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53話 かわいぃクランマスターと、こわいぃクランマスター


 相手のクランメンバーは、確かにこの男が最後の1人だった。

 だがその1枚の壁は、これまで倒した4人が小粒に見えてしまうほど果てしなく高くそびえ立つ。


「あひぇ……」


 ようやく合流できたと思った友達が、3人とも、アーツ1つによってハエの如く消し飛ばされてしまった事実。


 こんな世界衝撃映像、心の弱いハグたんならコンマ1秒で卒倒しようと責められない。


「ぬん? 童の娘の1人が生きていたか」


 その暴力と暴虐を絵に描いたような男は、多少は落ち着いた様子だがハグたんを発見してしまう。


 ハグたん自身も足が竦んで隠れられるつもりもなかったが、こうなってしまえばどちらかが倒れるまで戦うしかない。


「クラン『大三字』がマスター!

その二つ名は『不動山(ギガントジャイアント)』!

さあ名乗れい! うぬが名乗った(とき)、童の娘共の待つ生温い世界へと送り返してくれる!!」


 男の迫力が言うだけで宣戦布告どころか殺害予告じみた恐喝と化すために、もう色々と漏らしてるハグたんは言う通りにするしかなかった。


「ハグたんデス、クランマスターやってましゅ……。こんなちっちゃい私なんかがマスターなんて変ですよねぇ、あははは……」


 ハグたんがこの場しのぎに選んだのは、自虐だ。

 卑屈な調子でへりくだることが、目が血走った相手を宥めさせる一番の丸い方法だと直感したからだ。


 このままどう処刑されようとも諦めがついているハグたんなので、呂律が回らず半ば投げやりなところがあったのだが。


「マスター……!? 何者よりも小さきこの童の娘が、クランマスター!!」


 どうもその嘘偽りない一言が、予想外にも相手の関心を引き寄せたようだ。


「良きかな!! 実に血騒ぎ、肉蠢き、心が暴れ出す! 童の娘よ、我との一騎打ち(タイマン)を所望する!!」

「ほへ?」


 見下されていたのにいきなり対等のように扱われたハグたんはきょとんとしている。

 対等なだけで結局戦わされる状況には変わりないようだが。


「我、極上の闘争を欲す!! さあ、実際(マジ)に殺す気で鬼殺(キル)せい!! ハグたんの名が生涯の記憶に刻むに値するか、示名(しめ)して()せよ!!」


 先に散った3人の時とは異なり、どうも相手は先手を仕掛けずハグたんが攻めかかるまで待ち構えるようだ。


 この男、蝶のカムイ使いの遺言が仄めかした通り、蹂躙ともならなさそうな見込みのある初心者との戦いを楽しもうとする傾向がある。

 実際ハグたんは、攻撃力だけなら上級者に比肩するほどなので見る目は正しい。


「え、えとえと、ええっと……」


 一撃必殺の自爆を叩き込めるまたとないチャンスを拾ったハグたんだったが、怒りを買えば世界を渡って直接報復してきそうな怪物などとは目を合わせて会話する気にさえならない。


「いやですううう!! 戦えないですって!! コロリンさんいるなら早く来てくださいいいいい!!」

「勝負を受けてなお逃げるなど、断じて許さぬ!! うぬの心に巣食う卑劣漢ごと消え去れい!!」

「ほわあああああ!?」


 勝手に勝負を受けたことにされた上に反故になったことにされ、散々なハグたんの脳天を理不尽のままかち割ろうと大剣を振るう。


「あば、あば、【奮迅爆発(エクスプロージョン)】」


 大剣が迫る中、頭からぶった斬られるよりかはと本能的な防衛機能が働いたハグたんは自爆の中でも特に火力を打ち出せるアーツで身を守る。


「む!! こっ、これはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 その爆破範囲内に、最も怒らせたくない相手さえも巻きぞえにして。


