24話 マリーのカムイと甘い恋
こうしてひとしきりの交流が済んだところで、ふとクロが空気を変えること承知で提案する。
「マリーのカムイ、まだ存じなかったな。情報共有のためにも、今ここでカムイを披露してはくれないか」
ぶっつけ本番で噛み合う連携などはない。戦闘開始までに予め知っておきたい情報だ。
「コーディネートが崩れるバトルみたいなことは好きじゃないけど、いいわ、友達のよしみとして見せてあげる」
そう不承不承ながら承諾したマリー。
長さが規則正しく揃った両手の爪を強調するポーズをとり。
「寡黙にして虚ろなる人形の子達、神威に吹き与えられた魂の対価に、このあたしの傀儡として扱き使われなさい。来い、神威」
そう優雅に前口上を唱えると、カムイが顕現する部分を示す光、それが両手の爪に包まれたのだ。
同時に、マリーと同じロリィタファッションに身を包んだ赤ん坊ほどの大きさはある少女の人形が4体、インベントリから空中に出現し落下。
追うようにマリーの左右全ての指と爪の間から糸がしなやかに鞭打ちながら伸び、人形達が地べたに着くよりも前に、それぞれの関節部にマリーの糸が繋がったのだ。
「これは中々、まさに“四人前”の活躍を期待出来るカムイだな」
そこには特異な光景が展開されていた。
中身は綿しか詰まってないはずの人形達は、さも生きた人間であるかのように二足で立ちあがると、無言でスカートの裾を持ってカーテシーの挨拶をとったのだ。
「えっえっ、お人形さんが動いてる!? はわわぁ、かわいいです……。まさか、お人形さんがカムイなんですか!」
「ちょっと違うわ。この子達じゃなくてこっち、【操り糸】のカムイね」
人形の方は、裁縫ギルドという施設で編んだだけのあくまで手製の玩具。
それらを半自律式の駒として使役する。本人の行儀の良さや目下への面倒見の良さとマッチしている天職の如きカムイだろう。
「かわいいだけじゃなくて、それなりにも戦えるわ。こういう感じにね」
そう彼女が指それぞれをもち上げるように動かすと、人形達が死角を補い合うよう東西南北に陣形を組んで、それぞれが小振りの剣やショートランスなどを構える。
やはりカムイなだけあって戦闘面にも応用可能、これが人形達の臨戦態勢なのだろう。
ハグたんは動く人形と握手したりとしきりに好奇心を示す中、マサムネは活き活きとした表情で早速侮り始めている。
「なんだこいつ弱そ〜! 踏んづけるだけでバランバランになりそ〜! いやぁどんぐりこぞうよりも弱っちいクソザコカムイっすねぇこれ」
「見た目で強弱を決めるなんて三流ね。この子達は殴り合いよりタクティカルさを是とするの」
「チクタク? そんなんでバトルすんの?」
「そ、とても利口なの。馬鹿の一つ覚えみたいに斬るだけのカムイと違って」
「が!? うるせー死ねバーカ! バトルはおままごとじゃなくて、クビと顔面と生き馬の目のぶった斬り合いなんだよーだ!」
やはりマサムネに対してはかなり辛口であった。
ところでだ、4体の人形を操作しているマリーだが、厳密にはインベントリから計5体出現していた。
最後の1体はマリーの腰辺りに糸で体をくくりつけられている。これまで何から何まで美麗さを追求していたものとは裏腹にくたびれた男性のような人形。
「そっちのお人形さん、動かせないんですか?」
「ええこれね。一応、他の子と同じ用に糸で繋げることは出来なくもないけど……でも、この人だけは、あまり操る気になれないの」
「この……ひと?」
ハグたんは疑問に思う。よほど並々ならぬ思い入れでもあるのだろうかと。
その人形を見つめるマリーの目は、ハグたんに対するかわいい後輩を見るようなそれとは違う、慈愛に満ちた眼差しと微笑み。
現在操っている4体の人形はマリー本人がモチーフであろうことから、彼女にとって大切な人物がモチーフなのかもしれない。
自己紹介やカムイ紹介が一通り済んだところで、引率者としての自覚が芽生え出したクロが提言する。
「我らの目下の目標は第三の街、併せてエリアボスの討伐だ。異論はあるか」
「異論あり! ハグたん親衛隊にこんな新キャラはいらないと思います!」
