬鹿正直に鉄と勝負などはせず、柔らかく弱点となる人体をクレバーにも狙ったのだが。
「痒くもないな。鉄よりも鍛え上げた俺のボディに、鉛玉程度が効くと思ってんのかよォ」
「オーマイ! テメェ自身までカチカチとかズルすぎんだろ!」
尋常ではないDEFの高さを目の当たりにされたキッドは、短縮されたオリジナルの英語で驚嘆していた。
「弾丸が効かねぇんじゃいくら撃っても意味がねぇ。このあんちゃんこそ相棒に任せとけばよかったか……?」
鉄をも貫通する攻撃力が欲しいキッドは、そのカムイを持つ相棒に助太刀を頼もうと仰ぐ。
ところが、むしろ相棒の方こそキッドへ助力を乞う目を向けていた。
「キッドお前! そんなザマで世界が惚れた色男が務まるのかよ!」
「お熱いですのね。どうぞ煉獄の獄中でも良き仲を【焼死千万】」
「っ!? これは絶対にやべぇ!!」
女性が手で印を結ぶと、炎で象られた鳳凰が顕現。1つ羽ばたくと羽根を火の粉としてまき散らす。
次の瞬間、牙をも再現した嘴を開け、その翼を広げてまさに悪党を喰らおうと飛びかかったのだ。
「相棒っ!!」
「あっちは勝負あったな。だが、テメーの方はまだまだどつき回すからなァ【銀剛鉄道進行】」
「のあっ!」
ただ走って突進し、ただ敵を吹き飛ばす。
シンプルなアーツだが、ダメージはシンプルかつ大きい。
公道を走っている物珍しくもない自動車といえど、人間が衝突すれば無事では済むわけがないように。
並外れた硬さは、並外れた破壊力も兼ねるのだ。
「くそっ、このあんちゃんは俺っちだけで攻略するしかねぇのか!」
自分こそがこの相手を制して相棒の助けに向かうと決意した。
しかし意思だけでは突進アーツのループという状況は変わらない。
「よく覚えとけよォ、これが錆びのつかない無敵ってやつだ」
ここまで無傷だったキッドのHPも徐々に削られてゆく。
キッドのレベルもDEFも比較的高い方だとはいえ、耐久力には限界がある。
「無敵じゃねえ。どっかに……泣き所はあるはずだ」
突進の衝撃で再び宙に投げ飛ばされながらも、キッドは諦めず相手の能力について1人考察を始めた。
相手の鉄のカムイ、視界となる両目以外全身をくまなく鉄の鎧で覆っているように見えるが、本当にそうなのかと。
たとえばこれが布や絹の服ならば全身を覆っても問題なく動けるだろう。
一方、鉄の鎧で人間を覆うならば、構造上関節に隙間を作らなければ歩くことさえ不可能となる。
ありふれているが、つけ入る隙があるとすればそこだとキッドは見抜く。
とはいえ隙間から中へ狙い撃つとしても、相手は生身でも弾丸を通さないほど頑強な外皮をもつことは実証済み。
ならば倒すのではなく、無力化へと考え方を変えるまで。
「閃いたぜ! レディのお誘い同様、何事も試す価値はあるってな」
閃きの内容、それは、関節部の中ではなく隙間そのものに弾丸を差し込む。
隙間は弾丸一発以上の幅なのか、それ未満か、案じたいことは尽きないが他に方法がない限りはやらずにはいられない。
「これぞ大自然の恵みだ。さあ、俺っちの弾丸を食らってみな!」
拾い上げたものを弾丸化し、装填。
自分の閃きの正しさを信じ、それぞれに【曲弾の射手】を設定して2発を射撃。
最初に撃った弾丸にはわざと大回りの軌道に。
そうすることで、次に撃つ弾丸に合わせて時間差なく全弾命中するようにタイミングを調整した。
曲がる弾丸達は回り込む軌道を描き、キッドの狙い通りに命中。
「……なるほど、凡百のアウトローでは無いらしい」
キッドの神がかった命中精度に相手はそう呟き、突進していた脚の動きがピタリと止まる
弾丸達は、相手の鎧の関節の隙間で縦並びとなった。
「野郎に褒められても嬉しくねぇぜ」
2セット目の弾丸もシンメトリーの軌道で撃ち、相手のもう片脚の隙間への差し込みに成功。
やはりキッドの予感通り、関節部に何か差し込まれれば動きの阻害となるようだ。
鉄のカムイの使い手は、挟まった弾丸を抜かない限りは足を動かせなくなったのだ。
「どうよ、これで諦めてくれたかよ」
