25話 愛の形に型はなし
「きっとママ以上にこのあたしにしか分からないパパの魅力、一度気づいちゃったらもう寝ても覚めてもパパのことばかり……。だから大きくなったら、いいえ、大きくなっても、パパと結婚するんだから」
「そ、そうだな。お父さんを大事にな……」
あまり無い振られ方をされてしまった男性プレイヤーは、がっくりと肩と花束を落としたまま立ち去った。
それと入れ替わりに、どんな理屈か顔面の肌をつややかにさせながら登場するマサムネ。
「よう新キャラ! 話は聞かせてもらったぜぃ!」
「何よ、盗み聞きしてたなんて趣味悪いわね」
再会して早々、マサムネは弱みを握れたのがよほど悪戯心を刺激したのか、ニタニタと感じの悪い顔をしている。
目だけは生温かいものであったがために、尚の事マリーにとっては鳥肌が立つ気味悪さに苛まれた。
「新キャラの秘密はまさかのファザコン! にっしっし、ハグたんですら卒業したファザコンその歳で拗らせてるって、マジかよ特ダネじゃ〜ん」
「ほんとうっさいわね! このあたしが誰を好きになろうと勝手じゃない!」
「いやいやぁ、いいと思うっすよファザコン属性。女子力あるっすねぇ〜、あっ……」
からかっている最中、マサムネは闇の深い精神面を察す。
マリーの持つそのくたびれた男性の人形が、何を意味していたのかを。
「ま、まさか新キャラさん、亡くなったパパのことを引きずるあまり、ただの人形をパパ本人と思い込んでるやべぇパターンっすか……」
「何よその悲惨ってもんじゃないオリジナルストーリー! ちゃんと生きてるわよ!」
「それはそれで病んでね?」
マサムネの察した内情は杞憂だったのは良いが、結果的に3人の心の距離が遠ざかっていた。
「我とて漆黒の闇と相思相愛。マリーの愛を否定などはせん」
「お、お父さんを大切に思うのは、素敵っ、です!」
「いやあんた達、あの馬鹿がますます付け上がるからそこまでにしてくれるかしら」
マリーの懸念は間もなくして現実となり、小一時間ほど執拗にマサムネにいじりたおされたが、なんであれ収束。
脱線していた本筋へとやっと帰化できた。
「では改めて、第三の街へ向けて出発しよう」
「オー! でもこのファザコンはとっととやられろオー!」
「ま、このあたしの足を引っ張らないようにね。あっハグたんはいくらでも迷惑かけていいわ。むしろこのあたしとお人形達がバッチリ守ってあげる」
「わわ、私もマリーさんに迷惑かからないように頑張りますっ!」
それぞれが心機一転し、数々の出会いや波乱を呼んだ第二の街を後にする。
まだ長閑さのある原っぱから少しして短いトンネルをくぐった先、日射が肌を照りつかせる厳しい砂漠地帯を踏破しなければならない。
「そうだわハグたん、この回復用ポーション持っておきなさい」
その途上、ここでもマリーの面倒見の良さが炸裂する。
「そんな、マリーさんのものなのに受け取れませんって!」
「いいえ、このあたしだって抱え落ちするかもしれないわ。だからあげるんじゃなくて『預ける』ってことよ」
まるで貸し借りみたいにならないようにする言葉回しだ。
「けど、いざとなったら遠慮せず使いなさい。ハグたんがどう使うか、このあたしにも少し興味もあるの。自分のためなのか、ハグたんを助ける仲間を立ち直らせるためなのか、ね」
「なんだか大人っぽい……ありがとうございます」
ということで、ポーションの『所有権』をハグたんに移す。
これでハグたんのインベントリにそのアイテムが入るようになった。
心構えまで説いてくれたマリーに感謝が絶えない。
だからこそ、ハグたんには気がかりな点もあった。
「こんなに優しくしてくれるのに、それでもクランに入ってくれないんですか」
