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28話 人間の人形

 糸で操るカムイではない。

 糸を操り、糸が操るのだ。

 報復の人形劇の操者と演者が反転した。


 されど、まだ終わらない。

 本体が倒されようとも、カムイはこれまで以上に躍動して生きるのだ。


「このあたしの人形達! 今から自由を差し上げるわ。扱き使われた分だけこのあたしを扱き使って、あの最低な連中をんむむむむっ!」


 これも人形の傷を縫って直せるカムイの応用技なのだろうか。


 扱き使われし人形達の憂さ晴らしか、怨嗟のために開きかけたマリーの口が一瞬にして操り糸で縫いつけられたのである。


「むごい……マリーさんに罪はないのに」

「抜き差しならんぞ。どんな覚悟だろうと決める用意をせよ」


 マリーの意識はそのままに、スキップを踏むように無理矢理歩かされ、3人へと向かわされてゆく。


 これからの行動に、マリーの意思は介せない。


 声を発することさえ許されない傀儡と成り果てて、死亡待機時間である10分間、誰を破壊し何を踊らされるかを人形に委ねるしかない。


「この諦めの悪いガミガミムスメめ……まだやりたいってんなら、ウチに手加減は期待すんな!」


 切り込み隊長マサムネは機先を制すため、気勢を上げて刀で袈裟に斬る。


「とりゃっ! あっこれ逃げられてる」


 だが手応えは全く無い。それどころか前方には誰もいない。


「というかガチでどっち行った!」

「マサムネ! 上だ!」

「ふぁ?」


 上。まるで相手が飛行でもしてなければ有り得ないだろうが、見上げたそこに写ったのは、マリーの脚とスカートに敷き詰められたパニエ。

 顔までは見える角度ではなかったが、ともかく人が跳んでも届かない高さで宙吊りとなったいたからだ。


「……空中戦は普通にナシでしょぉ」


 人形達は滞空して操っているのだ。マリー本人の体を持ち上げられてもそれほど不思議はない。


「んんっ!!」


 塞がれているため言語になってない怒声と共に、マリーが急降下し踵落としが迫る。


「うわぁっと! なにこれつよい」


 直線的な攻撃だったためマサムネは上手く躱したが、もし直撃を受けていれば命はなかった威力だと肌で感じ取った。

 相手の目をくらます量の砂塵を着地点から巻き上げていたほど、パワーが跳ね上がっている。


「すまぬマリー。【蛮勇引力(ヘヴィグラビティ)】」


 腹をくくったクロのアーツ。マサムネに注意が向いている間に背後に回っての支援が整った。


 これによりマリーは片膝をつく。

 しかし増幅した重力によってではなく、そこから左上へと跳躍する準備だったようで、難なく脱出。


 ただしクロは、瞬時に相手の着地点を予測し、着地狩りのための軌道を設定して別のアーツも発動していたのだ。


「【闇の禍球(イン・ザ・ダーク)】なあっ!?」


 常人の発想力では追いつかない回避方法に驚愕が隠せなかったクロ。