「やっちゃった……」


 硝煙に包まれ周辺に炎が立ち昇る中、一度だけ復活できる効果を消費して座り込んだハグたんは、丸まって祈り出す。


「倒せなかったら終わる……倒せなかったら終わる……」

「うぬの比類なき破壊力……語るに術なし。だが、終わらぬ」

「あ……終わった。お父さんお母さん、引っ越しの準備をしてください」


 相手が身一つで自爆を耐え抜かれている様に、ハグたんはとうとう一家もろともの人生終了を確信した。


 自爆の直撃をものともしなかったわけではない。

 その大剣は半分に砕け、本体も皮膚の何箇所かは火傷を負ってそれ相応にHPは削られている。


 されど、30弱のレベル、STR極振り、最大倍率のアーツをもってしても、一撃だけでは勝利までは届かない。


 それもこれも、CCOで最も力強く恐ろしいと評判である赤鬼のカムイの自己強化アーツ【鬼に悲暴(グイペイシャン)】と【豪傑圧(アンガーオーガ)】の組み合わせにより、攻撃力と防御力がそれぞれ200%も上昇しているため。


 まさに、リトルフラワー5人がかりで挑んでも瞬く間に蹴散らされるしかないような、格の違いを垣間見させる帰結であった。


「ど、どうかお父さんとお母さんの命だけは……んあっ! ほにゃぁ!!」


 家族の命乞いを始めたハグたんに対し、男はスイカすら包んで隠せそうなほどの右手で頭を掴んで持ち上げる。


「どうした? 目醒めよ! 醒めねば粉砕する!! 懇願する暇があるのなら闘争を再開せよ!!」

「あわっ! あわっ! あわっ!」


 あべこべの赤ベコのようにハグたんの脱力中の体を腕で揺らし続ける。

 空いた手で拳を固く握り、戦闘再開と同時にハグたんの胴に風穴を穿つ備えをしながら。


 たとえ戦いたくてもこんな有り様では誰だろうとままならないだろう。


 しかし相手はこう見えて悪意こそないのだが、常に頭に血がのぼって自分の世紀末な世界に住んでいるような御仁だ。会話もツッコミも通じない。


「うぬを賞味()尽くすまでは、我とて、この戦場から帰るわけにはゆかぬ!!」

「もう帰らせてくださいぃ。【最後の爆散(ザラストスパーク)】」

「ぬ!?」


 限界を迎えたハグたんは、コロリンの時にも使用した自分でデスを選ぶあのアーツを発動。

 一瞬の閃光が迸った後に全身が破裂する形で自爆する。


 広範囲が魅力の爆弾のカムイにおいて、このアーツは至近距離までしか爆発が広まらないが、それでもハグたんの爆弾化の頭を直接掴んでいる相手なので、命中は確実であった。


「腕が、体が、ぬご゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


 破裂した爆弾の頭を掴んでいた手を起点に、右腕へ、全身へと枝分かれしてひび割れが走り、鬼の肉体は分解されるように崩壊してゆく。


 自爆の一種ではあるが、理屈の上では自分よりむしろ相手の内部からの破裂を目的としているため、防御力を無視して固定ダメージを与えられるアーツ。


 ゆえに通用したのだ。

 たとえ鋼よりも強靭で暴力的な肉体を宿していようと、このアーツばかりは食らってはいけなかったのだ。


「敗北なれど満足……得難き好敵手(とも)よ、花火のように可憐で儚き勇者(とも)よ、CCOの未来を示す明星(まぶしきひかり)となれい……」


 朽ちてゆく体の亀裂が言葉を発する口に達する前に、彼はただ純粋な強者としてハグたんを認めてHPが0となった。


 なお、クラン最後の1人だけは死後発動のアーツがなければ仮死状態となった時点でゲームセットとなる。


「あへへへぇ、これでやっと皆さんに会えますぅ……」


 結局最後まで相手のイメージを誤解したままのハグたんも、アーツの反動により仮死状態を素通りして死亡状態となり、迷子の時間が終了。


 その顔は、まるで安楽死を迎えたかのような朗らかなものであった。


『おめでとうございます! クランランクバトルは、クラン・リトルフラワーの勝利となりました』


「一足遅くなっちゃったけど、なんか勝っちゃってるころす」


 コロリンはこの最終決戦で何もしないまま相手が0人になったことをメッセージから伝えられ、戦闘終了となり控え室へと自動的に転送されたのであった。



 1対0。

 経過時間、33分55秒。

 決まり手、ハグたんによる爆弾のカムイのアーツ【最後の爆散(ザラストスパーク)】。



 見切り発車で初参加のクランランクバトル・地獄のハードコースは、圧倒的に力負けしていたはずのリトルフラワーがクラン『大三字』のメンバーを全員撃破し、華々しい勝利を記したのであった。