「仲良しこよしな雰囲気は悪くないとは思ってるわ。でも、まだ心のどこかで踏み切りがつかないのよね」
「やっぱりそうですよね……」
これを聞いたハグたんは、100%マサムネのせいにしていいところを自分のせいだと重く深く抱え地面を垂直に見つめるだけとなる。
ただ、マリーは決して年若いハグたんを責めはしない。
「だから友達としてお願いするわ。これからハグたんの魅力を嫌と言うほどアピールなさい! このあたしの気が変わるくらいにね!」
「……はい!」
マリーのしこりを除き、クランに加えるため。励まされてばかりではなく励ますため。
ハグたんは気を引き締めたのであった。
ややあって、4人が出発した後の第二の街では。
「カーッ! マリーさんにフられちまったぁ! 俺生きていけねぇ」
「やれやれ、ろくすっぽ会話もしてない相手に一目惚れしただけで付き合えるわけないだろう」
玉砕した男性はフレンドである少年プレイヤーと合流し、慰められるというよりかはもっともすぎる正論で殴られる。
「だよな、せめて友達から仲を深めとくべきだったよな。よし、俺は諦めねぇ! お父さんを引き合いにされねぇくらいの男になってやる!」
告白が失敗する自覚はあったのか、下手に同情されるよりかは精神の荒療治になれたようだ。
「友達になったら次はクランメンバー、そうやって順当に好感度上げてけば、今度こそはしくじらずに……」
「クランメンバー? やめとけ! やめとけ!」
唐突に、少年は途端に血相変えてまで強く思いとどまるようにしていた。
その尋常ではない慌てように、ただならぬ背景を予感しつつある男性。
「どっどうした、マリーさんってそんなに訳ありなのか」
「大ありさ! あいつは友達とか彼女にする分にはまだいい。……悪気はないのは分かるんだが……クランメンバーに加入させてはいけない類のプレイヤーだよ」
少年は全て知っている。このサーバー04で彼ほど事情通なプレイヤーは他にいない。
過去、マリーが決まって引き起こしてきたトラブルにより、手に負えないと追放したクラン。その数を数え始めた。
▽
第三の街を目指すハグたんら4人はと固い砂地となっている郊外を北へ北へ歩み、その過程で襲い来る幾多ものモンスターを狩りながら進む。
サソリ型のモンスター、デスストーカーもその1体だ。
「重力から抜け出された、追え!」
増加させた重力の空間は別へと移せない。
発動し直すしかないが、クールタイムは短くはない。
「逃がしたら罰金百万円だファザコン!」
「ファザコン言うな!」
新キャラ呼ばわりが妙な方向へと進化してしまったマリーは、操り糸を指で持ち上げる。
すると短剣を装備している2体の人形がすれ違いざまにモンスターに交差し、その8つの脚部を全て切り裂いた。
デスストーカーは低く唸ると、切り落とされた部位は影のように黒くなり、部位欠損状態となる。こうなると暫くの間、文字通り脚を使った行動が不能。
「チャンスっ、です! えっと、自爆した方がいいですか」
「いや、相手は防御面に突出していない上に1体だけだ。とどめはそのままマリーの人形に任せよう」
側にいるクロが待ったをかけた。マリーのレベルはクロよりも8高いため攻撃面への信頼性は十分にある。
基本的にハグたんの自爆能力は強敵のためになるべく温存する方針だ。
そのはずだったが。
「そのチビ邪魔! こいつらどかせやファザコン!」
「何のつもりよ! あたしがとどめ刺すって戦略だったでしょ!」
「んだとぉ? 後輩なら先輩にフレッシュなとこ譲れや! 【三舞遠呂智】!」
「ちょ、このあたしの手柄横取りする気!? 【人形襲劇】!」
諍いを起こしながらも、2人は最大火力を引き出せるアーツを同時に発動し、我も我もとモンスターへと猛攻撃。