 何故なら、マリーの首が180度回ったかと思えば、両手がくるぶしに触れるほど背を仰け反らせたため、闇の球はすぐ上を虚しく通過。


 更には、人間の可動域を越えて曲げた体を起こすことなく、両足で踏み込んだかと思えば、クロが瞬きする間に目前まで接近を許してしまっていたのだ。


「強いだけではない、速い! ぐあっ!」

「ちょちょクーちゃん!? いくら何でもパワーアップしすぎじゃね」


 顎への膝蹴りが直撃し、その強烈な威力にクロは宙を舞う。

 すかさず回復魔法を使いつつ体勢を整えて着地を決めたものの、その頃にはマリーのカムイは別の人物をターゲットに定めていた。


 あれほど過保護にしていたはずの相手へと。


「いけない、ハグたんが狙われた!」

「マリーさんやめて……もとに戻って!」


 マリーとしては本望なのか否か。少なくとも目を背けたがる様子が垣間見えたが、瞼も糸で縫われてしまっており口とは対照的にに開いたまま。

 悲劇を直視せざるを得ないよう固定されている。


 徹底して操り人形同然となったマリーには正気だろうと何だろうと止めようがない。

 友達へ本心を伝える口も、未だ塞がれたままだ。


「んむっ!!」


 ストレートの握り拳が、ハグたんの眉間を目掛けて襲いかかる。


「ひああっ!! ってマサムネさん!」

「ふざけんな! ハグたんは関係ないじゃんか! てめーがストレス発散できれば見境なしか!」


 間一髪で割り込めたマサムネが、相手の拳を左肘で受け止めていた。

 たとえマリーでも、ハグたんという脆く小さく守るべき友達を傷つけるならば、敗者から恨まれる勝者となる覚悟だ。


 骨の砕ける鈍い音などお構い無しに、刀で何度も反撃。


「ん! んんん!!」

「ほぎゃっ! いてて、1回でも攻撃が当たれば勝ちなのにぃ!」


 回避からの反撃を貰ったのはむしろマサムネの方。

 今のマリーは、アーツの効果により生きている限り妨げられて然るリミッターが解除されており全体的なステータスが大幅に引き上げられている。


 マサムネの刀も遅くはないはずだが、重力や関節の概念を取り除いた他を寄せ付けない回避力こそが脅威。勝利まで近いのに遠いという矛盾を両立させている。


 格闘と刀技の応酬が繰り広げられる最中。


「ぐぐっ、ほんと奥深いわぁ……人形は弱っちいかと思ったけど、本体はとんでもなく強いでやんの」


 今にも気を失いそうなほど押されているにも関わらずマリー自身を評価する。

 マリーだって数日は共に過ごし肩を並べて戦った仲だ。いつかはマリーのカムイも人形も強いとベタ褒めするつもりだった。


 しかし素直になる前に、仲直りする前に自分が仲を引き裂いてしまった。


「ふんんん! ふんんううっ!」

「ケッ、ウチら、何日プレイしても相容れなかったよね。めちゃくちゃどうでもいいことでも突っかかっちゃってばっかだし、最後まで喧嘩三昧。だからさぁ、こいつほんとキライだわぁ……」


