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40話 陰殺チーム討伐作戦始動

 ゴールデンウィークに高熱を出してしまい、そこからモチベが消えていまして申し訳もありません

 現実世界の時刻で20時を過ぎた第三の街は、砂漠の太陽による熱気が遮られるほどに物々しい雰囲気に包まれていた。


 戦闘力を持たない民間人のNPCは姿を隠し、代わりに全身鎧で武装した衛兵NPCが一定のルートを巡回している。


 彼らはカムイを持たなくともいくらかの戦闘力はあり、レッドネームを発見次第、主に状態異常を軸とした攻撃で弱らせにかかると、見かけに反して搦め手が得意、否、搦め手でもないとカムイ使いに太刀打ち出来ないためだ。


「――であるからして、レッドネーム共にはこのサーバーで無法を働ける場所は無いと知らしめろ! 儂は皆の奮闘に期待する。そして我々『討元凶』がレッドネームを討伐した際は、参加を表明した全てのクランに懸賞金を山分けとする!」


 街の中心部に用意された壇上に立ったユロクの演説が、通りがかったプレイヤー達を惹きつけ聴衆を漲らせる。

 だがかくいうユロク本人は、迫力というより絞り出すかのような声であり、その目の下に不健康さを赤裸々に示すクマを浮かべていた。


 大漁虐殺の時刻が不明な以上、日付が変わった0時からここまで一睡もせずにパトロールや公衆演説、あるいは万が一の避難場所となるPK不可エリアへの案内などをエンドレスに繰り返していたからだ。


 そこに宿るは、狼藉を阻止し平和を維持するための執念。それこそが彼の肉体疲労の限界を引き延ばす。そのツケは数日分の休息という形で払われるだろうが。


 また、これらの現状を逆算すれば、この時間になっても陰殺チームの襲撃が起こらなかったことを意味するだろう。


「ふええ……み、皆さんのやる気が凄いです……」


 ログインした時から、ハグたんはただ自分が場違いだと右往左往しているか武者震いして落ち着きがない。


「ハグたんよ、そなたの決断には驚かされたが、やはり無理をしているのではないか?」

「おっしゃるとおりです。自信がなくなってきました……」

「あいや責めたいわけではなくてだな……」


 投げかけた言葉とおりのハグたんの精神状態に、普段と変わらない沈着泰然なクロでも険しい顔つきとなる。


 ハグたんはその場の勢いでなら決断出来ても、1日も冷まされればすぐこうなってしまう。


 いかにも修羅場をくぐりぬけてきたようなプレイヤー達と違い、自分など自爆で道連れにするしか芸がないと、それもどうせ失敗するのだと卑屈になり、果てにはコロリンのあのアルカイックスマイルを浮かばせたりと負の想像だけは1人前に働いてしまう。