「諦めろ? まるで守備側のセリフだな。【鉄血結合】」
相手が1つのアーツを唱えたかと思えば、鉄の鎧全体の隙間からまばゆいばかりの閃光を放つ。
「まさか……俺っちの弾丸を……!」
「そのまさか以上のアーツだったらどうする?」
阻害物を抜くアーツではと驚愕したのもつかの間、相手はキッドの予想を超える効果を仄めかす。
「ご苦労だったな。強化もオマケした対策のアーツはあるに決まっている」
少しして相手の光がおさまると、脚の関節に何も挟まれてないことを知らしめるように、そのまま屈伸してみせたのだ。
「挟んだはずの弾丸が無ぇ……落ちても無ぇ……」
真っ先に策の行方を確認。
そして、相手が発動したアーツの効果の推論をはじき出す。
「テメェ、弾丸を取り込んだってのか!」
「弾丸を吸収して、俺の硬さを構成する体の一部にした。こういう鉄分こそが、一番頑丈な体を作れるんだからなァ」
そう、ただ弾丸を取り除くどころの話ではなかった。
ただでさえ鉄壁の防御力なのにますますバフを盛らせるという、絶望的な効果をもつアーツであったのだ。
「ま、そう上手くはいかねぇかい」
策は無に帰したはずのキッドだというのにまるで絶望していない。オーマイ! とは言おうとしていない。
そんな飄々とした振る舞いが示した通り、次善の策の成功を確信していたからだ。
「けど本当に吸収してよかったのかい? それを食っちまおうなんざ、悪夢を見るのが趣味みてぇだな」
「何のことだ? うッ!」
相手が呻くと同時に、屈伸の動きが急に停止する。
確かに弾丸は吸収して取り除いているはず。
つまり、原因は物理的なものではなく別のもの。
男性の脚からじりじりと走りつつある、まるで電撃を食らったかのような痺れは、脚だけでなく体全体にまで及んでいることからようやく気づく。
「毒……麻痺……だとッ! こいつの弾丸のどこに仕込んでた! どこに!」
罹患している複数の状態異常に、鋼より硬い精神が揺れ動き出す。
HPは勝手に減り続け、体は指一本たりとも動かせないという踏んだり蹴ったりな始末。
彼は原因を探ろうと目だけを忙しなく動かしてみれば、キッドや相棒、いや、この周辺に落ちてあったものにたどり着く。
「ハチの毒針を弾丸にしてたのかッ! まぐれ当たりの賞金首が!」
「いいや、どっかで欲を張るだろうと踏んでたぜ。金を失うで鉄って書くが、あんちゃんは金にがめつそうだったからな」
半ば偶然もあったが、あえてキッドは相手が悔しがりそうな出まかせの敗因を言葉にした。
撃つ際にキッドが弾丸に変えた素体こそ、戦闘直前に飛来してきたホースホーネットの毒針だ。
一口に毒といってもこのモンスターの毒はただのスリップダメージだけでなく、痺れ毒や筋肉毒などといった多種多様な毒の症状を発生させる。
弾丸も毒も通さない鉄のカムイといっても、使用者自身も鉄より硬かろうと、体の中身は鉄分の通った人間。
彼は弾丸を取り除くのではなく吸収したことが、毒針に直接刺されたも同然でしかないことを示していた。
「これがシビれる色男の戦い方、なんてな」
キザな台詞でカッコつけられる絶好のタイミングだとしたキッドは、テンガロンハットを下げる決めポーズをとる。
それをたまたま見た相棒は、キッドと男性の対決が落ち着いてきたことを知る。
「おいキッド! 男の方はキルしたのか!?」
「倒しちゃいねえが動きは止めた! 今からそっちに行くぜ!」
休む間もなくキッドは加勢へ向かう。
今や相棒は、熱死は確実というほど全身を炎上させられ、消化の代わりにインベントリから取り出したポーションを浴びて辛うじて命を繋いでいるほどの劣勢だ。
鉄のカムイを使う相方が戦闘不能となったと把握した女性だが、なおも雅な余裕を崩さない。
「わたくしの炎に触れたものは、鉄も毒も、総てを溶かし尽くしますわ。貴方の小細工も、わたくしに通用すると思いまして?」
アーツ【付け焼き翼】による炎の翼で、ほんの少し浮かび上がっている女性。
「参ったな、クラクラしそうなレディだぜ……だが、相棒のためにはやるっきゃねえのか」