▽▽▽



「宴だーー!!」


 そうマサムネの陽気な一言で、リトルフラワーのメンバー5人それぞれはオレンジジュースが注がれているグラスに口をつける。


 宿屋の一室を借り、そこで今回のクランランクバトルのリザルト動画を壁に上映しながら。


 クランランクバトルの戦闘映像はアーカイブに保存され、5人それぞれの視点での軌跡をデスされる時までなぞれる。

 同時再生も可能という至れり尽くせりの機能だ。


 これを鑑賞しつつ、リトルフラワーのメンバー5人、それぞれが今回のバトルの回顧を始めた。


「わ! ここのコロリンもしかしてクロノワせんぱいとニアミスしてたころす?」

「なんとなく曲がった道も、運命の分かれ道であったか」

「ていうかハグたんずっとひとりぼっちだったじゃない。しかもあんなに魂抜けるくらい恐い思いまでして……」

「うわぁ思い出しちゃいましたぁ!! ハグさせて下さいいいい……」


 簡素な木製の椅子に座っているマリーへと、ハグたんは得意技のハグをして顔をお腹にうずめる。

 前より柔らかく抱き心地が良くなっていると感想を口から滑らせそうになったが、なんだか言ってはいけない気配がしたのでやめた。


 続いてハグたんを眺めながら自分のターンに移ったのは、マサムネであった。


「ハグたんさぁ、自爆の使い方が上手になってるよね」

「ええっ? そうでしょうか」

「やられる前に一発バクってから死ぬ、抱え落ちだけはしない、みたいな? ハグたんの成長を感じて、あっしも鼻が高いでやんす」


 ハグたんが関わると、意外にも目のつけどころが鋭くなるマサムネであった。


 今回ハグたんが戦った2人とも、力任せで鈍重な戦闘スタイルだったので後手となっても即座に反撃出来たことも追い風だろう。


「終わってみれば、ハグたんて1人でも強敵相手にきっちり決めてるよね。素直に尊敬するっすわ」

「クランマスターのハグたんさまさまだころす〜」

「うへへへ……」


 褒められ慣れてないハグたんの照れ笑いに、4人とも微笑ましい気持ちとなる。


「だからこそ、ハグたんを1人っきりのままにさせたのが申し訳ない」

「大丈夫だった? もう平気そうかしら?」

「い、いえ。むしろ早く忘れたいですから、わふっ」


 クロとマリーに左右から抱きしめられ、マサムネとコロリンから頭や背中を撫でられる。


「ハグたんには感謝が絶えない。何か報じてやりたいが、せめてまずは存分に甘えて癒されるとよい」

「はわはわはわ……幸せですぅ……」


 これもまた、至れり尽くせりだろう。


 こうしてハグたんのメンタルを元通りにさせた後、マサムネがやや強引な面持ちで立ち上がった。



「さてさてみなみなさま、お初のクランランクバトルお疲れさん! 終わりよければ全てよし! これにて閉廷!」

「おーい、マサムネー。貴様、上手いこと締めようとしているが、まだやり残したことがあるのではないか?」

「えっ? なんのこと?」


 クロは笑顔のはずなのに、猛烈に圧が強いせいでマサムネは惚けきれてないほどに震え上がり出す。


「勝手にハードコースを選んだ挙げ句ハグたんが何度も泣くハメになり、しかも戦闘中にマリーに対して暴言の連発、こんなザマで何の罰も無いなどあり得ないからな」

「あ、あれぇ? 急に耳にゴミ詰まっちゃって聞こえにくいっすわ〜。トイレ行ってきていい?」


 罪状を読み上げられ、身の危険を察知して立ち去ろうとしたが、黒い眼差しを放つクロノワール大魔王からは逃げられない。


 肩を掴まれたマサムネは、たちまち腕を捻り回された。


「今日という今日は、徹底的に仕置きしてくれる!」

「あだだだだだ!! 死ぬ! これは死ぬる! とうとうウチも年貢の納め時ぃぃ!」


 クロの肘固めが、マサムネの口にも関節に悲鳴をあげさせる。

 シバきの裁き、このクランの人間的な上下関係とこの幼馴染コンビ特有の罪と罰を体現しているだろう。


 だが、今回はこれがオチではない。


 マサムネがあらゆる人物に傍若無人に振りまいた不積は、クロ以外の然るべき相手からも返さねばならない。


「マリー、日頃のストレスをこのアホンダラにぶつけてやれ!」

「この時を待っていたわ。覚悟なさい!!」

「うべべべべ!! あ、マリっさんちょっと太ってね? ばぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


