49話 クラン対抗戦
このCCOの世界に、今日また新進気鋭クランが産声をあげた。
その名もリトルフラワー。
などというハグたんにとって柄にもない前置きはここまでにして。
背もたれのある木製の椅子が5つ置かれただけの殺風景な一室に、5人は困り果てたかのようにうんうんと唸っていた。
「クラン・ランクマッチだったか。勝利条件はシンプルだというのに、ここまで複雑だとはな」
「全部覚えられるか不安です……」
「ま、こういうのはやってく内に覚えとけばいいんだよ」
マサムネの膝の上というZ席、もといS席にいるハグたんと、ルールブックを広げているマサムネを中心に4つの椅子を窮屈に寄せ合っているのは、仲睦まじいからではない。
「えーとなになに、必ず5対5のチーム戦で行われ……もういいや読み飛ばそ」
「ちょっとあんたねぇ、勝手にページめくらないでよ! まだそこ読んでる途中なのよ!」
「テンメェー! 耳元で大声出してウチの鼓膜ぶっ壊れたら罰金8000円させんぞ!」
「だあああうるさい!!」
そう彼女達が密着して読んでいる1冊が「ランクマッチ・ルール集」というキャッチーな表紙に反した堅苦しい文章が敷き詰められているルールブック。その1冊をよりによって5人で読んでいるのである。
一応ヘルプからもほぼ同じ内容の文を読めるのだが、タブレット教育を謎に敵視するマサムネが無理やりこうしているのだ。
「だからもっと要領良い方法考えろと……。こんなことでは、マッチングが先にされてしまうぞ」
「もうコロリン、1人でルール読んでるころす」
「さよか、寂しいけどしょうがねぇっすね。コロコロちゃんは天才肌タイプだもんね」
席から遠ざかるコロリンに対し、しょんぼりしながら見送った後輩思いのマサムネだったが。
「そう、しょうがないのよ、だからこのあたしも離れるわ」
「あ? テメーみてーなアホ面ツタンカーメンはどうせサボりてーだけじゃん」
「なんでこのあたしばっかり!! くどい上につまんないわよ!」
2番手ポジションのマサムネが仕切りたがり、結果マリーばかりきつく当たると、早くも傀儡政権の欠点が浮き彫りになってしまっていた。
なお、マリーはクロから直々にマサムネをいつでもシバいていい許可を貰っているが、攻撃性はあっても暴力的なことは毛嫌いする気質なのでまだ血を見ずに済んでいる。
唯々諾々と従ったかのように見えたマリーだが、隙を見てコロリンへと目を配らせる。
「ねえ、コロリンって最近までクラン入ってたのよね。ランクマッチも1回くらいやったことあるのかしら」
「ううん、コロリン新米の弱い方だったし、今まで一度もスタメンに入ったことないから全然詳しくないんだころす」
「コロリンでもそうだったの。ていうかクランバトル全員未経験のぶっつけ本番でやらなきゃならないのよ……」
戦いよりファッションに魂を捧げるマリーなのでこうなった経緯について項垂れていた。
まず、クランにもランクがあり、設立すればFランクから開始される。
そこからランクを上げるほど、受注出来るクエストの制限が段々と解除されたり、それだけ実力者であるとの証明として冒険者ギルドからの信頼を置かれたり、と、冒険を有利にする様々な恩恵がある。
そのクランランクを成り上がってゆく方法こそ、1日1回のみ挑戦可能であるこのクランランクマッチなのだ。
「マサムネ、1戦目から『地獄のハードコース』は無いだろうが。やるなら『王道ノーマルコース』か、せめて『お気楽フリーバトル』ではないのか」
そうガチ勢じみた選択にクロは苦言を呈してきた。
どのコースでも必ず5対5。全てのサーバーからマッチング対象。本来ならランクと平均レベルを参照にしたマッチングが組まれるのだが。
「でえじょうぶ、なんやかんや勝てるっしょ。だってウチらには、あのハグたんがいるんでっせ?」