「このあたしも異論あるわ。パーティの輪を乱してくるこの馬鹿、ハグたんの旅路に邪魔なだけよ」
「けっ、喧嘩は駄目ですっ!」
何度目かも分からない一触即発の流れを仲裁。ハグたんの友達である以上、2人はハグたんの幼く泣きそうな顔を立てて矛を収める。
ひとまずクロやハグたんがいる限りは大事には至らなさそうだ。
問題児の嫌悪感を抑えられている間に、親交を深めて軋轢を解消したいところであろう。
そんな折、街の出口に差し掛かった時。
「あれ? マリーさんは?」
いつの間にやら、並んで歩く面子がいつもの3人組となっていたことに気づく。
「お、新キャラいなくね? ウンコ中?」
「下品以上に悪意あるぞ」
「とっ、とにかく探しましょう!」
道草を食っているのかと、散らばって迷子を生む本末転倒な事態とならないよう3人で固まって街中を捜索したが、思いの外すぐ近くで発見。
ところが、3人は声をかける前に足が止まる。
人目がつきにくい路地にいたのはマリーだけでなく、純白のタキシードに身を包み体の後ろに花束を隠す男性プレイヤーが向かい合っていたからだ。
「あんたねぇ、このあたしをジメついたところに呼び出すなんて、どんなつまらないご要件なのかしら?」
歯に衣着せぬ言動で鬱陶しさを表現していたが、それでも引くに引けないのか男性は。
「俺、マリーさんのことが好きです! 付き合って下さい!」
一世一代の思いの丈を伝えると共に、薔薇の花束が詰まったブーケを差し出したのだ。
これにはマリーよりも友達3人組の方が吃驚仰天。
「マリーさんがっ!? こここ、告白されて……!」
「おっ、なんか面白そうだし、こっから様子みとこーぜい」
「面白いかはともかく、我らが野暮な介入をすべき用件ではないな」
思いはそれぞれだが3人は近くにあった適当な建物の陰に隠れ、告白の行方を見守ると決めた。
そんな中マリーは、まるでこんなことなど日常茶飯事であるかのように涼しい顔のまま、また彼の思いの丈への返事をすぐに告げる。
「……気持ちは嬉しいけれど、ごめんなさい。あたしには心に決めた人がいるの」
「えっ!? それって誰なんですかい!」
「エッ!? それって誰なんですかい!」
「マサムネには言ってないだろう」
無粋にも首つっこもうとするマサムネを冷静なツッコミで抑えるが、クロ達もマリーの想い人に内心興味を抱いているところ。
色恋沙汰には縁のない3人組なので殊更。
「意外だったでしょ? あたしにもいるの。生まれた時からずうっとその人だけが本気で好き、愛してるってだけじゃ足りないくらいに……まだ付き合ってるわけじゃないけどね、その人とこのあたしは両思いなの。だから他の人と付き合えば浮気になっちゃうから、あんたに魅力を感じないから断ったわけじゃないところだけは安心して。この世にたった1人のその人のために身も心も捧げるってこのあたしは自分に誓ってるの。はぁん……早く大人になれないかしら。あの人のために、嫌いな食べ物でも好きになれるくらい美味しいご飯を毎日作ってあげたい。悲しかったことも思い出話になれるような素敵な一生を添い遂げたい。でもまずは、都会から離れた2人きりでずっと過ごしていられる理想の物件を探さなきゃ、悪い人間に邪魔でもされておちおち暮らせもしないわ。そうすればハッピーエンドの先の先までいつまでも一緒の幸せな家庭の完成よ。あの人との子供なら何人でも産んであげられるわ」
「そんなに一途に惚れてる相手がいたとは……がくん」
マリーから見たその人物を惚気出し、小指を赤い糸で結ぶその人物の顔を思い浮かべ出す。
色白の頬を紅く染め、そこに両手を頬にあて恍惚とする。乙女チックに甘く重い恋に焦がれている所作だろう。
そして、腰に携えていた人形を大事そうに抱きしめると、嘘偽りなく相手を明かした。
「愛してるの。あたしの……パパ♡」
「ぱ、パパ?」
どう考えても恋愛対象にはならない予想外の名を出され、目を丸くする。
「パパ? パパパパピ?」
「うわぁマサムネさんが故障しちゃいましたぁ!?」
「叩けば直る」
ついでにマサムネら3人も、意外性にも程があるマリーの秘密を盗み聞きしたせいで動揺が抑えきれなかった。




