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46.1話 自分と似た少年

 コロリンが娑婆に戻れるまでレベリングや金策を友達とこなしていたハグたん達。


 そして今日が、待ちに待った再び顔を合わせられる日。


「うう、コロリンさん怒っていなければいいんですけど……」


 おどおどとした面持ちで、あてもないかのような足取りで独り草原地帯をうろつく。

 先週、コロリンを守るために凛然となれたのもどこへやらだ。たとえ変化が出来ても体に定着させなければ成長とは呼べないのだから、これが最終的な報いだろう。


「こっちにもいない。コロリンさんはどこに行っちゃったんでしょうか……」


 友達は3人ともまだログインしておらず、コロリンだけはログインしていることはフレンド欄の明るさから確かなものの、どうも10分ほど前からチャットの返信が途絶えているようだ。


 一応第二の街付近の森林地帯にいる手がかりは最後のメッセージから把握しているため、とりあえずそこを歩きまわっていればいずれ見つかるという計画性の無さで探索していたが。


「うわああああ!! 誰か助けてえええええ!!」


 コロリンを見つけるよりも先に、少年とも少女ともつかない甲高い悲鳴が鳴り響いたのだ。


「お、襲われてる人がいるんですか!?」


 ハグたんから右手の方向、割と近い距離からだ。

 しかしSTR極振りというよりSTR以外0という思考になりがちなハグたんなので、力及ばず助けられなかったという妄想ばかりで身が竦んでしまう。


 されど行くだけ行ってみてから次の判断を決めた方が後悔が残らないとし、急いで駆けつけに行く。


 そうしてその場所にいた者は。


「誰かあああ早く来てくれええええ!! この人に殺されるうううっ!!」


 目から涙を噴射しながら喚き散らしている歳若い少年と、もう一人。


「ちょっと落ち着いて……いきなりどうしちゃったんだころす?」


 この世界に彼女だけしかいないような個性際立つ語尾。

 機械腕のカムイは出していないコロリンその本人が、少年にひどく手を焼いている様子であった。


「ええっと? コロリンさんがいて……コロリンさんがその人のことを……?」

「そこの人! 今すぐ僕を助けて! この女の人が、僕のこと襲っているんだよおおお!!」

「ええっ!?」


 ハグたんとコロリンの驚愕するセリフが被る。見るからに頼りなさそうなハグたんにいきなり大声で助けを求め出すなど、ハグたん自身も想定の埒外であったからだ。


 一拍遅れてコロリンも少年と同じ方向へ顔を上げる。


「あ、ハグたんだころす! 久しぶり、ちょっと聞いて欲しいことが……」

「【爆煙幕(バックダンサー)】!」


 するとハグたん、コロリンの言葉を最後まで聞くよりも先に、ダメージの無いアーツを咄嗟に発動、辺り一面に黒い煙だけを拡散させる。


「わっ!? ハグたんどこ行っちゃったころす!」

「うひいいいいなんでえええ! 僕を助けてくれるんじゃないのおおお!?」

「とりあえずこっちです! どこか落ち着けそうなところまで逃げましょう」


 コロリンの意図が不明なままだが、まずは助けを求める声こそを手遅れにならない内に優先。

 小声をかけながら少年の手を引っ張り、煙幕に紛れ、身を隠しやすい奥地へと走って行った。


 こうして不可解を残し、一抹の不安も予感し、それでもハグたんは適当なところで立ち止まり、少年から手を離す。


「多分、ここまで来れば大丈夫だと思います」

「ひっ、ひっ、ひいいいいっ!」


 明るく拓けた場所で改めて確認した尋常ではない怯えっぷりには、ハグたんも思わずたじろいでしまう。

 よほど恐ろしい思いをしたのだろうと、ハグたんなので共感しつつも気を鎮めさせる姿勢に移行する。


「ほ、ほんとに大丈夫ですって! リラックスです! もうあなたを襲う人なんか……」


 言いかけて、ハグたんは少年の衝撃の情報を見た。


 彼のプレイヤーネームが赤い文字であることに。


「ひゃああっ!! れっれっレッドネームだったんですか!?」

「違うんだよおおお! 僕はレッドネームじゃないんだ!」

「えええどこが!?」


 事実だというのに、まだ騒ぎながら全力で否定しにかかった少年。


 何がなんだかますます分からなくなる矛盾した言動。

 されど相手がいつまで経っても取り乱し続けているために、逆にハグたんの方が徐々に冷静になりつつあった。


「レッドネームじゃないのにレッドネーム? って、なにか事情があるんですか」


 落ち着いて質疑応答に臨んだハグたんの甲斐あってか、それを訊かれた少年は大人しくなり、されどまだ嗚咽しながらも。


「……分かんない」

「分かんな……い?」

「気づいたらこうなっていたんだ。僕は何もしていないのに……」

「何かしたからじゃなくて、何もしてなくてもレッドネームになるものなんですか……?」


 聞いてるハグたんの方が一層分からなくなっていた。


 知っての通り、攻撃名分も無しに他のプレイヤーをキルしたプレイヤーがレッドネームに堕ちる。

 誰かを一方的にキルしたからこうなっていることは明白なのに、それでも頑なに無罪を主張しているのがひたすら支離滅裂。この電脳世界の公明正大の絶対なるシステムには人間が欺けるようなものではない。