唇を噛み締めながら、キッドは銃を向けようとする。
「待てキッド、ヴォレは女をキルしたい」
ところが、それを見た相棒は、ライフルの銃口をキッドへと向けていたのだ。
「そいつはヴォレの獲物だ。誰にも横取りはさせたくない」
「あんだ相棒? さっきまで苦戦してたのにつべこべ言ってる場合じゃねえだろ」
ここにきて、2人の歯車が噛み合わなくなり始めた。
たとえ共闘を結んでいようと、譲れない一線があるのだからやむ無し。
「3つ数える! キッド、ヴォレの怒りが火を吹く前に、今すぐ銃を下げろ! 1秒!」
激しい語気でキッドを揺さぶろうとしているのか、気迫を込めてカウントダウンを始めた相棒。
「ほほほ、仲間割れですの? 熱しやすいものは冷めやすいのですわね」
「2秒! マジで撃つぞ!」
相棒の目は本気だ。
ちょっとでも引き金を動かすだけでも、弾丸がキッドに風穴を開ける結末が贈られるほど撃とうとする寸前。
女性もその光景をほくそ笑みながらも、キッドの弾丸に備えて炎の塊を旋回させる。
当のキッドは、相棒の命令を拒否しているのか銃を下ろしていない。
「やれよ、相棒」
「3秒!」
相棒は撃った。
キッドの肩に向け、撃ち合いの時のようにそのライフルの弾丸で確実に仕留めるつもりで撃ち放ったのだ。
かくしてその弾丸は、キッドの肩を抉らず……一回転する軌道を描いて女性でも相棒でもない方向へと滑った。
4秒目。
「おげっ!」
「アダカ!? 何故あなたに弾丸が!」
4秒目に起こった事態に、女性はただただ取り乱す。
弾丸が直撃してダメージボイスを発したのは、痺れて倒れ込んでいる鉄のカムイの使い手であったのだ。
「パーフェクトだ相棒ぅ! やっぱお前こそ最強の座に相応しいぜ!」
「おい、男の方の動きは止めてんだろ? なんで女の方を狙わない」
「俺っちにレディを撃てってか? フッ、冗談に変えてやったまでだ」
「へっ、まったくお前の女癖の悪さには敵わないな」
険悪だった雰囲気がまるでエイプリルフールのような、両腕をL字にしてのグータッチで成功を祝す。
一言で表せば、阿吽の呼吸。
脅していたように見えた相棒だったが、キッドをライフル銃で撃とうとしていたのは本当だとしても【曲弾の射手】の発動も期待していたまで。
わざわざ秒数を強調したのは、アーツ発動のタイミングを合わせるためであったのだ。
「おいナジャ、こいつら次に何をしでかすかも分かんねェ! 体が動ける内に退くんだ……」
HPを集中的に減らされた鉄のカムイの使い手が疲労困憊な声で指示。
それを聞いた女性・ナジャは、うねる炎の火力を下げ、男性・アダカへと近寄る。
「今回はわたくし達が折れましょう。ですが、討元凶は何時でも貴方達を監視していること、お忘れ無きよう……」
追撃を受けないよう炎の壁を目の前に展開しつつ、男性を引きずって森の奥へと去っていった。
任務には背いていない。元より2人をキルする気でこそいたが、クラン『討元凶』マスターのユロクからは、あわよくば討伐できれば良しの威力偵察で構わないと気配りも受けていた。
よって、相方のデスを受け入れてまで戦い続けるよりかは、増員してより盤石な陣営となって再戦する方を望んだまでだ。
「討元凶ども、退いてくれたか?」
「あぁ、せめて退く前にあのビューティフルレディにフレンド申請を送りたかったぜ……」
段々と弱まっていく炎の壁と姿のない相手2人に残心する相棒と、敵だというのに完全に女性に骨抜きにされているキッド。どこまでも正反対だ。
ともかく、クラン討元凶からの強力なる使徒に対し、キッドと相棒のコンビが耐え凌いだ。
1人で撃ち合うことでは得られないこの最高級の勝利に、キッドは浮かれないはずがなかった。
「あんな強豪クランの奴らさえ撃退しちまうなんざ、俺たちゃやっぱ最高のコンビだよな! 相ぼ」
振り向こうとした寸前。
落雷のような銃声が木霊した。
「ぐあっ!!」
キッドは腕を狙撃され、手の力を無くして銃が滑り落ちる。
撃たれた方向へと目をやると、ライフルの銃口から細い白煙を昇らせている相棒の姿。