 人形とカムイと人間による三位一体の猛攻撃を耐えしのぎながら、なぜか問いかけ、一歩も引かず光明を探る。


 自分が退けば、ハグたんが危うい。


 年長者として、友達として、脅かす相手は近づけさせやしない。


「に、逃げっ……このままじゃマサムネさんの方がやられちゃいますって!」

「くっそぉ、ほんとうぜぇ。ハグたんのためにもウチが何とかしなきゃなんねーのに!」


 破れかぶれとなったマサムネは跳躍し、マリーではなく操り糸めがけて刀を投げる。


 散々躱され、どうせ当たらないという諦観 も根づけられ、駄目で元々の足掻き。


 だがこれは偶然か運命か、確かに切断するような手応えがあったのだ。


「……やった? おっ、これは」


 直後、マリーを模した人形が1体、マサムネの頭の上に降ってきた。


 本体がやられているためかカムイの糸が伸びようともしない。いや、それ以前に人形が人としてのデスを迎えるようにゆっくりと一粒ずつ砂となって消滅している。

 そうして見上げてみれば、滞空している人形の数は『4』。


 マリーへのダメージはない、いや、ダメージがないからこそ届いたのだ。


 結果的に、マリーの最強最後のアーツの致命的な弱点を解明したのである。


「作戦決めた!」


 マサムネ特有の巧みに企む頭の回転速度にギアがかかる。


「あと一撃で倒せるからこそ、一番慎重に戦い抜こう。こいつの注意をクーちゃんが引きつけてる間に、ウチが全部の糸をたたっ切りまくる!」

「無茶言ってくれるな。無論、乗ったぞ!」


 弱点を見抜いてからの作戦立案の早さは折り紙付き。馬鹿と呼ばれど脳の回転速度は別なのだ。


 善は急げとマサムネは予備の刀を抜いたが、対してクロは心を熱くしながらも頭には別の思いつきがあった。


「待てマサムネ、作戦に補足するならば、全ての糸を切り離せば恐らくカムイはマリーを操ることも出来なくなる。そうなれば対話の機会が再び巡ってくるだろう」

「おぉ〜流石はクーちゃん、その手もあったね」


 足りないところを足る幼馴染にマサムネは感心の声を出した。

 クロの補足と組み合わせれば、乱は終結しマリーとは仲直りと一石二鳥。廃棄するしかなかった希望に光が灯った。


 未だ戦闘中、囮となるためクロが杖を水平に構えてマリーへと突進し、腹に風穴を空けかねない威力の飛び蹴りに体を張って受ける。


「ぐおおお……今だマサムネ!」

「オラッ! よし2本!」


 マサムネの一閃がマリーの上部を斬り、見事命中。どうやら人形1体につき2本の糸で操っているようなので、同じく人形が1体だけ落下しながら砂漠の砂の一部と化す。

 これで残りは6本。


「休むな! マリーの跳ね上がった攻撃力では、我もいつまで保つか分からん」

「うーん、できればハグたんも囮作戦に参加して!」

「はいいっ!」


 まだ覚悟が定まらない中、ハグたんは安全圏から躍り出て参戦。

 両手を大きく振って存在感をアピールする。


「マリーさんこっちです! もうちょっとの辛抱ですっ!」


 大声を出して引き寄せつつも、反撃の自爆はなるべく発動しないように、と言いたいところだが相手は攻撃に察知して必ず躱してくるので無用な心配か。


「ひいいっ! 来てます来てます、マサムネさん!」

「っしゃあああ! 5本切ったどおおお!」


 たったの一振りで、マサムネはあと一歩のところまで一気に道筋を詰めた。

 マリーを模した人形2体が消えゆく糸と運命を共にし、マリー自身も糸の大半が切断された勢いのまま転倒したほど。


「フーッ! フーッ!」


 口が使えない分、鼻息を荒くして殺意をかさ増しさせる。

 糸が少なくなっても、依然として人の限界を越えた動きは鈍らない。原理を言うなら、頭から足の指先まで体内に糸が食い込んでいるためだ。


「やったなマサムネ! この調子であれば、思いの外手こずらずに終われそうだ」


 本領発揮した幼馴染の神算鬼謀がドンピシャに進行し、クロは熱狂していた。

 相手が糸で結ばれた三位一体でも、こちらは絆で結ばれた三人。そのコンビネーションは決して引けを取らない。


「ヘッヘッヘ、やあっと脱税の納め時でやんすなぁ。あっしの次の一発で、拗らせファザコンにはめでたく親離れさせてやんぜい!」

「んっ!? うんんんんん!?」


 その時、マリーが暴走して以来維持していた憤怒の表情の色が変わった。


 これまでとは一転、声にならない悲痛な声色が漏れ、目尻からは光に反射する何かがじわりと零れている。


 生きるか死ぬかの瀬戸際に身を投じているマサムネらでは気づく余裕はない。



 これらに唯一感づいたのは、後方からマリーを最も心配するハグたん。


「ダメだ。最後の糸だけは、切っちゃいけない気がする……」


 見上げれてみれば、何の因果か発端であるパパと呼ばれし人形だけがたった一本の糸でマリーを支配している。


 ハグたんの心中に、この囮作戦の最悪な結末がよぎった。

 二度と顔を合わせてもくれなくなる未来への恐れが衝動となって突き動かし、ハグたんは黙っていられなかった。


「マサムネさん! 糸を切るのはやめられませんか!」

「いぃ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げるマサムネ。

 ただでさえ大人しめなハグたんからの突然の提案であり、これまで首尾よく進行させられた作戦を無下にする発言なのだから無理もない。


「私だって考えなしじゃないんです。糸を切らなくてもよくなる解決方法を考えつきましたから」


 ハグたんは思いついたことの共有のため、各々奮闘する友達へと今一度向いた。



○○○

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