「そのハグたんがいても先週散々だったことをもう忘れたか」
「ダッハッハッ、ダッハッハッハッ」
あまり話題に上げたくない大漁虐殺の件を笑ってごまかすマサムネには、クロも辟易して口と心を静かに閉ざした。
マサムネが誰の静止も聞かず勝手に選択したコースこそ、ランクと平均レベルが二周り上のクランとマッチングされるという過酷なルール。
なおその見返りとして、一度でも勝利すれば最下層のFランクからDランクへと二段階飛び級となるし、逆に敗北した際のペナルティは、現状一番下のランクなので一切無いとだけ言っておこう。
どのみち失う物がないなら得る物が大きい方に賭けるのは理にかなっているかもしれない。
何も得られない可能性の方が高いという点に目を瞑ればだが。
「むむむ……」
真面目で勤勉なクロは一文でも多くルールを頭に叩き込もうと唸っていると、意外な声の主からの通達が届く。
『クラン【大三字】とのマッチングが完了しました。15秒後にバトルフィールドへと転送されます』
「ひゃあっ!? まだぜんぜんルール覚えてないのに」
「ほら言わんことではない!!」
意気消沈のハグたんとは対照的に、ルールブックを閉じたマサムネはいっそ不謹慎なほど意気軒昂となってゆく。
「よっしゃみんな、今からチームらしく円陣組もうぜい!」
「僅かな時間でやることがそれか!」
「いや、だからこそじゃね。だってこの後、みんなバラバラになっちゃうんだし」
「バラバラ……?」
引っかかりを覚えたハグたんをよそに立ち上がったマサムネが、何もない空間へ真っ直ぐ手を伸ばす。
その次に、やれやれといった態度でマサムネの手の上に自分の手を重ねるクロを見て、他3人もマサムネのやりたがっていることをようやく理解する。
「なんかこれ、運動部みたいで盛り上がるころす〜」
「しょうがないわね、やればいいんでしょやれば」
「それじゃあ、私のお手も……」
3人もまたその上に手を重ねた時。
皆の体温が上下から共有されるだけで、不思議と精神が研ぎ澄まされ、心が1つになれたような高揚感により雑念がほぐれてゆく。
残り数秒、やはり仕切りたがりなマサムネが一段と気合いをこめ。
「クラン・リトルフラワー! ファイ! オー!」
「お、オー!」
絶妙に微妙な略称で、初陣に意気込むメンバー達の心を惑わせた。
瞬間、視界がホワイトアウトし、メンバー5人はそれぞれクランランクバトル専用のフィールドへと転送される。
クラン・リトルフラワーは、細かなルールは現地で戦いながら覚えることにせざるを得なくなった。
▽▽▽
「マサムネさん、クロさん、マリーさん、コロリンさん、みなさんどこ行っちゃったんですかぁ……」
そう即死トラップでも敷き詰められている大地を進むような足取りで、鬱蒼とした密林のバトルフィールド内をハグたんは孤独に彷徨っていた。
心の支えである友達の行方は誰一人として知れない。
何故なら、クランバトルが始まればプレイヤーそれぞれはバトルフィールドのランダムな位置で転送されてしまう。
当然のごとくチャットも使用禁止。なので開始地点から自分の足で敵を発見してキルしたり、味方と合流して地盤固めをしたり、そういったあらゆる戦略が要求される。
バトルといっても戦闘能力ではなく総合力、つまり索敵や逃走系のアーツにも有効的な使い道が現れるだろう。
「誰かぁ、誰でもいいから早く来てください……ひょえ!?」
その時、枝が踏みつけられて折れる音が森の奥から聞こえたことによって、ハグたんは思わず飛び上がる。
このバトルフィールドには対戦者以外の生物は存在しないため、そこにいるのは敵か味方か、二つにひとつ。
「あわわぁ、まだ私1人なんですけども……どうか、友達でありますように……」
