41話 護る者と攻め上がる者
「確かに言えてるわね」
ハグたんの話に納得したマリーは一旦マサムネとクロに目配せし、そして意見が一致したことを確信すると。
「ハグたんがそんな余計な心配しなくてもいいくらい、このあたし達がもっとしっかりしなきゃならないってことね」
「そうするべきですよね。えっ?」
求めていた反応とは違う。心なしかもっと厳しい答えを欲していたハグたんではあった。
しかし当の友達は、むしろ自身に対して厳しい意見を出したのだ。
活発と利発の幼馴染コンビもまた、ハグたんのためなら気丈に振る舞える人物。
「よもやハグたんの目から我らが不甲斐なく見えていたとは……相談してくれてありがとうハグたん」
「今度からステもっと厳選しないとまずいっすね。いっそDEF極振りするのも有りかも?」
「ちょっ!? マサムネさんも! 私一人だけがどうにかすれば済む話なのに、なんで皆さん揃って苦労したがっちゃうんですか!」
また勘違いしている流れになったとハグたんはすぐさま流れを断ち切ろうとする。
ただし、ここには勘違いなどといった興を削ぐ要素は無い。
「だってハグたん、ウチらよりもログインしていられる時間短いじゃん。ハグたんがウチらのために変わるよりもさ、ウチらがハグたんのために変わる方が手っ取り早いって」
「庇いながら戦うって、簡単に言ってくれるけど相当難しいのよ? まだまだ戦い慣れてないハグたんに、そんな複雑なこと強いらせるわけないじゃない」
「誤解なきよう断言するが、我らがハグたんを庇っているのはそなただけ下に見ているのではなく、戦略的な意味が第一だ」
みんなハグたんの決意を承知の上で、意見を出し合っているのだ。
そこでクロが、ハグたんのうろうろしている手を温かく握りとめる。
「だから友達として頼もう。そなたの温存しているステータスポイント、引き続きSTRに全てを割り振って欲しい」
「えっでも、こんなんじゃ、結局何も変わらなくなっちゃいますって」
「変わるよりも伸ばすのだ。恐らく今日の相手は我らの方があらゆる面において劣る。たった一つだろうと、格上の相手に勝る長所がなくては話にならない」
ハグたんがつられて直視するほど真っ直ぐな眼差しを送り。
「それが我らにとってのハグたんだからだ」
聞くだけで正しいと安心感をもてるクロの言葉。ハグたんの躊躇を誰よりも和らげられる相手だ。
ハグたんは、既に対等な友達関係を築いていたのだ。
この杞憂で終われた反動の喜びで、寒さを覚える心に纏わりついていた霜が解消されてゆく。
そのため、ハグたんは二つ名を授かった時から40ポイント分残っているステータスポイントに対し、心残りがないよう改めて意を決す。
「へいへいパパっとやっちゃえハグたん!」
「う……ええいっ!」
STRの隣にある▷を勢い任せに長押しし、全てのポイントを振り分けたと確認したすぐ後に決定の項を一押しし、自ら生んでいた分かれ道を絶ちきった。
現在レベル26、プラス二つ名効果で10、そのSTRは370。同レベル帯よりも10歩も20歩も先を往く数値。
これで尋常ではないダメージ倍率をもつ自爆系アーツまで組み合わせれば、遥かにレベルが高い相手でも一撃爆砕も射程内だろう。
「それでよい。人を護るためには守りの力だけではなく、攻めの力でも護ることが出来ると証明すればよい」
「おおぅ流石クーちゃん名言っぽい! ワッショイ!」
「その持ち上げ、マリーにもやれるのであれば我の胃痛が祓えるのだが……」
いつもテンションが一番高いマサムネが、拳をつきあげてクロにだけヨイショを行っていた。
激励と期待にプレッシャーもないわけではないが、ハグたんの担当そのものは変わらない上にシンプル。
「よし……皆さんのおかげで、今日の戦いも頑張れそうです」
「ふふん、なんかハグたんが頼もしく見えてきちゃったわ。ああそうそう、プレゼントの話って蒸し返しちゃいけないわけ?」
「ひゃばッ!?」
上手いこと有耶無耶にしていた課題を蒸し返され、ハグたんは驚くあまり思わず舌を噛んでしまった。
この後、誤魔化しきれないと観念したハグたんは正直に白状。
これを聞いた三人は、コミュニケーションの苦手を拗らせたハグたんのことなので笑い合い、ハグたんを中心にハグし合って慰める。
「これクロノが全面的に悪いじゃない。何ハグたんに余計な心配させてるのよ」
「ハグたんがここまで繊細だとは思わなんだか……すまぬ」
