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32話 かっこいい二つ名

 一通りの散策を終えた4人は、肝心なことを忘れていたと第三の街の冒険者ギルドに緊急集合。


 いくらマリーが友達(クランメンバー)になれたといえど、冒険者ギルドで正式にメンバー登録をしなければ空手形のままだからだ。


「おかえりなさいませ! カムイ使い様!」

「よっすカワイコ執事ちゃん! このあっしを揉み手で揉み揉みともみもてなすがよい」

「どうした貴様、興味ないのではなかったか」


 やはり燕尾服で男装した短髪の従業員らが出迎えるギルドであったが、おだてられると調子に乗りがちなマサムネは住めば都の如く居心地の良さを堪能していた。


 ともかくとして、受付へとマリーを連れて新規加入の仔細をマサムネが代表して取り次ぎ、それ自体はすぐに終了したが。


「マリー様のクラン登録が完了致しました。クランメンバーが4人となりましたので、『二つ名システム』が解放されます」

「ん、なんだそりゃ」


 受付嬢から飛び出た聞き慣れない単語に、マサムネが首を75度傾ける。

 クロもハグたんもマサムネと同じ心情だ。だが一応他のクランに加入したことのあるマリーだけは、それが何なのかを把握していた。


「冒険者活動するにあたって、ギルドが神託を受けて選定するコードネーム、ってところね」

「ほえー何それメチャ面白そうじゃん。マリっさんもクソだせぇコードネームあんの?」

「このあたしにもあるにはあるわ。フレーバー的要素だったから忘れてたけど」


 マリーがまるで詳しく話すが、実際のところは実装からまだ半月しか経過していない新し目のシステム。

 クラン4人という中途半端な条件達成で解放なのも、急遽ねじ込んだような痕跡としか思えない。


 賛否分かれるだろうが、いや、それを予測してフレーバーという形で試験的導入をしていたのがこれまでの常識。


「二つ名を授かりしカムイ使い様は、指定したステータスポイントを10ポイント上昇させることが出来るようになります」

「へぇ、そうだったの。ちょっと損してたかも」


 どうやら好評につき実利を伴うようになったらしい。


「なんかそういうの厨二ってるクーちゃんが好きそう。てことで一言、どやんすか?」

「無用のしきたりだな。我は暗黒の悪魔に忌み名を持つ者。そう、我こそはクロノワール(略)」

「ハグたんはどう? なんかかわいい系とか希望ある?」

「何でもいいです、はい……」


 よくわからないものにはコメントしづらくなるハグたん。

 とりあえず無料でみんなと貰えるなら貰っておこうというスタンスだ。


 こうして多数決で賛成となり――パスなど出来ないのだが、取り次いでいた受付嬢がカウンター下から何やら取り出した。


「それでは失礼しまして……」


 そうガラスよりもよく透き通った水晶玉に、手をかざす。


 暫くすると、何やら天啓でも下りてきたように目をカッと開く。


「今、生きとし生ける神威の主神より、敬虔なるカムイ使いに賜りし新たなる名を拝読致します」


 その受付嬢は、リーダー的な雰囲気があったのかまずはクロから見定めた。


「クロノワール様の二つ名は、様々な色が混ざり合った黒色からちなんで【混濁の虹(フラグブラック)】」

「ククク、この我に相応しき影の如き名だ」


 クロはクロなりに感謝の意を示す。

 ちなみに上昇させたステータスはINT。


「マサムネ様の二つ名は、荒々しさに反した流麗な刀捌きと何かと三の数字への縁にちなんで【三日月宗正(リトライエッジ)】」

「政じゃなくて正かぁ。まいっか」


 そう不服感があったか中身の籠もらない返事をする。

 ステータスはDEFを選択し、ハグたんの前に出る盾としての役割を磨く。


「マリー様は……既に【人形番い(パピートゥパペット)】の二つ名をお持ちのようですね」

「まあ、仮の名前なんてよっぽどネタに走らないなら拘りないわ」


 そう片手を水平に開く所作。二つ名と由来は聞くまでもないだろう。

 ステータスはHPと悩んだが、DEFを選択してより守備に特化。


 こうして残るは、マサムネの陰に隠れて挙動不審となっているハグたん1人。


「では最後に、ハグたん様の二つ名は、その大胆不敵を体現する爆弾のカムイの散り際の華々しさから【着火繚乱(キラキラクイーン)】」

「はひ? キラキラ……」

「キラキラクイーンッ!!」


 足幅を広げ、肘同士を付けて曲げ、腰を仰け反らせ指を2本立てる、なんだか凄みのあるポーズをマサムネは突拍子もなく取っていた。


 天使でも通り過ぎているかのような沈黙の空気が一時的に走る。


「それでは、本登録を目指して快適な冒険者活動をお楽しみ下さい!」

「キラキラクイーンッ!!」


 滑った事実を受け入れず、往生際悪く泣きの1回でまた披露したマサムネ。同上の反応であったことは言うまでもない。


 マサムネにとってはいつものことなので特にしょぼくれていない。


「んじゃまあやることやったし、これでマリっさんがだめでたくハグたん親衛隊に加入できたってことで」

「だめでたくってどこの辞書にあるのよそれ! まだそっちの方がツッコミしやすいわね」

「そっちってなんぞ〜? ウチなんにもボケてやせんけど〜? ポーズも一緒に再現してくれやせんかねぇ〜」