「ったくよぉ、ツイてねぇ、ツイてねぇ。初手の相手がこんな小せぇ女の子なんてツイてねぇ」
「敵でしたああああっ!! 私いっつもこうなってばっかり!」
その相手は、高身長を誤魔化すような猫背の男性であり、背の後ろにはかなり重いものを引きずっている。
そんなくたびれた男性がやさぐれているかのような愚痴を吐きながらハグたんの前に現れたのだ。
自分以外の味方は4人、相手は5人なので敵と遭遇する可能性が少し高いのだから、こればかりは仕方ない。
「クラン『大三字』所属、
その二つ名は『御雷槌』。
面倒だが名乗ってやったぜ」
「ひょえぇ……そ、その引きずっているものがあなたのカムイなので……?」
「名乗るのも面倒くせぇのかよ。てかカムイくらい見て分かれ。あらゆるカムイの中でも最もシンプルなカムイと評判の、ハンマーのカムイをよ」
引きずっていた重いものの正体こそ、彼の言うハンマーのカムイ。
頑強な大木を加工した木槌であり、確かにこれに攻撃されれば末路が容易に想像出来てしまうだろう。
ここにはデスペナルティもキルペナルティも無い、宣戦布告も必要ないのがこのサバイバルゲームなので、会敵したのなら心置きなくキルに集中できる。
「ペシャンコにしちまえば、か弱い女の子の可哀想なとこを見なくて済むな! 【討ち入りの大槌】!」
アーツを発動した途端、彼の持つハンマーがたちどころに巨大化。
それをハグたんに向け、力任せに振り下ろそうとしたのだ。
彼のいるサーバーでは、どんな金城鉄壁の守りも跡形もなく粉砕してきたと評判もある究極の一撃。しかし。
「ひいいいいい! 【心地よき心爆音】!」
鈍重なハンマーが振り下ろされるよりも圧倒的に早く、ハグたんの爆弾化している頭部が破裂し、辺りに爆炎と衝撃波を巻き起こす。
ハンマーを振り下ろした際に発生するであろう大地の振動は、起こらない。
「ったく、やらかした……最初に退場するのが俺とか、全くツイてねぇ……」
自爆の一撃により、彼はデスされたことを手早く察する。
諦めが早い気がするが、彼の場合尋常ではない面倒くさがりである他、一撃でも攻撃を受けてはならないという意識もあったからだ。
何しろ彼のステータスはSTR極振り。
また、ハンマーのカムイの性能こそ、速度を犠牲に極限まで火力を高めたという、ハグたんに近い覚悟のいるビルドであった。
だが、己の命を犠牲に極限まで火力を高めたハグたんのカムイには、あっけなく先手を取られるしかなかったのが運の尽きだったと言えよう。
「か、勝っちゃいました……?」
対戦相手を1人倒したハグたん。
だが敵クランのプレイヤーを残り0人にさせるまで、クランバトルは続く。
彷徨えるハグたんの迷子時間も、まだまだ続く。
「みなさぁん、私もうダメです……。早く助けてください……」
敵を倒したというのに泣きべそかくプレイヤーなど、この世にハグたんくらいだろう。
むしろ、ハグたん以外の4人の方こそ、弱音を吐きたい状況に追いやられているかもしれないというのに。
一生使われなさそうなプロヒール(読まなくても構いません)
PN:ハグたん
年齢:12歳(小学6年生)
身長:142cm
体重:36kg
バスト:並盛
好きな食べ物:りんご、バナナ、コーンフレーク
嫌いな食べ物:好き嫌いはそこまでないです
趣味:これといって趣味は……
特技:特技も……
好きな武将:おだのぶなが……?
最近の悩み ゲームが充実しすぎて、いつかゲーム中毒になるんじゃないかと……
備考:ちいはな5姉妹の我らが末っ子であり、そろそろロリキャラ扱いされなくなる年齢に差し掛かっているのに未だコミュ障拗らせている割とピンチな状態。
けどCCOとかいう地獄の電脳世界の荒波に揉まれた成果なら少しずつ出ているぞ! がんばれハグたん!