 強いて少年の証言を信じる要因があるとすれば、今のところハグたんをキルしようとはしていないところか。それでも油断は禁物だが。


「うう、困りました。こうなったら一度コロリンさんに聞いて確かめるしか……でもさっき煙幕使って逃げちゃったし……」

「コロリンって、さっき僕を襲った女の人の名前」

「あっ……その人と一緒にいたんですよね。だったら何があったのか話してくれませんか」


 口を滑らせたとハグたんは即座に話題を転換。

 少年は未だしゃっくりが止まらないながらも、ハグたんに促される通りに経緯を話し始めた。


「僕は今日最初、恐いおじさん達に殺されそうになってて、それでさっきの女の人に助けてもらったんだ。それなのに……その女の人は、何もしてない僕のことをいきなり襲ってきたんだ!」

「あのコロリンさんが!?」


 コロリンも元レッドネーム。まさかがないとは言い切れない。

 だが少年は現行のレッドネーム。なのでいきなり他のプレイヤーから襲われても、このゲームでは自業自得で済まされてしまうのだ。


 この見ているだけでかわいそうになってくる少年の証言を否定しきれなくなっているハグたん。


「きみに助けられなかったら、僕は……僕は……あああああああん!!」

「ひょえ……どっ、どうか泣かないで下さい!」


 会話の途中でもふとした事ですぐに号泣する少年。いくら泣き虫のハグたんでもそこまで無闇矢鱈にコミュニケーションの放棄はしない。

 随分と手のかかるプレイヤーに助けの手を差し伸べてしまったと、ハグたんはこれが本当の試練なのだと痛感していた。


 このまま放置しておくわけにもキルするわけにもならなくなり、ハグたんは少年の前に出て振り向く。


「とにかく、まずは街……はレッドネームだと危ないかも……。とりあえずあなたのお友達とか、クランの人に連絡して助けてくれるように頼まなきゃ、ですね」


 少年をどうにかするといっても自分一人では力不足なので、そう提案したが。


「いないよ」

「いない……?」


 鼻水を拭いながら訳を話し始める。


「僕には……助けてくれるフレンドも、小学校の友達もいない」

「学校……学校って?」


 唐突にゲームの外での個人情報が飛び出す。

 ついでにこの少年がハグたんと同学年ということも判明。


 若干聞いてはいけないことを聞いてしまった感じになりつつも、ハグたんは少年の経歴を静かに聞くことにした。


「僕は学校でクラスのみんなからいじめられているんだ。何もしてないのに体を無理矢理抑えつけられるし、何も悪いことしてないのに悪口も言われるし」

「そ、それは……気の毒ですね……」


 何もしてないのに――少年の壮絶な学校生活に、ハグたんはメンタルが影響され懐疑心が溶けてゆく。

 自分が少しは助けになれないかと、話に乗ることにする。


「いじめられているなら、お父さんやお母さん、先生とかには相談してないんですか」

「先生も、お母さんも、みんなして僕を助けてくれない。みんなが寄ってたかっていじめるんだ……」

「そんなに酷いいじめなんですか!」


 胸糞悪い学園ドラマのような世界を話され、ハグたん自身驚きっぱなしだ。


 ハグたんもクラスメートの誰とも打ち解けられてはいないが、流石にいじめられているというほどではない。


 それに引き換えこの少年、子供が頼るべきはずの大人すら頼れていないという孤立無援。

 これであれば、すぐにめそめそ泣き出す不安定な人格が形成されるのも無理はないと、こんがらがっていた糸が真っ直ぐに整ったかのようだった。


「僕は頭もよくないし力も弱い、けどただのんびりと平和に生きていればそれでいいんだ。なのに、何でみんなが僕のことばっかり邪魔してくるんだろう……」

「原因が何なのか、難しいです……。けど、この子が弱いからって理由だけで弱いものいじめられちゃっているとしたら……」

「あぁ、()()()()()()()()()()()()。毎日が地獄なんだあああ!」


 収まりかけていた堤防が再び決壊した。


 語るも涙なら聴くも涙の悲しき日常には、ハグたんはますます同情を禁じ得なくなる。

 そうして自分以上の境遇を聞いていく内に、自分ばかりが落ち込んでいる場合ではないと弱々しさの纏わりついていた心を拭う。


「そんなことないはずです! きっと、周りの人達も分かってくれるはずですって」

「そう……かな」

「大丈夫、絶対! とりあえず、立ち直れるまでこのまま私と一緒にいましょう」


 ハグたんは、これ以上しんみりしているのをやめた。

 自分以上に弱い存在であり自分以上に精神が衰弱しているこの少年よりも惨めでいていいのかと。


 藁にも、ハグたんにも縋るしかないならば、自分の力でその人の分まで何とかしなければならないという立派な自覚が芽生えていたのだ。


「僕のこと守ってくれるんだね……えっと、名前……」

「ハグたんです。あなたの名前は……」

「ジャティス」

「ジャティスさんですね。なのでまずは、私達2人でパーティを組んだ方がいいかと……」


 信頼の証代わりにお互いに名乗り、ハグたんが率先してパーティ申請を送り、ここに2人だけのパーティが結成された。


 ハグたんは決意したのだ。

 この世界一不幸せな人間と自称する少年に少しでも元気づけたいと、そうしてゆくゆくは友達になって孤立無援の苦しみを救ってもいいと。


 はびこる敵モンスターを避けながら、2人は第二の街へと一旦戻っていった。

 果たしてこの少年のオリジンは! 目的は! 悲しき過去はいかにッ!

 次回は来週に

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