メンバーの中で最もクロがしっかりしていそうでも、それでもまだまだ手が回らない子供な部分もある。だがそういった欠点も向き合える長所もまた大人びた部分。
こうしてハグたん達は、憑き物が落ちたような顔つきで街のパトロールに戻ったのだった。
なお、万全を期して備えをしても、そう都合よく事が起こるかは別の話である。
「私の門限、あと10分……」
依然として、第三の街は厳重な治安維持活動が行き渡っていた。
折角の決意が空回りに終わりそうだとハグたんの顔も気分もどんどん沈みだし、対してそれを気の毒に思っているのかいないのかマサムネは血気を盛らせる。
「ビビってんのかこの殺す気マンマンホトトギス共! どっかしらに隠れてもキミとドキドキ!! デリシャスアイドルぶん殴りパーティーにすっからかかってこいや!」
「こやつ、意気軒昂だと思いきやストレス溜め込んでいるだけか」
開戦の火蓋がいつまで経っても切られないために、マサムネ狂気の暴言センスに一段と磨きがかかっていた。
今のところ、とりあえず日陰になり、なおかつ3人分だけ横並びになれる、レッドネームにとって死角になりそうな路地を散策してはいるが、未だにそれらしいプレイヤーを見つけたという報告はない。
「マジでダルくなってきた。あーあ、あそこにいるおっさんが実はレッドネームだったりしないかなぁ」
「貴様その話4度目だ。あの者とは何度も挨拶しただろう」
「これ以上こいつのバカ聞いてたらノイローゼになりそうだわ……」
マサムネは人の顔を覚える気がないのか忘れっぽいのか、この手の記憶力は友達に丸投げしているのか。どうもマサムネの頭脳の性能は極端だ。
なお賞金首の顔や額は冒険者ギルドでのみ確認可能。道行くプレイヤーに賞金首かどうかを照合する機能などはないので、記憶力が求められるのは正解だ。
「だがまあ、平和に越したことはない。これはこれで実りある1日ではあるだろう」
「あいつらホントにビビったかもしれないっすからね。そんじゃ、ハグたんがいる間にみんなで駄弁るだべ〜」
「話すことって、もうあまりないんですけど……」
ともかくして、残りを和気あいあいとした時間として費やす雰囲気となった4人。
「話したいことないなら、無理に話さなくったってあっしが代わりに話すでやんす。あそこにいるおっさんがレッドネームじゃないかって話だけどさ〜」
「なんで5回目がこんなに早くくるのよ……! こいつの記憶のネジどんだけ緩いわけ!」
「やべぇヒスってる。ゆるしてぷんすか」
「うざいだまれ!」
わざとやっている疑惑も致し方ないほどマサムネがトリッキーなことばかり喋るせいで、マリーの堪忍袋の尾が限界だ。
そのためクロとハグたんがマリーをなだめ、マサムネがしつこく5度指摘したそのプレイヤーには全員何も気に留めず、会釈もせず、何の所懐も抱かずすれ違う。
そうして後列のマリーも通り過ぎたと同時、そのプレイヤーは前触れもなく立ち止まり、4人へと振り向いた。
彼が本来、レッドネームへ向けるべき得物で狙いを定めながら。
「うがっ! があぁ……!?」
「マリー!! 何事だ!?」
クロが悲鳴に気づいた時には、マリーの喉元から細剣が伸びていた。
貫通され、よほど急所に直撃されたのかHP0の仮死状態に陥っている。
その凶器の元を目で追って辿ってみれば、ホワイトネームのはずのすれ違った男性。
「ほ、ほらクーちゃん、こいつレッドネームなんだよ、言った通りっしょ……」
「いいや絶対に有りえぬ……有ってたまるか! ほら見よ! 確かにこの者はレッドネームではない!」
あまりにも唐突で、あまりにも声にもならない予測不能な事態に動揺――いや、予測は可能の範疇だった。
「下っ! あの人の影の中になにかいました!」
「影だと!? しまった! まさか!」
昨日の出来事を体験しているならば、こうなり得ることを警戒できたはずなのだ。
そう、キルペナルティはあくまで操り主にのみ付与されるカムイの使い手と遭遇していることを覚えているならば。
「なんでなんだぁ俺の体ぁ、こんなことしたくないのに……」
「そうだよオレ様だよ。また会ったなギスギスフレンズ共!」
影の中からにゅっと顔をのぞかせた彼女こそ、昨日同様にレッドネームである影のカムイの使い手。
既にこの男性プレイヤーは、そのままの意味で影の中から操られていたのだ。
次回、金曜日更新