「女遊びのやり過ぎで平和ボケしたか」
絶望と希望を反復横跳びしていた相棒は今、失望したかのような冷たい視線だけを送っていた。
「なんっ……くそっ……だあっ!!」
抗議しようとしながら腰をかがんで銃を拾おうとした隙をつき、ライフルの2射目。
これによりキッドのHPは0となり、仰向けとなって倒れる。
1度目は唐突、2度目は現実を受け入れられずと、【曲弾の射手】を発動する意識すら働かなかったが故の被弾。
キッドの不覚。相棒と肩を並べて戦えた嬉しさが、一時休戦の消えた冷血な一発に気づけなかったのだ。
「こんなやられ方って、普通に無しだろ……」
「惨めなお前は見たくなかった。だが、ヴォレは男相手への慈悲はある」
片手で握るライフルをキッドに向け、もう片手はキッドに差し伸べるように。
「最後だキッド、組め」
仮死状態に陥っているキッドに対し、銃口は向けず、ただ言葉だけで勧告した。
「お前が女に惚れっぽいところはもう何も言わない。けど女にいつもキモがられるお前と、ヴォレの女へのキル、そこにさしたる差は無いと思うんだがな」
皮肉のような疑問をぶつける相棒。
その眼には、やはり正気が残されていた。
敗者を嘲弄するとかではなく、キッドを本気で仲間に引き入れたいがため。だから極力罪悪感を無くせる言葉で勧誘しているのだ。
「違ぇんだよ……」
満身創痍の中、懸命に声を振り絞るキッド。
体が動いていれば銃を捨てて殴りかかるほどの鬼迫で、答えた。
「俺っちはただ賑わってるゲームをやりたいだけなんだよ! テメェみたいな奴のせいで! このCCOはどんどん人が離れてるんじゃねえのか!」
キッドはここで、格好つけない激昂の感情を露わにする。
同時に、このCCOで暮らす1人のプレイヤーとしての正義感を、ここに示した。
そもそもキッドが美しい女性に対してあんなにも声をかけずにいられないならば、本作に限らず他のVRMMOでも同じ事がやれるはず。
でありながら、キッドがこのゲームを選んで短くない時間を過ごしている納得の理由があった。
「全員が楽しめなきゃ意味ねぇんだよ! テメェはCCOのサ終が目的なのかよ! いきか、レディだろうとなかろうと人はなんぼ居たっていいが、テメェみてぇな迷惑野郎なんざ1人もいらねぇ!!」
キッドが抱くこのゲームへの逆説的な愛着を、道を踏み間違えた友を叱るように語りつけた。
キッドという男は、玉に瑕な一面があるだけのごく一般的なゲーマーだ。
女性を口説くのは目的でも本筋ではない。
ただ道の端々に綺麗な花が咲いていれば愛でたくなるだけであり、本筋そのものから逸れることなど決してない。
「俺がここでどれだけ努力してきたか、この世界を滅ぼしたい奴に分かってたまるかってんだ!」
「お前の方がなんにも分かってないだろうが!!」
途轍もない剣幕と共に、相棒はキッドの胸ぐらを掴んで体を起こさせる。
ここまで脅迫的な反論は滅多にないと、相棒に説教を返す口が閉じたキッドに、なおも相棒は続ける。
「ヴォレだってこのゲームを終わらせたくないんだよ! だが、いつだって、必ず、女がゲームを腐らせる!」
女。
相棒のドス黒い呪詛となっていた概念が、この瞬間だけは鮮血のごとき真っ赤な憤怒を込めている。
そう、やり方が違うだけで、相棒もキッドと同じくこのCCOに並々ならない愛着があったのだ。
レッドネームに堕ちてまであのような凶行に及んだのも、決して個人的なアンチ活動としてなわけではない。
「いつまで寝ぼけてやがるキッド! お前も……あの場にいたなら女に夢見てないでそろそろ目を覚ませや!!」
恨みと怒りは地続きなようで別の感情だ。
まるでキッドのためを思って叱りつけるような相棒の口調に、風で帽子を落としたキッドはハッとなる。
「あの場……。相棒、やっぱりあのレディのせいでこうなっちまったのか……」
あの場、という言葉から、キッドは相棒がこうなってしまった全容を記憶から掴み出していた。
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