「ウッザい! あんたの真似なんて人形にもやらせないわよ!」


 むしろ滑ったギャグなんてマリーに事実をなすりつけんばかりの平然とこす狡い態度。


「いつになったら仲良しになるんですか……ふわぁ……」

「む?」


 ハグたんが大きくあくびをする。だがこれはただの自然現象だけでなく、4人にとって意味をもつ。

 仮にCCOに夢中になって門限を忘れていたとしても、これがハグたんのログアウト時刻の合図代わり。


「時間も時間だ、とりあえず今日のところはこの辺りでお開きにした方がよいな」

「ハグたんがおねむたんなら仕方ないね。んじゃ解散! パン!」


 手を叩く擬音を口にし、続きはまた明日とハグたんはその場でログアウトしたのだった。




▽▽▽



 一旦リビングへと階段を下りたハグたんはそこでパジャマ姿で寛いでいる両親を一瞥し、ふとマリーらの不幸な境遇を思い出す。


「ねえお父さん、なんかお手伝いできることはある……かな」


 早速ハグたんは、横になってテレビを眺めている父へと提案する。


「お手伝いすることは、ないな……絶対だぞ、心配ないぞ」

「そんなこと言わないで、肩叩きとかでもいいから」

「あっああ……だが、父さんの肩は決して凝らない、丈夫だからな」


 ハグたんの前で吶るような言い方となっている父。

 無口な性分故か、娘の前で余分に緊張しているのかないのか、どうもそこのところは娘も受け継いだらしい。


 無いものは仕方ないとし、次に台所にいる母へと全く同じように尋ねてみると。


「ハグたんがそんなにまでお手伝いしたがるなんて……もしかしてお小遣いが欲しいの?」

「そうじゃなくて、えっと、ただ何となくだから」

「いいのよいいのよ隠さなくて、誰だって欲しいものはいっぱいあるものよね。ということで、今日もお皿洗いを手伝ってちょうだいね」


 勘違いを生じつつも、ハグたんの欲求を否定しない、あだ名で呼んでは親身となってくれる心優しい母。


 言われるがままハグたんは母の隣に立ち、青のスポンジに洗剤を垂らした。



「最近学校はどう? 1人はお友達出来た?」

「学校……うぅ、6年生にもなって1人ぼっちのまま……」

「いいのよいいのよ。ハグたんは愛され系なんだから、きっとクラスメートも陰から応援してるんじゃないかしら」


 引っ込み思案に育った娘をくまなく理解し、励ましとなる言葉をにこやかに送る。


 だからこそそんな自分が尚のことみじめに思い、心労かけさせたくないと白い皿を洗う手が早くなる。

 なにしろ友達の過労死した両親の話が鮮明に蘇っているのだから。


「お母さん……もっとお手伝いするから、長生きして、死なないで!」

「死ぬって……えっ、お母さんそんなにお婆ちゃんみたいに老けてきてた?」

「ああっそうじゃなくて! ううん、なんでもないから、忘れて」


 そう事情を胸の内にしまい込んだ。

 言語化が苦手な性分のハグたんなので、説明を面倒くさがったのも少しはある。


 そんなハグたんを母は微笑ましく見つめ、最近とある場所で判明した自分の身の変化について過ぎらせる。


「でも今後、もしかしなくても、ハグたんに山盛りにお手伝いさせることがあったり……」

「ふえっ?」

「ううん、いいのよいいのよなんでもないのよ。今は気にしないで」


 その笑顔の裏はどこか意味深げであったが、家族間の探り合いは野暮だと。


 ただ、ハグたんは知っている。


 自分のいないところで、母が時折不調を訴えていることを。


「ど、どうしよう……そういえばお母さん昨日もつわりが酷かったし、何か治らない病気とか隠してたら……ひゃばばぁ……」


 嫌な想像を振り払う勢いのままに、ハグたんはこれから床につくというのに目が冴える勢いで階段を上がった。


 そうして、この部屋にハグたんの両親のみとなった時。


「近頃のハグたん、心なしか明るくなってるし、いいことでもあったのかしらね」

「かもしれないな。あの子は素直な子だからな」

「もしかしたらあなたが誕生日プレゼントにあげたCCOのおかげ、なんちゃって」

「ゲームというものは全くの専門外だ。しかし節度をもってさえくれれば、俺からは何も言わん」


 そう父は気を楽にし、仕事疲れの体をどっしりと構えてソファーを占領する。


「そうよね。あとは……私達が打ち明ける番ね」

「ああ。お前、()()したんだろう」


 テレビの電源を消し、妻の腹部を真摯な眼差しで見つめる。

 まだ膨らみこそないものの、そこには既に新しい命を身籠っているのだ。


「あの1人ぼっちのハグたんも、とうとうお姉ちゃんになっちゃうなんて、うふふ感慨深いわね」

「ハグばかりで無趣味で心配だったが、自分から物を欲しがるようになるほど成長もしている。お腹の中の子は弟か妹か、どちらになっても俺達は憂いなく2人分の両親をやれそうだ」

「心配どころか、むしろ楽しみになってきちゃった。もちろんハグたんの方だって、きっと将来はいいお母さんになりそうね。って気が早かったかしら」


 そう母はにこやかに笑うと、自分の臍の辺りを愛おしそうに擦るのだった。

 二つ名は名乗りたくなければ名乗らなくてもいいですが、どうしても変えたければ課金が必要。

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