もっとも、モンスターは既にある程度HPが減っているため――だからハグたんを使わなかったため、強力なアーツが2つもあっては過剰火力の愚策である。
また強力なアーツは代償としてそれだけ長いクールタイムも降りかかってくるのも必然。
倒せはしたが、現在の2人のAGIではそのアーツはおよそ5分は再使用出来ないだろう。
「はぁ……そなたら、もう少し落ち着いてアーツを発動したらどうだ。先程からもそうだが、冷却時間待ちで足止めされてばかりだ」
「でへへメンゴ。まだまだ若気が至ってる年頃なんで」
「あんたが年頃を言い訳にするなら、ハグたんはもう落ちなきゃいけない年頃なんじゃないのかしら」
「うっは!? ハグたんマジごめん!」
おちゃらけた言い訳をするマサムネへの当てつけとして、マリーは賢しくハグたんを引き合いに出すファインプレー。
ともかくして、ハグたんは申し訳なさそうに3人を一瞥。
「うう、こちらこそごめんなさい……そしてみなさん、おやすみなさい」
「じゃあねハグたん。明日こそは第三の街まで攻略しましょうね」
「新入りがシメんなー! でもって明日もデサントデザイア集合で〜」
こうして第二の街までとんぼ返りし、ハグたんの一時の別れに他3人は手を振って見送った。
このパーティで最もネックとなりがちものは、ハグたんのログアウト時刻。
健全な学業を送るためには、遅くとも22時が自分に課した門限だ。
こればかりは年齢的に仕方ないと割り切れるくらいには3人は大人であり廃人ではないものの、ハグたん抜きでエリアボスに挑むわけにもいかないので、残りの夜更かしはクエスト消化を兼ねたレベリングとなる。
ところが、ハグたんがいなくなった時に浮き彫りとなる問題点もつきもの。
「は!? 今なんでこのあたしの人形ごと攻撃しようとしたわけ! どう考えたった捨て置けるわけないでしょこれ!」
「おぉ、こわいこわい(笑)。馬鹿みたいに斬るしかないカムイでごめんにぇ〜☆」
「だからそのあからさまな挑発やめろおおっ!!」
マサムネとマリーは、ハグたんという共通の友達がいなくなった瞬間に表立って火花を散らしがち。しかも融和はクロが一手に引き受けることとなるので、これまた頭痛の種になりがち。
「今日はここまでにしよう。我は休みたくなってきた……」
「へんっ、やぁっとファザコンから開放されるやい」
「ふん、このあたしも清々するわ」
犬猿の仲の2人はしかめっ面を合わせようとせずログアウト。行動を共にする内に仲も深まるだろうと考えたクロだったが、このように改善する未来が五里霧中。
それでも着実なレベリングの成果は副産物としても現れるもの。
険悪ムードばかり漂っていたマサムネとマリーの犬猿コンビも、否が応でも共闘させている内にある変化が生じている。
「へへん! こいつのチビのオモチャに合わせるのは楽ちんだったぜぃ」
「あんたじゃなくて、このあたしがあんたに合わせてるんでしょ。この際どっちでもいいけど」
とはいえ、これは不毛な言い争いに飽きが見えただけか。
まだ態度に尊大さが浮くマリーは、途中装備が破損することが何度かあったが、その度にまた元のファッションに舞い戻る。
マサムネの方はクエスト消化による金策での成果を示すように、へそ出しだが銅製の鎧を装着して防御面を強化しつつ、予備の刀を1本調達して腰に携えている。
一方クロは、強化どころか内面では弱化しているようである。
「ど、どうだハグたん。こやつら2人、少なくとも戦闘中はいがみ合わない程度には卸してやったぞ……」
「クロさん、ご苦労様です……」
胃薬を手放せない毎日と化したクロに、ハグたんはそう恭しく労うのであった。
これまでに5日を要したが、砂漠地帯を難なく進められるようになった4人はようやく最奥に到達。
最終目的であるエリアボスの縄張りに突入したのであった。