「やっぱり安心安定マシマシあんみつなハグたんでやしたかぁ。どする? ハグる?」

「えっ、遠慮します」


 同じく参加を決めていたおちゃらけた友達も、どこで調達したのか『freehug』だの書かれたプラカードを目立つように掲げていれば、いくらハグたんでも敬遠はする。

 なお、ハグたん以外が近寄れば即座に『soldout』に裏返るので悪しからず。


「ま、この際ハグたんのことはいいとしてさ」

「よくはないと思うぞ」


 マサムネの話題転換の一言と共に、本来今日ここにいるはずのない人物へ目を向ける。


「なんでマリっさんいんの? 今日はフケってぐうたらしてるんじゃないの?」

「はぁ? あのハグたんが勇気出してるのにこのあたしだけぐうたら出来るわけないでしょ。っていうかぐうたらなんかしないわよ!」


 単なるツッコミのみならずノリツッコミまで会得したらしいマリーは口を尖らせていた。


 本来マリーはふらっとログインするだけの予定のところ、ハグたんの命知らずな決心を記したチャットから慌てて心を変え今に至る。

 ハグたんに対して過保護なところは相変わらずである。


「ありがとうございますマリーさん……。マリーさんが来てくれたおかげで、少しは勇気が出た気がします」

「そんなこと、友達としてお互い様よ。それにハグたんから勇気を受け取っているのは、このあたしだけじゃないらしいし」

「ふぇ?」


 マリーの目線は、ハグたんという小さな存在を物珍しげに見つめる大きなプレイヤー達へ。


「凄ぇ、あんな小さい子も討伐作戦に立候補してるのか」

「カーッ、健気だなぁ。正直レッドネームと戦えなんざ真っ平だが、あんな子が後ろで応援してくれるんなら頑張れそうだわ」

「ん? あの子第二の街のトーナメントで優勝した子じゃ……」

「おうおう湿っぽいぞ! 俺達大人がしっかりしないでどうする!」

「全くだ。あのクソッタレのレッドネームなんざに、子供の笑顔を壊させてなるもんか!」


 この街、いやプレイヤー全体からしても最年少たるハグたんということで、大人達は大人の持つプライドが刺激され、ユロクの演説と同等以上に盛り上げていたのだ。


 そう、みんなやってるから自分もやるだけではなく、ハグたんがやるから自分もやるという動機で立ち上がれる人物も多い。


 過言かもしれないが、ハグたんこそがこの討伐作戦の自由の女神なのかもしれない。



 そんな時、うつろぐ群衆の川に混ざっていたその者が、ハグたんを発見した途端に人山を器用に避けながら駆けて来る。


「うほぉ! また会ったのじゃ! まさかそちもこの激戦に身を投じるとは思いもしなかったぞい」


 昨日会った生花店の店長。単なるおかしな客でしかなかったハグたんのことを覚えていたのだ。


「あ、あの、店長さんは……お店の方はどうしちゃったんですか」

「街がこんな様じゃからのう。用心棒の雇用期間も過ぎてもうたし、今日は早じまいじゃ」

「そうなんですか」


 あまり気の利いた一言を思いつけないハグたんなので、ただ相槌をうつ。


 この店長も、陰殺チームによって迷惑を被っているプレイヤーの1人であろう。


 ただしこの店長、暇をつぶしたいがためにハグたんに話しかけたわけではない。


「ひとつ聞きたいのじゃが、そちはHPを軸にしたステータスだったりはするかの」

「ううんと、いいえ」


 STR以外のステータスが変わらず0のハグたんなので首を振って答える。


「ほむ、それならば、わらわからの贈り物は迷惑にならんかもしれぬの。ほれ」

「ほえ? な、なんですかそのお花」


 ハグたんに見せたものこそ、手のひらに乗せられるほど小さい白梅に似た1輪の花。


 生花店らしさのあるそれであったが、所有権を譲渡した途端、このアイテムの意外な正体がウィンドウ内にハグたんの目についた。




 清盟の花飾り

 部位∶頭・装飾品


 付与パッシブアーツ【生者の信仰】

 効果∶装備中、最大HPが半分になる。

 HPが0になった時、HPが全回復して復活する(CT24:00:00)