 クロの見様見真似だが、マリーの腕フックによって首を締め付けられたマサムネは息すら吸えない苦痛で床を叩きまくる。


 ハグたんですら空気を読んで自重したマリーのタブーに触れたのだから、ここで首の骨の1つや2つ折れたとしても誰も文句は言えないだろう。


「次、コロリン! 折角だからマサムネに何かしてやれ」

「えっちょっ、ウチ、コロコロちゃんには悪いことしてないっすよ?」

「そうだころすね〜、マサムネせんぱいには優しくしてもらってるから……」


 コロリンも、普段のアルカイックスマイルとはかけ離れた明らかなイタズラな笑みを浮かべている。


 その手をわきわきと動かしながら、マサムネの懐へと接近し、襲いかかる。


「くすぐっちゃうころすゥ! こちょこちょこちょ!」

「ちょえええ! オホホホホイヒヒヒヒヒ! そこ弱いとこぉ! ワキ弱いとこぉ!」


 脇腹から腕や脚にかけて、なんなら顔も、なんの恨みがあるのかないのか執拗に指先で責め回る。


 ただシバかれるのも十分効いたが、後日のマサムネ曰く、これが最も効いた拷問であったそうだ。


「さてと……うむ、ハグたんもマサムネにお仕置きしてみるか?」

「ひょえぇ!?」


 無関係な面を貫いていたハグたんだったが、急に出番が振られたあまり困惑しかしていない。


 困った時にはいつもお世話になっているマサムネに、そんなことは何もだなんて言いにくい空気だ。


「この馬鹿は動けないから大丈夫だ、友達同士のじゃれ合いだと思え」

「こんな機会めったに無いわよ。ハグたんも、たまにはわがままになっちゃってもいいのよ」

「せんぱいは足の裏と頸動脈が弱点だころす」

「あのハグたんがお仕置きアンソロに混ざってきちゃう……なんかゾクゾクしてきた」


 何かに目覚め出したマサムネを3人がかりで押さえつけ続けるという、傍から見ればどんないやらしいキャットファイトなのか深読みしてしまいかねないこの状況。


 こうなると断れないハグたんは意を決し、マサムネに飛びかかる。



「わわ、私にはこれしかできませんっ!!」


 そうハグたんは、マサムネを正面からハグしてみせた。


 ハグたんほどの友達思いでは、じゃれ合いだとしても友達に対して痛めつけることなど出来ない。

 不器用で優しい少女であった。


「……ハグたんはヨイコパスだねぇ」

「よいこぱ……? よく分からないですけど嬉しいです」


 マサムネからでも褒められれば悪い気がしないハグたんに、ささくれ立っていた高校生達の心は若返りを見せていたのであった。



「……もしかしてこれでオチ?」

「じゃあ我が強制的に振り出しに落としてやってもよいのだぞ」

「いやいやそんなそんな! オチつけてくれてありがとうございやした!」

 一生使われなさそうなぷろひーる(読む必要なし)


 PN:クロノワール

 年齢:17歳(高校2年生、マサムネよりも誕生日が後)

 身長:160センチ

 体重:ノーコメント

 バスト:店員さーん、注文まだですかー?

 好きな食べ物:イカの墨入りスパゲッティ(厨二ぶって食べてみたらキャラも忘れるほどの美味しさだったとか)

 嫌いな食べ物:茄子料理

 趣味:1人っきりで静かで寛げる空間で漫画やアニメといったサブカル消費

 特技:プロレス(シバかれてる最中のマサムネ曰く)

 好きな武将:よく知らない

 最近の悩み:幼馴染の将来。胃薬が手放せない。


 備考:ちいはな5姉妹の次女であり、作中最悪のトラブルメーカーとリアル幼馴染という、幼馴染ガチャ大外れのクロうにん。

 そのせいか、闇属性でありながらプロフィール紹介が最後になるほどの影薄属性まで得てしまっている。

 けど夜寝る時に明かりを隠してくれる優しい闇属性と、煩すぎる上に眩しすぎて失明させに来る凶器の光属性どちらがいいといえば……。

 ただし、マサムネが存在しなければ厨二病×男の娘系配信者による黒歴史確定ムーブの属性マシマシはっちゃけキャラとなっていたことには留意したい。

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