 ただの花ではなく、髪飾りとして身につけるための装備品なのだと。

 店長が忠告したのも頷けるほど、強大なメリットもデメリットも内包した特殊な効果をもつ装飾品だとも。


「えええええ!? こんな貴重そうなもの、受け取れませんってぇ!」

「遠慮する言葉は聞きたくないのじゃ。これはインベントリで腐らせるものでなく、戦う者が着飾るべき花じゃ」


 まるで第一線を退いたプレイヤーが言えないような台詞である。

 店長はただの花屋だ。このゲームをプレイする人間誰もがレベル頂点を目指している訳ではない。


「折角なのじゃ。ちと、わらわに付けさせてはくれんかの」

「い、いいですけど……」


 許可をもらい、つま先立ちとなった店長はハグたんの髪にヘアピンを括り付け始める。


 ハグたんからすればハグが出来そうなポジショニングではあったが、そこまでの信頼感は芽生えていないので少し頭を出す程度の姿勢を維持。


 店長が髪をいじっている間、ハグたんは付与されている能力についての考察を始めていた。


「……もしかして、これを着けていれば、自爆しちゃっても生きてられるってことなんじゃ」

「自爆? なんのことなのじゃ?」

「あいえいえ何でも!」


 そもそも店長は、ハグたんのカムイを知ってはいない。

 自分のことはあまり話したがらない性質のハグたんなので、自爆のことは誤魔化す方向に流れてゆく。


「これ、ほんとに貰っちゃいますけど……後でお金とるとかもないですよね?」

「そんな不審がるでない。わらわのことがそんなに怪しいと思うのじゃ?」

「だって、あまりにも虫がいいというか……ああっすみませんそう言うつもりじゃ……!」


 気弱なハグたんには、他人の厚意が過剰すぎると却って不安がってしまう。

 言葉選びを誤ったためにハグたん謝ってしまったが、誤って謝らせたことを謝りたいのは店長の方だ。


「すまぬのう、本音を言うとじゃな、そちみたいな珍しいお客様がやられるようなところを見たくないから……といったところなのじゃ」

「店長さん、私なんかを心配してくれてたんですか」


 倒されてもその場で復活する性能についての込められた意味。

 ハグたんのカムイが爆弾だからといった戦術的な意味合いはなく、ただ純粋な思いやりに由来するものであった。


 たとえ何度やられても都度リスポーンする程度の命といえど、重く考える者だっている。


「これで完了なのじゃ。ほむ、やはりそちのような可愛らしい子には、可愛らしい花がよく似合うのう」

「そ、そうでしょうか。ふへへぇ」


 とりあえずコーディネートの観点としてもバッチリ決まっていたため、ハグたんは髪飾りを撫でながら満足げに微笑んでいた。


「かわいい髪飾り……マリーさんにも見せてみようかな」

「おっ? なんだこのおばさん。ウチらにも差し入れくれるんすか?」

「マサムネさん!? おばさんなんて言ったら怒られちゃいますって!」


 喋りたがりのマサムネが空気を壊しながら乱入。

 それを聞いた店長は、天然な印象をかき消すほどに圧のある微笑みを投げかけ。


「そちの友人殿も欲しいかの? ならば特別に、友達価格として1000万ゴールドにマけてあげるのじゃ」

「……出世払いってことでおねげぇできやすか」

「ダメなのじゃ」


 代金を踏み倒そうとするマサムネの幼稚な目論見は、商売人にはお見通しであった。


 ついでにハグたんも、目玉が飛び出るほどの莫大な金額のする装備を無償で頂いてしまったことが発覚したために、髪飾りに対して自分が下だという表明の土下座を決め込んでいた。


 こうしてハグたんに対しての用事を終えた店長は、去り際に一言。


「仲直り、上手くいったみたいで何よりなのじゃ」

「仲直り? あっ!?」


 ハグたんの都合良いように自己改竄していた記憶は、その一言で叩き起こされた。


 仲直りも何も必要のない空気感だったがために失念していた。

 もしクロが昨日のことを気にしているようであれば即刻謝るつもりではあったが、そうでなかったがためにずるずる引き延ばしてしまっていた。


 はっきりと思い出してしまった以上、卑怯な隠し事をしているようで猛烈な罪悪感が募るしかない。

 そこから意を決すには即座の行動であった。


「あ、あのクロさん!」


 自身のインベントリから、昨日購入したカモミールの花を取り出す。


「その節はどうもすみませんでした! お詫びしますっ!」

「む? なんぞや?」


 ところが、詫びられたクロは何も思い至らない様子。


 まずその節だのと濁すような言葉にしたのがハグたんの悪手であり、そもそもクロはハグたんが逃げ出した件についてはむしろ自分が無神経なせいだと反省を済ませている。


 なので、たまに突拍子もない奇行に走りがちなハグたんのことだと置き換えられ、意味を読み解くためのピースがその花に一点集約されてしまうことになる。


「食べ物じゃねーけどいいもん貰ったじゃんクーちゃん。そんで、それの花言葉って、『実弾』? 『自己破産』?」

「そんな物騒な花言葉があってたまるか」

「そうよ、知ったかぶるなら黙っていてほしいわ」


 むしろ話の流れはマサムネのふざけた言動に持っていかれたほどである。


 それに対し、対抗心もあって真剣となったマリーは、その花の見た目だけで分析する。


「この花はカモミール、カミツレともいうわね。花言葉は『清楚』『あなたを癒す』、他には『逆境で生まれる力』って意味もあるわ」

「ほう、流石はマリーだ。その手の知識はお手の物か」

「だからこの贈り物も、きっとハグたんなりに今回の戦いのためのおまじないってことなんじゃないかしら」

「ふえっ!?」


 想定とはかなりねじ曲がった方向へとマリーが話を進み始めていたために、ハグたんの顔色が見違えるほどに青くなる。


 マリーの知識も間違いではないが、あの店長はカモミールの花言葉を『仲直り』と解釈してハグたんに勧めただけに過ぎない。


 ハグたんだったが、言葉下手な自分が訂正するよりも勘違いされた方が楽だと、強く否定すれば友達の判断が間違っていたみたいで悪い気しかしないとも。

 様々な思惑が交差し、押しが弱いハグたんなのでまともに口が動かせなくなった結果。


「ええっと、確かにクロさんのことは応援しているんですけど……そういうわけでもなくて……」

「いやぁハグたんってば、勝負の日に粋ですなぁ。もしかして、ウチのために選んだ花とかもあったり?」

「ひょ? えええっ!?」


 早めのうちに訂正しなかったせいで、ハグたんに更なる災難が振りかかる。

 勘違いが高じ、クロ以外二人にもプレゼントを渡す流れが形成されてしまったのだ。


 本来クロへの謝罪の意を込めたのが始まりなので、当然だがハグたんにはクロ以外に差し上げるものなど調達していない。


「ふふん♪ ハグたんが一生懸命考えてくれたプレゼント、このあたしも期待しちゃっていいかしら」

「あぁん? 元から脳みそタンツボスミレ畑のマリっさんにくれてやるもんなんてねぇし」

「タチツボスミレでしょ! なんで気色悪い言い間違いしてんのよ!」

「人間なら間違いのひとつくらいあんだよこの人面かき氷が! 揚げ物とってくるならマリっさんのかーちゃんのことスーパータイラントってあだ名つけていじめてやっから覚悟しろや!」

「揚げ足とるでしょ! あとそれ絶対やめなさい!」


 隙あらば口喧嘩が始まる案の定のコンビ。尚の事ハグたんは自分のせいだと抱え込み出す展開だ。


「どうして、どおしてこうなっちゃったんですかぁ……これ、これ、どどどどう説明すればぁ……」


 何か喧嘩も収拾できる小粋なアイデアが欲しくなったが、ハグたんの経験値不足の脳裏に電流は走らない。


 正直に白状すれば二人とも友達なのにクロだけ贔屓しているみたいで気まずくなり、今すぐ買い足しに走ろうとしたが先ほど店長直々に店じまいと語られていたため断念。

 ついにパニックに陥り目を回し、まともなものが無いインベントリ欄を出そうとし、慌てるあまり間違ってステータス画面を開いたり――。


「これだ!」


 どうやら、この状況を誤魔化すための話題を偶然にも手に入れたようだ。


「みなさんっ! 話があるんです!」


 着想を得たハグたんは、話をもっとねじ曲げるために大声を出す。


 だだし、その表情は神妙そのものであった。

 ハグたんにとって深刻に抱えて後回しにしていた問題であるからだ。


「聞いてください、実は私、割り振っていないステータスポイントが沢山ありまして……」

「マジぃ? 勿体ねー。さっさとSTRに全振りしちゃえばいいのに」


 黙って話を聞くのが苦手なマサムネだけが早急に返答を出す。

 ただハグたんは、そのいつもの決断に迷いが生じていたからここに相談しているのだ。


「それなんですけど……次は、STR以外のステータスに割り振るべきなんじゃって思っているんです」

「それは急な提案だが、どんな風の吹き回しで思い至ったのだ。誰かにそうしろ言われたなどではないか?」

「だって、いつもみんなが私を庇って傷ついて、それが迷惑かけちゃってる気がして……」


 ハグたんはみんなの戦いぶりをずっと後方で見てきていた。

 それで抱いた所感こそ、自分こそがパーティ最大のお荷物となっているのではないか。


 確かにそのSTRと自爆のアーツは比類なきアピールポイントにはなる。

 しかし自己評価低めのハグたんにとっては、最初から最後まで戦線維持のために奮戦する3人と最後に一瞬だけ自爆するだけの自分、比較するほどとても貢献していると認められなかったのだ。


 更に突き詰めてみれば、この4人の中で自分が一際年下だ。だから誰も叱ったり強く意見出来ないのではと――ならばハグたん自身が覚悟をもって提案する形であれば、本心を引き出せると――友達との溝を感じる距離間が縮まるかもしれないと。


「私ももっと、みんなを庇いながら戦う方が負担にならないと思うんです! ど、どうでしょうか」


 その奥底にある気持ちは、馴れ合っているだけの友達という枠組みから一歩先へ踏み入る“対等な友達”という関係。


 全ては友達のため、そして自分のため、ここにSTR極振りの卒業を意を表明した。

 アクセサリーは2つまで装備可能。

 なお効果が無いアクセサリーなら付けられるものならいくつでも付けられます。


 次回、ハグたん極振り卒業? 

 水曜日に

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お、おかえりなさい 楽しみに待ってましたよ
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